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第2章 聖女と護衛騎士、そして進展する関係
夜這い 1
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「では、セレーナさま。おやすみなさいませ」
「え、えぇ、おやすみ……」
そして、その日の夜。セレーナは神殿でつけられた世話役の女性、ジェナを見送った後、寝台に倒れこんだ。
この神殿で与えられた個室は、実家の私室よりも数倍広々とした豪奢な部屋だ。寝台だって大人二人寝そべっても余裕がありそうだし、ソファーだってふかふか。本棚には退屈しないようにか、詩集やロマンス小説の類が置かれている。
が、セレーナはここにきてから、それらを手に取ったことはない。
なんといっても、昼間は訓練や勉学ばかりであり、夜は疲れ果てて眠ることが毎日のことだったためだ。
しかし、どうにも今日は眠れそうにない。
(アッシュさんは……なにを、されるつもりなのかしら?)
湯あみを済ませ、ナイトドレスに着替えた今、することといえば眠ることくらいだ。
けれど、セレーナの胸はどくんと高鳴っており、眠ることは出来そうにない。
部屋の外からは、ロロの鼻歌が聞こえてくる。彼は今日からセレーナの護衛に当たると言っていた。
特に夜の護衛は彼の仕事らしい。それはつまり……今のアッシュに、仕事はないということ。
(やっぱり夜這い……って、アッシュさんに限ってそんなことは……!)
彼は生真面目な性格だ。そんな、仕える主に夜這いなどしかけるようには見えない。でも、だったら昼間の彼の言動は……?
セレーナが一人悶々としていると、不意に部屋の扉がノックされる。驚いて声を上げれば、外から扉が開きアリーヌが顔を覗かせた。……アッシュでは、なかった。
「ごめんなさいね、セレーナさん。ちょっとだけ、いいかしら?」
彼女は後ろ手で扉を閉め、セレーナのほうに歩いてくる。そのため、セレーナは慌てて寝台から起き上がった。
「ど、どう、なさいました……?」
アリーヌにそう問いかければ、彼女はくすくすと声を上げて笑う。その笑い方は、まるで悪戯が成功した子供のようだ。
「いえ、今日からセレーナさんも一人前の聖女だし……『アレ』が始まるのではないかと思って」
「……アレ?」
アリーヌの言葉の意味が、これっぽっちも分からない。
その所為でセレーナがきょとんとしていれば、彼女はセレーナの耳元に唇を近づけた。
「――夜這い、よ」
彼女はそのきれいな声で、とんでもないことを口にした。
だから、セレーナの顔に一気に熱が溜まっていく。よ、夜這い。それは、アッシュの言葉と意味は一致する。
「ふふっ、驚かせちゃった? けれど、ごめんなさいね。これは決定事項だし、一応知っておいたほうがいいでしょう?」
彼女はぺろりと舌を出した後、そんなことを言う。
その表情は子供っぽいものだが、口にしている言葉はとんでもないことであることに間違いはない。
「あのね、護衛騎士にはもう一つの役割があると、言ったでしょう?」
「は、はい……」
「それがまぁ、聖女に夜這いを仕掛けることなのよ」
全く、意味がわからない。
どうして護衛騎士が聖女に夜這いを仕掛けるのだ。心の中でそう思うセレーナが呆然としていれば、アリーヌは「そういう反応になるわよねぇ」と言いながら肩をすくめた。
「私も初めての頃は戸惑ったわ。だって、男性経験なんてなかったんですもの」
ころころと笑うアリーヌが、今は恨めしくて仕方がない。そもそも、セレーナにだって男性経験なんてない。
なのに、いきなり夜這いだなんて言われても……驚くことしか出来ない。
「あの、えっと、どういうこと……ですか?」
恐る恐るセレーナがそう問いかければ、彼女はあっけらかんと「聖女が、変な男性と関係を持たないようにするためよ」と言い放った。
「え、えぇっと……」
「まぁ、簡潔にいえば聖女の性欲処理よ」
それはそれで、簡潔に言いすぎだ。
心の中でそう思う。それに、アリーヌの言葉の意味を理解すればするほど、頭が痛くなってしまいそうだった。
「護衛騎士と相性を占うって、言ったでしょう?」
「は、はい」
「それって、性格の相性もあるけれど、身体の相性もあるのよ」
なんだか、とんでもない役目についてしまったような気がする――。
それを実感してしまうからこそ、セレーナは「今すぐにでも逃げ出したい!」と思ってしまった。
(っていうことは、私はアッシュさんとあんなことやこんなことを――!?)
無理だ。そんなもの、絶対に無理だ。だって、それは所詮性欲処理。気持ちが通じ合ったうえでの行為ではない。
そんな悲しいことを――想い人とは、したくない。
「む、無理ですっ! 無理です、無理です……!」
セレーナが首をぶんぶんと横に振りながらそう言えば、アリーヌは「案外、気持ちのいいものよ」と的外れなことを言ってくる。
そういう意味じゃない。
「セレーナさん。……これも、仕事の内よ」
かといって、そう言われてしまえば、セレーナだって従うほかないのだ。自分の気持ちを押し殺して、アッシュと身体の関係を持つのだ。
それが今のセレーナになによりも求められていること。それは、わかっている。わかっているけれど……。
(でも、アッシュさんは私と関係を持つことについて、どう思われているの……?)
