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第二幕 波瀾万丈のデビューライブ!
ゼックラ:救えるもの/救えないもの(後編)
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「あ、あの⋯⋯レイちゃん?さっき、マコぽんを引き抜こうとしたとかいう死亡フラグを立ててきたって声が聞こえてきたんだけど、本当にやったの?」
「うん。事後報告だけど、一応真白と聖仁にも連絡した」
ただし、華園が彼等に送ったメッセージには、姫城に唆された通りに『一年生が性格悪いって言ってたよ』等の煽り文句も付いている。
それのせいなのか、あちこちに飛び回っていて返信の速度に波がある芹沢は兎も角として、大体即レスしてくる虎南からも珍しく返信が無い。
まあ、あの面倒な男も一年生のデビューライブ前だから忙しいのかなと、華園は全く気にしていないのだが。
「あ、これは俺だけじゃなくて、『ゼックラ三年』平等にエンジュ一年生への接近禁止命令が布告されるわ。シーちゃんとセイちゃんが、これで心置き無く言えるって顔してそう⋯⋯」
顔の右部分を覆っている前髪を揺らして、仁藤がフッと黄昏れるような笑みを浮かべる。
意味深な仁藤の様子に、華園の斜めになっていた首がますます傾いていく。
「どういうこと?なんでノアは接近禁止命令を出されているの?」
「俺はドルオタとして失格なことに推しを前に盛大にはしゃぎ倒し、尚且つ激キショリアコ宣言もどきや発言までしてエンジュ全員の精神を疲労困憊させたので、夏休みが明けるまで『エンジュの一・二年生への接近禁止命令』が出ているんだ」
オタク特有のノンブレスでとんでもない罪を明かした仁藤に、事情を知る久遠以外の二人が「うわぁ⋯⋯」とあからさまにドン引きした表情になった。
愛澤に至っては副リーダーとはいえ、これは擁護する価値もなしとその辺の塵芥を見るような侮蔑の一瞥を向けている。
その目は『男のアイドルチームに会いに行って、激キショリアコ宣言って何?』と突っついちゃいけないことをビシビシと問いただしているようだった。
「⋯⋯ボク、次狼君から一年生のボーカル指導を引き受けた時に衣装の修繕をしてもらうことを交換条件にしたんだけど、それ取り下げとくね。これをノア個人の問題で収めさせるには、ちょっとキツイかな」
「まあ、もうご卒業されるので仁藤さん個人の問題として処理し、ゼックラは一切合切関わっておりませんの姿勢を貫くのもありですが⋯⋯その後に間を置かず、新入生に引き抜き行為を行っているので、エンジュに妨害工作を受けていると判断されても可笑しくは無いですね」
タイミングが大事とよく言われるが、まさかこんな間の悪さが潜んでいるとは思わなかったと言いたげな華園と愛澤である。
いつもギリギリクライマックスなゼックラであるが、たまーにこういう身内から出た錆に足元を掬われることがある。
「ってか、アンタ、またとんでもねぇことをしてくれたな。いつも騒動を起こしたら、真っ先に俺に相談しろって言ってんだろうが」
「うう⋯⋯ごめんよぉ、ミーちゃん。最近、プロモでバタバタしてたし、シーちゃんとセイちゃんから接近禁止命令の禊を貰ってたから良いかなって思ってぇ」
「その『接近禁止命令』っていうのが、そもそも罠。芹沢さんと虎南さんのことだから、分かりやすい罰を与えて乃逢さんにこの件は終わったものだと思い込ませようとしているだけです。実際は、いつかウチに弱みとして使えるようにと、手札の一枚として数えられていると見た方が妥当です」
急に舞い込んできた残飯処理に、愛澤の口もつい悪くなってしまう。
明らかにイライラとした雰囲気を纏い始めた後輩に、仁藤は「ごめんなさーい!」と両手を合わせて、ペコペコ頭を下げた。
そして、しれっと己も保護者として同伴しておきながら、暴れる仁藤を御せなかった久遠も申し訳なさそうな顔をして後輩にお伺いを立てる。
「芹沢と虎南なら⋯⋯有り得なくは無いか。慰謝料として何を包めばいい?」
「エンジュなら、技術提供が一番無難でしょうね。前みたいにピアニストやギタリストを一回のライブに派遣するとか。乃逢さんに責任を取らせるって言うなら、ドラマーとしてエンジュの仕事に付き添ってもらって、タダ働きしてきたら良いんじゃないすか」
「仁藤。誠意を込めて、一魂一魂叩かせてもらいます」
ただし、仁藤がゼックラを留守にするということは、チームの緩和材兼鎹でもあるメンバーが常潟のみになる。
そもそも、今代のゼックラの初期メンバーは仁藤と常潟の2人だけだ。
久遠と華園は2人がそれぞれ拾ってきたメンバーであり、愛澤自身も仁藤に引っ掛けられて加入した口だ。
そのため、仁藤が居なくなっても困りはしないが、ちょっと腰が落ち着かない。
その辺の久遠と愛澤の機微を音楽監督として敏感に察知していた華園は、しょうがなさ半分、やってみたさ半分の第2案を提案した。
「じゃあ、ボクが一曲進呈しても良い?もう外枠もそこそこ出来ているものが何個かあって。一年生のための曲にするか、全体曲にするか、それともテノールアンサンブルにするかは、2人に決めてもらおうかな」
否、しょうがなさ1割、やってみたさ9割の第2案だった。
もう既に華園の頭の中にある楽譜には大まかな流れも書き込まれているらしく、大変にウキウキとした調子で三人からの是を待っている。
仁藤としては、己の失態の尻拭いを華園にさせるような形になると少々困り顔だ。
しかし、華園もスピードを重視して報連相を怠ったために、仁藤の失態に追い打ちをかけたようなものだ。
それがどれ程にリカバリー不可能な正視に耐えない失態に対する追い打ちだったとしても、此処は連帯責任ということで処理をした方が色々と都合が良い。
「分かった。作曲中の霊慈のフォローは乃逢がメインで担当。出席日数のこともあるから、絶対に霊慈を教室まで連れて行け」
「⋯⋯お~け~!ごめんねぇ、皆。いつもいつも世話ばっかり掛けちゃって」
「確かにいつも迷惑を掛けられているけど、ボク達が出来ないことは全部ノアにしてもらっているから良い」
「ふぁっ!?あのツンツンベビフェレイちゃんの珍しいデレ!?今日って、もしかしてご褒美デイ!?」
「そういう所を直してって言ってるの」
しかし、喉元過ぎる前にドルオタ全開で騒ぎ始めた仁藤に、華園がジトリと睨み上げる。
だが、仁藤は情けない顔半分、ニヤニヤ半分を晒すという器用なことをしてみせた。
これがおちょくりでもなんでもなく、本気で申し訳ないという気持ちと華園を可愛がりたいという気持ちが鬩ぎ合っている様が、モロに表情として出ているのだと知っているだけに何とも言い難い。
(ノアのコレは⋯⋯もう不治の病らしいから、どうすることも出来ないってランや聖仁も言ってた。だから、付き合っていくと決めた方も柔軟にならなくちゃ)
華園にとって、仁藤はオーケストラの核と言っても過言では無いティンパニーに該当する。
時には周囲に合わせ、時には周囲を引っ張っていく剛柔一体の性質を持つ仁藤は、お騒がせな性格も持っているが、それに目を瞑れてしまうくらいにはゼックラのキーパーソンでもある。
話が一段落した所でノック音がして、再び背後の扉が開いた。
4人の視線が、新しい客人へと吸い寄せられていく。
「クッソ!やっぱりテメェとは話が合わねぇ!普通、尻だとか胸だとかそういうとこに目が行くだろうが!手に腕って、マニアック過ぎんだろ!?」
「弓道していた時に目を惹かれたのがその辺りだったんだ。あんなに小さくて細いのに、しっかり的に当てるって凄いなぁって」
「榊。これに関してはお前がまだまだニワカということだ。セックスアピールに特化した部分ばかりが目につくというのがまさにその証拠。俺くらいになると、足の甲だけでも美を感じられる」
「いや、ラン先輩のそれはマジで上級者過ぎっしょ」
刹那、姦しくなった部屋内に先にいた面子の目から光が消えていく。
全員が全員、『どうしてこの面子で来たんだ』と胸中で零していることだろう。
そもそも、明らかにアダルティーな雰囲気がムンムンと漂っており、物音を立てるのも気を使うような店内を見てもなお、男子高校生の会話全開でやって来れる肝の太さにもビビる。
若干、眉根がピクピクしているように見えた店員に案内されてやってきた3人の内、最初に個室内に踏み入った『足の甲だけで美を感じられる』男は、顔全体を覆う女優帽を邪魔くさいとばかりにとっとと脱いだ。
女優帽の下から現れたのはイタリア系の彫りの深い顔立ちで、男は切れ上がった目を伏してハーフアップにされた亜麻色の髪の形を感覚で整えていく。
その姿は海外の雑誌でポージングを撮るモデルのように端正的なのだが、そう思い込むためには先ず彼の残念な口を塞ぐところから始めなければならない。
そして、榊と呼ばれた『尻だとか胸だとかに目が行く』男は、キャップからはみ出ている赤い毛先からして気の強さが表れていた。
気持ちを落ち着けようと手元のスマホ画面に視線を落とすが、あまり興味が惹かれる物は見つからなかったらしく、八つ当たりするようにダメージジーンズのポケットに突っ込んでいた。
行き場の無い怒りは因縁の相手である、一番最後に個室内へと入ってきた『手や腕が気になる』と宣った柳村へと向けられる。
榊に睨めつけられている柳村は、いつもの事だとふんわりとした笑顔を静かに浮かべて躱していた。
彼も本日は私服のようで、鍵編みのカーディガンをシャツの上から羽織り、スキニーパンツといったユニセックスな格好だ。
今のゼックラで一番の問題児である榊が、因縁をつけている柳村と一緒に来ただけでも頭を抱えたくなるというのに、それにキング・オブ・マイペースの常潟ランベルトも加わっているのだから始末に負えない。
注意書きに『混ぜるな危険』とデカデカと書いてある劇物トリオが結成されると、『下ネタはちょっと苦手で⋯⋯』と困ったように笑っていそうなあの柳村でさえも、猥談に混ざってしまうのかとしょうもない真実を知ってしまった。
折角、雰囲気のある場所に来たのにも関わらず、大盛り上がりらしい三人に全員が溜息を吐きたくなる。
「ってか、おつかれーす。なんか皆さん、お疲れ気味っすね?」
「ううん、そんなことないよ~!ちょっと肩透かし食らっただけだから」
「そうっすか?」
一番の問題児ではあるが、柳村が関わらないと常識な面も見せる榊は、先に寛いでいた4人にぺこりと頭を下げる。
それに仁藤がアハハハ~と誤魔化すように片手を振って対応したことを切っ掛けに、残りの三名も口々に今日の主役達に挨拶の言葉を投げかけた。
それに一通りの挨拶を終えた榊は、真っ先に扉側の左端の席へと向かっていった。
本来ならば、新入生達には真ん中の席に是非とも座って欲しい所なのだが、榊と柳村を無理やりにセットにした所でロクなことにならないと、今日までの一ヶ月で身をもって知っていた上級生達は各々の好きにさせることにする。
元より、ゼックラの上級生は愛澤とは別にもう一人いる二年生以外は全員文化部上がりなこともあって、あまり年功序列には厳しくない。
寧ろ、個人主義の活動で名を残してきた連中ばかりなので、実力があればそれで良かろうのスタンスなのだ。
この辺りは、実はバリバリの脳筋節があるAngel*Dollや、ガッチガチのスポーツマンで構成されているエッジ雑技団とは全く相容れない経営体勢をしている。
柳村の方も榊のあからさまな言動には慣れているので、顔色ひとつも変えずにいつものふんわり笑顔を携え続けている。
さて、榊の場所は決まったとして、自分は何処に腰を落ち着けようか。
色々と忖度しながら辺りを見渡している柳村を、見兼ねた華園は右端の席へ行くよう促した。
オロオロとしている調律途中の楽器には、どうしても世話を焼きたくなってしまう華園である。
わざわざ席を立って奥へと行くように勧められた柳村は、恐縮したように何度も頭を下げてそちらへと移って行く。
次に華園は榊の隣かつ久遠と仁藤の前に座ろうとしている常潟を柳村の隣に据えて、己も常潟の隣へと落ち着いた。
マイペースな常潟の子守りはそれなりに手が掛るため、榊のような2つも年下の後輩には荷が重いことだろう。
それに、幼少期から面倒を見ている華園ではないと、上手く彼を扱えないという裏事情もあった。
そんな思惑の果てに場所を固定されてしまった常潟ではあるが、別段と不満には思っていないらしく、ソファに座るなり優雅に足を組んでいる。
「そういや、さっきマシロとセージから店を紹介してくれって連絡があった。アイツら、女でも出来たのか?」
「「「「⋯⋯は?」」」」
しかし、隣に置いても時たま、こうやって無責任な爆弾を放り込んでくることがある。
あまりにも突飛すぎる常潟の言葉に、愛澤、華園、久遠、仁藤が素っ頓狂な声を上げた。
困惑を通り越して、『コイツは何を言っているんだ?』と言いたげな4対の視線を向けられた常潟は、ハーフらしい彫りの深い顔をムッとさせる。
「証拠ならあるぞ。ほら」
そう言って、常潟はスマホを操作して、画面を向けてくる。
常潟のスマホ画面には、Treeのチャットルームが映し出されていた。
『虎南聖仁』
虎南聖仁:まだ高校に入ったばかりの子でも萎縮せずに済み、尚且つ料理のバリエーションも豊富で、あまり騒々しくない個室の店って知ってる?
