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第2章
第2話
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こうやって丁重に扱われること自体はありがたい。けど、同時に一線引かれているように感じてしまうのだ。
嫁いだ以上、アンジーはハジェンズの人間である。いつまでもお客さま気分でいることはできない。たとえ、イライアスがどういう考えであろうとも。アンジーには王女として育った矜持がある。
「やっぱり、なにかできることはないか聞いてみましょう。ゆっくりしているだけなんて、できないわ」
自分を奮い立たせて、アンジーは頬を軽くたたく。そして、脚を伸ばした。
少しの間入浴を楽しみ、アンジーは浴室を出る。髪の毛を乾かして、簡易のドレスを着つけてもらう。鏡台の前に移動するころには、オパールのほかに数人の侍女が待機していた。彼女たちはアンジーの姿を見て、深々と頭を下げる。
「彼女たちは日替わりでつく侍女でございます。専属の者以外にも日替わりで数名についてもらいます」
「……そんなにたくさん」
グリーナウェイにいたころは、侍女なんて最低限だった。専属侍女の数だけでもかなりのものだったのに、日替わりの者までいるなんて……。
「アンジーさまはこのハジェンズの王妃になられたのですから、当然ですわ」
「そう、ね」
まだ実感はわかないが、彼女の言葉はもっともだ。ゆっくりでも、この国の文化に慣れなくては。
アンジーは背筋を正して、彼女たちの顔を順番に見ていく。
「アンジーです。妃としてはまだまだ未熟だけど、少しでも早く慣れるように頑張るから。見守ってくれると嬉しいわ」
できるだけ堂々と言葉を紡ぐと、彼女たちは返事の代わりに頭を下げた。
(ここでは王族と使用人の距離はあまり近くないのよね。なんとか、慣れなくちゃ)
彼女たち個人の名前を知りたいとは思うが、自分が聞いていいものかと悩む。それに、今自己紹介をされても覚えきれる自信がない。
(あとでオパールに名簿がないか聞いてみましょう)
現状アンジーと彼女たちの間には、分厚い壁がある。この壁を少しでも薄くしたい。
自分のためにも、彼女たちのためにも。
「なにか気になることがございましたら、なんでもおっしゃってくださいね」
侍女たちに身支度を整えてもらっていると、笑みを浮かべたオパールに声をかけられた。
気になること自体はたくさんある。だが、すべてを聞く時間はないはずだ。となると、優先順位を付けなくてはならない。
「この後のことなのだけど」
「はい」
「やっぱり、午後からでも妃としてのお仕事をしたほうがいいと思うの」
小さな声で告げると、オパールが困ったような表情になる。
アンジーは決して彼女を困らせたかったわけではない。だから、その表情に胸が痛んだ。
「も、もちろん、やめたほうがいいのなら、いいの。……ただ、なにか私も力になりたくて」
母国の力になってもらうのだ。自分だって、この国の役に立ちたい。
(彼は私に世継ぎを産むこと以外求めていない。でも、だからって怠惰には過ごしたくない)
両親からよく言い聞かせられていた。王族とは民あっての存在。民のためなら、命を投げ出す覚悟を持たなくてはならないと。
(このままだと、私は民の血税で生活をすることになってしまう。それではお父さまやお母さまに顔向けできないわ)
アンジーの真剣な表情を見てか、オパールはうなずいた。
「かしこまりました。一応聞いてみましょう。許可が下りるかは別ですが……」
「いえ、いいのよ。陛下が却下したのなら、私はそれに従うだけだもの」
さすがに夫であるイライアスの意見を蹴り飛ばす勇気はない。
彼に伝えてくれるだけで、ありがたいものだ。
「少しでも、役に立てるといいのだけど……」
アンジーの決意がこもったつぶやきは、侍女たちに届いていたのか。アンジーにはわからなかった。
嫁いだ以上、アンジーはハジェンズの人間である。いつまでもお客さま気分でいることはできない。たとえ、イライアスがどういう考えであろうとも。アンジーには王女として育った矜持がある。
「やっぱり、なにかできることはないか聞いてみましょう。ゆっくりしているだけなんて、できないわ」
自分を奮い立たせて、アンジーは頬を軽くたたく。そして、脚を伸ばした。
少しの間入浴を楽しみ、アンジーは浴室を出る。髪の毛を乾かして、簡易のドレスを着つけてもらう。鏡台の前に移動するころには、オパールのほかに数人の侍女が待機していた。彼女たちはアンジーの姿を見て、深々と頭を下げる。
「彼女たちは日替わりでつく侍女でございます。専属の者以外にも日替わりで数名についてもらいます」
「……そんなにたくさん」
グリーナウェイにいたころは、侍女なんて最低限だった。専属侍女の数だけでもかなりのものだったのに、日替わりの者までいるなんて……。
「アンジーさまはこのハジェンズの王妃になられたのですから、当然ですわ」
「そう、ね」
まだ実感はわかないが、彼女の言葉はもっともだ。ゆっくりでも、この国の文化に慣れなくては。
アンジーは背筋を正して、彼女たちの顔を順番に見ていく。
「アンジーです。妃としてはまだまだ未熟だけど、少しでも早く慣れるように頑張るから。見守ってくれると嬉しいわ」
できるだけ堂々と言葉を紡ぐと、彼女たちは返事の代わりに頭を下げた。
(ここでは王族と使用人の距離はあまり近くないのよね。なんとか、慣れなくちゃ)
彼女たち個人の名前を知りたいとは思うが、自分が聞いていいものかと悩む。それに、今自己紹介をされても覚えきれる自信がない。
(あとでオパールに名簿がないか聞いてみましょう)
現状アンジーと彼女たちの間には、分厚い壁がある。この壁を少しでも薄くしたい。
自分のためにも、彼女たちのためにも。
「なにか気になることがございましたら、なんでもおっしゃってくださいね」
侍女たちに身支度を整えてもらっていると、笑みを浮かべたオパールに声をかけられた。
気になること自体はたくさんある。だが、すべてを聞く時間はないはずだ。となると、優先順位を付けなくてはならない。
「この後のことなのだけど」
「はい」
「やっぱり、午後からでも妃としてのお仕事をしたほうがいいと思うの」
小さな声で告げると、オパールが困ったような表情になる。
アンジーは決して彼女を困らせたかったわけではない。だから、その表情に胸が痛んだ。
「も、もちろん、やめたほうがいいのなら、いいの。……ただ、なにか私も力になりたくて」
母国の力になってもらうのだ。自分だって、この国の役に立ちたい。
(彼は私に世継ぎを産むこと以外求めていない。でも、だからって怠惰には過ごしたくない)
両親からよく言い聞かせられていた。王族とは民あっての存在。民のためなら、命を投げ出す覚悟を持たなくてはならないと。
(このままだと、私は民の血税で生活をすることになってしまう。それではお父さまやお母さまに顔向けできないわ)
アンジーの真剣な表情を見てか、オパールはうなずいた。
「かしこまりました。一応聞いてみましょう。許可が下りるかは別ですが……」
「いえ、いいのよ。陛下が却下したのなら、私はそれに従うだけだもの」
さすがに夫であるイライアスの意見を蹴り飛ばす勇気はない。
彼に伝えてくれるだけで、ありがたいものだ。
「少しでも、役に立てるといいのだけど……」
アンジーの決意がこもったつぶやきは、侍女たちに届いていたのか。アンジーにはわからなかった。
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