学生アイドルになった俺─知識を使って、ギリギリの推し達を救え─

初賀 少女

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第二幕 波瀾万丈のデビューライブ!

Z:Climaxに誘われた

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華園先輩に『ゼックラに入らない?』と誘われた俺の口から出てきた言葉は、戸惑いの一音だった。

「⋯⋯は?」
「流石のボクもタダで講師になるほど暇じゃない。今回のトレーニングは衣装修繕との交換条件で受けたけど、敵情視察も兼ねさせてもらっている。そしたら、ミューズに愛された誠君がいたから、これは勧誘もしておこうかなって思って」
「そ、そうなんすか」

 ミューズに愛されたっていう独特な語録で表現されているが、要は俺の能力が華園先輩のお眼鏡にかなったってことだろう。

 だが、招聘しょうへいした外部チームのトレーナーといえども、白昼堂々と行われる引き抜きを海嘉先輩も見過ごさない。

『こんなに堂々とするのかよ』と言わんばかりに、眼鏡下にある目元を引き攣らせて待ったを掛けた。

「華園先輩、それはちょっとマナー違反じゃないっすか」

 いつもの気安い雰囲気を取っ払った海嘉先輩は、校舎裏の練習時に見た時のブラックさを醸し出している。

 193cmの筋肉隆々の男から鋭く睨みつけられた華園先輩は、しかし正反対のベビーフェイスに不敵な笑みを繕った。

「ごめんね、次狼君。手癖が悪くて」
「マジで吃驚ですよ。っていうか、引き抜きは暗黙の了解でNGっすよね?」
「最近はそういうことになってはいるみたいだね。ボク達よりも前の世代ではよく行われていたらしいけど、引き抜き合戦になると結局は先細りになりやすいってことで、タブーに近い扱いになっているんだったかな」