Lambert:ファミレスの個室が最適なんじゃないか?
虎南聖仁:そういうジョークはいらない
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4人は、『本当だ!』と言わんばかりに顔を見合わせた。
挨拶も前口上もなく、急に本題を投げかけてくる大変に虎南らしいメッセージではあるが、その内容が著しく変だ。
「ってか、ファミレスに個室がある所なんてあるの?」
「あるぞ。家族水入らずでノンビリしたい層も居るからな」
虎南の変さ加減が気にはなりつつも、仁藤は常潟の返信の方が気になったらしい。
鷹揚に頷く常潟に「はえ~」とオタクの相槌を打ってから、久遠と華園へガバリと顔を向けた。
「レイちゃん、今度のご飯会はファミレスにしよっか。たっくんもファミレス大好きだしね」
「「うん」」
実は、ゼックラ三年生の半分がお子様舌だ。
久遠は卵料理が大好きなため、お子様プレートに乗っている料理は全部大好物だし、華園に至っては海鮮丼やおじやが好きなお米大好きマンである。
そんな訳で三年生だけのご飯会となると、気取った所に行っても隠し味のブランデーやら、トリュフやらが嫌いなお子様が多いため、嫌いな味を延々と掘り返す二人を見るだけの回になることもよくある。
なので、ファミレスの個室が確保出来るのなら、今年一年はもうそこで外食すればいいじゃんということだった。
ゼックラ三年生のご飯会の場所が決まった所で、再びスマホを操作していた常潟が向けてくる。
『芹沢真白』
芹沢真白:急にごめんね。ちょっとご飯屋さんを探してて、ランベルトなら知ってるかなと思って連絡したんだ
芹沢真白:普通の高校一年生の子も入りやすくて、ご飯の種類がそれなりにあって、でもあんまり人も多くなくて、ゆっくり出来るお店とか知らないかな?
芹沢真白:予算は考えなくても良いよ!
Lambert:http//⋯⋯
Lambert:http//⋯⋯
Lambert:http//⋯⋯
Lambert:最初の所は和食とイタリアン。2階に個室があって、個室間が離れているから話し声もあんまり聞こえてこない
Lambert:2個目は洋食全般を取り扱っている。元俳優が個人でやっている店で、貸切も可能
Lambert:3個目はイタリアンだけど、何故か寿司も取り扱っている。個室もあるし、個室じゃなくても席それぞれに仕切りがある
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・
「ランちゃんって本当にシーちゃんに激甘だよね。俺達だったら絶対にセイちゃん対応だもん」
「いや、タクヤとレイジにもちゃんと教えるが?」
「⋯⋯ん?あれ!?もしかして、ランちゃんが辛辣なのって俺だけ!?」
「まあ、そんな訳でアイツら揃いも揃って、16歳の女子高生をゲットしやがっている訳なのだが⋯⋯。良いよなぁ、二つ下の彼女。響きだけでも甘い」
「ちょ!?ランちゃん!?」
何やら仁藤がギャースカと喚いているが、常潟はフル無視である。
しかし、この光景はゼックラだといつものことなので、誰も取りなそうとはしない。
それよりも、他に引っかかったことがあるらしい榊が、手持ち無沙汰そうにスマホを弄りながら疑問を口にした。
「っつーか、エンジュってこの前、熱愛報道出したばっかりっすよね?しかもめちゃくちゃ燃えまくってて、先輩達も難しい顔をしてたじゃないっすか。そんな炎上したばっかのアイドルチームが、ホイホイ女とか作るもんなんすか?」
至極真っ当な榊の疑問に、愛澤が考えるように視線を宙に泳がせて答える。
「まあ、アイドルとはいえ、人間だからな。昂汰さんの一件で、弱ってた所を狙われても可笑しくはない」
「んー?でも、シーちゃんとセイちゃんに女子の影とか感じたことはないけどなぁ。特にセイちゃんに関しては『エンジュしか勝たん♡』的な芹沢真白教のエンジュ箱推し、最近一年生寄りって感じで、凄く人生が充実してそう」
基本的に同級生達の虎南聖仁への認識は、仁藤と似たり寄ったりだ。
つまり、Angel*Dollを存続させるためなら手段は問わず、尚且つ芹沢真白の事となると度々常軌を逸することもある、顔が良いだけの変人という共通認識が三年生間にはある。
だが、一年生にも目を向け出したという点においては聞き捨てならないと、常潟が切れ長の目を丸くした。
「⋯⋯は?アイツ、後輩を可愛がるとか普通のことが出来たのか?」
「ランちゃんもそう思うよねぇ。同期大好き、寧ろ同期以外論外のセイちゃんが後輩を可愛がるって、頭を5回くらいぶつけたのかなって邪推しちゃうレベルだよね」
「いや、そこまでは言ってない」
仁藤が抱いている虎南への印象もかなり偏っているように聞こえるだろうが、実際去年までの虎南は芹沢と小早川以外には心を閉じきっていたと判断せざるを得ないくらいには、周囲との関係性が希薄だった。
芹沢と小早川がいれば、それで良いと言外にも漏れ出ていたあの虎南が、後輩を可愛がるようになったというのはかなりの変事なのだ。
「実は昨日さ。強制休暇を与えられているセイちゃんから、『中華食べに行かない?』って連絡があってね。先ずもって、あのセイちゃんからご飯を誘われたことも吃驚しまくったんだけど、長くなるから割愛するとして⋯⋯。
同じく暇してたたっくんと三人で中華街に行ったら、そこでセイちゃんに一年生のことで相談されてさ。なんでも『風邪を引いた時に看病してもらったから、お返しを送りたいんだけど何が良いかな?』って。コレ、どっひゃーじゃない?」
「脳の中にウイルスが侵入して、これまで機能してなかった常識的な思考回路が起動するようになった?」
「まだ完治してないんじゃないか?」
「エンジュのその先輩、どんだけヤバい奴なんすか!?」
華園と常潟コンビによる容赦ない言に対して、すかさず榊がツッコミを入れる。
自分達の先輩も大概だが、その先輩達からここまで言われる虎南聖仁ってどんなんだよと、榊の目元がピクピクとひくついていた。
そんな置いていかれている一年生達を愛澤は可哀想に思う──というよりかは、他チームの上級生のヤバさ具合を早々に教えておいて、自チームの引抜き対策をしようと思ったらしい。
愛澤は妙に畏まった表情を取り繕って、怪談話をするように淡々と話して聞かせた。
「あの人は俺をもっと偏屈にして、思い込みを激しくさせて、あと執着している物だけで生きるように設定された感じの人だ」
「はぁ!?バンドマンでも、もうちょっと情緒は安定してんぞ!その人、本当にアイドルやってんすか?」
「アイドルだよ~!それも王子様系のド王道アイドル!顔が良い、声がいい、立ち振る舞いだけじゃなくて、パフォーマンスも完璧なパーフェクトキラキラリアコ枠。
なのに、実はあんまり人に興味が無くて、人間味が無い時もあるんだけど、こと同期の芹沢真白と小早川昂汰に関することだけは別なの。友情にしてはドッロドロした激重感情が随所に感じられる関係性オタクキラーでもあるんだよねぇ。
白蘭界隈にいて『三大天使』を通ったことがないオタクは、モグリだとも言われているくらいだよ」
「どんだけ聞いても、ヤベー奴が更にヤベー奴になっていくんすけど!?」
愛澤と仁藤の説明を受けてもなお、ますます謎になっていく虎南聖仁の生態と、彼を推しているファンの心理が複雑すぎて、とうとう榊は目の中に渦を描き始めた。
「⋯⋯ん?もしやセージの奴、看病してもらったって言うってことは後輩を家に入れたってことか!?」
「そうなんだよ!あの絶対に家に呼ばないマンのセイちゃんが入れたらしいの!彼処に入ったことあるのってこの三年間だけでも、シーちゃんとコウちゃんだけでしょ。セイちゃんの性格上、家にあげたらもう攻略済みも同然だよね!!」
「え?やっぱり、強引にでも引き抜いた方が良かったかな。セイのアレって入学したばかりの子にはキツくない?」
「それはね、レイちゃん。とんでもない悪手なんだよ。だって、レイちゃんが引き抜こうとしたのってマコぽんでしょう?」
刹那、先輩方の話を聞いているように見せかけて、その実、実家の猫や明日の予定について考えていた柳村の顔が上がる。
隣の柳村が興味を持ったように顔を上げたのを尻目にしつつ、華園は頷いた。
「一年生の中でもマコぽんは、もっとダメダメ。俺もあんな美少女がウチに入ってきてくれたら、どんな衣装を着てもらおうって考えては涎が止まんなくなるんだけど⋯⋯あ、サーちゃん。そんな軽蔑した眼差しで見ないで」
だが、折角話題に興味が出てきた柳村を早々に襲ったのは、後ろの席の友達について明らかに良からぬことを企んでいそうな副リーダーのデレ顔だった。
流石の温厚な柳村とて、友達相手にセクハラをかましそうになっている上級生を見る目にも険が篭もる。
というか、『強引に引き抜いた方がよかった?』とか、一体全体先輩方は友人相手に何を仕出かしたのだろうかとさえ思えてくる。
「誠は『少女』じゃなくて、『男』です。本人に言うとかなりショックを受けると思うので、誠の前では言わないようにしてあげてください」
「う⋯⋯!?ゴメンね、サーちゃん。もう口走らないように気を付けます」
直ぐに両手を合わせて頭を下げた仁藤に、柳村も緩く首を振って苦笑を浮かべる。
当人では無いので、気をつけてもらえればそれで良い。
柳村は鏡見の一件から、姫城が自分の容姿に対して何かしらの恐れを抱いていることを察していた。
あの日までは少々度が過ぎた美少年弄りがあってもケロッとしていた姫城が、どうして急に嫌がるようになったのかは分からない。
だが、柳村自身も己の中性的な容姿にコンプレックスを抱いている身だ。
特に女性と同一視されることには、かなりの忌避感を持ってしまう。
姫城が事故に遭う前とは違って、こちらの方に感情がシフトしたのであれば、共感しやすいという意味では今よりもずっと友達付き合いしやすいだろう。
しかし、あの容姿で似たようなコンプレックスを抱いてしまうのは──かなり茨の道だ。
「それで⋯⋯どうして誠を引き抜いてはいけないんですか?」
姫城の決して平らでは無い先行きを憂うよりも、今はやるべき事がある。
柳村は顎を僅かに引いて、上目遣いで仁藤を見詰めた。
明らかに狙ってやっているだろう柳村の真意を知りつつも、仁藤は有難くファンサを享受して、鼻頭を抑えながらその理由を話し始める。
「マコぽんは、シーちゃんのお気に入りでもあるっぽいんだよねぇ。だから、絶対博愛主義者なアイドルの鏡でもあるシーちゃんがマコぽんの話をする時は、本当にちょっとヤバい雰囲気が出てて。
他の後輩の話をしている時は『可愛くて大事に育てたい後輩達』って感じなのに、マコぽんのことは『男らしいのに可愛くて、頼りになる誠君』として認識している。シーちゃんって『個』として認識する前に、『自分から見たその人の立場』で勘定する癖があるんだよ。だから、ちゃんとマコぽんのことを固有名詞で見ている所が、全くシーちゃんらしくないっていうか。ってゆーか、まだ入ったばかりの子になんであそこまで入れ上げてるのかが謎すぎて逆に怖い。
