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第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?
意識して、意識されて 2
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騎士であったとしても、本気の殺意を浴びることは滅多にない。特に、最近の王国はほのぼのとしており、戦などとも無縁だった。
その所為で、セレーナは自身の身に降りかかったことに、すぐに反応できないでいた。
「……その女、殺す」
男性は血走った目でセレーナを見つめ、そう告げた。
彼のその目には本気の殺意がこもっており、セレーナの心が冷たくなっていく。
「セレーナ嬢。……狙われる原因に、なにか心当たりは?」
視線を男性に向けたまま、アッシュはセレーナにそう問いかけてくる。
だからこそ、セレーナは「あ、ありません!」と言って首をぶんぶんと横に振った。
(そうよ。恨まれることはあったとしても、命を狙われるまでなんて、そんな……!)
騎士という職業柄、恨まれることは多々ある。けれど、殺されるまでに発展することがないようにとセレーナは心がけていた。
それは、アッシュも知っているはず。いや、少し違う。
(アッシュ隊長がそうするようにと、念押しされていたから……)
アッシュは常々騎士たちに「恨みを買うことは仕方がないです。でも、殺意にだけは発展しないようにしてください」と念押ししていた。もちろんセレーナもその教えは守っていたし、変な行動をしたこともない。
さらにプライベートでも人に殺されるほどの恨みを買った覚えはない。そもそも、セレーナがプライベートで関わるのは家族やご近所さんだけだ。
「セレーナ嬢、じっとしていてくださいね」
恐怖から震えてしまうセレーナを、アッシュが片手でぎゅっと抱きしめる。
もう片方の手で器用に剣を扱いながら、男性の攻撃を流していくその様はさすがとしか言いようがない。
「邪魔をするな!」
男性の声に、確かな焦りの感情が帯びていく。
だが、セレーナにはそんなこと気にする余裕もなかった。
土壇場でこういうことに巻き込まれたことがないためか、セレーナはびくびくとすることしか出来ない。
(わ、たし……)
もしも誰かほかの人が襲われていたのならば、セレーナは臆せず助けに向かっただろう。しかし、自分が狙われるとそうはいかない。
それを、嫌というほどに実感してしまう。
「クソッ、その女を殺さないと、俺は、俺はっ……!」
男性がやけくそになったように、剣を振り回す。
対するアッシュは特に焦る様子もなく受け流し、一瞬の隙をついて男性の剣を弾き飛ばしてしまった。
その後、アッシュはその剣の切っ先を男性に向ける。
「……クソッ」
「大人しくしてください。俺も、あんまり手荒な真似はしたくないので」
冷静な声。でも、その言葉の節々に宿っている怒りの感情。
多分、彼は自分の部下が狙われたことに怒っているのだ。彼は悪魔のようなしごきをするものの、人一倍部下を大切に思う隊長だから。
「先ほどの言葉を聞くに、あなたは誰かにこの子を殺すようにと命じられたんですよね? その人物の名前を、吐いてください」
地を這うような低い声で、アッシュがそう告げる。
そうすれば、男性が「……ぁ、あ」と声を上げる。けれど、なにかがおかしい。
「ぁ、がはっ!」
「おい!」
その男性は、その場に血を吐いて倒れてしまった。
それを見て、セレーナは咄嗟にアッシュの腕の中から抜け出し、男性に駆け寄る。……慌てて脈と息を確認するものの、どうやらもうすでに息はないらしい。
「……アッシュ隊長!」
焦りを帯びた声で彼の名前を呼ぶと、アッシュは持っていた剣をなにも言わずにさやに戻した。
「セレーナ嬢。至急、騎士団のほうに連絡を」
「は、はいっ!」
アッシュの指示を受け、セレーナが通信機器を使って騎士団第三部隊に連絡を取ろうとする。
だが、上手く手が動かない。狙われたことに対する恐怖心からなのか、はたまた目の前で人が絶命したことに対する恐怖なのか。それは定かではないものの、今のセレーナは冷静ではなかった。
(落ち着け、落ち着くのよ、私……!)
自分自身にそう言い聞かせ、セレーナは必死に通信機器を動かしていく。ようやく騎士団の第三部隊につながり、セレーナは震える声で支離滅裂な状況説明をする。
「えぇっと、だから、その……」
セレーナが焦りからしどろもどろになっていることを理解してか、アッシュがセレーナの手から通信機器を奪い取る。
「アッシュです。至急、騎士をこちらに手配してください。ここは……」
アッシュの淡々とした指示を聞いて、セレーナは自分の実力不足を思い知らされてしまう。
(命を、狙われただけなのに……)
それは、一般人であれば狼狽え、おかしくなっても当然だといえるシチュエーション。が、セレーナは騎士である。こんなことがあっても、狼狽えてはいけないはずなのに――。
「セレーナ嬢」
要請を終えたらしく、アッシュが声をかけてくる。……きっと、怒られる。
そう思いセレーナが目を伏せ、「はい」と返事をすると、彼はセレーナの手首を掴んだ。
「とりあえず、この場はほかの部下たちに任せます。警官も駆けつけてくれましたし」
「……はい」
「今は、セレーナ嬢のケアのほうが大切です。……少し、人ごみから離れましょうか」
そんなことを言うと、アッシュはセレーナの手を引いて場所を移動していく。
駆けつけた警官に事の説明だけを済ませたアッシュは、セレーナのことを人ごみから連れ出してくれた。
その所為で、セレーナは自身の身に降りかかったことに、すぐに反応できないでいた。
「……その女、殺す」
男性は血走った目でセレーナを見つめ、そう告げた。
彼のその目には本気の殺意がこもっており、セレーナの心が冷たくなっていく。
「セレーナ嬢。……狙われる原因に、なにか心当たりは?」
視線を男性に向けたまま、アッシュはセレーナにそう問いかけてくる。
だからこそ、セレーナは「あ、ありません!」と言って首をぶんぶんと横に振った。
(そうよ。恨まれることはあったとしても、命を狙われるまでなんて、そんな……!)
