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1、始まりはいつも春

オレオレ詐欺かよっ

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(あ、貴広? 俺)

 は?

 ウチにそんな歳食った息子はいない。

 そもそも自分に子供なんてできるはずもない。

 貴広はスマホの向こうの呑気な声に、心の底からムッとした。

「ウチにはそんな歳食った息子はいませんが」
(あはは。サギじゃねえよ。分かってるクセに)

 電話越しに聞こえる笑い声。馴れ馴れしいしゃべり方。貴広の胸に、一瞬郷愁のようなものが浮かびかけ、それを振り払うように貴広は慌てて首を振った。

 森井貴広がバイト一名とやっている「喫茶トラジャ」は、ランチタイムを無事終え、静かな午後のアイドルタイム(閑散時)を迎えていた。

 春のまだ低めの陽が、西側のチョコレートドアに光る。

 いつも常連さんたちがのんびりくつろいでいるカウンターも、たまたま空だ。

(お前の店、琴似だったよな。今から行くわ。そんじゃ)
「は? 何で。ってか、お前今どこに」
(プツ。ツー、ツー、ツー)

 会話が成立する前に切りやがった。

 貴広は苛立たしげにスマホを放り投げた。

 いつものことだ。

 いつもこうなのは百も承知なのだが。

 こうして不意打ちのような、嫌がらせのような着信に加え、今日に限っては店まで来ると。

 どうしたんだ。札幌にいるのか。新年度スタート直後のこの四月に、旅行なんて余裕をかましてたりは。

 いかなヤツでもさすがに、ない。

 ヤツが今でもサラリーマンを続けているとするなら。

「マスター、コレ、もう直んないって」

 カウンターの奥から、バイトの良平が首を伸ばした。

「ええーーーーッ?!」

 待てよ。

 待ってくれ。

 同時に処理するにはどちらもあまりに重すぎる。そして予想の範囲を大きく超える。

 よりにもよって、どうしてそんな情報が一気に押し寄せてくるんだ。

 貴広は頭を抱えたままその場にフリーズした。
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