『引き抜き』という行為自体、優秀な人材を得られることでチームの活性化に繋がると好まれがちだが、一方でチーム内や界隈自体の治安を悪化させやすい諸刃の剣でもある。

 夏の風物詩として有名な高校野球においても、他校からの引き抜きを受けて転校したとして、公式の大会に出場できるのは転校から一年後というルールがあった筈だ。

 それくらい有能な人材を引っ張り合うという『引き抜き横取り』は、風紀やゲームバランスを乱しやすい手段として認識されている。

 また、昔の戦国武将みたいにより良い所を目指して転々としている浪人みたいなアイドルは、ファンにもウケが良くない。

 推しがアイドルチームを転々としている様子は、ファンとしても落ち着けないからな。

 ──それに、既存のアイドルチームに新人が加入するというイベントは、全ファンに決して好まれているとも言えない。

 チームに新人が加わると、どうしても雰囲気が変わりがちなこともあって、その変化が受け入れられない層は一定数いる。

 そして、当人である俺達はそのジレンマを生んだからには、馴染みのファンにも新規のファンにも楽しんでもらえるように努力する必要がある。

 そういった諸々の事情も考慮すると、即戦力を求めた結果、皮肉にもチームの総合力が衰えていったという話はさもありなんなのだ。

 だが、そんな当たり前の話を白蘭高校の二番手を務められているゼックラの最上級生が分かっていない筈も無く。

「でも、この子達はまだデビュー前。グッズや衣装の用意は済んでいるんだろうけど、その分の補填は勿論コチラで用意する。だから、誠君は何も心配しないで来たらいいよ」

 華園先輩は海嘉先輩の眼光を見返していた視線で、ちらりと俺をなぞる。

 軽く流し目を送られた俺は、なるほどなと一人ごちた。

 今回、先輩が引き抜きに踏み切ったのは──俺がデビュー前だからだ。

 まだAngel*Dollに所属していると世間のどこにも知られていない状況なら、未所属も同然だと言いたいのだろう。

 しかし、発表はされていなくとも、来るデビューライブに向けて準備はしている筈だから、その分の経費は持つと譲歩の姿勢も見せている。

 コレらの判断は、華園先輩の独断なんだろうか。

 だとしたら、一人の裁量権を大幅に超えているような気がするのだが⋯⋯。

 もしかして、ゼックラも顧問が使えないからと学生であるメンバーが人事権を独占しているのか。

 ──もし、そうなのだとしたら、白蘭の経営体制にもかなり問題があるよな。

「ちょっ!?ちょっ、ちょーっと待ってください!先ずは本人の意思を確認するとこじゃないっすか!?」

 頭の上にある華園先輩の流し目を見返しながら、在籍高についての不信感が湧き出てきたところで、すっかり傍観者になっていた白星が割り込んできた。

 もっともな事を言っている白星の方を見ると、彼は口角こそ上げてはいるが、落ち着きなく眉根をひくつかせている。

 その眉根の下にある金色の目が、ふと俺へと向けられた。

 いつになく瞳孔が開いている瞳が、不安定な水面のように揺れているような気がしたのは、俺が多少動じているからだろう。

 そんな割って入ってきた白星を、華園先輩は面白そうに伺っていた。

「確かにそうだね。たとえ、スカウトして入ってきてくれたとしても、本人にやる気がなかったら問題。
 だから、誠君には自分の意思で来て欲しい。ボクなら──ううん、ゼックラだったら君に最高のステージを用意してあげられる。ウチはアイドルに造詣ぞうけいが深いメンバーもいっぱいいるし、特に今は広報のスペシャリストがついている。エンジュのようにいっぱい業界のツテを持っているわけではないけど、その分、何ものにも縛られずに自分達で挑戦し続けることが出来る」

 掴まれていた手に、もう片方の手が重ねられる。

 ギュッと先輩の両手で挟まれたその手に視線を落としてから、俺の心を透かし見ようと観察しているあの蒼い双眸そうぼうを見上げる。

「これがZ:Climaxだ。空虚な玉座でふんぞり返って、下界を見下ろしている天使とは違う。ボクたちはたとえ、玉座に手が届いたとしても与えられた座で満足することは無いよ」

 Z:Climax──常にギリギリ限界で、崖っぷちの瀬戸際で足掻き続ける永遠の二番手。

 ネット上では、『頭痛が痛い』と同じレベルで表現されているとも話題になった四面楚歌なアイドルチーム。

 それが、『プリズム☆アイドル』で描かれていた彼らの姿だ。

 常に勝利に貪欲で、負け戦だとしてもこうべは垂れず、九死に一生を得てきた彼等の生き様は、色気と余裕で売っている割には泥臭い。

 しかし、どうしてか目が惹き付けられる。

 お前がなりたいのは、退屈な勝者なのか。
 それとも、刹那の一時に鮮烈な光を焼き付ける挑戦者のか。

 そのどちらなのだと、華園先輩は問うている。

 この二つから選ぶのだとしたら、俺は──。

「それに、誠君が来たらサイが喜ぶ。あの子は馬鹿ノアのこともあるけど、それだけじゃなくて取り扱いが難しい子。誰も彼もを魅了する程の存在感があるからこそ、ソロパートでしか輝けない」

 サイ⋯⋯ああ、犀佳か。

 ふと脳裏に浮かんだのは、アッシュグレーの髪を片耳にかけて、ふんわりと笑う前の住人の姿だった。

 中性的な容姿で、老若男女を魅了するお色気大魔神はこの世界だけでなく、前世でも多くのユーザーを魅了していた。

 しまいには、ゲームを知らないオタクからも『Z:Climaxの柳村犀佳』として認知されるようになった彼は、正真正銘の人権キャラクターとして名を馳せた。

「けれど、君がいれば今から協奏曲をすることも可能」

 先輩の言う通り、Z:Climaxに加入するのならば、犀佳とは同じチームメンバーになるということだ。

 そう思った瞬間、無性に胸がザワついた。

「サイはあんまりお喋りが得意じゃないけど、誠君のことなら色んなことを話してくれるんだ。ボクはあの子にも⋯⋯ゼックラの中で息をつける場所を整えてあげたい。このままだったら、サイは調律が終わる前に弦が切れてしまう」

 脳裏でふんわりと微笑んでいる犀佳は不意に横顔を見せると、笑顔を仕舞って憂うように目を伏せた。

 俺がAngel*Dollに加入した翌日に、黎明館の裏で見せた思い悩んだ横顔だ。

 だが、あの時は──彼の横顔は長い髪で隠されていて、高い鼻先しか見ることが出来なかった筈だ。

 犀佳の苦悩は、分かる。

 たった一ヶ月ちょっとの付き合いだが、その短期間のうちに随分と色んな顔を見せてもらった。

 友達にしてくれた。
 信頼してもらった。
 心の内側を少しずつ、明かしてくれた。

 だからこそ、分かる。

 アイツは──『俺』が傍にいたら、アイドルとして成長することが出来ない。

 かなり自惚れた表現になってしまうが、クラスで一番の友達として評価してくれているだろう犀佳が俺と一緒にいたら、カリスマ性で周囲を焼き尽くすようなアイドルにはきっとなれない。