騎士という職業柄、恨まれることは多々ある。けれど、殺されるまでに発展することがないようにとセレーナは心がけていた。
それは、アッシュも知っているはず。いや、少し違う。
(アッシュ隊長がそうするようにと、念押しされていたから……)
アッシュは常々騎士たちに「恨みを買うことは仕方がないです。でも、殺意にだけは発展しないようにしてください」と念押ししていた。もちろんセレーナもその教えは守っていたし、変な行動をしたこともない。
さらにプライベートでも人に殺されるほどの恨みを買った覚えはない。そもそも、セレーナがプライベートで関わるのは家族やご近所さんだけだ。
「セレーナ嬢、じっとしていてくださいね」
恐怖から震えてしまうセレーナを、アッシュが片手でぎゅっと抱きしめる。
もう片方の手で器用に剣を扱いながら、男性の攻撃を流していくその様はさすがとしか言いようがない。
「邪魔をするな!」
男性の声に、確かな焦りの感情が帯びていく。
だが、セレーナにはそんなこと気にする余裕もなかった。
土壇場でこういうことに巻き込まれたことがないためか、セレーナはびくびくとすることしか出来ない。
(わ、たし……)
もしも誰かほかの人が襲われていたのならば、セレーナは臆せず助けに向かっただろう。しかし、自分が狙われるとそうはいかない。
それを、嫌というほどに実感してしまう。
「クソッ、その女を殺さないと、俺は、俺はっ……!」
男性がやけくそになったように、剣を振り回す。
対するアッシュは特に焦る様子もなく受け流し、一瞬の隙をついて男性の剣を弾き飛ばしてしまった。
その後、アッシュはその剣の切っ先を男性に向ける。
「……クソッ」
「大人しくしてください。俺も、あんまり手荒な真似はしたくないので」
冷静な声。でも、その言葉の節々に宿っている怒りの感情。
多分、彼は自分の部下が狙われたことに怒っているのだ。彼は悪魔のようなしごきをするものの、人一倍部下を大切に思う隊長だから。
「先ほどの言葉を聞くに、あなたは誰かにこの子を殺すようにと命じられたんですよね? その人物の名前を、吐いてください」
地を這うような低い声で、アッシュがそう告げる。
そうすれば、男性が「……ぁ、あ」と声を上げる。けれど、なにかがおかしい。
「ぁ、がはっ!」
「おい!」
その男性は、その場に血を吐いて倒れてしまった。
それを見て、セレーナは咄嗟にアッシュの腕の中から抜け出し、男性に駆け寄る。……慌てて脈と息を確認するものの、どうやらもうすでに息はないらしい。
「……アッシュ隊長!」
焦りを帯びた声で彼の名前を呼ぶと、アッシュは持っていた剣をなにも言わずにさやに戻した。
「セレーナ嬢。至急、騎士団のほうに連絡を」
「は、はいっ!」
アッシュの指示を受け、セレーナが通信機器を使って騎士団第三部隊に連絡を取ろうとする。
だが、上手く手が動かない。狙われたことに対する恐怖心からなのか、はたまた目の前で人が絶命したことに対する恐怖なのか。それは定かではないものの、今のセレーナは冷静ではなかった。
(落ち着け、落ち着くのよ、私……!)
自分自身にそう言い聞かせ、セレーナは必死に通信機器を動かしていく。ようやく騎士団の第三部隊につながり、セレーナは震える声で支離滅裂な状況説明をする。
「えぇっと、だから、その……」
セレーナが焦りからしどろもどろになっていることを理解してか、アッシュがセレーナの手から通信機器を奪い取る。
「アッシュです。至急、騎士をこちらに手配してください。ここは……」
アッシュの淡々とした指示を聞いて、セレーナは自分の実力不足を思い知らされてしまう。
(命を、狙われただけなのに……)
それは、一般人であれば狼狽え、おかしくなっても当然だといえるシチュエーション。が、セレーナは騎士である。こんなことがあっても、狼狽えてはいけないはずなのに――。
「セレーナ嬢」
要請を終えたらしく、アッシュが声をかけてくる。……きっと、怒られる。
そう思いセレーナが目を伏せ、「はい」と返事をすると、彼はセレーナの手首を掴んだ。
「とりあえず、この場はほかの部下たちに任せます。警官も駆けつけてくれましたし」
「……はい」
「今は、セレーナ嬢のケアのほうが大切です。……少し、人ごみから離れましょうか」
そんなことを言うと、アッシュはセレーナの手を引いて場所を移動していく。
駆けつけた警官に事の説明だけを済ませたアッシュは、セレーナのことを人ごみから連れ出してくれた。
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