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第1部 第1章 『ラウル』
⑥
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――冗談抜きに本当に美味しい。
そのため、ラウルはニコニコと笑って食事を続けた。
ジェロルドはラウルをじっと見つめている。彼の目に宿った感情は『慈愛』だろうか。
「今後は、自炊するか」
ジェロルドがボソッとつぶやいた。
彼の言葉にラウルはぽかんとする。自然と口が開いてしまう。ジェロルドがラウルを見て今度は面白そうに笑う。
「これはこの付近にある総菜屋のものだよ。パンはパン屋のやつ」
「――へぇ」
ジェロルドは簡潔に説明をすると、パンを一つ掴んでかじる。ちぎることなくかじる姿は、豪快な印象を与える。彼の顔立ちによく合い、ラウルの視線をくぎ付けにした。
(こういうの、野性的でカッコいいって言うんだっけ?)
豪快で野生的で、すごくかっこいい――。
ラウルが感心するのをよそに、ジェロルドは頬杖を突く。
「お前の身体によさそうなものを作りたいな」
「えっと」
「実感ないと思うが、お前は栄養失調だ」
淡々と述べられる真実はラウルにとって予想も出来ないものだった。
彼の瞳をじっと見つめてしまう。
「ろくなものを食べていなかったんだろ。今後はなんか栄養の摂れそうなものを作ってやる」
当然のようにジェロルドは言うが、ラウルの中では「嬉しい」よりも「申し訳ない」という感情が勝つ。
ただでさえ拾ってもらってけがを治療してもらったのだ。これ以上世話になることは避けたい。
ラウルの申し訳なさは、ジェロルドに伝わっていたらしい。彼は大きな手のひらをラウルの頭にぽんっと載せる。
「わっ」
そのままわしゃわしゃと彼の手がラウルの頭を撫でまわす。
「いいんだよ。――ラウル」
「ラウル」と呼ぶジェロルドの声は甘くて優しい。
自身の頬に熱が溜まるような感覚に襲われたラウルは、彼から視線を逸らすのが精いっぱいだった。
「どうせ元気になるまでの間だけだしな。自炊の経験は、お前がいなくなっても役に立つし」
ジェロルドの言葉はラウルの罪悪感を消すものだったのだろう。
彼の思惑通り、ラウルの心の中に鎮座していた申し訳なさが薄れていく。
「ただ俺は今まで自炊をしたことがなくてな。不味くても文句は言うなよ」
一応とばかりに予防線を張る彼の表情は、にんまりとした悪い笑みだ。悪い笑みは不思議と彼の顔にマッチしていて、危険な男というイメージを与えてくる。
こんなにも優しい人なのに――。
「文句は言いません。僕は居候させてもらう立場ですから」
ご飯を食べさせてもらい、眠る場所を提供してもらう。それだけでありがたいのに、味など贅沢は言ってはならない。
(食べられるだけでありがたいんだ)
餓死を避けることが出来るだけで、本当に礼を言うべきである。
ラウルの頭の中には『拝む』という選択肢さえ生まれてくる。
「あぁ、そうだな。けど、俺も食うしできればうまい飯を作りたいよなぁ」
ジェロルドはパンをかじってつぶやいた。
「それは追々でいいか。ラウル、今傷は痛むか?」
問いかけに首を横に振る。痛みはない。苦しさもない。
「じゃあ、なにか欲しいものとかは?」
――どうしてこの人は、ラウルにここまで好待遇なのだろうか?
一瞬疑問が浮かんだが、きっとけがをしているラウルを見捨てることが出来ないだけだ。
「不躾なお願いをしてもいいですか?」
おずおずと手を挙げて、ラウルは口を開いた。
今、不意に思ったことがあったのだ。
「なんだ」
「鏡が欲しいです」
ジェロルドの目を見てはっきりと望みを口にする。彼は「鏡?」と怪訝そうに繰り返す。
「はい。僕自身の顔を見たら、なにか思い出すんじゃないかって、思って」
先ほどまでは戸惑いや空腹のほうが強く、思考がぼんやりとしていた。
今は空腹がなくなり、思考が少しずつではあるが動き出したのがラウル自身にもわかる。
ラウルの言葉を聞いたジェロルドは、すぐに「わかった」と言ってくれる。
「別の部屋にあるから取ってくる。お前は食事を続けてろ」
彼はそれだけを言い残し、部屋を立ち去る。
ジェロルドが立ち去ると、室内はしんと静まり返った。ラウルはフォークを手に取って、肉料理に刺した。流れるように口に運ぶ。
この肉料理は少し硬い。噛みちぎるのも大変だ。
「――美味しい」
自然と一口、もう一口と肉料理を食べる。
肉は硬い部分もあるが、柔らかい部分もあった。食べたことがない味だが、好みだ。
(記憶がないんだから、どんなものも食べたことがないようなものだよね)
いや、もしかしたら――ラウルは記憶がなくなる前も、この肉料理を食べたことがなかったのかもしれない。
それはただの勘でしかないが。
そのため、ラウルはニコニコと笑って食事を続けた。
ジェロルドはラウルをじっと見つめている。彼の目に宿った感情は『慈愛』だろうか。
「今後は、自炊するか」
ジェロルドがボソッとつぶやいた。
彼の言葉にラウルはぽかんとする。自然と口が開いてしまう。ジェロルドがラウルを見て今度は面白そうに笑う。
「これはこの付近にある総菜屋のものだよ。パンはパン屋のやつ」
「――へぇ」
ジェロルドは簡潔に説明をすると、パンを一つ掴んでかじる。ちぎることなくかじる姿は、豪快な印象を与える。彼の顔立ちによく合い、ラウルの視線をくぎ付けにした。
(こういうの、野性的でカッコいいって言うんだっけ?)
