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第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?
巡った運命 1
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それから一週間の日が経ち。
セレーナは今日から騎士の業務に戻ることとなっていた。
というのも、アッシュの気遣いでセレーナは一週間の特別休暇を取ることとなったのだ。アッシュ曰く、「心の整理をする時間が必要でしょうから」ということだった。
朝から慌ただしく髪の毛を整え、騎士の制服に着替える。
そして、玄関を出て行こうとすると、不意に後ろから「セレーナ」と声をかけられた。
そちらに視線を向ければ、そこには母トリシアがいる。彼女は心配そうな目でセレーナのことを見つめていた。
「……セレーナ。もう、大丈夫なのかい?」
「えぇ、大丈夫よ」
昨日から何度も何度も尋ねられたことに、決まった返事をする。しかし、母は納得していないらしく首を横に振っていた。
「いっそ、騎士なんて辞めてしまえばいいよ。……あんなことが、あったんだから」
母には襲われたことを話してある。弟妹たちには言っていないが、彼らもなにかを察しているのだろう。セレーナに休みの理由を聞いてくることはなかった。
「でも、私が稼がないと……」
「そうは言ってもね。お金よりも命のほうが大切なんだよ」
母の言いたいことは、嫌というほどに理解している。
けれど、セレーナとて易々と騎士を辞めることは不本意だった。
だからこそ、「帰ってきたら、話し合うから!」とだけ言って玄関を飛び出す。
「あっ、セレーナ!」
後ろから母の声が聞こえてくる。でも、止まることはしない。
ただそのまま軽く走り、屋敷が見えなくなった頃に走る速度を落とす。そのまま、徒歩に移る。
(……お母様のおっしゃってることは、正しいわ)
なんだって命あってのものだと、セレーナだってわかっている。だけど、セレーナは騎士を辞めたくないのだ。
そう思いつつ騎士団の本部に向かって歩いていると、ふと前から誰かが歩いてくるのが視界に入る。その人物の顔を見て、セレーナは唖然としてしまった。
「……アッシュ隊長」
恐る恐る彼の名前を呼べば、彼は「セレーナ嬢、おはようございます」と礼儀正しく挨拶をしてくる。なので、セレーナも「おはよう、ございます」と言葉を返した。
「ところで、どうして、こちらに……?」
別に始業時間ギリギリというわけでもないので、この時間にここをセレーナが歩いていても問題はないはずだ。
心の中でセレーナがそんな風に思っていると、アッシュは辺りをちらりと見渡す。その後、セレーナのほうに近づき――その耳元に唇を寄せた。
彼のその行動に、セレーナの心臓がとくんと大きく音を鳴らした。
「実は、セレーナ嬢にお客様がいらっしゃっていて。そのお方がかなり重要な案件を持ってきたので、セレーナ嬢を迎えに行こうと思っていたところなんです」
耳元で囁かれる心地のいい低い声に、セレーナの意識が集中してしまう。正直なところ、彼の話している内容があまり頭に入らなかった。
その所為でセレーナがぼうっとしていると、「聞いていましたか?」と問いかけられた。なので、ハッとして「え、えぇっと……」と言いながら肩をすくめる。
「……ぼうっと、していました」
「そうですか。では、もう一度言う必要がありますね」
アッシュはセレーナの言葉に気を悪くした風もなく、淡々とそう言ってくる。
どうやら、彼はセレーナが襲われたことに対して相当ショックを受けていると思っているらしい。
実際それは間違いないのだが、ぼうっとしていたのはアッシュのいい声に意識が行っていたからである。……口が裂けても言えないが。
「まぁ、とにかく。セレーナ嬢に来客がありまして。なので、俺が迎えに来ました」
今度は端折った説明だった。でも、セレーナは彼の言いたいことの意味がそれでよくわかったので、「はい」と返事をする。
(……あれ? でも、こんなに朝早くから来客なんて……)
しかし、そう思って顔をしかめる。
そんなセレーナの気持ちに気が付いたらしく、アッシュは「王国の重役なので、こちらの都合は考えていないんですよ」と呆れたように言った。
そうなのか。ならば、納得できる――。
(わけがないじゃない! 王国の重役が、一体私になんの用なの!?)
