【R18】女騎士から聖女にジョブチェンジしたら、悪魔な上司が溺愛してくるのですが?

すめらぎかなめ

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第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?

意識して、意識されて 3

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 その後、アッシュに連れられたセレーナがやってきたのは、先ほどから少し離れた広場だった。

 広場の噴水を取り囲むように設置されているベンチの一つに、少し間を開けて並んで腰かける。

 しばらくアッシュはなにも言わずに、セレーナが落ち着くのを待ってくれていた。

「……アッシュ、隊長」

 ようやくセレーナが落ち着きを取り戻し、顔を上げてアッシュを見つめる。すると、彼は「落ち着きましたか?」と問いかけてきた。なので、セレーナはこくんと首を縦に振る。

「そうですか。……よかった」

 彼は心の底からそう思っているらしく、ほっと息を吐く。

 そんな彼に対して、心の底からの感謝の気持ちと共に、どうしようもない申し訳なさがこみあげてくる。

(あのとき、アッシュ隊長が助けてくださらなかったら、私は……)

 そう想像するだけで、背筋がぞっと凍ってしまう。

 ぶるりと身を震わせていれば、アッシュは「誰だって、ああなりますよ」と言葉をくれた。

「で、でもっ! 私、騎士なのに……! これじゃあ、人を助けることなんて……!」

 お金目当てで騎士になったのは、認める。でも、セレーナにだって人並みの正義感はある。

 だからこそ、先ほど動けなくなってしまったことが、心に暗い影を落としていた。

 しかし、アッシュは「気にしないでください」と冷静なまま言葉を告げてくる。

「人を助けるのと、自分が狙われたのとでは理屈が根本的に違います。なので、セレーナ嬢みたいになってもおかしくはない」
「……だけど」
「それに、助かったんだからいいじゃないですか」

 彼はあっけらかんとそう言い切った。……怒られると、思っていたのに。

 そう思っていれば、彼は「俺だって、悪魔じゃないですからね」と素っ気なく告げてくる。

「あと、そんな申し訳なさそうな顔をしないでほしいですね」
「……すみません」
「謝るくらいならば礼を言ってください。そっちのほうが、俺としても気分がいい」

 確かにそれは、一理あるかもしれない。

 そう思ったからこそ、セレーナは「あ、ありがとう、ございます……」と礼の言葉を口にした。

 そうすれば、アッシュは「どうも」というだけだった。

 けれど、すぐに彼はセレーナに近づいてくると――その華奢な身体を抱きしめてくる。……突然のことで、セレーナの頭が反応できない。

「あ、あの……」
「泣きたいなら、どうぞ」

 どうして、彼はセレーナの気持ちをわかっているのだろうか。今、セレーナは「泣きたい」なんて一言も伝えていないし、泣きそうな表情をしていた覚えもないというのに。

「こうしておけば、誰にも見られませんよ」

 セレーナの頭を胸に抱き寄せ、ポンポンと数回優しく叩く。

 その結果……あっけなく、セレーナの涙腺は崩壊した。
「こ、わ、かった……」

「……はい」
「意味、わからなくて……。ほんと、もう、どうしたらいいか……」

 所詮セレーナだってただの女の子なのだ。剣を向けられれば怖いし、殺意にだって恐れを抱いてしまう。

 それを嫌というほど実感させられる中、セレーナは無意識のうちにアッシュの胸に顔をうずめた。

(アッシュ隊長、なんだかんだ言っても、お優しい……)

 気遣いが出来る人だとは、元から知っていた。

 だけど、まさかここまで完璧な気遣いが出来るなんて――。

 それに、なんだろうか。彼の胸に顔をうずめていると、変に意識してしまって。セレーナの心臓が、とくんと大きな音を鳴らしそうになってしまう。

(って、ダメよ……。アッシュ隊長は、私のことを慰めてくださっているだけ、なのだもの。こんな、意識するなんて……)

 不謹慎すぎる。

 そう思うのに、彼の身体のぬくもりや、たくましさ。そういうのが嫌というほどに伝わってくると、セレーナの顔に熱が溜まっていくような感覚だった。

 さらに、彼の手がポンポンと規則正しくセレーナの後頭部を優しくたたくものだから。涙は止まることがない。

(……意識、しちゃいそう……)

 今までだったら「あり得ない!」と言って蹴り飛ばしていたことが、出来なくなりそうだ。

 セレーナを庇ってくれたこと。こうやって慰めてくれていること。それに、セレーナのために怒ってくれたこと。

 そのすべてが、セレーナの心を乱していく。

 まるで、あっけなく恋に落ちてしまいそうで――。

(……って、な、いわ。だって、そもそもこのお方と私だと身分が違うし……)

 それがわかっていても、なんだか今はアッシュの身体に縋っていたい。

 自分の心に湧き上がってくる下心を抑えることが出来ずに、セレーナはアッシュの騎士服をぎゅっと握った。

「……セレーナ嬢」

 頭の上から降ってくる声は、いつも通りのはずなのに。どうしてか、軽く熱を帯びているようにも感じてしまう。

 きっと、それは――セレーナが、彼のことを変に意識してしまっているからなのだろう。

(このお人は、好きになってはいけない人なのに……)

 身分がある。人望だって違う。そう思うのに、本当にあっけなく彼に惹かれてしまいそうだ。

 あんなにも苦手だと思っていたのに。あんなにも、彼と二人きりの時間が苦痛だったのに。

 自分の変わり身の早さに、セレーナは失望してしまいそうだった。
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