【R18】政略結婚した夫が、妃の私に求めるのは世継ぎを産むことだけ……のはずだった。あれ? なんだか夫の様子がおかしいのですが?

すめらぎかなめ

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第2章

第3話

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 身支度を整えて、朝食兼昼食を摂る。

 馴染みの薄かったハジェンズの料理の味にも慣れた。いくつかの料理ははじめこそクセを感じたものの、慣れるととても美味しい。

 特に白身魚のムニエルが絶品だった。

「ムニエルってこんなに美味しかったのね。私、今まであまり食べなかったから……」

 一口大に切り分けつつ、言葉をこぼす。

「そうなのですか?」
「えぇ、グリーナウェイの王都は海から遠いでしょう? だから、あまりお魚が入ってこないの」

 入ってきたとしても、腐らないように処理をしたものばかり。ゆえに魚料理の数自体も限られ、かつ味も微妙になってしまう。

「視察で海の近辺に滞在したときには何度か口にしたのだけど、そのときは大体疲れていて」

 そのせいか、あまり料理の味を覚えていなかった。

「さようでございますか。お気に召したのなら、料理人に伝えておきますね」
「お願いするわ」

 せっかくハジェンズに嫁いだのだから、美味しい料理をたくさん口にしたいと思っている。だが、そのためにはやはり妃としての役目を全うしなくては……。

「きっと料理人も喜びますわ。陛下はあまりお食事に興味がないらしくて……」
「こんなに美味しいのに?」
「あまりこだわりがない方というのもあるのでしょうが、栄養補充ができればいい――という感じでして」

 アンジーからすると、ありえないことだ。

 食事は人の楽しみで、生きる意味にもなる。それに、毎日こんなに美味しい料理を口にしているのに、気に留めないなんて……。

「……はじめて、陛下に腹がったかもしれないわ」

 世継ぎを産む以外求めないと言われたときは腹が立たなかった。悲しくはあったものの、頭のどこかで割り切っていた。

 けど、こんなに美味しいものを当然のように口にして、それに感謝しないなんて……。

「アンジーさま?」

 オパールが怪訝そうに名前を呼ぶ。アンジーはごまかすために笑みを浮かべた。

「いえ、なんでもないの」

 腹が立ったところで、自分が怒りをぶつけることはできない。だって、恩があるから。

 もしもここで離縁――なんてことになったら、困るのはアンジーと祖国だ。

「料理人にはとっても美味しい料理だったって、伝えておいて」
「かしこまりました」

 イライアスが料理人をねぎらわないのなら、自分が精いっぱい感謝を伝えよう。

 少しでも料理人が自分の仕事に誇りを持てるように。

「また、現在ほかの侍女に先ほどのアンジーさまのご意見を陛下に伝えてもらっています。もうじき返事が届くかと――」

 そこまで言ったとき、部屋の扉がノックされた。

「少々よろしいでしょうか?」

 聞こえてきたのは男性の声だ。そして、聞き覚えのある人のものだった。

「イーノスかしら?」

 隣のオパールに問いかけると、彼女はうなずいた。どうやら正解らしい。

「用件を聞いてまいります。アンジーさまはお食事を続けてくださいませ」

 彼女は颯爽と歩いて、扉へと向かった。扉越しにしばらく会話をしたあと、部屋から出ていく。

「……陛下のお返事を持ってきてくれたのよね」

 イーノスはイライアスの側近だ。彼が返事を持ってくるのはなにもおかしなことではない。

 二人の会話が気になって、手が完全に止まってしまった。

「アンジーさま。よろしかったら、お話を聞きに行かれますか?」

 ちらちらと扉のほうをうかがうアンジーを見かねてか、一人の侍女が提案してくる。

 それがいいことなのかはわからないが、このままでは食事に集中できない。せっかくなのだから、厚意に甘えよう。

「えぇ、彼から直接お話も聞きたいし……」

 立ち上がり、扉に向かって歩く。先ほど提案してくれた侍女が、さっとアンジーの隣についた。

「妃殿下の私室には、侍女とメイド、護衛の女騎士以外の立ち入りが許されておりません」
「だから、彼は入ってこなかったのね」
「はい。ほかですと緊急の際の医者くらいでしょうか」

 まぁ、妃の私室ともなるとそれも当然のことなのだろう。
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