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第1部 第1章
従者の過去 4
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それから僕は、セラフィン殿下に連れられて、王城にある医務室に連れてこられた。
医務室にある椅子に僕を座らせると、彼は対面の椅子に腰を下ろして、にっこりと笑う。
「突然連れだしてしまって、悪いね」
セラフィン殿下にそう言われて、僕はぶんぶんと首を横に振る。
悪いなんて、滅相もない!
そもそも、あの場で僕はクビを宣告されていただけなのだし……。
「い、いえ、そんな、ことは……」
膝の上でぎゅっと手を握って、僕がそう返事をする。セラフィン殿下は、変わらずに笑っていらっしゃった。
「実は、少し前から話を聞いていたんだ」
「……えぇっと」
「キミは、クビを宣告されていたんだろう?」
悪気のない目で見つめられて、残酷な真実をぶつけられた。
なんだろうか。自分で思うのと、人に突き付けられるのと。攻撃力が全然違う。
そう思ったら、手にさらに力がこもった。
「あぁ、勘違いしないでくれ。俺は別に、からかっているわけではないから」
僕の態度を見て、慌ててフォローしてくださるセラフィン殿下。
……優しいお人なんだって、再認識。
(それに、多分僕をここに連れてきてくださったのも、僕が落ち着くようになんだろう……)
なんていうか、素晴らしいお人だ。人の上に立つべく生まれてきた……みたいな。
(最後に、セラフィン殿下とお話しできて、よかったな……)
心の奥底からそう思って、僕は立ち上がる。セラフィン殿下の目が、僕を射貫いた。
「その、ありがとう、ございました」
九十度のお辞儀をすれば、セラフィン殿下はきょとんとされていた。
きっと、彼にとっては当然のことをしたに過ぎないのだろう。気に留めることでもないのだと思う。
「……ルドルフ?」
「僕、人に優しくされたことが、あまりなくて。……セラフィン殿下に、気にかけていただけて、すごくうれしかったです」
顔を上げないまま、そう伝える。僕の、本当の気持ちを。
「……本当に、嬉しかったのです。だから、僕……えぇっと、その」
どういえば、彼が気を悪くしないで自分の気持ちを伝えられるのだろうか。
頭の中で言葉がぐるぐると回る中、セラフィン殿下が立ち上がられた。
そして、僕のほうに近づいて……その手を握る。
「そうか。……キミが嬉しく思ってくれるのならば、俺も嬉しいよ」
柔らかな微笑みを浮かべたセラフィン殿下は、眩しい。
そりゃあ、老若男女に人気があるお人だ。……こんなお人が統べる国ならば、今後も安泰だろう。
「ところで、ルドルフ。一つ、聞きたいことがあるんだが」
でも、ふとセラフィン殿下が真剣な面持ちで、そう言葉を発された。
……聞きたいこと。
「ぼ、僕に、答えられることなら……ば」
正直、僕みたいな末端の従者に答えられることなんてないと思う。
そう思いつつ、僕はセラフィン殿下のお顔を見つめる。彼が、ふっと口元を緩められた。
「今後、行く当てはあるのだろうか?」
「……え」
けど、彼の言葉は予想外もいいところで。僕は、間抜けにも口をぽかんと開けてしまう。
「いや、ふと気になっただけだ。キミは王城の使用人棟に住んでいるのだろう? 職を失えば、住む場所も失うのではないか……と、思ってな」
顔に純粋な心配を浮かべて、セラフィン殿下がそうおっしゃった。気にかけて、くださっているのだろう。
「そ、それは、ですね。……まぁ、しばらくは、適当に暮らそう、かなって」
しばらくは安い宿に泊まって、その後は路上暮らしかなぁ……と、思っていた。
が、その説明をセラフィン殿下にするわけにもいかず。僕は、視線を彷徨わせる。
(変な心配なんて、かけられないし……)
少し話してわかったけれど、セラフィン殿下は心配性だ。
僕のことで気を病んでしまわせるのは、申し訳ない。
「あ、もらったお給金は、ほとんど手をつけてないんです。なので、それでしばらくは……」
……しばらくと言っても、一ヶ月も無理だろうけれど。
心の中だけでそう付け足して、セラフィン殿下の様子を見つめる。
彼は、にこやかに笑っていた。
「そうか。では、キミさえよければ新しい仕事を斡旋したいと思う」
「……え」
しかし、予想外すぎる言葉がセラフィン殿下の口から飛び出した。
……斡旋? 新しい、仕事を?
「住み込みは可能だし、給金もいい。ボーナスも出るし、時々特別な仕事を任せられるだろうが、そのたびに臨時報酬も出る」
にこやかに笑われて、セラフィン殿下が破格の条件を申し出てくださる。
……え、危ない仕事、じゃ、ない、よね……?
「あ、危ないお仕事じゃあ……」
「王太子である俺が、そんな仕事を紹介するわけがないだろう」
まぁ、それもそうか。納得した。
「どうだろうか?」
セラフィン殿下はそうおっしゃるけれど、どんなお仕事なのか聞いていない今、返事をすることは出来ない。
……無礼、かもしれないけれど。セラフィン殿下を信頼していないと受け取られても仕方がないのだけれど。
「そ、その、業務内容は……」
恐る恐る、疑問を口にする。そうすれば、セラフィン殿下は「よくぞ聞いてくれました」とばかりの満面の笑みを浮かべられた。
ま、眩しい……!
