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第3章
覚悟 2
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俺のそんな言葉を聞いても、亜玲は笑っていた。その笑顔になんだか胸がドキドキとして、視線を逸らす。
「だから、俺には祈だけなんだよ」
その言葉を聞いて、無性になんともいえない気持ちになった。
だって、そうじゃないか。歴代の恋人たちも、俺と付き合っているときはそう言っていた。けれど、亜玲に靡いて、すぐに亜玲に心変わりをして……。
(そんな言葉、信じられるわけがない)
そう思って、ぎゅっと手のひらを握る。
ただ亜玲をまっすぐに見つめる。亜玲は、きょとんとしていた。
「……亜玲」
「……うん」
微妙な沈黙。でも、意を決して亜玲の顔を見つめた。……喉が震える。だけど、言わなくちゃならない。
「俺は、そんな言葉信じられない」
俺の言葉を聞いた亜玲は、きょとんとしていた。美形とは、どんな表情をしていても美形なのだ。それを、嫌というほど思い知らされた。
「大体、俺の歴代の恋人もそう言ってきたよ。……でも、全員亜玲に心変わりした」
自分で言っていて、惨めだった。俺には魅力がないと、自分で言っているみたいだったから。
俺に魅力があれば、恋人たちも亜玲に心変わりしなかったのかなって、思うから。
「……祈」
「そんな甘い言葉で騙されるほど、俺はちょろくない」
目を伏せてそう言う。……亜玲は、なにも言わなかった。いや、この場合なにも言えなかったのかもしれない。俺の発した言葉は、亜玲にとって予想外だっただろうから。
「俺は、もう振られるのはこりごりなんだ」
小さな声でそう呟いた。瞬間、亜玲が身を乗り出してきた。俺の至近距離にある、亜玲の顔。
……ぱちぱちと目を瞬かせてしまう。
「俺には祈だけ」
「……だから」
「でも、それって裏を返せば祈にも俺だけっていうこと」
なんだろうか。暴論というか、極論というか。亜玲の頭の中を覗きたいと思う。
……だけど、もしかしたら。
「……憎しみでもいい。祈の頭を支配できるのならって、思ってきた」
「亜玲」
「だけど、やっぱり好かれたいんだ。……俺と、付き合おうよ」
そう言われても、うなずけるわけがない。今までの行いだってそうだし、もう恋愛なんてこりごりだし。
「……無理だ」
端的にそう言葉を返すのに、亜玲は引かない。それどころか、さらに自身の顔を近づけてくる。
唇が触れ合いそうな距離に、亜玲の顔がある。……昔よりも凛々しくなった顔は、俺の好みに近かった。
「無理じゃない。……俺はね、祈に愛されたい」
「だからっ!」
そんなの、無理だって言っているんだ――!
そう言おうとしたのに、亜玲が口づけてくる所為で、なにも言えなかった。驚いて目を見開く。
触れるだけの口づけは、ほんの一瞬。なのに、永遠にも思えてしまった。
「あ、れい」
「絶対に逃がさないから。……覚悟、してくれなきゃ」
亜玲の目が、色欲を帯びている。……あぁ、こいつは、本当に俺が好きなんだ。それを、嫌と言うほどに思い知らされたような感覚だった。
(顔が、熱い……)
視線をそっと逸らす。そうしていれば、亜玲がこちらに移動してきた。そのまま、俺の身体を抱きしめる。
「散々祈を傷つけた俺が言えることじゃないかも、だけど」
「……あぁ」
「俺は、祈を幸せにしたい。……やっぱり、そう思っちゃうんだ」
亜玲の声は、震えていた。それは、それだけ亜玲が本気だということなのだろう。ひしひしと、伝わってくる。
「あのな、亜玲。俺は、面倒なんだ」
「……そっか」
「無意識のうちに愛されたいって願う。束縛だってするかもだし」
「祈にだったら、いくらでも束縛されたい」
「馬鹿か、お前」
自然とそんな言葉が零れた。……正直、付き合うとか付き合わないとか。そういうの、今決められる問題じゃない。
