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6、甘い、甘いチーズケーキ
子猫の身に安全を
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ごいんきょはいつも通りほぼ毎朝やってきて、いつものようにおかしな敬語でいろんな話題を繰り広げていたが、ある日の午前、常連たちが他に誰もいなくなった瞬間、貴広に言った。
「先日の『商談』なんでございますが、進展がございましてね」
「そうですか……!」
貴広はずっと心の奥で凝っていたものが溶けほどけるように感じた。
「で、どうすればいいですか?」
「『商品』は、何でございましたのでしょう?」
「これです」
貴広は、レジの中にしまってあったSDカードを取り出した。
「コピーはしていません」
カウンターにその小さな四角いカードをパチリと置き、指先でごいんきょの前へ押しやった。
「ははあ。これはもともと先方の所有物だったと、こういう訳でございますですね?」
「はい」
良平め。だが、良平がこれを盗み出してきたおかげで、ごいんきょが間に立ってくれ、上手くするともうあの子の身は自由になる。
「さようでございますですか。本来こうした場合、何か対価になるものを差し出して初めて、『取引』が成立するものでございますが……」
貴広は奥歯をギュッと噛み締めた。
「しかし、ひとりの若者の前途と、それからマスターのお心優しさに免じまして、あたくしが何とかいたしましょう。なあに、こういうときのために、いろいろと」
ごいんきょは口許を隠して「ほほほ」と笑った。
こちらからは、悪事を警察等当局に持ちこむのを止める。その代わり先方には、今後良平への一切の手出しをしない。この筋で「商談」がまとまれば、多分その対価は良平の昔馴染みである海斗とやらが支払うことになるのだろうか。
いや。考えない考えない。
貴広は首を振った。
全員を救えないことはある。そもそも海斗が良平の窮地につけ込もうとして始まったことだ。貴広は良平だけを救う。それが自分の手の届く範囲だ。可能な領域なのだ。
その日ランチタイムの後片付けをしていると、良平が大学から戻ってきた。常連さんたちの手前、バイトが出勤してきた風を装ってあっさりと迎えたが、良平がカバンを置きに二階へ消えた三分後、ものを取りにいくフリをして貴広は階段を駆け上がった。
「良平!」
良平はエプロンの紐を結んでいるところだった。
「先日の『商談』なんでございますが、進展がございましてね」
「そうですか……!」
貴広はずっと心の奥で凝っていたものが溶けほどけるように感じた。
「で、どうすればいいですか?」
「『商品』は、何でございましたのでしょう?」
「これです」
貴広は、レジの中にしまってあったSDカードを取り出した。
「コピーはしていません」
カウンターにその小さな四角いカードをパチリと置き、指先でごいんきょの前へ押しやった。
「ははあ。これはもともと先方の所有物だったと、こういう訳でございますですね?」
「はい」
良平め。だが、良平がこれを盗み出してきたおかげで、ごいんきょが間に立ってくれ、上手くするともうあの子の身は自由になる。
「さようでございますですか。本来こうした場合、何か対価になるものを差し出して初めて、『取引』が成立するものでございますが……」
貴広は奥歯をギュッと噛み締めた。
「しかし、ひとりの若者の前途と、それからマスターのお心優しさに免じまして、あたくしが何とかいたしましょう。なあに、こういうときのために、いろいろと」
ごいんきょは口許を隠して「ほほほ」と笑った。
こちらからは、悪事を警察等当局に持ちこむのを止める。その代わり先方には、今後良平への一切の手出しをしない。この筋で「商談」がまとまれば、多分その対価は良平の昔馴染みである海斗とやらが支払うことになるのだろうか。
いや。考えない考えない。
貴広は首を振った。
全員を救えないことはある。そもそも海斗が良平の窮地につけ込もうとして始まったことだ。貴広は良平だけを救う。それが自分の手の届く範囲だ。可能な領域なのだ。
その日ランチタイムの後片付けをしていると、良平が大学から戻ってきた。常連さんたちの手前、バイトが出勤してきた風を装ってあっさりと迎えたが、良平がカバンを置きに二階へ消えた三分後、ものを取りにいくフリをして貴広は階段を駆け上がった。
「良平!」
良平はエプロンの紐を結んでいるところだった。
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