【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

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第1部 第5章 違和感と謎の人

 時間が止まったかのような感覚だった。

 僕はトリスタンさんの言葉を理解することができなかった。もちろん、キリアンもだと思う。

「ジェリーからは魔族の血の香りがする。全部ではない。半分というところか」

 ――嘘を言わないでください。

 と言いたかったのに、言えなかった。

「人間と魔族のハーフが、まさか本当にいるとはな」

 トリスタンさんの言葉が右から左に抜けていく。

 いやだ。理解したくない。理解したら、全部壊れてしまう気がしたんだ。

「……う、そ」

 小さくもれた言葉。トリスタンさんが僕を見る。まるで痛ましいものを見るような目に、心臓がナイフで突き刺されたかのような感覚だった。

「嘘、嘘だよ。僕は普通の人間で――」

 ――本当に?

 頭の中で誰かがささやく。

 僕は体質的に毒が効かない。人よりも高度な魔法が扱えるらしい。

 それは、僕の中に人間ではない存在の血が混じっているからではないのか?

 そして、師匠はもしかしたらこれに気が付いていたんじゃないか――。

(だから、僕には外で本気を出すなって)

 もしも、僕に魔族の血が本当に流れているのだとすると。

 いろいろなことの辻褄があってしまう。合ってほしくないのに。

「心当たりがキミにもあるんだろう?」

 言葉が出ない。認めたら、全部終わってしまうような気がする。

「いいか? キミは人間からしても、魔族からしても。異質な存在だ。私のような強者が守らなくて、生き延びることはできない」

 人間は魔族が大嫌いで、魔族も人間を疎んでいる。

 二つの種族は互いを認めることをせず、深くかかわろうともしなかった。

 そんな中、二つの種族のハーフがいるとわかったら。

(僕は、殺されてしまうんだろう)

 簡単に想像できてしまう。僕は二つの種族にとって――嫌悪するべき存在だ。

「私はなにがなんでもジェリーを守る。だから、どうか私の手を取ってほしい。――また、迎えに来よう」

 言葉を残して、トリスタンさんは場を立ち去った。彼の後ろ姿をぼうっと見つめて、僕はぐっと唇を噛む。

 彼の言葉が嘘の可能性だって否定できない。勇者一行を分断するための方法だとも考えることができる。

 ただ、あまりにも心当たりがありすぎて、僕は嘘だと蹴り飛ばせない。

(キリアンは僕のことを、どう思うんだろう)

 キリアンは僕のことを愛するとか好きとか、言ってくれていた。

 けど、僕が魔族の血を引いているともなると、愛せないと言われるかもしれない。

 言葉を重ねて、キスをして。身体だって重ねた。

 僕は簡単に気持ちを捨てることができない。だけど、誰もが僕と一緒ではない。

 もしかしたらキリアンは、僕とは違って――。

「――キリアン」

 だったら、こっちから関係を終わりにしたいと言うべきだ。

 告げられるよりも、告げたほうが少しは楽だろうから。

「ねぇ、もしも僕が本当に魔族と人間のハーフだったら。――僕のことを、殺す?」

 彼の目をじっと見て、問いかけていた。

 本当は問いかけたくなかった。答えなんていらない。

 問いかけておいて、答えないでって気持ちがむくむくと膨れ上がる。

 目をぎゅっとつむると、頭を軽くたたかれた。

「――殺さない」

 耳に届いたのは温かいいつも通りの声音。

「俺はなにがあってもジェリーを殺したりしない。そして、誰かがジェリーを殺そうとするのなら、俺が全力で守る」

 彼の言葉に僕の目に涙が浮かんだ。視界が歪む。

「世界中がジェリーを狙うなら、俺と一緒に逃避行しよう。見つかったら逃げてを繰り返す」

 キリアンの腕が僕の背中に回って、ぎゅうっと抱きしめる。

「俺はお前なしじゃ生きていけない。今更ジェリーのいない生活なんて、考えられない」

 熱烈な愛の言葉。僕の心臓がどくんと大きく音を立てた。

 キリアンの分厚い胸に顔を押し付ける。この心臓の音は、どっちのものなんだろうか。

「僕も、一緒――」

 僕もキリアンがいないと生きていけない。

 こんなにも僕みたいな存在を愛してくれる人は、後にも先にもキリアンだけだって。

 わかったから。
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