セイちゃんがマコぽんのことを気に入っているから良いけど、そうじゃなかったら大変なことになってたんじゃないかなぁ」
「⋯⋯はぁ」
仁藤の長い芹沢真白解説を纏めると、『人類を平等に愛している生粋のアイドルが、明らかに一人だけに入れ上げてて吃驚するねぇ』ってことなのだろう。
芹沢真白の友人兼オタクとして語って聞かせてくれた仁藤の説明に、柳村は顔を覆って深々と溜息をつく。
その上、吐き出さないと気が済まないとばかりに「やっぱり誠ってば、あっちこっちで人をたらしこんでいるんじゃないか」とボソボソと文句も呈していた。
「まぁ、そのセイちゃんに関してもシーちゃんとコウちゃんの時とは違って、今回は二年生も入っているから六等分になっているみたい。ただ、コウちゃんのことがすっっっごいトラウマになっているから、仕事の厳選はめちゃくちゃしてるらしいね。『ラジオ局の仕事は下には振らない』って言い捨ててたよ」
「あ~。そういやコウタがあの人と付き合ったのが、ラジオでの共演だったか」
「そう。俺達はコウちゃんの恋愛、応援してたけどね」
「⋯⋯アレは恋愛というよりも、救命活動だったがな」
仁藤と常潟はそこまで言い切ると、それ以上の言葉は浮かばないとばかりに黙り込む。
傍で聞いていた柳村は、どうも小早川昂汰の熱愛報道について色々と知っていそうな二人を怪訝そうに見る。
たまに姫城や桜羽から件の騒動について聞いていたが、小早川が相手の女性アイドルについてどう思っていたかについては聞いたことは無かった。
これは、もしかしたら──渦中だったAngel*Dollも知らない話なんじゃないかとさえ思えてきたところで、視界の端に映っている華園が不意にフレアパンツのポケットからスマホを取り出したのが見えた。
「さっき、ランが見せてくれた真白と聖仁からのメッセージって20分前くらいに届いた物だよね?」
華園は唐突に、Angel*Dollの2トップから送られた奇妙なメッセージについて常潟に尋ねる。
まさか華園がその話を蒸し返してくるとは常潟も思っていなかったようで、戸惑いながらも首を縦に振った。
「あ、ああ。此処に向かっている時に受信して、榊と柳村に同級生に女が出来たって愚痴ってたからな」
「そういや、それが最初だったな⋯⋯そっから、どこに興奮するかって話になって」
「あの猥談って、その話が元だったんだ⋯⋯」
仁藤が納得したような声を出している。
何故、『同級生に彼女が出来た』という話から、『女性の何処に興奮するか』に変化したのかはさっぱり謎ではあるが、時に男子高校生はしょうもない錬金術を披露することがあるので、今回もその類なのだろう。
「ボク、真白と聖仁がなんでランにご飯屋さんを尋ねたか分かっちゃったかも」
「は?アイツらが飯屋に誘いたいのは、出来たてほやほやの彼女を誘いたいからだろ?そんで俺にわざわざ聞いてきたのは、彼女の存在を自慢したいからなんじゃないのか?」
「ランはそういう所があるから、女の子が大好きなのに彼女が一人も出来ない」
「オイ、レイジ。今、俺を刺す必要があったか?」
「こういう人のことを、クソドーテーって言うって教えてもらった」
「滅多刺しにする必要も無いよな!?」
華園としてはもう少し常潟で遊ぶのも吝かではなかったが、あまり突き回しすぎては先輩としての威厳が地に落ちそうな気がしてきたので、キリの良い所で引き上げることにした。
ただ、故意か無意識下は兎も角、常潟は隣の柳村にショックを受けたとばかり若干もたれ掛かる。
明らかに慰めてもらう気満々の先輩の態度に、当のもたれ掛かられた方はちょっと困り顔だ。
しかし、気配り屋な後輩は三年生からの察してを上手に汲み取って「先輩はお顔立ちが格好いいので、そのうち見る目のある方が現れますよ」と面倒をみることにしたらしい。
威厳など、とうに無くなっていた同級生には勿体なさすぎる厚遇ぶりだ。
(相変わらずの甘ったれぶり⋯⋯。後輩に迷惑を掛けるなっていっつも言っているのに、もう)
刹那、華園は厚底ブーツで思いっきり常潟の革靴を踏んだ。
後輩に甘やかしてもらっている不甲斐ない同級生には、容赦しないとばかりに渾身の力で振り落とした。
瞬間、「イッテ!?」と何やらお馬鹿な同級生が騒ぎ始めたが、もちろん華園はスルーだ。
こんな阿呆同期に、拘泥していてもしょうがない。
そろそろ本格的に浮かび上がった答えを検討しようともう一度、頭の中を整理することにした。
華園は仁藤と他のメンバーのやり取りを聴きながら、常潟が受信したエンジュ2トップのメッセージについてずっと考え込んでいた。
2人して似たような飲食店を探しており、条件を見るに目的は逢い引きくらいしか考えられない文章に共通していたのは、『相手は高校一年生』、『料理のバリエーションが豊富であること=相手の趣味が分かっていない』、『騒々しくない場所=ムード重視、もしくは真剣に話したいことがある』ということくらいだ。
華園は取り出したスマホ画面に指を滑らし、Treeを起動させた。
ずらりと並んでいるチャットルームの一番上には『芹沢真白・虎南聖仁』の名前がある。
そのチャットルームの欄を長押しでタップすると、一部が画面に拡大されて映る。
そこには華園のメッセージが連続で投下されており、『事後報告になってごめん』『誠君にスカウト掛けたけど、断られたよ』『あと、音程パートの課題が2人から意図的に行われたと知って、“性格悪い”って一年生達が言ってた』『だから、そういう人を試す行為は止めた方が良いのに』と続いている。
因みに華園が送信したメッセージ達に対する返信は未だに無い。
しかし、既読の数は『2』になっているので、2人が内容を確認していることは確実だった。
そんな既読事情はさておき、華園がメッセージを送信したのが、今から約2時間も前のことだ。
そして、常潟が2人からメッセージを受信したのは今から20分前。
となると──導き出される答えは一つ。
「真白と聖仁がご飯に誘いたいのは──多分、エンジュの一年生。今日、ボクは彼等のボイスレッスンに赴いてたんだけど、そこで真白と聖仁が一年生の器を測るという名目で与えていた意地悪な課題の真の意味が彼等に露見した。だから、一年生に底意地の悪さがバレた2人が、謝罪と懐柔の場を設けようとランに飲食店を聞いているんだと思う」
その場にいるゼックラ一同は、暫く華園の推理内容が上手く飲み込めないとばかりに怪訝な顔していた。
だが、徐々に内容が脳に浸透してきたようで、途端に全員の表情が阿呆くさいことをきいたいとばかりに歪められる。
特に同級生でもある三年生は、どうしようもない友達を持ったとばかりに天を仰いだり、目頭を揉み込んだりと沈痛そうな面持ちだ。
「お粗末にも程があり過ぎる⋯⋯が、正直彼女が出来たっていう俺の推理より、余っ程真実味があるな」
「ハァ。虎南は兎も角、芹沢までもか。どうしようもない」
「シーちゃんはアイドルのことになると、ちょっと倫理観可笑しくなっちゃうからなぁ。そっかぁ、大好きな後輩にそっぽ向かれて焦っちゃったんだね⋯⋯エンジュのプリンスコンビをここまで振り回せるって凄いなぁ。あの子達をウチの子にしたら、絶対天下取れるくない?だって弁慶の泣き所でしょ?」
事に巻き込まれている常潟だけでなく、成り行きを聞いているだけの久遠や仁藤まで苦言を漏らし出した。
しかし、仁藤はよからぬ浅知恵が芽生えてきたらしく、フムと優等生面を遺憾なく発揮して考え込んでいる。
その仁藤のろくでもない思考が纏まりきらない内にと、久遠が首を横に振った。
「やめとけ。弁慶の泣き所というよりは、寧ろ逆鱗だろう。アイツらにラッパでも吹かれたら、俺達もタダでは済まない」
「あー⋯⋯ハルマゲドンになり得るかもしれないってことね。そう考えたら、改めて友達としてシーちゃんとセイちゃんのことを俯瞰するとさ、かなりヤバい子達だよね」
「フン、何を今更言ってるんだ。そもそも俺を除いてアイドル科にマトモな奴なんていないだろ」
「それはそうかも。ランは結構普通。女好きなのに、彼女が一人もいた事がないってだけで」
「そうだねぇ、ランちゃんは普通だよね。というか、今のゼックラは他のチームと比べてステージ以外だと普通の子が多いかな。ウチは別に倫理観が怪しい子もいないし、生まれ持ってのサイコパスもいないし、争い事を常に求めているバトルジャンキーもいないしね」
「彼女のくだりは何度も言わなくたって言いだろ!?」
またもや常潟がギャーギャーと華園と仁藤に食って掛かるが、二人は聞こえていないとばかりに「ウチって平和だよねぇ」「平和が一番」とほのぼのしたやり取りを繰り広げていた。
二人に相手をしてもらえなくなった常潟は、再び茶色掛かった瞳の表面を潤ませて柳村を見る。
明らかにフォローを求めてきている常潟に、先程よりもハードルが高い介護をどうこなしていこうかと柳村は頭を悩ませつつ、最近めっきり姫城に通用しなくなってきたふんわり笑いを炸裂させる。
「彼女なんて作ろうと思えば、いつでも作れますから」
「フン。その発言からするに、ヤナギは女性が途切れたことがないだろ。お前、バレンタインには山とチョコを持って帰ってそうだもんな」
しかし、選んだ言葉が不味かったらしい。
まさか二個も年上の先輩に、膨れっ面のままそっぽを向かれてしまうことになるとは思わず、柳村は弱ったように眉根を八の字にした。
「えっ⋯⋯と、俺、彼女は一人しか居たことはありませんよ。それも一ヶ月経たないくらいに別れましたし」
「は?その顔で無双しなかったのか!?」
「まぁ、告白はされましたよ⋯⋯男女ともに」
今度は柳村が常潟から顔を逸らして、顔横に陰を作る。
流石の常潟も自分を励ますために、柳村が自傷行為にも等しいカードを切ってくれたのだと分かった。
柳村の後輩としての献身っぷりに胸を打たれたらしい常潟は、途端に親しみを込めて柳村の肩を抱き始める。
あまりの先輩の変わり身の早さに、肩を抱き寄せられた柳村はチョロさを喜ぶよりも、段々とその単純債が心配になってきた。
「大丈夫だ、ヤナギ。俺達にだって春は⋯⋯イッッテェェェ!?」
「後輩に手を出さないで、馬鹿ラン。サイが汚れる」
「お前、さっきからなんでそんなに暴力的なんだ!?」
とうとう半泣きになった常潟が柳村の肩に回していた腕を振り解いて、隣で冷たい一瞥を食らわせてくる華園に詰め寄っていく。
だが、華園はフンとばかりに顔を逸らした。
答えてやる気はさらさらないといった様相である。
「ランちゃん、お触りは駄目だよ~。俺だってサーちゃんに触れたい衝動を日夜お、お、抑えて⋯⋯」
