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第2章
第3話
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身支度を整えて、朝食兼昼食を摂る。
馴染みの薄かったハジェンズの料理の味にも慣れた。いくつかの料理ははじめこそクセを感じたものの、慣れるととても美味しい。
特に白身魚のムニエルが絶品だった。
「ムニエルってこんなに美味しかったのね。私、今まであまり食べなかったから……」
一口大に切り分けつつ、言葉をこぼす。
「そうなのですか?」
「えぇ、グリーナウェイの王都は海から遠いでしょう? だから、あまりお魚が入ってこないの」
入ってきたとしても、腐らないように処理をしたものばかり。ゆえに魚料理の数自体も限られ、かつ味も微妙になってしまう。
「視察で海の近辺に滞在したときには何度か口にしたのだけど、そのときは大体疲れていて」
そのせいか、あまり料理の味を覚えていなかった。
「さようでございますか。お気に召したのなら、料理人に伝えておきますね」
「お願いするわ」
せっかくハジェンズに嫁いだのだから、美味しい料理をたくさん口にしたいと思っている。だが、そのためにはやはり妃としての役目を全うしなくては……。
「きっと料理人も喜びますわ。陛下はあまりお食事に興味がないらしくて……」
「こんなに美味しいのに?」
「あまりこだわりがない方というのもあるのでしょうが、栄養補充ができればいい――という感じでして」
アンジーからすると、ありえないことだ。
食事は人の楽しみで、生きる意味にもなる。それに、毎日こんなに美味しい料理を口にしているのに、気に留めないなんて……。
「……はじめて、陛下に腹がったかもしれないわ」
世継ぎを産む以外求めないと言われたときは腹が立たなかった。悲しくはあったものの、頭のどこかで割り切っていた。
けど、こんなに美味しいものを当然のように口にして、それに感謝しないなんて……。
「アンジーさま?」
オパールが怪訝そうに名前を呼ぶ。アンジーはごまかすために笑みを浮かべた。
「いえ、なんでもないの」
腹が立ったところで、自分が怒りをぶつけることはできない。だって、恩があるから。
もしもここで離縁――なんてことになったら、困るのはアンジーと祖国だ。
「料理人にはとっても美味しい料理だったって、伝えておいて」
「かしこまりました」
イライアスが料理人をねぎらわないのなら、自分が精いっぱい感謝を伝えよう。
少しでも料理人が自分の仕事に誇りを持てるように。
「また、現在ほかの侍女に先ほどのアンジーさまのご意見を陛下に伝えてもらっています。もうじき返事が届くかと――」
そこまで言ったとき、部屋の扉がノックされた。
「少々よろしいでしょうか?」
聞こえてきたのは男性の声だ。そして、聞き覚えのある人のものだった。
「イーノスかしら?」
隣のオパールに問いかけると、彼女はうなずいた。どうやら正解らしい。
「用件を聞いてまいります。アンジーさまはお食事を続けてくださいませ」
彼女は颯爽と歩いて、扉へと向かった。扉越しにしばらく会話をしたあと、部屋から出ていく。
「……陛下のお返事を持ってきてくれたのよね」
イーノスはイライアスの側近だ。彼が返事を持ってくるのはなにもおかしなことではない。
二人の会話が気になって、手が完全に止まってしまった。
「アンジーさま。よろしかったら、お話を聞きに行かれますか?」
ちらちらと扉のほうをうかがうアンジーを見かねてか、一人の侍女が提案してくる。
それがいいことなのかはわからないが、このままでは食事に集中できない。せっかくなのだから、厚意に甘えよう。
「えぇ、彼から直接お話も聞きたいし……」
立ち上がり、扉に向かって歩く。先ほど提案してくれた侍女が、さっとアンジーの隣についた。
「妃殿下の私室には、侍女とメイド、護衛の女騎士以外の立ち入りが許されておりません」
「だから、彼は入ってこなかったのね」
「はい。ほかですと緊急の際の医者くらいでしょうか」