 天下に手が届きそうだった【Z:Climaxの柳村犀佳】の魅力は──孤独ながらも、困難に抗い続けた先で開花したものだからだ。

 故に、一年生ながらもチームのエースとして君臨していた。

 これは酷く利己的な感情にはなるが、俺はこの世界でも【Z:Climaxの柳村犀佳】を拝んでみたい。

 アイドルとして大成した犀佳に会いたいと、渇きにも似た願望を抱いてしまう。

 ──ただ一方で、同期である榊賢司に突っかかられている件は、やっぱり心配ではあるがな。

 アイツ、気性自体は見た目通りの穏やかさとは随分と掛け離れた激しさを持っている筈なのに、これまでの抑圧された生活によるものか、言い返すってことがくっっっそ苦手だ。

 しかし、俺への態度からも見て取れるように、一度ひとたび慣れると容赦がなくなるので、決してやられっぱなしの未来しかないという訳でもない。

 ──そんなやわっちい男だったら、とっくの昔にゼックラもアイドルも辞めていただろうしな。

「犀佳の件は、俺がどうこうする話ではないと思います」

 アレコレ思うことはあるものの、俺の解答は一先ず出た。

 華園先輩の両手で挟まれている自分の手を、ゆっくりと引き抜かさせてもらう。

 先輩はまさか俺がそんな切り返し方をしてくるとは思わなかったらしく、「え?」と驚きの声を漏らした。

 だが、目を丸くしている先輩が落ち着くのを待たずに、俺は言葉を重ねる。

「アイツは⋯⋯確かにナイーブでジメジメしがちな所はあるんすけど、多分先輩が思っている以上に強い奴ですよ。実はけっこう負けず嫌いな頑固者だし、会話の流れをこっそり作って誘導するのも得意だし、やられたことは末代まで覚えているような執念深さもある面倒な男です」
「⋯⋯え?」

 犀佳が加入してからもう一ヶ月も経つし、どれか一つくらい思い至る節があるんじゃないかと思ったりもしたが、華園先輩のこのキョトン顔を見るに一切無さそうだ。

 あんのお色気大魔神野郎⋯⋯先輩の聞き間違いを疑っていそうな反応を見るに、まだ特大の猫を被ってやがるな。

 もしかして、榊が犀佳に突っかかっている理由って──同じチームになったのにも関わらず、一向に心を開く様子がないからってのもあるんじゃないのか。

 そうだとしたら、人間不信気味とはいえ、犀佳側にも問題はある。

 頭が痛くなってくるような『もしも』の浮上に目元を覆いたくなったが、こうなったら信じてはもらえなくとも華園先輩にアイツの本性の片鱗は感じ取ってもらえるように、疑惑の芽くらいは植えさせてもらおう。

「なぁ。桜羽と白星も、俺と似たようなこと思ってるよな?」

 ってことで、手っ取り早く証言者を増やすべく、あの二人を巻き込むことにした。

 俺に話を振られた桜羽と白星は、なんとなくこの流れになることを察していたらしい。

 非常に気まずそうな顔をして、それぞれ明後日の方向を向いている。

 桜羽は近くの席同盟で犀佳の性格をよくよく見知っているし、テスト勉強で仲良くなったばかりの白星にしても、その時にまあまあな性分を見せられているから身に覚えがある筈だ。

 俺は逃げられないように、「なぁ?」と少々声を低めて念押しとばかりに声を掛けると、二人は漸く観念したように口を開いた。

「うん。まぁ⋯⋯サイちゃんは儚い美人さんで優しいってだけじゃないっすよね。思ったより腕っ節は強いし、無言の圧力が凄い時もあるし、あと大嫌いな甘い物はしれっとマコちゃんに押し付けているし」
「柳村は良い人だけど、たまに怖い。ちょっと虎南先輩とかに似てる」
「それめっっっちゃ分かる!セージ先輩が全方位に愛想良くて、下手に出たバージョンがサイちゃん感ある!」
「へぇ~、お前らってそんな風に思ってたんだな。今度、犀佳に言っとくわ」