「ルドルフ、キミを今日から俺の専属従者に任命する。ぜひとも、俺の身の回りの世話をしてくれ」
「……え」
伝えられた業務内容。それに、僕はすぐには反応を示すことが出来なかった。
医務室にある椅子に僕を座らせると、彼は対面の椅子に腰を下ろして、にっこりと笑う。
「突然連れだしてしまって、悪いね」
セラフィン殿下にそう言われて、僕はぶんぶんと首を横に振る。
悪いなんて、滅相もない!
そもそも、あの場で僕はクビを宣告されていただけなのだし……。
「い、いえ、そんな、ことは……」
膝の上でぎゅっと手を握って、僕がそう返事をする。セラフィン殿下は、変わらずに笑っていらっしゃった。
「実は、少し前から話を聞いていたんだ」
「……えぇっと」
「キミは、クビを宣告されていたんだろう?」
悪気のない目で見つめられて、残酷な真実をぶつけられた。
なんだろうか。自分で思うのと、人に突き付けられるのと。攻撃力が全然違う。
そう思ったら、手にさらに力がこもった。
「あぁ、勘違いしないでくれ。俺は別に、からかっているわけではないから」
僕の態度を見て、慌ててフォローしてくださるセラフィン殿下。
……優しいお人なんだって、再認識。
(それに、多分僕をここに連れてきてくださったのも、僕が落ち着くようになんだろう……)
なんていうか、素晴らしいお人だ。人の上に立つべく生まれてきた……みたいな。
(最後に、セラフィン殿下とお話しできて、よかったな……)
心の奥底からそう思って、僕は立ち上がる。セラフィン殿下の目が、僕を射貫いた。
「その、ありがとう、ございました」
九十度のお辞儀をすれば、セラフィン殿下はきょとんとされていた。
きっと、彼にとっては当然のことをしたに過ぎないのだろう。気に留めることでもないのだと思う。
「……ルドルフ?」
「僕、人に優しくされたことが、あまりなくて。……セラフィン殿下に、気にかけていただけて、すごくうれしかったです」
顔を上げないまま、そう伝える。僕の、本当の気持ちを。
「……本当に、嬉しかったのです。だから、僕……えぇっと、その」
どういえば、彼が気を悪くしないで自分の気持ちを伝えられるのだろうか。
頭の中で言葉がぐるぐると回る中、セラフィン殿下が立ち上がられた。
そして、僕のほうに近づいて……その手を握る。
「そうか。……キミが嬉しく思ってくれるのならば、俺も嬉しいよ」
柔らかな微笑みを浮かべたセラフィン殿下は、眩しい。
そりゃあ、老若男女に人気があるお人だ。……こんなお人が統べる国ならば、今後も安泰だろう。
「ところで、ルドルフ。一つ、聞きたいことがあるんだが」
でも、ふとセラフィン殿下が真剣な面持ちで、そう言葉を発された。
……聞きたいこと。
「ぼ、僕に、答えられることなら……ば」
正直、僕みたいな末端の従者に答えられることなんてないと思う。
そう思いつつ、僕はセラフィン殿下のお顔を見つめる。彼が、ふっと口元を緩められた。
「今後、行く当てはあるのだろうか?」
「……え」
けど、彼の言葉は予想外もいいところで。僕は、間抜けにも口をぽかんと開けてしまう。
「いや、ふと気になっただけだ。キミは王城の使用人棟に住んでいるのだろう? 職を失えば、住む場所も失うのではないか……と、思ってな」
顔に純粋な心配を浮かべて、セラフィン殿下がそうおっしゃった。気にかけて、くださっているのだろう。
「そ、それは、ですね。……まぁ、しばらくは、適当に暮らそう、かなって」
しばらくは安い宿に泊まって、その後は路上暮らしかなぁ……と、思っていた。
が、その説明をセラフィン殿下にするわけにもいかず。僕は、視線を彷徨わせる。
(変な心配なんて、かけられないし……)
少し話してわかったけれど、セラフィン殿下は心配性だ。
僕のことで気を病んでしまわせるのは、申し訳ない。
「あ、もらったお給金は、ほとんど手をつけてないんです。なので、それでしばらくは……」
……しばらくと言っても、一ヶ月も無理だろうけれど。
心の中だけでそう付け足して、セラフィン殿下の様子を見つめる。
彼は、にこやかに笑っていた。
「そうか。では、キミさえよければ新しい仕事を斡旋したいと思う」
「……え」
しかし、予想外すぎる言葉がセラフィン殿下の口から飛び出した。
……斡旋? 新しい、仕事を?
「住み込みは可能だし、給金もいい。ボーナスも出るし、時々特別な仕事を任せられるだろうが、そのたびに臨時報酬も出る」
にこやかに笑われて、セラフィン殿下が破格の条件を申し出てくださる。
……え、危ない仕事、じゃ、ない、よね……?
「あ、危ないお仕事じゃあ……」
「王太子である俺が、そんな仕事を紹介するわけがないだろう」
まぁ、それもそうか。納得した。
「どうだろうか?」
セラフィン殿下はそうおっしゃるけれど、どんなお仕事なのか聞いていない今、返事をすることは出来ない。
……無礼、かもしれないけれど。セラフィン殿下を信頼していないと受け取られても仕方がないのだけれど。
「そ、その、業務内容は……」
恐る恐る、疑問を口にする。そうすれば、セラフィン殿下は「よくぞ聞いてくれました」とばかりの満面の笑みを浮かべられた。
ま、眩しい……!
「ルドルフ、キミを今日から俺の専属従者に任命する。ぜひとも、俺の身の回りの世話をしてくれ」
「……え」
伝えられた業務内容。それに、僕はすぐには反応を示すことが出来なかった。
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