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第4章
喧嘩を売られた 2
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「そんでまぁ、俺は亜玲のこと応援してたんだよ」
けらけらと笑いつつ、礼音がそう続けた。……応援って。
「俺が亜玲のこと嫌ってたの、知ってたくせに」
「うん。けど、幼馴染には幸せになってほしいじゃん?」
そこに俺の幸せはあるのだろうか。一瞬そう思ったが、突っ込む気力ももう起きない。ただため息をついていれば、礼音は俺の肩をポンポンとたたいた。
「あいつ嫉妬深そうだけれど、まぁ、頑張って」
「……他人事だと思いやがって」
小さくそう呟いて、ハッとする。……そもそも、俺、亜玲と付き合うなんて言ってない。
「言っとくけど、俺、亜玲と付き合ってないからな!」
慌ててそう付け足せば、礼音の奴はまた笑う。……こいつ、完全に面白がっている。それに気が付いて、なんだか無性に腹が立った。
「時間の問題だと思うけれど?」
……こいつ、何でもかんでも見透かしたような態度をするのが気に食わない。
そんなことを考えつつ額を押さえていれば、ほんの少し先から「あー!」という声が聞こえてきた。
この声、聞き覚えがある。……今すぐにでも退散したい。
「礼音、俺、ちょっと用事を思い出したから――」
といって、立ち去ろうとしたもののそいつのほうが行動は早かった。すたすたと大股で俺のほうに近づいて来て、俺の顔を見上げる。頭一つ分低い位置にある、端正な愛らしい顔。この間亜玲に言い寄っていた白昼堂々ストーカー宣言野郎だ。
「あんた、上月先輩の恋人……だよね?」
そう問いかけられて、眉を下げた。だって、恋人じゃないし。そう訂正しようとしたけれど、こいつの視線が刺々しすぎて反論する余地なんてなさそうだった。
「言っておくけれど、お前、上月先輩に似合わないから」
はっきりとそう言われる。ここまで言われると、いっそ清々しい。回りくどいことは嫌いだ。正々堂々ぶつかってくることだけは、評価できると思う。
「……なんか言えよ」
奴が俺を睨みつけて、そう言ってくる。礼音に助けを求めようと視線を送れば、礼音の奴は両手を上に挙げていた。……一人でなんとかしろということらしい。全く、薄情な奴だ。
「……いや、なにから訂正しようかと思って」
「……は?」
俺の言葉を聞いた奴が、ぽかんと口を開ける。その姿も愛らしい。オメガの中のオメガかもしれない。俺とは、違う。
「えっとだな。一つ目、俺は亜玲の恋人なんかじゃない」
まず一番大切なことを告げた。……奴が、見る見るうちに目を見開く。その目には、「信じられない」とでも言いたげな感情が宿っていた。
「こ、上月先輩みたいな人に想いを寄せられながら、恋人じゃないってどういうことだよ……!」
まるで胸倉をつかむような勢いで、掴みかかってくる青年。……いや、どういうことだよって言われても。こっちが聞きたい。
「まさか、遊びだっていうのか? そんなクズに、上月先輩は遊ばれてる……?」
「違うけど」
なんていうか会話が通じない人物だと思えてしまった。……さて、どう切り抜けようか。
必死に思考回路を動かすものの、いい考えは浮かんでこない。額を押さえていれば、奴は顔を赤くしていた。怒り心頭といったような表情である。
「お、お前の所為で、俺は上月先輩に相手にされないんだけど!?」
「……責任転嫁もいいところだよ」
そんな、亜玲に相手にされないことを俺に言われても困る。胸の前で手を振ってそう言うけれど、こいつには通用していないようだった。多分、頭の中に亜玲が相手をしてくれないのは俺の所為とインプットされているのだろう。……面倒なことこの上ない。
「信じられない! こんな男、上月先輩に似合わない!」
……お前は一体亜玲のなんなんだ。
