【完結】【R18】ゆらり、波打つ【TL短編集】

すめらぎかなめ(ダフォディル)

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勇者に選ばれた恋人が、王女様と婚姻するらしいので、

待つ恋人アデルミラの話(10)

 それから数時間後。重い瞼を開き、アデルミラは目を覚ました。

 目を覚ましたアデルミラの視界に一番に入ったのは、見慣れた天井。……どうやら、ここはアデルミラが一人暮らしをしているアパートの一室らしい。それにホッと一安心するものの、すぐにハッと起き上がる。……見慣れた室内。寝かされている寝台も、確かにいつも使っているもの。でも、

「……いつ、帰ってきたの……?」

 自分はロレンシオと身体の関係を持った。それも、『リナリア』の一室で。だからこそ、アパートにいるわけがない。アデルミラの身は清められているようであり、身に纏うワンピースも切り裂かれたものではない。一体誰がアデルミラの身体を洗い、着替えさせたのだろうか。それも問題だが、一番の問題は……。

「おにい……ロレンシオ、起きて」

 アデルミラの寝台で、一緒に眠っているロレンシオだ。

 ロレンシオは上半身裸で眠っており、アデルミラは目のやり場に困ってしまう。そもそも、アデルミラの寝台は一人用である。だからこそ、二人で寝れば、大層狭い。その所為だろう、ロレンシオは何処となく窮屈そうに眠っていた。

「んっ、アデルミラ?」
「……ロレンシオ」

 ゆっくりとロレンシオの瞼が開くのを見て、アデルミラは寝台から降りようともがく。しかし、ロレンシオに移動してもらえないと寝台から降りることが出来ない。目線だけで移動してと訴えるものの、ロレンシオはアデルミラの腰に腕を回してきた。その後、アデルミラのことをもう一度寝台に寝かせ、抱き込んでくる。

「ロレンシオ……! 寝ぼけているでしょ……!」

 必死に暴れても、ロレンシオの力には全くと言ってもいいほど敵わない。ロレンシオはアデルミラのことを堪能するかのように、抱きかかえてそのまま放そうとしない。……ずっと、こうなることを夢見てきた。それでも、素直に喜べない理由が確かにある。

「ロレンシオ。私と一緒にいることがバレたら……その」

 王女に、怒られるのではないだろうか? いや、そもそも関係を持ってしまった時点で怒られるのは確実だろう。そう思い、アデルミラは自身のお腹を撫でる。もしかしたら、ここにロレンシオとの子が宿ってしまうかもしれない。そうなったら、どうしようか。自分一人で、育てられるだろうか? そう考えて、不安になる。ロレンシオと一緒に育てることは、出来ないのだから。

(私、未婚の母になりたくない。だけど……ロレンシオとの子だったら、まだ……)

 愛した人との子ならば、まだ可愛がれるだろう。

 そう思いながら、アデルミラはロレンシオの胸に頬を寄せた。ロレンシオの体温が、すごく心地よかったためだ。今だけでいい。今だけでいいから、王女じゃなくて自分を見て。そういう意味を込めていた。

「……行かないで」

 ぎゅっとロレンシオに抱き着きながら、アデルミラはそう零す。王女の元に行かないで。ずっと、自分を愛して。一度は諦めようとしたはずなのに、関係を持ってしまったらその気持ちが強くなってしまった。このまま、離れたくないな。アデルミラの心の中で、そんな気持ちが膨らんでいく。

 一体どれほどの時間を、そんな風に過ごしただろうか。何時間にも感じられる時間を過ごした後、ふとロレンシオは「……アデルミラ」とアデルミラの名前を優しく呼んでくれた。その手は、アデルミラのサラサラとした紫色の髪を撫でる。

「……アデルミラ。俺と、婚姻しよう」
「……ロレンシオ?」

 その言葉が、ずっと欲しかった。これは、もしかして都合のいい夢? そう思いアデルミラが目をこすれば、ロレンシオは「……責任は、元々取るつもりだった。というか……」と零し、一旦そこで言葉を切る。

「アデルミラが、俺以外の男と婚姻するのが、許せそうになかった。だから、あの場で抱いた」

 アデルミラの身体をさらに抱き込みながら、ロレンシオはそんなことを切なそうな声で言ってくる。意味が、分からなかった。そもそも、ロレンシオはアデルミラのことを捨てたはずなのに。王女に無理強いされていたとしても、アデルミラと婚姻できるわけがない。

「ロレンシオ、私……その」
「どうして、俺以外の男との出逢いを求めた」

 そして、ロレンシオはそんな言葉を告げてくる。……出逢いを求めたのは、ロレンシオへの恋心を消すためだ。失恋の傷を癒すには、新しい恋をするのが一番。そう、思ったから。

「……ロレンシオのことを、忘れようと、して」

 最後の方の声は、とても小さくなってしまった。こんなことを言えば、自分はどれだけ彼のことが好きなのだろうかとも、思ってしまう。それでも、ずっと恋焦がれてきた。だから、失恋してとても辛かった。

「どうして、俺のことを忘れる必要がある。俺は、アデルミラのことを一日たりとも忘れたことがなかったのに」

 力強い声でそう言われ、アデルミラの心がざわめく。……もしかして、勇者と王女の婚姻話はデタラメなのだろうか? 一瞬そう思ってしまうが、新聞などでも堂々と発表されていた。自分の聞き間違いでも、見間違いでもないはずだ。

「だ、だって、だって、ロレンシオ、王女殿下と婚姻するんでしょ……? だから、私、私っ……!」

 思い出したら、涙があふれてきそうだった。十八歳。まだまだ子供なのかもしれない。そんなことを考えながら、アデルミラはぽろぽろと涙を零してしまう。そうしていれば、ロレンシオは露骨に「はぁ」とため息をつく。……一体、何が彼を困らせているのだろうか。

「アデルミラ。しっかりと聞いてくれ。……確かに、俺はビアンカ殿下と一度は婚約者の関係になった。だが、その関係はもう解消した」
「……え?」
「あのニュースはな、国王陛下が一方的に発表したものだ。俺たちの許可も得ずに、勝手な行動をされたんだ」

 その言葉は、アデルミラからすれば意味の分からないものだった。

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