 思ったよりも盛り上がる二人に、つい魔が差してしまった。

 瞬間、二人がビクッと大袈裟に両肩を揺らして、信じられないものを見るような顔付きで俺を見てくる。

 その顔にはデカデカと、『裏切り者』と書いてあった。

 今にも互いの両手を取って、身を寄せ合いそうなくらいの悲壮さを醸し出した二人に、呆れるというよりかは感心の方が真っ先に来る。

 アイツ、すげぇな。

 犀佳の奴、すっかり桜羽と白星をあのふんわり笑顔で躾ている。

 ガクブルする二人を揶揄からかうのも程々に、彼等の反応をまじまじと注視していた華園先輩へと振り返った。

「ってことで、華園先輩。犀佳は繊細野郎には違いないんすけど、猫被りでもあるんであんまり騙されないように気をつけてください」

 このままだと浮世離れしたあどけない空気感に不似合いな、唖然とした吃驚顔を先輩に晒させっぱなしになるんじゃないかと思ったが、俺のその心配は杞憂に終わった。

 それというのもの、華園先輩は手を引き抜かれて手持ち無沙汰になっている片手で口元を覆うと、くつくつと急に笑い始めたからだ。

 唐突に笑い声を漏らした先輩に、理解のキャパを超えて可笑しくなったのかもしれないと失礼なことを思ってしまう。

 そんな不遜な感想を俺に抱かれているとは露にも知らないだろう先輩は、とうとう腰まで折って本格的に笑い出した。

「そ、そうか。あの子は『ヴァイオリン』だと思っていたら、本当は『三味線』だったんだ。だったら、目立ちたがり屋な『エレキギター』とも相性がいいのかな。うん、和ロックも悪くない」

 ⋯⋯まあ、元々知っていたことでもあるし、今日も一時間半くらいレッスンを受けていたからよくよく理解していたことではあるんだが。

 この先輩──俺らのこと、ガチで楽器だと思ってんだよな。

 比喩や迂遠な言い回しでもなく、本当に人間のことを音が出る存在としてしか認識していない。

 華園先輩が言っている『ヴァイオリン』だと思っていたが、実は『三味線』だったと発覚したらしき人物は、きっと犀佳のことだと思われる。

 これは、『三味線を弾く』っていう慣用句から来てるんだろうな。

 この慣用句は、相手の言うことに適当に調子を合わせて応対することや、誤魔化すという意味も持っているから。

 正に、犀佳にピッタリな言い回しであるし、華園先輩らしい評価だ。

 そして、『エレキギター』の方は推測になってしまうが、文脈からして恐らく榊のことだろう。

 彼が犀佳に突っかかっている理由は、ゼックラのオーディションで犀佳が先輩達から気に入られた現場に遭遇し、同じチームメンバーでありながらも犀佳と自分とでは違う反応を受け入れられないプライドの高さにある。

 一頻り鈴の音を鳴らすように笑った先輩は、そっとまなじりに浮かんだ涙を拭った。

「ねぇ、『フルート』⋯⋯じゃなかった、誠君。君はもう答えが出てるよね。それを教えて欲しいな」

 そして、俺は『フルート』なんだな。

 これは安直にキーの高さと、俺の能力から割り振られた結果か。

 とうとう名前さえ呼ばれなくなりかけている事実に目が遠くなりかけたが、今は引き抜きに対する答えを提示する場面だと居住まいを正す。

 俺の出す答えなど、華園先輩はもう分かりきっているだろうに、敢えて言葉にしろというのはこの一悶着に正しく蹴りを付けるためだと分かっているからだ。

「俺は⋯⋯Angel*Dollにいます。このチームに入った時から、学生アイドルとしての居場所は此処だけだと決めているので。なんで、折角誘ってくれたのにすみません」

 華園先輩に向かって、軽く頭を下げる。

 俺に引き抜きを断られた先輩は、口元を覆っていた片手を外して、上がっている口角を晒した。

 その空いた片手は人差し指が折り曲げられ、支えるように顎下に添えられる。

「うん、分かった。でも、君は一度関わった楽器だから、何かあったらいつでも頼って。音楽人として──先輩アイドルとして力になれることがあれば力になる。これは、庵璃君と雪成君も一緒」
「え?お、おっす!」
「ありがとうございます」
「次狼君も。潤滑油だった昂汰がいなくなって、大変なことも多いと思う。あの二人も頼りにはなるけど、昂汰程の気安さがある訳じゃないから。それに今日みたいにチーム外にいるからこそ、話しやすいこともある。透君と柊矢君にもこのことを伝えてくれる?」
「了解っす」
「うん。じゃあ、振られちゃったし、ボクは帰るよ。またね」