頬を引きつらせながら、セレーナは心の中でそう問いかける。
セレーナの気持ちを知ってか知らずか。アッシュはセレーナの手首を掴んで歩き出そうとする。
掴まれた手首が、とても熱いような気がするのはきっと気のせいじゃない。
(……意識、しちゃってるのかな……)
あの事件以来、セレーナはアッシュのことを意識してしまった。その所為で、正直なところ彼とうまく関われるかが不安だったのだ。
だけど、顔には出さずに関われたなぁ。そう思っていたのに――触れられてしまえば、態度が一変してしまいそうだ。
胸の中に秘めた気持ちが、あふれ出してしまいそうだ。
「……セレーナ嬢?」
そんなセレーナの気持ちなど知りもしないアッシュは、きょとんとした面持ちでセレーナのことを見つめてくる。
……彼のその青色の目が、とても美しく見えた。
「い、いえっ! なんでもないですっ!」
思わずぼうっと見惚れてしまいそうになるが、そこをぐっとこらえる。そして、セレーナは出来る限りにっこりと笑った。
その笑みが何処となく痛々しく見えてしまうことに、セレーナ自身は気が付かなかった。
セレーナは今日から騎士の業務に戻ることとなっていた。
というのも、アッシュの気遣いでセレーナは一週間の特別休暇を取ることとなったのだ。アッシュ曰く、「心の整理をする時間が必要でしょうから」ということだった。
朝から慌ただしく髪の毛を整え、騎士の制服に着替える。
そして、玄関を出て行こうとすると、不意に後ろから「セレーナ」と声をかけられた。
そちらに視線を向ければ、そこには母トリシアがいる。彼女は心配そうな目でセレーナのことを見つめていた。
「……セレーナ。もう、大丈夫なのかい?」
「えぇ、大丈夫よ」
昨日から何度も何度も尋ねられたことに、決まった返事をする。しかし、母は納得していないらしく首を横に振っていた。
「いっそ、騎士なんて辞めてしまえばいいよ。……あんなことが、あったんだから」
母には襲われたことを話してある。弟妹たちには言っていないが、彼らもなにかを察しているのだろう。セレーナに休みの理由を聞いてくることはなかった。
「でも、私が稼がないと……」
「そうは言ってもね。お金よりも命のほうが大切なんだよ」
母の言いたいことは、嫌というほどに理解している。
けれど、セレーナとて易々と騎士を辞めることは不本意だった。
だからこそ、「帰ってきたら、話し合うから!」とだけ言って玄関を飛び出す。
「あっ、セレーナ!」
後ろから母の声が聞こえてくる。でも、止まることはしない。
ただそのまま軽く走り、屋敷が見えなくなった頃に走る速度を落とす。そのまま、徒歩に移る。
(……お母様のおっしゃってることは、正しいわ)
なんだって命あってのものだと、セレーナだってわかっている。だけど、セレーナは騎士を辞めたくないのだ。
そう思いつつ騎士団の本部に向かって歩いていると、ふと前から誰かが歩いてくるのが視界に入る。その人物の顔を見て、セレーナは唖然としてしまった。
「……アッシュ隊長」
恐る恐る彼の名前を呼べば、彼は「セレーナ嬢、おはようございます」と礼儀正しく挨拶をしてくる。なので、セレーナも「おはよう、ございます」と言葉を返した。
「ところで、どうして、こちらに……?」
別に始業時間ギリギリというわけでもないので、この時間にここをセレーナが歩いていても問題はないはずだ。
心の中でセレーナがそんな風に思っていると、アッシュは辺りをちらりと見渡す。その後、セレーナのほうに近づき――その耳元に唇を寄せた。
彼のその行動に、セレーナの心臓がとくんと大きく音を鳴らした。
「実は、セレーナ嬢にお客様がいらっしゃっていて。そのお方がかなり重要な案件を持ってきたので、セレーナ嬢を迎えに行こうと思っていたところなんです」
耳元で囁かれる心地のいい低い声に、セレーナの意識が集中してしまう。正直なところ、彼の話している内容があまり頭に入らなかった。
その所為でセレーナがぼうっとしていると、「聞いていましたか?」と問いかけられた。なので、ハッとして「え、えぇっと……」と言いながら肩をすくめる。
「……ぼうっと、していました」
「そうですか。では、もう一度言う必要がありますね」
アッシュはセレーナの言葉に気を悪くした風もなく、淡々とそう言ってくる。
どうやら、彼はセレーナが襲われたことに対して相当ショックを受けていると思っているらしい。
実際それは間違いないのだが、ぼうっとしていたのはアッシュのいい声に意識が行っていたからである。……口が裂けても言えないが。
「まぁ、とにかく。セレーナ嬢に来客がありまして。なので、俺が迎えに来ました」
今度は端折った説明だった。でも、セレーナは彼の言いたいことの意味がそれでよくわかったので、「はい」と返事をする。
(……あれ? でも、こんなに朝早くから来客なんて……)
しかし、そう思って顔をしかめる。
そんなセレーナの気持ちに気が付いたらしく、アッシュは「王国の重役なので、こちらの都合は考えていないんですよ」と呆れたように言った。
そうなのか。ならば、納得できる――。
(わけがないじゃない! 王国の重役が、一体私になんの用なの!?)
頬を引きつらせながら、セレーナは心の中でそう問いかける。
セレーナの気持ちを知ってか知らずか。アッシュはセレーナの手首を掴んで歩き出そうとする。
掴まれた手首が、とても熱いような気がするのはきっと気のせいじゃない。
(……意識、しちゃってるのかな……)
あの事件以来、セレーナはアッシュのことを意識してしまった。その所為で、正直なところ彼とうまく関われるかが不安だったのだ。
だけど、顔には出さずに関われたなぁ。そう思っていたのに――触れられてしまえば、態度が一変してしまいそうだ。
胸の中に秘めた気持ちが、あふれ出してしまいそうだ。
「……セレーナ嬢?」
そんなセレーナの気持ちなど知りもしないアッシュは、きょとんとした面持ちでセレーナのことを見つめてくる。
……彼のその青色の目が、とても美しく見えた。
「い、いえっ! なんでもないですっ!」
思わずぼうっと見惚れてしまいそうになるが、そこをぐっとこらえる。そして、セレーナは出来る限りにっこりと笑った。
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