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第4章
喧嘩を売られた 3
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「そもそも、名乗りもせずに一方的に責め立てるほうが、どうかと思うけれど」
そんなとき、ふと先ほどからずっと黙っていた礼音が声を上げる。……そういや、俺、この青年の名前知らないや。
「……あんたに、関係ないだろ」
「あぁ、関係ないね。……でも、俺、こいつらの昔馴染みだから」
礼音が人の好きそうな笑みを浮かべて、そう言葉を発する。言葉は何処か素っ気ないけれど、言葉の節々には思いやりが感じられる。
「それに、友人が一方的に責め立てられるのを大人しく見るのも、気持ち悪いじゃん?」
「う……」
さすがにその言葉は効いたらしい。青年が視線を下げる。しばらくして視線を戻して、口を開いた。
「……俺、城川 翔也」
まるで囁くような小さな声で、青年――城川は名乗った。
ぐっと唇をかみしめて、まるで俺になんて名乗りたくなかったとでも言いたげな態度だ。……まぁ、恋敵に名前を教える義理なんて、ないもんな。
「あんたは?」
城川がこちらに視線を向けてそう俺の名前を求める。……俺の名前なんて知っても、仕方がないだろうに。
「時本 祈」
けれど、名乗るのが礼儀だろう。あっちだって名乗ったわけだし。
そう思いつつ端的に名乗れば、城川は「ふぅん」と興味なさそうな相槌を打った。……気にならないなら聞くなよ。なんて、口が裂けても言うつもりはない。
「じゃあ、時本。上月先輩から離れろ」
「……亜玲のことは先輩で、俺のことは呼び捨てかよ」
「お前だって、上月先輩のこと名前で呼んでる」
なんていうか、絶妙に会話がかみ合っていないような気もする。けど、まぁ、いいや。
「俺と亜玲は幼馴染だからだよ」
「……なに? 自分はずっと昔から上月先輩の隣にいるっていう、マウント?」
なんだろうか。この城川という男は、人の言葉をひねくれたように受け取るタイプらしい。
……話していて無性に腹が立つ。
「別にそういうわけじゃない。……そもそも、俺、亜玲のこと嫌いだったし……」
ぽつりとそう零してしまったけれど、どうやら城川には聞こえていなかったらしい。それに、ほっと胸をなでおろす。
「……大体、俺のほうが上月先輩に似合うし」
拗ねたように、城川がそう呟いた。その言葉を聞いたとき、ふと思った。
こいつは、本当に亜玲のことが好きで好きで、慕っているんだって。
(なんていうか、俺、中途半端だな)
対する俺は、どうだろうか。亜玲のことが嫌いじゃなくなったとはいえ、好きでもない。答えを曖昧にして、微妙な距離感を保っている。それはまるで、逃げているみたいだ。
(実際、俺は亜玲から逃げたかった)
いつだって亜玲は俺のことを追いかけてくる。それが嫌で、嫌で、とにかく嫌で。
あんな悪魔みたいな奴と一緒にいたくないって、思ってきた。……悪魔みたいなあいつから、逃げたかった。
「……俺のほうが可愛いし、オメガらしいし」
「……そうだな」
「上月先輩のこと、好きだし」
……その言葉に、返事は出来なかった。胸の中がなんだかもやもやとして、ぎゅっと締め付けられたような気分になる。
俺は、亜玲のことなんて好きじゃないはずで、恋愛感情なんて抱いていないはずなのに。
「俺、上月先輩の番になりたい」
どうしてだろうか。まっすぐに、なんのためらいもなく。こう言える城川が、眩しいと思ってしまった。
番になりたいなんて、俺は言えない。そんな縛り付けられるようなこと、出来ない。
「……俺、この後予定あるから。今日はここまでで勘弁しておいてやる」
城川はそれだけの言葉を残して、俺と礼音の元を立ち去った。
そんな奴の後ろ姿を見つめつつ、礼音が俺の肩をたたいてくる。
「全く、面倒な奴に絡まれたな」