 バイバイと小さく手を振った華園先輩は、俺たちの横を通り過ぎると、後ろを振り返ることもなくあっさりと出ていった。

 スタジオに残された俺達は少々気まずい空気感に浸りながらも、各々気を弛めたように息を吐き出したり、肩を回したりしている。

 この短時間で、色んなことがあったもんな。

 音程パートについての抜け道を見つけたり、引き抜きイベントが発生したり。

 かなりハイカロリーな出来事が続いたこともあって、身体的な疲労よりも精神的な疲労の方が大きい。

「良かった~。俺、マコちゃんがもしかしたら、ゼックラに行っちゃうんじゃないかと思って、すっげぇドキドキした」

 その場にしゃがみ込んだ白星は、安堵でふにゃふにゃになった顔をして俺を見上げる。

「抜けねぇよ。さっきも先輩に言ったがAngel*Dollに入るって返事した時に、もう此処だって決めちまったからな」
「へへ、そっか。アンリー、俺達三人でいれそうだね」
「うん。もし、姫城が華園先輩に着いていこうとしてたら、責任を取ってもらうつもりだった。だから、そうならなくて良かった」
「ねー⋯⋯ん?責任?」

 共に喜びを分かち合おうと隣にいる桜羽に話を振った筈だが、どうも同調のされ方が白星の思っていたものと違ったらしい。

 というか、大層不穏な言い方をする桜羽に俺はギョッとなった。

 クエッションマークがいっぱい浮かんだ白星の顔と、俺のビビり顔を向けられている桜羽は意に返していないように淡々と話を進めていく。

「俺をAngel*Dollに誘った責任。姫城は『誘ったからには、責任もって面倒見る』って言ってたから」
「⋯⋯わぁー。マコちゃんってば、おっとこまえー!」
「待て待て!俺、そんなこと⋯⋯言ったような気もしなくもないな」

 確かに、そんな事を言ったような記憶もあるような⋯⋯。

 誘った時だったか、柳村に揶揄われた時だったのかは定かじゃないが、徐々に言ったように思えてきた。

 あの時はなんとか桜羽をAngel*Dollに入れなければと、あの手この手で気を引こうとしていたからなぁ。

 今にして思えば、我ながらとんでもねぇことを口走っている。

 まだ二、三週間くらい前のことなのに、既に遠くの彼方になっている記憶に毎日が濃厚だよなと黄昏れてしまう程の多忙さだ。

 殆ど毎日のようにイベントが起きているが、ゲームであったプリアイでさえ、もう少し余裕を持って本編を進行していたぞとこの世界にいるのかも分からない神に苦言を呈したくなる。

 俺の反応が芳しくなかったからか、桜羽がいつものポーカーフェイスである筈なのに、妙に強い眼差しで俺に問いかけてきた。

「姫城は⋯⋯俺を置いていくのか?」

 まるで、生き別れになる兄弟の別れのシーンの如く、大層なことを言ってくれやがる桜羽に、俺は嫌そうに目を細めた。

「お前さ、実はそこそこ犀佳に毒されているよな。あのゆるふわ腹黒から、そういう所ばっか学びやがって」
「置いていく?」
「置いていかない。そんな不義理はしねぇよ」

 犀佳のように、ある程度の着地点を用意してから会話を展開してくる桜羽に頭が痛くなってくるが、不安がっているのは本当のようなのでしっかりと否定しておく。

 まあ、加入すること自体は桜羽の意思で決めたことだが、俺はその決断の後押しもしているもんな。

 誘うだけでなく、加入の後押しもしている俺が居なくなるっていうのは、桜羽にとっては心細いことだろう。

「なるほどなぁ。誠のウィークポイントはそれか。ってことは、一年ズが引き抜かれる心配はあんまりしなくともいいかな⋯⋯一応、他チームに牽制はしておくけど」

 そして、俺達のハートフルなやり取りを壁際に凭れ掛かって鑑賞していた海嘉先輩がぼそりとド低音で独白を零している。

 それを聞いてしまった俺達は、決して『エッジの木ノ下茉吏にも粉をかけれました』ことを口にしないと固い決意をしたのだった。




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