「ランベルト。乃逢のオタク衝動をけしかけないでくれ。犀佳、弥沙の隣に来るか?」
「い、いえ。大丈夫です」
「そもそもサーちゃんのお隣ってこと自体が、うらやまけしからんよね。その上、もたれ掛かって肩を抱いてとかメンバーでも度が越えてない?あーでも、乃逢。よくよく考えてみなさいよ。俺様でステージ上ではベースを掻き鳴らしながら不適にふんぞり返っているくせに、実はちょっと頭が弱くて、美ショタ枠の華園霊慈にもよく介護されている常潟ランベルトが、幸薄美人の柳村犀佳によしよしされているんだよ。こんなのアリよりのアリでしょ!?はい、お母さんは許します!!」
「⋯⋯悪い、ヤナギ。俺の距離感が不味かったな」
「大丈夫ですよ。先輩は親愛からだって分かっているので」
「もし、キツいこととかあったら隠さずに言えよ。ノアのアレを少しだけ逸らしてやることも出来るから」
「頼りにしています」
『何がお母さんだ』と常潟と柳村は、副リーダーの支離滅裂なオタク語りに呆れ返る。
この先、見た目だけは害が無さそうなこの男に振り回されていくことになるのだと互いを哀れんだ2人はこの時、漸く心が通じ合えたとばかりに固い握手を結んだ。
共通の敵を前にして、結束が固まるという奴である。
そんなシンパシーを交信し合っている2人を、華園は『結果オーライなのかな?』と眺める。
常潟のパーソナルスペースの狭さは問題になることもあるが、あの単細胞ぶりには裏も表もないので、一度懐に入り込めてしまえば勝ったも同然だ。
柳村がかなり気を許している姫城を引き抜けはしなかったが、常潟がゼックラに馴染む取っ掛かりになってくれるのであれば、今日の目的は達成されたも同然だろう。
仲良く団結し始めた2人が共通の敵の話から他愛ない会話に移ったのを聞いていると、手元にあるスマホがピコンと鳴った。
それはメッセージの受信を知らせる通知音であり、しかもTreeの音だった。
もしかしてと華園が慌てて確認してみると、そこには『芹沢真白:どんな風に怒っていたか詳細を伺えませんか?』とヘタれきったメッセージが画面上に表示されていた。
(『どんな風に怒っていた?』って聞いてくるって事は、一年生の怒りを分析しようとしているのかな。いつもなら『怒らせちゃったね』で打ち止めにしそうなのに⋯⋯。ふーん)
こういうちょこざいなやり口は、どちらかというと保護者である虎南の手口に近い。
あのプリンスコンビは少し前までは常潟に別々で飲食店を聞いていたはずだが、どうやら今は後輩からのマイナス好感度イベントという危機を前にして結託しているらしい。
芹沢真白はカリスマアイドルらしく表情が豊かではあるが、決して他人の機微に聡くはない男だ。
何なら、自分の感情にも鈍感力を発揮するタイプなので、周囲が適度に確認してやらないと爆発してしまう不器用さを発揮してくるくらいだ。
さて、このメッセージにどうやって返信しようかなと華園が悩んでいると、またもや新たなメッセージを受信した。
次のメッセージは虎南からのようで、『次のテストの時は無償でノートを貸し出すよ』とこれまた絶妙な内容が送られてきた。
ただし、あのプライドの高い男が自ら下手に出てきているので、やはりヘタレている。
(アイドル学のノートは欲しい。けど、ちょっとお灸を据えておかないと一年生と二年生が可哀想なことになるかもしれないし⋯⋯あと、真白と聖仁が此処まで殊勝になることはないだろうから、ちょっと遊びたい気持ちもある)
いつも『正しい側』にいるあの2人が後ろ暗いことを抱えて、所在なさそうにしているなんてこの先二度とお目にかかれないかもしれない希少なイベントだ。
折角なら、もう少し旨みを味わったところで罰は当たらないだろう。
(本当に凄い。あの二人をここまで翻弄するのだから、今年の一年生はコンマスの才能もあるかもしれない)
華園は脳裏に、芹沢真白と虎南聖仁を思い描く。
彼等の根本には情深さがあるが、元々の性質と育てられた環境によって常人では扱えない特殊な楽器だ。
芹沢は籠の中で、大事に大事に育てられたホルンだ。
だから、外の音を一つも知らないからこそ、独自の音色を自在に奏でられる。
ホルンはチューバの低音からトランペットの高音まで広く音域をカバー出来る楽器なこともあって、オーケストラで使用される楽器の中では一番扱いにくいと度々言われることもある。
正にAngel*Dollのリーダーとして、君臨するに相応しい楽器と言えよう。
対して虎南は色々な人達の手に渡って、思いを汲んできたオーボエだ。
しかし、彼は己でリードを作成出来る筈なのに、ずっと上手くカスタマイズしてくれる奏者を健気に待っている。
奏者がいないと、どうしたらいいのかが分からなくて迷子になってしまうような寂しがり屋だ。
そのくせ、運指が複雑で、吹き込む息もかなり強くしないと負けてしまうために、初見だとマトモに音も鳴らせないこともあるという初見殺しのような楽器だ。
その上、木製の楽器なので暑さや湿度に滅法弱いという弱点も持っている。
ちょっとの温度変化で楽器自体が伸縮してしまうために、直ぐに音程が変わってしまうような繊細さがあるのだ。
だが、そんな二つの楽器達が後輩達から影響されて、少しずつ変わろうとしている。
新しい楽器たちとセッションするために、これまで変えてこなかった強靭な『我』を曲げようとしているのだ。
(あの復活ライブは、新生Angel*Dollとして生まれ変わったライブでもあったんだ。今年のエンジュは本当に手強そう⋯⋯。だからこそ、玉座も奪いがいがあるかな)
「そういや、テッペーと猿飛ってまだ来ないのか?そろそろドリンクのオーダーくらいは入れたいんだが」
「猿飛には黒末が迷子にならないように案内を頼んでいますが、確かに集合時刻を過ぎてますね」
「⋯⋯あ。紺助の奴、『ビルがいっぱいありすぎて、どれが正解か分からない』ってSOS飛ばしてきてたわ」
華園が今年のAngel*Dollの躍進を楽しみにしている一方で他のメンバー達は、全く来る気配のない最後の2人が迷子になっていることに漸く気付いたところだった。
それから、迷子組を榊が迎えに行ってから数分後、やっとZ:Climax新人歓迎会が幕を開けた。
※註釈
『猥談』⋯⋯一応、入店したときはお子様達も気圧されて声を沈めてはいた。ただ、柳村の性癖がどうにも建前感があって榊は気に入らない。よって、個室(テリトリー)に入った瞬間にドッカーンした。実際、建前なのでその嗅覚は正しい。エンジュ一年ズに聞かれたら、『パトラの前足』とか宣う。
『中華食べに行かない?』⋯⋯初めて虎南・久遠・仁藤の3人で外食に行ったイベントのこと。虎南の目当てはピータンと蚕で、久しぶりの悪食ぶりを見て久遠は絶句した。基本的にアイドルライブ委員会の話や進路の話ばかりだったが、デザートの段になって持ちかけられた『看病のお返しは何が良いと思う?』にどっひゃーした。何を購入したかは、多分本編に出てくる。
『三大天使』⋯⋯芹沢・虎南・小早川の3人ユニットのこと。彼等が一年生の時に結成され、瞬く間に白蘭高校内で人気のユニットになった。その年の冬に開催された有名なアイドルイベントで披露したことにより、幾つかの芸能事務所に声を掛けられることになった。
『ラッパ』⋯⋯終末を告げる7人の天使が吹くラッパのこと。これが吹かれると、人間の歴史が幕を閉じることになる。
『ハルマゲドン』⋯⋯世界の終末における最終的な決戦の地のこと。世界の終末的な善と悪の戦争や世界の破滅そのものを指すらしい。映画の方は英語なので綴りが違う。
『コンマス』⋯⋯コンサートマスターの略。オーケストラなどの大きな演奏団体では指揮者が置かれるが、実際の細かな音の出だしや切る位置、微妙なニュアンスは、指揮では示しきれないことも多い。その場合、他の団員は指揮を見るのと同時にコンサートマスターを見て演奏し、コンサートマスターは必要に応じて指示を出す。指揮者が何らかの事情で不在の時は、指揮者をすることもある。
※名前だけ先行で出ていた初登場キャラクター復習
『常潟ランベルト』⋯⋯初名前登場回は『Angel*Dollは蘇る』より。バイオリニストとしてPeace Makerのライブに参加していた。『Z:Climaxの2トップが電撃訪問してきた』では、美人局(つつもたせ)からウォーターサーバーを購入していた。このウォーターサーバーは愛澤の手によって、クーリングオフされている。
『榊賢司』⋯⋯初名前登場回は『芹沢先輩から頼まれた』より。仁藤が柳村を大賞賛したオーディションに居合わせた。ゼックラに加入できたものの、オーディション時に見せつけられた格の違いやら何やらで雁字搦めになっており、プライドの高さから柳村によく突っかかる。だが、最近は柳村が一向に心を開く気配がないことにイライラしている節も見受けられる。
「うん。事後報告だけど、一応真白と聖仁にも連絡した」
ただし、華園が彼等に送ったメッセージには、姫城に唆された通りに『一年生が性格悪いって言ってたよ』等の煽り文句も付いている。
それのせいなのか、あちこちに飛び回っていて返信の速度に波がある芹沢は兎も角として、大体即レスしてくる虎南からも珍しく返信が無い。
まあ、あの面倒な男も一年生のデビューライブ前だから忙しいのかなと、華園は全く気にしていないのだが。
「あ、これは俺だけじゃなくて、『ゼックラ三年』平等にエンジュ一年生への接近禁止命令が布告されるわ。シーちゃんとセイちゃんが、これで心置き無く言えるって顔してそう⋯⋯」
顔の右部分を覆っている前髪を揺らして、仁藤がフッと黄昏れるような笑みを浮かべる。
意味深な仁藤の様子に、華園の斜めになっていた首がますます傾いていく。
「どういうこと?なんでノアは接近禁止命令を出されているの?」
「俺はドルオタとして失格なことに推しを前に盛大にはしゃぎ倒し、尚且つ激キショリアコ宣言もどきや発言までしてエンジュ全員の精神を疲労困憊させたので、夏休みが明けるまで『エンジュの一・二年生への接近禁止命令』が出ているんだ」
オタク特有のノンブレスでとんでもない罪を明かした仁藤に、事情を知る久遠以外の二人が「うわぁ⋯⋯」とあからさまにドン引きした表情になった。
愛澤に至っては副リーダーとはいえ、これは擁護する価値もなしとその辺の塵芥を見るような侮蔑の一瞥を向けている。
その目は『男のアイドルチームに会いに行って、激キショリアコ宣言って何?』と突っついちゃいけないことをビシビシと問いただしているようだった。
「⋯⋯ボク、次狼君から一年生のボーカル指導を引き受けた時に衣装の修繕をしてもらうことを交換条件にしたんだけど、それ取り下げとくね。これをノア個人の問題で収めさせるには、ちょっとキツイかな」