豪快で野生的で、すごくかっこいい――。
ラウルが感心するのをよそに、ジェロルドは頬杖を突く。
「お前の身体によさそうなものを作りたいな」
「えっと」
「実感ないと思うが、お前は栄養失調だ」
淡々と述べられる真実はラウルにとって予想も出来ないものだった。
彼の瞳をじっと見つめてしまう。
「ろくなものを食べていなかったんだろ。今後はなんか栄養の摂れそうなものを作ってやる」
当然のようにジェロルドは言うが、ラウルの中では「嬉しい」よりも「申し訳ない」という感情が勝つ。
ただでさえ拾ってもらってけがを治療してもらったのだ。これ以上世話になることは避けたい。
ラウルの申し訳なさは、ジェロルドに伝わっていたらしい。彼は大きな手のひらをラウルの頭にぽんっと載せる。
「わっ」
そのままわしゃわしゃと彼の手がラウルの頭を撫でまわす。
「いいんだよ。――ラウル」
「ラウル」と呼ぶジェロルドの声は甘くて優しい。
自身の頬に熱が溜まるような感覚に襲われたラウルは、彼から視線を逸らすのが精いっぱいだった。
「どうせ元気になるまでの間だけだしな。自炊の経験は、お前がいなくなっても役に立つし」
ジェロルドの言葉はラウルの罪悪感を消すものだったのだろう。
彼の思惑通り、ラウルの心の中に鎮座していた申し訳なさが薄れていく。
「ただ俺は今まで自炊をしたことがなくてな。不味くても文句は言うなよ」
一応とばかりに予防線を張る彼の表情は、にんまりとした悪い笑みだ。悪い笑みは不思議と彼の顔にマッチしていて、危険な男というイメージを与えてくる。
こんなにも優しい人なのに――。
「文句は言いません。僕は居候させてもらう立場ですから」
ご飯を食べさせてもらい、眠る場所を提供してもらう。それだけでありがたいのに、味など贅沢は言ってはならない。
(食べられるだけでありがたいんだ)
餓死を避けることが出来るだけで、本当に礼を言うべきである。
ラウルの頭の中には『拝む』という選択肢さえ生まれてくる。
「あぁ、そうだな。けど、俺も食うしできればうまい飯を作りたいよなぁ」
ジェロルドはパンをかじってつぶやいた。
「それは追々でいいか。ラウル、今傷は痛むか?」
問いかけに首を横に振る。痛みはない。苦しさもない。
「じゃあ、なにか欲しいものとかは?」
――どうしてこの人は、ラウルにここまで好待遇なのだろうか?
一瞬疑問が浮かんだが、きっとけがをしているラウルを見捨てることが出来ないだけだ。
「不躾なお願いをしてもいいですか?」
おずおずと手を挙げて、ラウルは口を開いた。
今、不意に思ったことがあったのだ。
「なんだ」
「鏡が欲しいです」
ジェロルドの目を見てはっきりと望みを口にする。彼は「鏡?」と怪訝そうに繰り返す。
「はい。僕自身の顔を見たら、なにか思い出すんじゃないかって、思って」
先ほどまでは戸惑いや空腹のほうが強く、思考がぼんやりとしていた。
今は空腹がなくなり、思考が少しずつではあるが動き出したのがラウル自身にもわかる。
ラウルの言葉を聞いたジェロルドは、すぐに「わかった」と言ってくれる。
「別の部屋にあるから取ってくる。お前は食事を続けてろ」
彼はそれだけを言い残し、部屋を立ち去る。
ジェロルドが立ち去ると、室内はしんと静まり返った。ラウルはフォークを手に取って、肉料理に刺した。流れるように口に運ぶ。
この肉料理は少し硬い。噛みちぎるのも大変だ。
「――美味しい」
自然と一口、もう一口と肉料理を食べる。
肉は硬い部分もあるが、柔らかい部分もあった。食べたことがない味だが、好みだ。
(記憶がないんだから、どんなものも食べたことがないようなものだよね)
いや、もしかしたら――ラウルは記憶がなくなる前も、この肉料理を食べたことがなかったのかもしれない。
それはただの勘でしかないが。
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