ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生

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5、お願い、そんなにいじめないで

5-5

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「ん? そこだけ?」
 行人は翔太の身体をゆっくりなぞる。その指が特別なところを通るたびに、翔太の身体はびくんと跳ねる。
「仕事……できるところ。何をやっても手早くて、判断も的確で、みんなからの人望も厚くて……」
 翔太は行人のシャツをつかんだまま、ずるずるとベッドの上に崩れ落ちた。
「ものすごく、尊敬……できる、ところ……」
 行人にすがりつくような格好でうずくまる翔太に触れもせず、行人は呟くようにこう言った。
「尊敬……か……」
 乾いた声だった。行人の手がベッドの上に落ちた。
 ――何か、間違えた。
 翔太は慌てた。リカバーしないと。
「それから……」
 翔太は少しの間唇をかんでうつむいていたが、震えながらやっとこう言った。
「ベッドで……めちゃくちゃエロいとこ」
 行人はゆっくりと腕を伸ばし、翔太の一番感じやすいところを探った。
「ホント? ショウちゃん、俺のセックス、好き?」
 翔太は思わず息を止めた。翔太の身体は行人の指に素直に反応する。口で答えなくても、行人には分かっているはずなのに、行人は翔太に言わせたいのだ。翔太は降参した。今日はがんばって少しでも行人を悦ばせよう。さっき何かミスをした分を取り返さないと。翔太はそう覚悟した。
「……好き、です。ユキさんになら、俺、何をされても」
 行人の指に力が入った。翔太は「あ……っ」と声を漏らした。
「すごい……気持ち、イイ……」
 行人は翔太の部屋着を剥ぎ取って、ベッドの上に屈ませた。翔太の柔らかいところがひんやりとした空気に晒される。
「エロいのはショウちゃんと、ショウちゃんのカラダでしょ。めちゃくちゃエロくて、可愛すぎ」
 行人は翔太の尻の肉に歯を立てた。その指が翔太の身体の底を責める。翔太は思わず叫んでしまいそうになり、シーツをかんだ。
「ショウちゃん、今声出しそうになったでしょ。それを止めようとしたの? そんなに気持ちいいの?」
「んん……」
「可愛い……ショウちゃん……」
 翔太の腰がガクガクと大きく震えた。のどから漏れそうになる声を必死にこらえながら、翔太は行人の手の動きに意識を明け渡した。ふっと気が遠くなるその瞬間。
「……!?」
 行人が翔太の欲望をギュッと強く押し留めた。翔太の意識が現実に戻る。
「ダメだよショウちゃん。まだダメ」
「ユキさん……?」
 翔太は濡れた声のまま行人に問うた。こんな仕打ちは初めてだ。
 身体の底がじりじりと焦がされる。行人の動きを乞うて、自分の腰がぬるぬると動くのを翔太は感じた。
「ユキさん……」
 翔太の唇も恋人に快楽の続きを懇願する。行人はしばらく動きを止め、翔太の欲望が後退するのを待って再開した。
「あ……っ」
 絶え間なく手を動かしながら、行人は翔太のもうひとつの快楽に舌を進めた。翔太は尻を高く掲げながら枕に顔を押しつけた。荒い呼吸と甘い叫びを止めるために。
「まだだよ」
 意識がなくなる寸前で、行人はまた翔太を押し留めた。翔太の腰は溶けてしまいそうになる。
「ユキさん、お願い。もう……」
「ん? 何?」
 行人も荒い息づかいの中翔太に訊いた。
「ムリ……イかせて」
 翔太の声も甘く上ずっている。
「ショウちゃん、今すっごいエロい。可愛いよ……」
 翔太はイヤイヤと首を振るが、行人は仕打ちを止めてくれない。
 行人は何度かこれを繰り返し、翔太の全身がとろけてしまった頃にようやく許した。枕をかんでも翔太ののどからこぼれる声を止めることはできなかった。

「どうして俺のこと、そんなにいじめるんですか」
 疲労のにじむ声で翔太は訊いた。
「ショウちゃんは嫌なの? ああいうの」
 狭いシングルベッドでくっつき合ったまま、行人は逆に訊いた。
「嫌なら止めるよ。俺、ショウちゃんが嫌がることは絶対にしない」
 ティーンエイジャーのような真剣な瞳が、翔太の心をのぞいていた。
「ああいうの、嫌?」
 翔太は唇をかんだ。
「……また、そうやっていじめる」
 翔太の声に含まれる甘い響きを、行人は聞き逃さない。
「俺に何をされてもイイんでしょ? ちゃんと答えて」
 からかうような言葉なのに、行人は泣きそうに切実な目をしていた。翔太は観念してうつむいた。
「恥ずかしすぎて……おかしくなりそう。頭の中が先にイきそうになって……すっごい気持ちよかった」
 翔太は自分の呟きが、行人を「エロい」と悦ばせそうなことに気付いて真っ赤になった。
「ショウちゃん……!」
「あ、でも」
 翔太は慌てて付け足した。
「毎回ああは止めてくださいね。そりゃ嫌じゃないですけど、あくまで『たまに』ならですよ。恥ずかしすぎて、俺死にます」
 行人は嬉しそうに笑って「分かった」と言い、翔太の頬を優しく撫でた。シングルベッドに男子二名は窮屈だ。翔太は行人の指の感触に、その快さに思わず目を閉じた。
「この間泊まったホテル、よかったですね」
 行人は優しい指を止めずに言った。
「そうか? どうってことない、田舎のラブホじゃん。どこがよかった?」
 翔太はにこっと笑った。
「ベッド広いとこ」
 行人の指が止まった。次の瞬間。
「カワイイーー!! 何そのカワイイ言動! もう、ショウちゃんは油断するとぶっ込んでくるよね」
 いや。別に「ぶっ込んでくる」とか意味分からないし。翔太はそう思いながら、きゃあきゃあ喜ぶ行人にもみくちゃにされていた。
(朝までひとつのふとんにくるまって眠れるって、サイコーだと思うんだけど)
 広いベッド。この部屋にはどうしたって入らない。
 
 あんなに熱い行為のあとで、行人は帰っていく。
 翔太はひとり残されたシングルベッドで、ぼんやりと考えた。
(ホントに誰もいないのかな)
 実は家には誰かが待っているのではないか。行人が生活をともにするほど、気を許した誰かが。
 翔太は首を振った。
 行人は大人だが、嘘つきではない。どうやら本当に翔太のことを愛している。溺愛と言ってもいい。
 だが、行人が自分に芯から気を許しているかどうかはまだ分からない。例えば、翔太は行人のできないことを知らない。行人が家族の誰と暮らしているのか知らない。
(ユキさん……)
 ずっとひとりで住んできた部屋なのに、馴れ親しんだ孤独が今は寒々しく心に刺さる。行人と付き合うようになって、翔太の心は初めて「孤独」を知った。
 翔太は寝返りを打って、眠ろうとした。
 眠ってしまえば夢の中で行人に会える。夢に出てきてくれなくても、朝になって出社すれば、また行人に会えるのだから。
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