「まあ、もうご卒業されるので仁藤さん個人の問題として処理し、ゼックラは一切合切関わっておりませんの姿勢を貫くのもありですが⋯⋯その後に間を置かず、新入生に引き抜き行為を行っているので、エンジュに妨害工作を受けていると判断されても可笑しくは無いですね」
タイミングが大事とよく言われるが、まさかこんな間の悪さが潜んでいるとは思わなかったと言いたげな華園と愛澤である。
いつもギリギリクライマックスなゼックラであるが、たまーにこういう身内から出た錆に足元を掬われることがある。
「ってか、アンタ、またとんでもねぇことをしてくれたな。いつも騒動を起こしたら、真っ先に俺に相談しろって言ってんだろうが」
「うう⋯⋯ごめんよぉ、ミーちゃん。最近、プロモでバタバタしてたし、シーちゃんとセイちゃんから接近禁止命令の禊を貰ってたから良いかなって思ってぇ」
「その『接近禁止命令』っていうのが、そもそも罠。芹沢さんと虎南さんのことだから、分かりやすい罰を与えて乃逢さんにこの件は終わったものだと思い込ませようとしているだけです。実際は、いつかウチに弱みとして使えるようにと、手札の一枚として数えられていると見た方が妥当です」
急に舞い込んできた残飯処理に、愛澤の口もつい悪くなってしまう。
明らかにイライラとした雰囲気を纏い始めた後輩に、仁藤は「ごめんなさーい!」と両手を合わせて、ペコペコ頭を下げた。
そして、しれっと己も保護者として同伴しておきながら、暴れる仁藤を御せなかった久遠も申し訳なさそうな顔をして後輩にお伺いを立てる。
「芹沢と虎南なら⋯⋯有り得なくは無いか。慰謝料として何を包めばいい?」
「エンジュなら、技術提供が一番無難でしょうね。前みたいにピアニストやギタリストを一回のライブに派遣するとか。乃逢さんに責任を取らせるって言うなら、ドラマーとしてエンジュの仕事に付き添ってもらって、タダ働きしてきたら良いんじゃないすか」
「仁藤。誠意を込めて、一魂一魂叩かせてもらいます」
ただし、仁藤がゼックラを留守にするということは、チームの緩和材兼鎹でもあるメンバーが常潟のみになる。
そもそも、今代のゼックラの初期メンバーは仁藤と常潟の2人だけだ。
久遠と華園は2人がそれぞれ拾ってきたメンバーであり、愛澤自身も仁藤に引っ掛けられて加入した口だ。
そのため、仁藤が居なくなっても困りはしないが、ちょっと腰が落ち着かない。
その辺の久遠と愛澤の機微を音楽監督として敏感に察知していた華園は、しょうがなさ半分、やってみたさ半分の第2案を提案した。
「じゃあ、ボクが一曲進呈しても良い?もう外枠もそこそこ出来ているものが何個かあって。一年生のための曲にするか、全体曲にするか、それともテノールアンサンブルにするかは、2人に決めてもらおうかな」
否、しょうがなさ1割、やってみたさ9割の第2案だった。
もう既に華園の頭の中にある楽譜には大まかな流れも書き込まれているらしく、大変にウキウキとした調子で三人からの是を待っている。
仁藤としては、己の失態の尻拭いを華園にさせるような形になると少々困り顔だ。
しかし、華園もスピードを重視して報連相を怠ったために、仁藤の失態に追い打ちをかけたようなものだ。
それがどれ程にリカバリー不可能な正視に耐えない失態に対する追い打ちだったとしても、此処は連帯責任ということで処理をした方が色々と都合が良い。
「分かった。作曲中の霊慈のフォローは乃逢がメインで担当。出席日数のこともあるから、絶対に霊慈を教室まで連れて行け」
「⋯⋯お~け~!ごめんねぇ、皆。いつもいつも世話ばっかり掛けちゃって」
「確かにいつも迷惑を掛けられているけど、ボク達が出来ないことは全部ノアにしてもらっているから良い」
「ふぁっ!?あのツンツンベビフェレイちゃんの珍しいデレ!?今日って、もしかしてご褒美デイ!?」
「そういう所を直してって言ってるの」
しかし、喉元過ぎる前にドルオタ全開で騒ぎ始めた仁藤に、華園がジトリと睨み上げる。
だが、仁藤は情けない顔半分、ニヤニヤ半分を晒すという器用なことをしてみせた。
これがおちょくりでもなんでもなく、本気で申し訳ないという気持ちと華園を可愛がりたいという気持ちが鬩ぎ合っている様が、モロに表情として出ているのだと知っているだけに何とも言い難い。
(ノアのコレは⋯⋯もう不治の病らしいから、どうすることも出来ないってランや聖仁も言ってた。だから、付き合っていくと決めた方も柔軟にならなくちゃ)
華園にとって、仁藤はオーケストラの核と言っても過言では無いティンパニーに該当する。
時には周囲に合わせ、時には周囲を引っ張っていく剛柔一体の性質を持つ仁藤は、お騒がせな性格も持っているが、それに目を瞑れてしまうくらいにはゼックラのキーパーソンでもある。
話が一段落した所でノック音がして、再び背後の扉が開いた。
4人の視線が、新しい客人へと吸い寄せられていく。
「クッソ!やっぱりテメェとは話が合わねぇ!普通、尻だとか胸だとかそういうとこに目が行くだろうが!手に腕って、マニアック過ぎんだろ!?」
「弓道していた時に目を惹かれたのがその辺りだったんだ。あんなに小さくて細いのに、しっかり的に当てるって凄いなぁって」
「榊。これに関してはお前がまだまだニワカということだ。セックスアピールに特化した部分ばかりが目につくというのがまさにその証拠。俺くらいになると、足の甲だけでも美を感じられる」
「いや、ラン先輩のそれはマジで上級者過ぎっしょ」
刹那、姦しくなった部屋内に先にいた面子の目から光が消えていく。
全員が全員、『どうしてこの面子で来たんだ』と胸中で零していることだろう。
そもそも、明らかにアダルティーな雰囲気がムンムンと漂っており、物音を立てるのも気を使うような店内を見てもなお、男子高校生の会話全開でやって来れる肝の太さにもビビる。
若干、眉根がピクピクしているように見えた店員に案内されてやってきた3人の内、最初に個室内に踏み入った『足の甲だけで美を感じられる』男は、顔全体を覆う女優帽を邪魔くさいとばかりにとっとと脱いだ。
女優帽の下から現れたのはイタリア系の彫りの深い顔立ちで、男は切れ上がった目を伏してハーフアップにされた亜麻色の髪の形を感覚で整えていく。
その姿は海外の雑誌でポージングを撮るモデルのように端正的なのだが、そう思い込むためには先ず彼の残念な口を塞ぐところから始めなければならない。
そして、榊と呼ばれた『尻だとか胸だとかに目が行く』男は、キャップからはみ出ている赤い毛先からして気の強さが表れていた。
気持ちを落ち着けようと手元のスマホ画面に視線を落とすが、あまり興味が惹かれる物は見つからなかったらしく、八つ当たりするようにダメージジーンズのポケットに突っ込んでいた。
行き場の無い怒りは因縁の相手である、一番最後に個室内へと入ってきた『手や腕が気になる』と宣った柳村へと向けられる。
榊に睨めつけられている柳村は、いつもの事だとふんわりとした笑顔を静かに浮かべて躱していた。
彼も本日は私服のようで、鍵編みのカーディガンをシャツの上から羽織り、スキニーパンツといったユニセックスな格好だ。
今のゼックラで一番の問題児である榊が、因縁をつけている柳村と一緒に来ただけでも頭を抱えたくなるというのに、それにキング・オブ・マイペースの常潟ランベルトも加わっているのだから始末に負えない。
注意書きに『混ぜるな危険』とデカデカと書いてある劇物トリオが結成されると、『下ネタはちょっと苦手で⋯⋯』と困ったように笑っていそうなあの柳村でさえも、猥談に混ざってしまうのかとしょうもない真実を知ってしまった。
折角、雰囲気のある場所に来たのにも関わらず、大盛り上がりらしい三人に全員が溜息を吐きたくなる。
「ってか、おつかれーす。なんか皆さん、お疲れ気味っすね?」
「ううん、そんなことないよ~!ちょっと肩透かし食らっただけだから」
「そうっすか?」
一番の問題児ではあるが、柳村が関わらないと常識な面も見せる榊は、先に寛いでいた4人にぺこりと頭を下げる。
それに仁藤がアハハハ~と誤魔化すように片手を振って対応したことを切っ掛けに、残りの三名も口々に今日の主役達に挨拶の言葉を投げかけた。
それに一通りの挨拶を終えた榊は、真っ先に扉側の左端の席へと向かっていった。
本来ならば、新入生達には真ん中の席に是非とも座って欲しい所なのだが、榊と柳村を無理やりにセットにした所でロクなことにならないと、今日までの一ヶ月で身をもって知っていた上級生達は各々の好きにさせることにする。
元より、ゼックラの上級生は愛澤とは別にもう一人いる二年生以外は全員文化部上がりなこともあって、あまり年功序列には厳しくない。
寧ろ、個人主義の活動で名を残してきた連中ばかりなので、実力があればそれで良かろうのスタンスなのだ。
この辺りは、実はバリバリの脳筋節があるAngel*Dollや、ガッチガチのスポーツマンで構成されているエッジ雑技団とは全く相容れない経営体勢をしている。
柳村の方も榊のあからさまな言動には慣れているので、顔色ひとつも変えずにいつものふんわり笑顔を携え続けている。
さて、榊の場所は決まったとして、自分は何処に腰を落ち着けようか。
色々と忖度しながら辺りを見渡している柳村を、見兼ねた華園は右端の席へ行くよう促した。
オロオロとしている調律途中の楽器には、どうしても世話を焼きたくなってしまう華園である。
わざわざ席を立って奥へと行くように勧められた柳村は、恐縮したように何度も頭を下げてそちらへと移って行く。
次に華園は榊の隣かつ久遠と仁藤の前に座ろうとしている常潟を柳村の隣に据えて、己も常潟の隣へと落ち着いた。
マイペースな常潟の子守りはそれなりに手が掛るため、榊のような2つも年下の後輩には荷が重いことだろう。
それに、幼少期から面倒を見ている華園ではないと、上手く彼を扱えないという裏事情もあった。
そんな思惑の果てに場所を固定されてしまった常潟ではあるが、別段と不満には思っていないらしく、ソファに座るなり優雅に足を組んでいる。
「そういや、さっきマシロとセージから店を紹介してくれって連絡があった。アイツら、女でも出来たのか?」
「「「「⋯⋯は?」」」」
しかし、隣に置いても時たま、こうやって無責任な爆弾を放り込んでくることがある。
あまりにも突飛すぎる常潟の言葉に、愛澤、華園、久遠、仁藤が素っ頓狂な声を上げた。
困惑を通り越して、『コイツは何を言っているんだ?』と言いたげな4対の視線を向けられた常潟は、ハーフらしい彫りの深い顔をムッとさせる。
「証拠ならあるぞ。ほら」
そう言って、常潟はスマホを操作して、画面を向けてくる。
常潟のスマホ画面には、Treeのチャットルームが映し出されていた。
『虎南聖仁』
虎南聖仁:まだ高校に入ったばかりの子でも萎縮せずに済み、尚且つ料理のバリエーションも豊富で、あまり騒々しくない個室の店って知ってる?