「……そうだな」
同意しか出来ない言葉だったのに。どうしてか、俺の口から出た言葉には覇気がなかった。
そんなとき、ふと先ほどからずっと黙っていた礼音が声を上げる。……そういや、俺、この青年の名前知らないや。
「……あんたに、関係ないだろ」
「あぁ、関係ないね。……でも、俺、こいつらの昔馴染みだから」
礼音が人の好きそうな笑みを浮かべて、そう言葉を発する。言葉は何処か素っ気ないけれど、言葉の節々には思いやりが感じられる。
「それに、友人が一方的に責め立てられるのを大人しく見るのも、気持ち悪いじゃん?」
「う……」
さすがにその言葉は効いたらしい。青年が視線を下げる。しばらくして視線を戻して、口を開いた。
「……俺、城川 翔也」
まるで囁くような小さな声で、青年――城川は名乗った。
ぐっと唇をかみしめて、まるで俺になんて名乗りたくなかったとでも言いたげな態度だ。……まぁ、恋敵に名前を教える義理なんて、ないもんな。
「あんたは?」
城川がこちらに視線を向けてそう俺の名前を求める。……俺の名前なんて知っても、仕方がないだろうに。
「時本 祈」
けれど、名乗るのが礼儀だろう。あっちだって名乗ったわけだし。
そう思いつつ端的に名乗れば、城川は「ふぅん」と興味なさそうな相槌を打った。……気にならないなら聞くなよ。なんて、口が裂けても言うつもりはない。
「じゃあ、時本。上月先輩から離れろ」
「……亜玲のことは先輩で、俺のことは呼び捨てかよ」
「お前だって、上月先輩のこと名前で呼んでる」
なんていうか、絶妙に会話がかみ合っていないような気もする。けど、まぁ、いいや。
「俺と亜玲は幼馴染だからだよ」
「……なに? 自分はずっと昔から上月先輩の隣にいるっていう、マウント?」
なんだろうか。この城川という男は、人の言葉をひねくれたように受け取るタイプらしい。
……話していて無性に腹が立つ。
「別にそういうわけじゃない。……そもそも、俺、亜玲のこと嫌いだったし……」
ぽつりとそう零してしまったけれど、どうやら城川には聞こえていなかったらしい。それに、ほっと胸をなでおろす。
「……大体、俺のほうが上月先輩に似合うし」
拗ねたように、城川がそう呟いた。その言葉を聞いたとき、ふと思った。
こいつは、本当に亜玲のことが好きで好きで、慕っているんだって。
(なんていうか、俺、中途半端だな)
対する俺は、どうだろうか。亜玲のことが嫌いじゃなくなったとはいえ、好きでもない。答えを曖昧にして、微妙な距離感を保っている。それはまるで、逃げているみたいだ。
(実際、俺は亜玲から逃げたかった)
いつだって亜玲は俺のことを追いかけてくる。それが嫌で、嫌で、とにかく嫌で。
あんな悪魔みたいな奴と一緒にいたくないって、思ってきた。……悪魔みたいなあいつから、逃げたかった。
「……俺のほうが可愛いし、オメガらしいし」
「……そうだな」
「上月先輩のこと、好きだし」
……その言葉に、返事は出来なかった。胸の中がなんだかもやもやとして、ぎゅっと締め付けられたような気分になる。
俺は、亜玲のことなんて好きじゃないはずで、恋愛感情なんて抱いていないはずなのに。
「俺、上月先輩の番になりたい」
どうしてだろうか。まっすぐに、なんのためらいもなく。こう言える城川が、眩しいと思ってしまった。
番になりたいなんて、俺は言えない。そんな縛り付けられるようなこと、出来ない。
「……俺、この後予定あるから。今日はここまでで勘弁しておいてやる」
城川はそれだけの言葉を残して、俺と礼音の元を立ち去った。
そんな奴の後ろ姿を見つめつつ、礼音が俺の肩をたたいてくる。
「全く、面倒な奴に絡まれたな」
「……そうだな」
同意しか出来ない言葉だったのに。どうしてか、俺の口から出た言葉には覇気がなかった。
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