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第3章
第5話【※】
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「好きとか嫌いとか。そういう問題ではないだろ」
大きなため息とともに聞こえた言葉は、やたらと早口だった。
「一つ聞く。それはどうやって手に入れた」
イライアスの目つきが鋭くなる。ただでさえ迫力があるのだ。これではまるで悪人だ。
「おかしなことはしておりません。侍女に相談して、準備してもらいました」
落ち着かせるように柔らかな声で告げると、彼はそれ以上なにも言わなかった。だから、納得してくれたのだと判断する。
(嫌いではないのなら、よかった)
今アンジーが身に着けている下着は、普段よりもずっと布地の少ないものだ。
オパールに「セクシーな下着が欲しい」と相談すると、彼女が用意してくれたものである。
急なお願いだったのにうなずいてくれた彼女には感謝しきれない。
「だって、こういうのお好きでしょう?」
小首をかしげて問う。イライアスはうなずくことも、首を横に振ることもなかった。
ただ、流れる沈黙が否定ではないと伝えてくる。
「……もう一つ聞く。その知識はどこから得た」
「グリーナウェイにいたころに、側仕えのメイドに聞いたのです。いつか役に立つかも――って」
――などと言っても、今の今まで使わなかったので、記憶の奥底に封印していた。先ほど不意に思い出し、せっかくだしと行動しようと思っただけだ。
「実践に移す機会はなかったのですが……」
「むしろ、そうでないと困る」
王女として生まれた以上、婚姻するまで純潔を貫かねばならない。
年頃になってからは、周囲の人たちにきつく言い聞かせられてきた。
「呆れましたか?」
イライアスが怒っているようにも見えて、恐る恐る問いかける。
アンジーの不安を感じ取ったのか、彼は首を横に振った。
「今まで実践していないのなら、構わない」
「これでも王女育ちですから。自分の立場は痛いほどに理解しております」
特に王女は自分一人。代わりはいないのだ。
「ですから、こういうことをするのも、異性に肌をさらしたのも――あの夜が、はじめてです」
照れくさくて視線を泳がせる。顔にじんわりと熱が集まる。自分の顔は真っ赤に違いない。
イライアスの手が伸びて、アンジーの髪の毛を梳いた。優しい手つきに目を細めて、手のひらに頬を寄せる。
「キミは変なところで大胆だな」
「こうでもしないと、二度目はない気がして……」
彼は世継ぎを作る目的でアンジーを娶った。二度目はいつかは訪れるだろう――とわかってはいた。しかし、二度目の気配がなく、アンジーのほうが焦れてしまったのだ。
「はじめにきちんと言っただろう。世継ぎを産んでもらうと」
知っている。覚えている。
返事はキスによって封じ込められてしまった。予想もしていなかったタイミングでのキスに驚き、瞬きを繰り返す。
「世継ぎを産むのは妃であるキミの役目だ。そして、妃を増やすことはない」
以前も同じようなことを聞いた。けど、なぜだろう。今日の言葉のほうが、アンジーの心の深くに響いていく。
「今日のことで嫌にならないのなら、今度は定期的に抱く」
「……えぇ、お願いします」
この返しでよかったのかはわからないが、叱られないということはいいのだろう。
「嫌なことがあるのなら、言え。できる限りやめるように努める」
「できる限り、ですか?」
彼らしくない言い回しに、疑問を持つ。問いかけに対し、イライアスはアンジーからプイっと顔を背ける。頬がほのかに赤くなっているのは気のせいじゃない。
「守れない可能性のあることを、はっきり言うことはできない」
一瞬言葉の意味が理解できなかったが、理解できたときアンジーの顔はさらに熱くなった。
心なしか、身体の奥も熱を持っている気がする。イライアスの様子に心も身体も期待していた。
大きなため息とともに聞こえた言葉は、やたらと早口だった。
「一つ聞く。それはどうやって手に入れた」
イライアスの目つきが鋭くなる。ただでさえ迫力があるのだ。これではまるで悪人だ。
「おかしなことはしておりません。侍女に相談して、準備してもらいました」
落ち着かせるように柔らかな声で告げると、彼はそれ以上なにも言わなかった。だから、納得してくれたのだと判断する。
(嫌いではないのなら、よかった)
今アンジーが身に着けている下着は、普段よりもずっと布地の少ないものだ。
オパールに「セクシーな下着が欲しい」と相談すると、彼女が用意してくれたものである。
急なお願いだったのにうなずいてくれた彼女には感謝しきれない。
「だって、こういうのお好きでしょう?」
小首をかしげて問う。イライアスはうなずくことも、首を横に振ることもなかった。
ただ、流れる沈黙が否定ではないと伝えてくる。
「……もう一つ聞く。その知識はどこから得た」
「グリーナウェイにいたころに、側仕えのメイドに聞いたのです。いつか役に立つかも――って」
――などと言っても、今の今まで使わなかったので、記憶の奥底に封印していた。先ほど不意に思い出し、せっかくだしと行動しようと思っただけだ。
「実践に移す機会はなかったのですが……」
「むしろ、そうでないと困る」
王女として生まれた以上、婚姻するまで純潔を貫かねばならない。
年頃になってからは、周囲の人たちにきつく言い聞かせられてきた。
「呆れましたか?」
イライアスが怒っているようにも見えて、恐る恐る問いかける。
アンジーの不安を感じ取ったのか、彼は首を横に振った。
「今まで実践していないのなら、構わない」
「これでも王女育ちですから。自分の立場は痛いほどに理解しております」
特に王女は自分一人。代わりはいないのだ。
「ですから、こういうことをするのも、異性に肌をさらしたのも――あの夜が、はじめてです」
照れくさくて視線を泳がせる。顔にじんわりと熱が集まる。自分の顔は真っ赤に違いない。
イライアスの手が伸びて、アンジーの髪の毛を梳いた。優しい手つきに目を細めて、手のひらに頬を寄せる。
「キミは変なところで大胆だな」
「こうでもしないと、二度目はない気がして……」
彼は世継ぎを作る目的でアンジーを娶った。二度目はいつかは訪れるだろう――とわかってはいた。しかし、二度目の気配がなく、アンジーのほうが焦れてしまったのだ。
「はじめにきちんと言っただろう。世継ぎを産んでもらうと」
知っている。覚えている。
返事はキスによって封じ込められてしまった。予想もしていなかったタイミングでのキスに驚き、瞬きを繰り返す。
「世継ぎを産むのは妃であるキミの役目だ。そして、妃を増やすことはない」
以前も同じようなことを聞いた。けど、なぜだろう。今日の言葉のほうが、アンジーの心の深くに響いていく。
「今日のことで嫌にならないのなら、今度は定期的に抱く」
「……えぇ、お願いします」
この返しでよかったのかはわからないが、叱られないということはいいのだろう。
「嫌なことがあるのなら、言え。できる限りやめるように努める」
「できる限り、ですか?」
彼らしくない言い回しに、疑問を持つ。問いかけに対し、イライアスはアンジーからプイっと顔を背ける。頬がほのかに赤くなっているのは気のせいじゃない。
「守れない可能性のあることを、はっきり言うことはできない」
一瞬言葉の意味が理解できなかったが、理解できたときアンジーの顔はさらに熱くなった。
心なしか、身体の奥も熱を持っている気がする。イライアスの様子に心も身体も期待していた。
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