Lambert:ファミレスの個室が最適なんじゃないか?
虎南聖仁:そういうジョークはいらない
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・
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4人は、『本当だ!』と言わんばかりに顔を見合わせた。
挨拶も前口上もなく、急に本題を投げかけてくる大変に虎南らしいメッセージではあるが、その内容が著しく変だ。
「ってか、ファミレスに個室がある所なんてあるの?」
「あるぞ。家族水入らずでノンビリしたい層も居るからな」
虎南の変さ加減が気にはなりつつも、仁藤は常潟の返信の方が気になったらしい。
鷹揚に頷く常潟に「はえ~」とオタクの相槌を打ってから、久遠と華園へガバリと顔を向けた。
「レイちゃん、今度のご飯会はファミレスにしよっか。たっくんもファミレス大好きだしね」
「「うん」」
実は、ゼックラ三年生の半分がお子様舌だ。
久遠は卵料理が大好きなため、お子様プレートに乗っている料理は全部大好物だし、華園に至っては海鮮丼やおじやが好きなお米大好きマンである。
そんな訳で三年生だけのご飯会となると、気取った所に行っても隠し味のブランデーやら、トリュフやらが嫌いなお子様が多いため、嫌いな味を延々と掘り返す二人を見るだけの回になることもよくある。
なので、ファミレスの個室が確保出来るのなら、今年一年はもうそこで外食すればいいじゃんということだった。
ゼックラ三年生のご飯会の場所が決まった所で、再びスマホを操作していた常潟が向けてくる。
『芹沢真白』
芹沢真白:急にごめんね。ちょっとご飯屋さんを探してて、ランベルトなら知ってるかなと思って連絡したんだ
芹沢真白:普通の高校一年生の子も入りやすくて、ご飯の種類がそれなりにあって、でもあんまり人も多くなくて、ゆっくり出来るお店とか知らないかな?
芹沢真白:予算は考えなくても良いよ!
Lambert:http//⋯⋯
Lambert:http//⋯⋯
Lambert:http//⋯⋯
Lambert:最初の所は和食とイタリアン。2階に個室があって、個室間が離れているから話し声もあんまり聞こえてこない
Lambert:2個目は洋食全般を取り扱っている。元俳優が個人でやっている店で、貸切も可能
Lambert:3個目はイタリアンだけど、何故か寿司も取り扱っている。個室もあるし、個室じゃなくても席それぞれに仕切りがある
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「ランちゃんって本当にシーちゃんに激甘だよね。俺達だったら絶対にセイちゃん対応だもん」
「いや、タクヤとレイジにもちゃんと教えるが?」
「⋯⋯ん?あれ!?もしかして、ランちゃんが辛辣なのって俺だけ!?」
「まあ、そんな訳でアイツら揃いも揃って、16歳の女子高生をゲットしやがっている訳なのだが⋯⋯。良いよなぁ、二つ下の彼女。響きだけでも甘い」
「ちょ!?ランちゃん!?」
何やら仁藤がギャースカと喚いているが、常潟はフル無視である。
しかし、この光景はゼックラだといつものことなので、誰も取りなそうとはしない。
それよりも、他に引っかかったことがあるらしい榊が、手持ち無沙汰そうにスマホを弄りながら疑問を口にした。
「っつーか、エンジュってこの前、熱愛報道出したばっかりっすよね?しかもめちゃくちゃ燃えまくってて、先輩達も難しい顔をしてたじゃないっすか。そんな炎上したばっかのアイドルチームが、ホイホイ女とか作るもんなんすか?」
至極真っ当な榊の疑問に、愛澤が考えるように視線を宙に泳がせて答える。
「まあ、アイドルとはいえ、人間だからな。昂汰さんの一件で、弱ってた所を狙われても可笑しくはない」
「んー?でも、シーちゃんとセイちゃんに女子の影とか感じたことはないけどなぁ。特にセイちゃんに関しては『エンジュしか勝たん♡』的な芹沢真白教のエンジュ箱推し、最近一年生寄りって感じで、凄く人生が充実してそう」
基本的に同級生達の虎南聖仁への認識は、仁藤と似たり寄ったりだ。
つまり、Angel*Dollを存続させるためなら手段は問わず、尚且つ芹沢真白の事となると度々常軌を逸することもある、顔が良いだけの変人という共通認識が三年生間にはある。
だが、一年生にも目を向け出したという点においては聞き捨てならないと、常潟が切れ長の目を丸くした。
「⋯⋯は?アイツ、後輩を可愛がるとか普通のことが出来たのか?」
「ランちゃんもそう思うよねぇ。同期大好き、寧ろ同期以外論外のセイちゃんが後輩を可愛がるって、頭を5回くらいぶつけたのかなって邪推しちゃうレベルだよね」
「いや、そこまでは言ってない」
仁藤が抱いている虎南への印象もかなり偏っているように聞こえるだろうが、実際去年までの虎南は芹沢と小早川以外には心を閉じきっていたと判断せざるを得ないくらいには、周囲との関係性が希薄だった。
芹沢と小早川がいれば、それで良いと言外にも漏れ出ていたあの虎南が、後輩を可愛がるようになったというのはかなりの変事なのだ。
「実は昨日さ。強制休暇を与えられているセイちゃんから、『中華食べに行かない?』って連絡があってね。先ずもって、あのセイちゃんからご飯を誘われたことも吃驚しまくったんだけど、長くなるから割愛するとして⋯⋯。
同じく暇してたたっくんと三人で中華街に行ったら、そこでセイちゃんに一年生のことで相談されてさ。なんでも『風邪を引いた時に看病してもらったから、お返しを送りたいんだけど何が良いかな?』って。コレ、どっひゃーじゃない?」
「脳の中にウイルスが侵入して、これまで機能してなかった常識的な思考回路が起動するようになった?」
「まだ完治してないんじゃないか?」
「エンジュのその先輩、どんだけヤバい奴なんすか!?」
華園と常潟コンビによる容赦ない言に対して、すかさず榊がツッコミを入れる。
自分達の先輩も大概だが、その先輩達からここまで言われる虎南聖仁ってどんなんだよと、榊の目元がピクピクとひくついていた。
そんな置いていかれている一年生達を愛澤は可哀想に思う──というよりかは、他チームの上級生のヤバさ具合を早々に教えておいて、自チームの引抜き対策をしようと思ったらしい。
愛澤は妙に畏まった表情を取り繕って、怪談話をするように淡々と話して聞かせた。
「あの人は俺をもっと偏屈にして、思い込みを激しくさせて、あと執着している物だけで生きるように設定された感じの人だ」
「はぁ!?バンドマンでも、もうちょっと情緒は安定してんぞ!その人、本当にアイドルやってんすか?」
「アイドルだよ~!それも王子様系のド王道アイドル!顔が良い、声がいい、立ち振る舞いだけじゃなくて、パフォーマンスも完璧なパーフェクトキラキラリアコ枠。
なのに、実はあんまり人に興味が無くて、人間味が無い時もあるんだけど、こと同期の芹沢真白と小早川昂汰に関することだけは別なの。友情にしてはドッロドロした激重感情が随所に感じられる関係性オタクキラーでもあるんだよねぇ。
白蘭界隈にいて『三大天使』を通ったことがないオタクは、モグリだとも言われているくらいだよ」
「どんだけ聞いても、ヤベー奴が更にヤベー奴になっていくんすけど!?」
愛澤と仁藤の説明を受けてもなお、ますます謎になっていく虎南聖仁の生態と、彼を推しているファンの心理が複雑すぎて、とうとう榊は目の中に渦を描き始めた。
「⋯⋯ん?もしやセージの奴、看病してもらったって言うってことは後輩を家に入れたってことか!?」
「そうなんだよ!あの絶対に家に呼ばないマンのセイちゃんが入れたらしいの!彼処に入ったことあるのってこの三年間だけでも、シーちゃんとコウちゃんだけでしょ。セイちゃんの性格上、家にあげたらもう攻略済みも同然だよね!!」
「え?やっぱり、強引にでも引き抜いた方が良かったかな。セイのアレって入学したばかりの子にはキツくない?」
「それはね、レイちゃん。とんでもない悪手なんだよ。だって、レイちゃんが引き抜こうとしたのってマコぽんでしょう?」
刹那、先輩方の話を聞いているように見せかけて、その実、実家の猫や明日の予定について考えていた柳村の顔が上がる。
隣の柳村が興味を持ったように顔を上げたのを尻目にしつつ、華園は頷いた。
「一年生の中でもマコぽんは、もっとダメダメ。俺もあんな美少女がウチに入ってきてくれたら、どんな衣装を着てもらおうって考えては涎が止まんなくなるんだけど⋯⋯あ、サーちゃん。そんな軽蔑した眼差しで見ないで」
だが、折角話題に興味が出てきた柳村を早々に襲ったのは、後ろの席の友達について明らかに良からぬことを企んでいそうな副リーダーのデレ顔だった。
流石の温厚な柳村とて、友達相手にセクハラをかましそうになっている上級生を見る目にも険が篭もる。
というか、『強引に引き抜いた方がよかった?』とか、一体全体先輩方は友人相手に何を仕出かしたのだろうかとさえ思えてくる。
「誠は『少女』じゃなくて、『男』です。本人に言うとかなりショックを受けると思うので、誠の前では言わないようにしてあげてください」
「う⋯⋯!?ゴメンね、サーちゃん。もう口走らないように気を付けます」
直ぐに両手を合わせて頭を下げた仁藤に、柳村も緩く首を振って苦笑を浮かべる。
当人では無いので、気をつけてもらえればそれで良い。
柳村は鏡見の一件から、姫城が自分の容姿に対して何かしらの恐れを抱いていることを察していた。
あの日までは少々度が過ぎた美少年弄りがあってもケロッとしていた姫城が、どうして急に嫌がるようになったのかは分からない。
だが、柳村自身も己の中性的な容姿にコンプレックスを抱いている身だ。
特に女性と同一視されることには、かなりの忌避感を持ってしまう。
姫城が事故に遭う前とは違って、こちらの方に感情がシフトしたのであれば、共感しやすいという意味では今よりもずっと友達付き合いしやすいだろう。
しかし、あの容姿で似たようなコンプレックスを抱いてしまうのは──かなり茨の道だ。
「それで⋯⋯どうして誠を引き抜いてはいけないんですか?」
姫城の決して平らでは無い先行きを憂うよりも、今はやるべき事がある。
柳村は顎を僅かに引いて、上目遣いで仁藤を見詰めた。
明らかに狙ってやっているだろう柳村の真意を知りつつも、仁藤は有難くファンサを享受して、鼻頭を抑えながらその理由を話し始める。