そう問いかけたい気持ちをぐっと殺して、黙ってみる。……気まずくなったのか、青年は俺から視線を逸らした。
けらけらと笑いつつ、礼音がそう続けた。……応援って。
「俺が亜玲のこと嫌ってたの、知ってたくせに」
「うん。けど、幼馴染には幸せになってほしいじゃん?」
そこに俺の幸せはあるのだろうか。一瞬そう思ったが、突っ込む気力ももう起きない。ただため息をついていれば、礼音は俺の肩をポンポンとたたいた。
「あいつ嫉妬深そうだけれど、まぁ、頑張って」
「……他人事だと思いやがって」
小さくそう呟いて、ハッとする。……そもそも、俺、亜玲と付き合うなんて言ってない。
「言っとくけど、俺、亜玲と付き合ってないからな!」
慌ててそう付け足せば、礼音の奴はまた笑う。……こいつ、完全に面白がっている。それに気が付いて、なんだか無性に腹が立った。
「時間の問題だと思うけれど?」
……こいつ、何でもかんでも見透かしたような態度をするのが気に食わない。
そんなことを考えつつ額を押さえていれば、ほんの少し先から「あー!」という声が聞こえてきた。
この声、聞き覚えがある。……今すぐにでも退散したい。
「礼音、俺、ちょっと用事を思い出したから――」
といって、立ち去ろうとしたもののそいつのほうが行動は早かった。すたすたと大股で俺のほうに近づいて来て、俺の顔を見上げる。頭一つ分低い位置にある、端正な愛らしい顔。この間亜玲に言い寄っていた白昼堂々ストーカー宣言野郎だ。
「あんた、上月先輩の恋人……だよね?」
そう問いかけられて、眉を下げた。だって、恋人じゃないし。そう訂正しようとしたけれど、こいつの視線が刺々しすぎて反論する余地なんてなさそうだった。
「言っておくけれど、お前、上月先輩に似合わないから」
はっきりとそう言われる。ここまで言われると、いっそ清々しい。回りくどいことは嫌いだ。正々堂々ぶつかってくることだけは、評価できると思う。
「……なんか言えよ」
奴が俺を睨みつけて、そう言ってくる。礼音に助けを求めようと視線を送れば、礼音の奴は両手を上に挙げていた。……一人でなんとかしろということらしい。全く、薄情な奴だ。
「……いや、なにから訂正しようかと思って」
「……は?」
俺の言葉を聞いた奴が、ぽかんと口を開ける。その姿も愛らしい。オメガの中のオメガかもしれない。俺とは、違う。
「えっとだな。一つ目、俺は亜玲の恋人なんかじゃない」
まず一番大切なことを告げた。……奴が、見る見るうちに目を見開く。その目には、「信じられない」とでも言いたげな感情が宿っていた。
「こ、上月先輩みたいな人に想いを寄せられながら、恋人じゃないってどういうことだよ……!」
まるで胸倉をつかむような勢いで、掴みかかってくる青年。……いや、どういうことだよって言われても。こっちが聞きたい。
「まさか、遊びだっていうのか? そんなクズに、上月先輩は遊ばれてる……?」
「違うけど」
なんていうか会話が通じない人物だと思えてしまった。……さて、どう切り抜けようか。
必死に思考回路を動かすものの、いい考えは浮かんでこない。額を押さえていれば、奴は顔を赤くしていた。怒り心頭といったような表情である。
「お、お前の所為で、俺は上月先輩に相手にされないんだけど!?」
「……責任転嫁もいいところだよ」
そんな、亜玲に相手にされないことを俺に言われても困る。胸の前で手を振ってそう言うけれど、こいつには通用していないようだった。多分、頭の中に亜玲が相手をしてくれないのは俺の所為とインプットされているのだろう。……面倒なことこの上ない。
「信じられない! こんな男、上月先輩に似合わない!」
……お前は一体亜玲のなんなんだ。
そう問いかけたい気持ちをぐっと殺して、黙ってみる。……気まずくなったのか、青年は俺から視線を逸らした。
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