「……悪いけど、少し時間をくれ。……きちんと、考えたい」
俺の言葉に、亜玲は静かに頷いた。
「だから、俺には祈だけなんだよ」
その言葉を聞いて、無性になんともいえない気持ちになった。
だって、そうじゃないか。歴代の恋人たちも、俺と付き合っているときはそう言っていた。けれど、亜玲に靡いて、すぐに亜玲に心変わりをして……。
(そんな言葉、信じられるわけがない)
そう思って、ぎゅっと手のひらを握る。
ただ亜玲をまっすぐに見つめる。亜玲は、きょとんとしていた。
「……亜玲」
「……うん」
微妙な沈黙。でも、意を決して亜玲の顔を見つめた。……喉が震える。だけど、言わなくちゃならない。
「俺は、そんな言葉信じられない」
俺の言葉を聞いた亜玲は、きょとんとしていた。美形とは、どんな表情をしていても美形なのだ。それを、嫌というほど思い知らされた。
「大体、俺の歴代の恋人もそう言ってきたよ。……でも、全員亜玲に心変わりした」
自分で言っていて、惨めだった。俺には魅力がないと、自分で言っているみたいだったから。
俺に魅力があれば、恋人たちも亜玲に心変わりしなかったのかなって、思うから。
「……祈」
「そんな甘い言葉で騙されるほど、俺はちょろくない」
目を伏せてそう言う。……亜玲は、なにも言わなかった。いや、この場合なにも言えなかったのかもしれない。俺の発した言葉は、亜玲にとって予想外だっただろうから。
「俺は、もう振られるのはこりごりなんだ」
小さな声でそう呟いた。瞬間、亜玲が身を乗り出してきた。俺の至近距離にある、亜玲の顔。
……ぱちぱちと目を瞬かせてしまう。
「俺には祈だけ」
「……だから」
「でも、それって裏を返せば祈にも俺だけっていうこと」
なんだろうか。暴論というか、極論というか。亜玲の頭の中を覗きたいと思う。
……だけど、もしかしたら。
「……憎しみでもいい。祈の頭を支配できるのならって、思ってきた」
「亜玲」
「だけど、やっぱり好かれたいんだ。……俺と、付き合おうよ」
そう言われても、うなずけるわけがない。今までの行いだってそうだし、もう恋愛なんてこりごりだし。
「……無理だ」
端的にそう言葉を返すのに、亜玲は引かない。それどころか、さらに自身の顔を近づけてくる。
唇が触れ合いそうな距離に、亜玲の顔がある。……昔よりも凛々しくなった顔は、俺の好みに近かった。
「無理じゃない。……俺はね、祈に愛されたい」
「だからっ!」
そんなの、無理だって言っているんだ――!
そう言おうとしたのに、亜玲が口づけてくる所為で、なにも言えなかった。驚いて目を見開く。
触れるだけの口づけは、ほんの一瞬。なのに、永遠にも思えてしまった。
「あ、れい」
「絶対に逃がさないから。……覚悟、してくれなきゃ」
亜玲の目が、色欲を帯びている。……あぁ、こいつは、本当に俺が好きなんだ。それを、嫌と言うほどに思い知らされたような感覚だった。
(顔が、熱い……)
視線をそっと逸らす。そうしていれば、亜玲がこちらに移動してきた。そのまま、俺の身体を抱きしめる。
「散々祈を傷つけた俺が言えることじゃないかも、だけど」
「……あぁ」
「俺は、祈を幸せにしたい。……やっぱり、そう思っちゃうんだ」
亜玲の声は、震えていた。それは、それだけ亜玲が本気だということなのだろう。ひしひしと、伝わってくる。
「あのな、亜玲。俺は、面倒なんだ」
「……そっか」
「無意識のうちに愛されたいって願う。束縛だってするかもだし」
「祈にだったら、いくらでも束縛されたい」
「馬鹿か、お前」
自然とそんな言葉が零れた。……正直、付き合うとか付き合わないとか。そういうの、今決められる問題じゃない。
「……悪いけど、少し時間をくれ。……きちんと、考えたい」
俺の言葉に、亜玲は静かに頷いた。
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