まぁ、妃の私室ともなるとそれも当然のことなのだろう。
馴染みの薄かったハジェンズの料理の味にも慣れた。いくつかの料理ははじめこそクセを感じたものの、慣れるととても美味しい。
特に白身魚のムニエルが絶品だった。
「ムニエルってこんなに美味しかったのね。私、今まであまり食べなかったから……」
一口大に切り分けつつ、言葉をこぼす。
「そうなのですか?」
「えぇ、グリーナウェイの王都は海から遠いでしょう? だから、あまりお魚が入ってこないの」
入ってきたとしても、腐らないように処理をしたものばかり。ゆえに魚料理の数自体も限られ、かつ味も微妙になってしまう。
「視察で海の近辺に滞在したときには何度か口にしたのだけど、そのときは大体疲れていて」
そのせいか、あまり料理の味を覚えていなかった。
「さようでございますか。お気に召したのなら、料理人に伝えておきますね」
「お願いするわ」
せっかくハジェンズに嫁いだのだから、美味しい料理をたくさん口にしたいと思っている。だが、そのためにはやはり妃としての役目を全うしなくては……。
「きっと料理人も喜びますわ。陛下はあまりお食事に興味がないらしくて……」
「こんなに美味しいのに?」
「あまりこだわりがない方というのもあるのでしょうが、栄養補充ができればいい――という感じでして」
アンジーからすると、ありえないことだ。
食事は人の楽しみで、生きる意味にもなる。それに、毎日こんなに美味しい料理を口にしているのに、気に留めないなんて……。
「……はじめて、陛下に腹がったかもしれないわ」
世継ぎを産む以外求めないと言われたときは腹が立たなかった。悲しくはあったものの、頭のどこかで割り切っていた。
けど、こんなに美味しいものを当然のように口にして、それに感謝しないなんて……。
「アンジーさま?」
オパールが怪訝そうに名前を呼ぶ。アンジーはごまかすために笑みを浮かべた。
「いえ、なんでもないの」
腹が立ったところで、自分が怒りをぶつけることはできない。だって、恩があるから。
もしもここで離縁――なんてことになったら、困るのはアンジーと祖国だ。
「料理人にはとっても美味しい料理だったって、伝えておいて」
「かしこまりました」
イライアスが料理人をねぎらわないのなら、自分が精いっぱい感謝を伝えよう。
少しでも料理人が自分の仕事に誇りを持てるように。
「また、現在ほかの侍女に先ほどのアンジーさまのご意見を陛下に伝えてもらっています。もうじき返事が届くかと――」
そこまで言ったとき、部屋の扉がノックされた。
「少々よろしいでしょうか?」
聞こえてきたのは男性の声だ。そして、聞き覚えのある人のものだった。
「イーノスかしら?」
隣のオパールに問いかけると、彼女はうなずいた。どうやら正解らしい。
「用件を聞いてまいります。アンジーさまはお食事を続けてくださいませ」
彼女は颯爽と歩いて、扉へと向かった。扉越しにしばらく会話をしたあと、部屋から出ていく。
「……陛下のお返事を持ってきてくれたのよね」
イーノスはイライアスの側近だ。彼が返事を持ってくるのはなにもおかしなことではない。
二人の会話が気になって、手が完全に止まってしまった。
「アンジーさま。よろしかったら、お話を聞きに行かれますか?」
ちらちらと扉のほうをうかがうアンジーを見かねてか、一人の侍女が提案してくる。
それがいいことなのかはわからないが、このままでは食事に集中できない。せっかくなのだから、厚意に甘えよう。
「えぇ、彼から直接お話も聞きたいし……」
立ち上がり、扉に向かって歩く。先ほど提案してくれた侍女が、さっとアンジーの隣についた。
「妃殿下の私室には、侍女とメイド、護衛の女騎士以外の立ち入りが許されておりません」
「だから、彼は入ってこなかったのね」
「はい。ほかですと緊急の際の医者くらいでしょうか」
まぁ、妃の私室ともなるとそれも当然のことなのだろう。
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