失恋模様

霧雨 紫貴

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Yuzuki's story

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記憶障害通称lost(ロスト)
私に告げられた病名。
高校のあの頃から残り数十年で生涯のすべての記憶が消えてその数日後には脳が破裂して死ぬ。

そう告げられたのは、葵君と付き合い始めて数ヶ月経った頃のことだった。
幸せの絶頂の中の私はそんな病気すぐに治るだろうと心の中では治らないとわかっているのに頭の中ではそう思うことにしていた。
しかし、時は残酷で徐々にではあったが記憶は曖昧でぼんやりとした物になっていった。
だから、私は葵君と別れた。

なのに…なのに…











私は葵君のことを忘れる事は出来なかった。
何故、この病気は忘れたい事は忘れられないのだろうか。理不尽なものだ。

高校を卒業し、私は美容系の専門学校に進学した。特に夢などもなかった私はとりあえずどこかに進学した方が良いと両親に勧められたため、学力をあまり要さない尚且つ楽しそうといった何とも軽薄な理由でその専門学校に入学した。
一度、葵君に会いに行こうかとも考えたのだが何だかストーカー染みているし私から振ったのに会いに行くと言うのは決まりが悪い。と、思いやっぱり会いに行くのはやめた。

程なくして、私は専門学校を卒業した。大変な事もあったが、そこそこ楽しかったしそこそこ充実した毎日を送る事ができたので入って後悔はしなかった。

病気の進行が少しずつ始まっていると自覚した高校生の時からは考えられないような進行の遅さに嬉しさを覚えた。
ついには、完治してしまったと錯覚してしまうほどに記憶を鮮明に覚える事もできた。
折角、専門学校に通い勉強し技術を学んだのに何もしないのは勿体無いと思い私は都市部の割と人気のある美容院に就職した。
2年の見習い期間を経て私はついにプロの美容師となった。
だが、お客様に信頼を集め始め躍進していた私についにあの悪夢がやってきたのだ。

中学校はどこに行っていたか、その時の先生やクラスメイトの顔…
ついには、数年間つちかってきた美容師としての知識や技術すらも忘れかけていた。
お客様やお店に迷惑をかけるわけにはいかないので退職した。

そして、最期の私の生活スペースは1人自然豊かな長野の景色が見れる狭い病室となった。
 

仕事をしないのは楽なのだがやはりやりがいがあった仕事ゆえに戻りたい気持ちの方が何十倍も強かった。
また、誰かの髪を切って喜ばせてあげたいな…
なんて、ふと思いながら私はテレビをぼーっと見ていた。





次回へ続く
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