彼の口ぶりからするに、彼はこうなることを知っていたのだろう。
だが、そこにセレーナを想う気持ちなんてこれっぽっちもないはずだ。
そんなことを考えてしまうからこそ、セレーナは心がぽっきりと折れてしまったような感覚に襲われた。
「え、えぇ、おやすみ……」
そして、その日の夜。セレーナは神殿でつけられた世話役の女性、ジェナを見送った後、寝台に倒れこんだ。
この神殿で与えられた個室は、実家の私室よりも数倍広々とした豪奢な部屋だ。寝台だって大人二人寝そべっても余裕がありそうだし、ソファーだってふかふか。本棚には退屈しないようにか、詩集やロマンス小説の類が置かれている。
が、セレーナはここにきてから、それらを手に取ったことはない。
なんといっても、昼間は訓練や勉学ばかりであり、夜は疲れ果てて眠ることが毎日のことだったためだ。
しかし、どうにも今日は眠れそうにない。
(アッシュさんは……なにを、されるつもりなのかしら?)
湯あみを済ませ、ナイトドレスに着替えた今、することといえば眠ることくらいだ。
けれど、セレーナの胸はどくんと高鳴っており、眠ることは出来そうにない。
部屋の外からは、ロロの鼻歌が聞こえてくる。彼は今日からセレーナの護衛に当たると言っていた。
特に夜の護衛は彼の仕事らしい。それはつまり……今のアッシュに、仕事はないということ。
(やっぱり夜這い……って、アッシュさんに限ってそんなことは……!)
彼は生真面目な性格だ。そんな、仕える主に夜這いなどしかけるようには見えない。でも、だったら昼間の彼の言動は……?
セレーナが一人悶々としていると、不意に部屋の扉がノックされる。驚いて声を上げれば、外から扉が開きアリーヌが顔を覗かせた。……アッシュでは、なかった。
「ごめんなさいね、セレーナさん。ちょっとだけ、いいかしら?」
彼女は後ろ手で扉を閉め、セレーナのほうに歩いてくる。そのため、セレーナは慌てて寝台から起き上がった。
「ど、どう、なさいました……?」
アリーヌにそう問いかければ、彼女はくすくすと声を上げて笑う。その笑い方は、まるで悪戯が成功した子供のようだ。
「いえ、今日からセレーナさんも一人前の聖女だし……『アレ』が始まるのではないかと思って」
「……アレ?」
アリーヌの言葉の意味が、これっぽっちも分からない。
その所為でセレーナがきょとんとしていれば、彼女はセレーナの耳元に唇を近づけた。
「――夜這い、よ」
彼女はそのきれいな声で、とんでもないことを口にした。
だから、セレーナの顔に一気に熱が溜まっていく。よ、夜這い。それは、アッシュの言葉と意味は一致する。
「ふふっ、驚かせちゃった? けれど、ごめんなさいね。これは決定事項だし、一応知っておいたほうがいいでしょう?」
彼女はぺろりと舌を出した後、そんなことを言う。
その表情は子供っぽいものだが、口にしている言葉はとんでもないことであることに間違いはない。
「あのね、護衛騎士にはもう一つの役割があると、言ったでしょう?」
「は、はい……」
「それがまぁ、聖女に夜這いを仕掛けることなのよ」
全く、意味がわからない。
どうして護衛騎士が聖女に夜這いを仕掛けるのだ。心の中でそう思うセレーナが呆然としていれば、アリーヌは「そういう反応になるわよねぇ」と言いながら肩をすくめた。
「私も初めての頃は戸惑ったわ。だって、男性経験なんてなかったんですもの」
ころころと笑うアリーヌが、今は恨めしくて仕方がない。そもそも、セレーナにだって男性経験なんてない。
なのに、いきなり夜這いだなんて言われても……驚くことしか出来ない。
「あの、えっと、どういうこと……ですか?」
恐る恐るセレーナがそう問いかければ、彼女はあっけらかんと「聖女が、変な男性と関係を持たないようにするためよ」と言い放った。
「え、えぇっと……」
「まぁ、簡潔にいえば聖女の性欲処理よ」
それはそれで、簡潔に言いすぎだ。
心の中でそう思う。それに、アリーヌの言葉の意味を理解すればするほど、頭が痛くなってしまいそうだった。
「護衛騎士と相性を占うって、言ったでしょう?」
「は、はい」
「それって、性格の相性もあるけれど、身体の相性もあるのよ」
なんだか、とんでもない役目についてしまったような気がする――。
それを実感してしまうからこそ、セレーナは「今すぐにでも逃げ出したい!」と思ってしまった。
(っていうことは、私はアッシュさんとあんなことやこんなことを――!?)
無理だ。そんなもの、絶対に無理だ。だって、それは所詮性欲処理。気持ちが通じ合ったうえでの行為ではない。
そんな悲しいことを――想い人とは、したくない。
「む、無理ですっ! 無理です、無理です……!」
セレーナが首をぶんぶんと横に振りながらそう言えば、アリーヌは「案外、気持ちのいいものよ」と的外れなことを言ってくる。
そういう意味じゃない。
「セレーナさん。……これも、仕事の内よ」
かといって、そう言われてしまえば、セレーナだって従うほかないのだ。自分の気持ちを押し殺して、アッシュと身体の関係を持つのだ。
それが今のセレーナになによりも求められていること。それは、わかっている。わかっているけれど……。
(でも、アッシュさんは私と関係を持つことについて、どう思われているの……?)
彼の口ぶりからするに、彼はこうなることを知っていたのだろう。
だが、そこにセレーナを想う気持ちなんてこれっぽっちもないはずだ。
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