「マコぽんは、シーちゃんのお気に入りでもあるっぽいんだよねぇ。だから、絶対博愛主義者なアイドルの鏡でもあるシーちゃんがマコぽんの話をする時は、本当にちょっとヤバい雰囲気が出てて。
他の後輩の話をしている時は『可愛くて大事に育てたい後輩達』って感じなのに、マコぽんのことは『男らしいのに可愛くて、頼りになる誠君』として認識している。シーちゃんって『個』として認識する前に、『自分から見たその人の立場』で勘定する癖があるんだよ。だから、ちゃんとマコぽんのことを固有名詞で見ている所が、全くシーちゃんらしくないっていうか。ってゆーか、まだ入ったばかりの子になんであそこまで入れ上げてるのかが謎すぎて逆に怖い。
セイちゃんがマコぽんのことを気に入っているから良いけど、そうじゃなかったら大変なことになってたんじゃないかなぁ」
「⋯⋯はぁ」
仁藤の長い芹沢真白解説を纏めると、『人類を平等に愛している生粋のアイドルが、明らかに一人だけに入れ上げてて吃驚するねぇ』ってことなのだろう。
芹沢真白の友人兼オタクとして語って聞かせてくれた仁藤の説明に、柳村は顔を覆って深々と溜息をつく。
その上、吐き出さないと気が済まないとばかりに「やっぱり誠ってば、あっちこっちで人をたらしこんでいるんじゃないか」とボソボソと文句も呈していた。
「まぁ、そのセイちゃんに関してもシーちゃんとコウちゃんの時とは違って、今回は二年生も入っているから六等分になっているみたい。ただ、コウちゃんのことがすっっっごいトラウマになっているから、仕事の厳選はめちゃくちゃしてるらしいね。『ラジオ局の仕事は下には振らない』って言い捨ててたよ」
「あ~。そういやコウタがあの人と付き合ったのが、ラジオでの共演だったか」
「そう。俺達はコウちゃんの恋愛、応援してたけどね」
「⋯⋯アレは恋愛というよりも、救命活動だったがな」
仁藤と常潟はそこまで言い切ると、それ以上の言葉は浮かばないとばかりに黙り込む。
傍で聞いていた柳村は、どうも小早川昂汰の熱愛報道について色々と知っていそうな二人を怪訝そうに見る。
たまに姫城や桜羽から件の騒動について聞いていたが、小早川が相手の女性アイドルについてどう思っていたかについては聞いたことは無かった。
これは、もしかしたら──渦中だったAngel*Dollも知らない話なんじゃないかとさえ思えてきたところで、視界の端に映っている華園が不意にフレアパンツのポケットからスマホを取り出したのが見えた。
「さっき、ランが見せてくれた真白と聖仁からのメッセージって20分前くらいに届いた物だよね?」
華園は唐突に、Angel*Dollの2トップから送られた奇妙なメッセージについて常潟に尋ねる。
まさか華園がその話を蒸し返してくるとは常潟も思っていなかったようで、戸惑いながらも首を縦に振った。
「あ、ああ。此処に向かっている時に受信して、榊と柳村に同級生に女が出来たって愚痴ってたからな」
「そういや、それが最初だったな⋯⋯そっから、どこに興奮するかって話になって」
「あの猥談って、その話が元だったんだ⋯⋯」
仁藤が納得したような声を出している。
何故、『同級生に彼女が出来た』という話から、『女性の何処に興奮するか』に変化したのかはさっぱり謎ではあるが、時に男子高校生はしょうもない錬金術を披露することがあるので、今回もその類なのだろう。
「ボク、真白と聖仁がなんでランにご飯屋さんを尋ねたか分かっちゃったかも」
「は?アイツらが飯屋に誘いたいのは、出来たてほやほやの彼女を誘いたいからだろ?そんで俺にわざわざ聞いてきたのは、彼女の存在を自慢したいからなんじゃないのか?」
「ランはそういう所があるから、女の子が大好きなのに彼女が一人も出来ない」
「オイ、レイジ。今、俺を刺す必要があったか?」
「こういう人のことを、クソドーテーって言うって教えてもらった」
「滅多刺しにする必要も無いよな!?」
華園としてはもう少し常潟で遊ぶのも吝かではなかったが、あまり突き回しすぎては先輩としての威厳が地に落ちそうな気がしてきたので、キリの良い所で引き上げることにした。
ただ、故意か無意識下は兎も角、常潟は隣の柳村にショックを受けたとばかり若干もたれ掛かる。
明らかに慰めてもらう気満々の先輩の態度に、当のもたれ掛かられた方はちょっと困り顔だ。
しかし、気配り屋な後輩は三年生からの察してを上手に汲み取って「先輩はお顔立ちが格好いいので、そのうち見る目のある方が現れますよ」と面倒をみることにしたらしい。
威厳など、とうに無くなっていた同級生には勿体なさすぎる厚遇ぶりだ。
(相変わらずの甘ったれぶり⋯⋯。後輩に迷惑を掛けるなっていっつも言っているのに、もう)
刹那、華園は厚底ブーツで思いっきり常潟の革靴を踏んだ。
後輩に甘やかしてもらっている不甲斐ない同級生には、容赦しないとばかりに渾身の力で振り落とした。
瞬間、「イッテ!?」と何やらお馬鹿な同級生が騒ぎ始めたが、もちろん華園はスルーだ。
こんな阿呆同期に、拘泥していてもしょうがない。
そろそろ本格的に浮かび上がった答えを検討しようともう一度、頭の中を整理することにした。
華園は仁藤と他のメンバーのやり取りを聴きながら、常潟が受信したエンジュ2トップのメッセージについてずっと考え込んでいた。
2人して似たような飲食店を探しており、条件を見るに目的は逢い引きくらいしか考えられない文章に共通していたのは、『相手は高校一年生』、『料理のバリエーションが豊富であること=相手の趣味が分かっていない』、『騒々しくない場所=ムード重視、もしくは真剣に話したいことがある』ということくらいだ。
華園は取り出したスマホ画面に指を滑らし、Treeを起動させた。
ずらりと並んでいるチャットルームの一番上には『芹沢真白・虎南聖仁』の名前がある。
そのチャットルームの欄を長押しでタップすると、一部が画面に拡大されて映る。
そこには華園のメッセージが連続で投下されており、『事後報告になってごめん』『誠君にスカウト掛けたけど、断られたよ』『あと、音程パートの課題が2人から意図的に行われたと知って、“性格悪い”って一年生達が言ってた』『だから、そういう人を試す行為は止めた方が良いのに』と続いている。
因みに華園が送信したメッセージ達に対する返信は未だに無い。
しかし、既読の数は『2』になっているので、2人が内容を確認していることは確実だった。
そんな既読事情はさておき、華園がメッセージを送信したのが、今から約2時間も前のことだ。
そして、常潟が2人からメッセージを受信したのは今から20分前。
となると──導き出される答えは一つ。
「真白と聖仁がご飯に誘いたいのは──多分、エンジュの一年生。今日、ボクは彼等のボイスレッスンに赴いてたんだけど、そこで真白と聖仁が一年生の器を測るという名目で与えていた意地悪な課題の真の意味が彼等に露見した。だから、一年生に底意地の悪さがバレた2人が、謝罪と懐柔の場を設けようとランに飲食店を聞いているんだと思う」
その場にいるゼックラ一同は、暫く華園の推理内容が上手く飲み込めないとばかりに怪訝な顔していた。
だが、徐々に内容が脳に浸透してきたようで、途端に全員の表情が阿呆くさいことをきいたいとばかりに歪められる。
特に同級生でもある三年生は、どうしようもない友達を持ったとばかりに天を仰いだり、目頭を揉み込んだりと沈痛そうな面持ちだ。
「お粗末にも程があり過ぎる⋯⋯が、正直彼女が出来たっていう俺の推理より、余っ程真実味があるな」
「ハァ。虎南は兎も角、芹沢までもか。どうしようもない」
「シーちゃんはアイドルのことになると、ちょっと倫理観可笑しくなっちゃうからなぁ。そっかぁ、大好きな後輩にそっぽ向かれて焦っちゃったんだね⋯⋯エンジュのプリンスコンビをここまで振り回せるって凄いなぁ。あの子達をウチの子にしたら、絶対天下取れるくない?だって弁慶の泣き所でしょ?」
事に巻き込まれている常潟だけでなく、成り行きを聞いているだけの久遠や仁藤まで苦言を漏らし出した。
しかし、仁藤はよからぬ浅知恵が芽生えてきたらしく、フムと優等生面を遺憾なく発揮して考え込んでいる。
その仁藤のろくでもない思考が纏まりきらない内にと、久遠が首を横に振った。
「やめとけ。弁慶の泣き所というよりは、寧ろ逆鱗だろう。アイツらにラッパでも吹かれたら、俺達もタダでは済まない」
「あー⋯⋯ハルマゲドンになり得るかもしれないってことね。そう考えたら、改めて友達としてシーちゃんとセイちゃんのことを俯瞰するとさ、かなりヤバい子達だよね」
「フン、何を今更言ってるんだ。そもそも俺を除いてアイドル科にマトモな奴なんていないだろ」
「それはそうかも。ランは結構普通。女好きなのに、彼女が一人もいた事がないってだけで」
「そうだねぇ、ランちゃんは普通だよね。というか、今のゼックラは他のチームと比べてステージ以外だと普通の子が多いかな。ウチは別に倫理観が怪しい子もいないし、生まれ持ってのサイコパスもいないし、争い事を常に求めているバトルジャンキーもいないしね」
「彼女のくだりは何度も言わなくたって言いだろ!?」
またもや常潟がギャーギャーと華園と仁藤に食って掛かるが、二人は聞こえていないとばかりに「ウチって平和だよねぇ」「平和が一番」とほのぼのしたやり取りを繰り広げていた。
二人に相手をしてもらえなくなった常潟は、再び茶色掛かった瞳の表面を潤ませて柳村を見る。
明らかにフォローを求めてきている常潟に、先程よりもハードルが高い介護をどうこなしていこうかと柳村は頭を悩ませつつ、最近めっきり姫城に通用しなくなってきたふんわり笑いを炸裂させる。
「彼女なんて作ろうと思えば、いつでも作れますから」
「フン。その発言からするに、ヤナギは女性が途切れたことがないだろ。お前、バレンタインには山とチョコを持って帰ってそうだもんな」
しかし、選んだ言葉が不味かったらしい。
まさか二個も年上の先輩に、膨れっ面のままそっぽを向かれてしまうことになるとは思わず、柳村は弱ったように眉根を八の字にした。
「えっ⋯⋯と、俺、彼女は一人しか居たことはありませんよ。それも一ヶ月経たないくらいに別れましたし」
「は?その顔で無双しなかったのか!?」
「まぁ、告白はされましたよ⋯⋯男女ともに」
今度は柳村が常潟から顔を逸らして、顔横に陰を作る。
流石の常潟も自分を励ますために、柳村が自傷行為にも等しいカードを切ってくれたのだと分かった。
柳村の後輩としての献身っぷりに胸を打たれたらしい常潟は、途端に親しみを込めて柳村の肩を抱き始める。
あまりの先輩の変わり身の早さに、肩を抱き寄せられた柳村はチョロさを喜ぶよりも、段々とその単純債が心配になってきた。
「大丈夫だ、ヤナギ。俺達にだって春は⋯⋯イッッテェェェ!?」
「後輩に手を出さないで、馬鹿ラン。サイが汚れる」
「お前、さっきからなんでそんなに暴力的なんだ!?」
とうとう半泣きになった常潟が柳村の肩に回していた腕を振り解いて、隣で冷たい一瞥を食らわせてくる華園に詰め寄っていく。
だが、華園はフンとばかりに顔を逸らした。
答えてやる気はさらさらないといった様相である。
「ランちゃん、お触りは駄目だよ~。俺だってサーちゃんに触れたい衝動を日夜お、お、抑えて⋯⋯」
「ランベルト。乃逢のオタク衝動をけしかけないでくれ。犀佳、弥沙の隣に来るか?」
「い、いえ。大丈夫です」
「そもそもサーちゃんのお隣ってこと自体が、うらやまけしからんよね。その上、もたれ掛かって肩を抱いてとかメンバーでも度が越えてない?あーでも、乃逢。よくよく考えてみなさいよ。俺様でステージ上ではベースを掻き鳴らしながら不適にふんぞり返っているくせに、実はちょっと頭が弱くて、美ショタ枠の華園霊慈にもよく介護されている常潟ランベルトが、幸薄美人の柳村犀佳によしよしされているんだよ。こんなのアリよりのアリでしょ!?はい、お母さんは許します!!」
「⋯⋯悪い、ヤナギ。俺の距離感が不味かったな」
「大丈夫ですよ。先輩は親愛からだって分かっているので」
「もし、キツいこととかあったら隠さずに言えよ。ノアのアレを少しだけ逸らしてやることも出来るから」
「頼りにしています」
『何がお母さんだ』と常潟と柳村は、副リーダーの支離滅裂なオタク語りに呆れ返る。
この先、見た目だけは害が無さそうなこの男に振り回されていくことになるのだと互いを哀れんだ2人はこの時、漸く心が通じ合えたとばかりに固い握手を結んだ。
共通の敵を前にして、結束が固まるという奴である。
そんなシンパシーを交信し合っている2人を、華園は『結果オーライなのかな?』と眺める。
常潟のパーソナルスペースの狭さは問題になることもあるが、あの単細胞ぶりには裏も表もないので、一度懐に入り込めてしまえば勝ったも同然だ。
柳村がかなり気を許している姫城を引き抜けはしなかったが、常潟がゼックラに馴染む取っ掛かりになってくれるのであれば、今日の目的は達成されたも同然だろう。
仲良く団結し始めた2人が共通の敵の話から他愛ない会話に移ったのを聞いていると、手元にあるスマホがピコンと鳴った。
それはメッセージの受信を知らせる通知音であり、しかもTreeの音だった。
もしかしてと華園が慌てて確認してみると、そこには『芹沢真白:どんな風に怒っていたか詳細を伺えませんか?』とヘタれきったメッセージが画面上に表示されていた。
(『どんな風に怒っていた?』って聞いてくるって事は、一年生の怒りを分析しようとしているのかな。いつもなら『怒らせちゃったね』で打ち止めにしそうなのに⋯⋯。ふーん)
こういうちょこざいなやり口は、どちらかというと保護者である虎南の手口に近い。
あのプリンスコンビは少し前までは常潟に別々で飲食店を聞いていたはずだが、どうやら今は後輩からのマイナス好感度イベントという危機を前にして結託しているらしい。
芹沢真白はカリスマアイドルらしく表情が豊かではあるが、決して他人の機微に聡くはない男だ。
何なら、自分の感情にも鈍感力を発揮するタイプなので、周囲が適度に確認してやらないと爆発してしまう不器用さを発揮してくるくらいだ。
さて、このメッセージにどうやって返信しようかなと華園が悩んでいると、またもや新たなメッセージを受信した。
次のメッセージは虎南からのようで、『次のテストの時は無償でノートを貸し出すよ』とこれまた絶妙な内容が送られてきた。
ただし、あのプライドの高い男が自ら下手に出てきているので、やはりヘタレている。
(アイドル学のノートは欲しい。けど、ちょっとお灸を据えておかないと一年生と二年生が可哀想なことになるかもしれないし⋯⋯あと、真白と聖仁が此処まで殊勝になることはないだろうから、ちょっと遊びたい気持ちもある)
いつも『正しい側』にいるあの2人が後ろ暗いことを抱えて、所在なさそうにしているなんてこの先二度とお目にかかれないかもしれない希少なイベントだ。
折角なら、もう少し旨みを味わったところで罰は当たらないだろう。
(本当に凄い。あの二人をここまで翻弄するのだから、今年の一年生はコンマスの才能もあるかもしれない)
華園は脳裏に、芹沢真白と虎南聖仁を思い描く。
彼等の根本には情深さがあるが、元々の性質と育てられた環境によって常人では扱えない特殊な楽器だ。
芹沢は籠の中で、大事に大事に育てられたホルンだ。
だから、外の音を一つも知らないからこそ、独自の音色を自在に奏でられる。
ホルンはチューバの低音からトランペットの高音まで広く音域をカバー出来る楽器なこともあって、オーケストラで使用される楽器の中では一番扱いにくいと度々言われることもある。
正にAngel*Dollのリーダーとして、君臨するに相応しい楽器と言えよう。
対して虎南は色々な人達の手に渡って、思いを汲んできたオーボエだ。
しかし、彼は己でリードを作成出来る筈なのに、ずっと上手くカスタマイズしてくれる奏者を健気に待っている。
奏者がいないと、どうしたらいいのかが分からなくて迷子になってしまうような寂しがり屋だ。
そのくせ、運指が複雑で、吹き込む息もかなり強くしないと負けてしまうために、初見だとマトモに音も鳴らせないこともあるという初見殺しのような楽器だ。
その上、木製の楽器なので暑さや湿度に滅法弱いという弱点も持っている。
ちょっとの温度変化で楽器自体が伸縮してしまうために、直ぐに音程が変わってしまうような繊細さがあるのだ。
だが、そんな二つの楽器達が後輩達から影響されて、少しずつ変わろうとしている。
新しい楽器たちとセッションするために、これまで変えてこなかった強靭な『我』を曲げようとしているのだ。
(あの復活ライブは、新生Angel*Dollとして生まれ変わったライブでもあったんだ。今年のエンジュは本当に手強そう⋯⋯。だからこそ、玉座も奪いがいがあるかな)
「そういや、テッペーと猿飛ってまだ来ないのか?そろそろドリンクのオーダーくらいは入れたいんだが」
「猿飛には黒末が迷子にならないように案内を頼んでいますが、確かに集合時刻を過ぎてますね」
「⋯⋯あ。紺助の奴、『ビルがいっぱいありすぎて、どれが正解か分からない』ってSOS飛ばしてきてたわ」
華園が今年のAngel*Dollの躍進を楽しみにしている一方で他のメンバー達は、全く来る気配のない最後の2人が迷子になっていることに漸く気付いたところだった。
それから、迷子組を榊が迎えに行ってから数分後、やっとZ:Climax新人歓迎会が幕を開けた。
※註釈
『猥談』⋯⋯一応、入店したときはお子様達も気圧されて声を沈めてはいた。ただ、柳村の性癖がどうにも建前感があって榊は気に入らない。よって、個室(テリトリー)に入った瞬間にドッカーンした。実際、建前なのでその嗅覚は正しい。エンジュ一年ズに聞かれたら、『パトラの前足』とか宣う。
『中華食べに行かない?』⋯⋯初めて虎南・久遠・仁藤の3人で外食に行ったイベントのこと。虎南の目当てはピータンと蚕で、久しぶりの悪食ぶりを見て久遠は絶句した。基本的にアイドルライブ委員会の話や進路の話ばかりだったが、デザートの段になって持ちかけられた『看病のお返しは何が良いと思う?』にどっひゃーした。何を購入したかは、多分本編に出てくる。
『三大天使』⋯⋯芹沢・虎南・小早川の3人ユニットのこと。彼等が一年生の時に結成され、瞬く間に白蘭高校内で人気のユニットになった。その年の冬に開催された有名なアイドルイベントで披露したことにより、幾つかの芸能事務所に声を掛けられることになった。
『ラッパ』⋯⋯終末を告げる7人の天使が吹くラッパのこと。これが吹かれると、人間の歴史が幕を閉じることになる。
『ハルマゲドン』⋯⋯世界の終末における最終的な決戦の地のこと。世界の終末的な善と悪の戦争や世界の破滅そのものを指すらしい。映画の方は英語なので綴りが違う。
『コンマス』⋯⋯コンサートマスターの略。オーケストラなどの大きな演奏団体では指揮者が置かれるが、実際の細かな音の出だしや切る位置、微妙なニュアンスは、指揮では示しきれないことも多い。その場合、他の団員は指揮を見るのと同時にコンサートマスターを見て演奏し、コンサートマスターは必要に応じて指示を出す。指揮者が何らかの事情で不在の時は、指揮者をすることもある。
※名前だけ先行で出ていた初登場キャラクター復習
『常潟ランベルト』⋯⋯初名前登場回は『Angel*Dollは蘇る』より。バイオリニストとしてPeace Makerのライブに参加していた。『Z:Climaxの2トップが電撃訪問してきた』では、美人局(つつもたせ)からウォーターサーバーを購入していた。このウォーターサーバーは愛澤の手によって、クーリングオフされている。
『榊賢司』⋯⋯初名前登場回は『芹沢先輩から頼まれた』より。仁藤が柳村を大賞賛したオーディションに居合わせた。ゼックラに加入できたものの、オーディション時に見せつけられた格の違いやら何やらで雁字搦めになっており、プライドの高さから柳村によく突っかかる。だが、最近は柳村が一向に心を開く気配がないことにイライラしている節も見受けられる。
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絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
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田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
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