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第1章
①
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男爵領から三日三晩馬を走らせ、たどり着いた王都はすっかり様変わりしていた。
俺が住んでいた頃よりも活気にあふれた街を観察しつつ、ここ数日のことを思い出す。
(ヴィクトール殿下もついに二十歳か)
かつて弟子として剣術を教えていた王子殿下の顔を思い出し、頬を緩めた。
天使と言っても信じてしまいそうなほど、愛らしい少年だった。
初めはずっとおどおどとしていて、自分に自信がなさそうだった。それでも根気強く関わるにつれ、ヴィクトール殿下は俺に笑みを向けてくださるように。気が付けば信頼も寄せてもらえるようになり、指導役にとってこれ以上の名誉はないと思ったほどだ。
指導役を勤めていたのは二年にも満たない短い時期だったが、俺はヴィクトール殿下には人よりも思い入れがあると思っている。
そんな殿下が二十歳を迎え、誕生日パーティーを開く。しかも一指導係に過ぎない俺に招待状を送ってくださるなど、感激のあまり泣いてしまいそうだ。年を取ると、涙もろくてかなわないな。
(そういえば、ヴィクトール殿下もそろそろご結婚を考える時期だったか)
花嫁を選ぶパーティーの開催はいつ頃なのか。万が一ご結婚が決まっているのならば、ささやかだがご祝儀をお贈りしたい。
俺はのんきに考えつつ、馬の手綱を引きながら王都の街を歩くのだった。
◇◇◇
王城にたどり着くと、俺を出迎えたのはかつての部下の騎士だった。
「ラードルフさんもお変わりないようでなによりです」
イェロームという名の騎士は、俺を見て笑う。かつて任務の途中で大けがを負ったイェロームだが、どうやら無事復帰することが叶ったらしい。現在では副団長という地位についていると、笑いながら俺に話す。
「お前はいろいろと変わったようだがな」
「まぁ、そうですね」
昔のイェロームは他者とのコミュニケーションを避けるような男だった。
しかし、今はどうだろうか。明るく表情には笑みも浮かんでいる。部下からも慕われているようであり、人とはここまで変わることが出来るのかと感心するほどだ。
「全部、ラードルフさんのおかげです。今の俺があるのは、あなたのおかげだ」
「なにを言っているんだ。お前が努力したからだろう」
微笑みかけてくるイェロームの肩をたたきつつ、俺は豪快に笑う。
(こいつは俺にいい印象を持っていないはずなんだがな)
恨まれても仕方がない。好かれるわけがない。ただ、こいつが表面上だけでもコミュニケーションを円滑に取ることが出来るようになったなら、喜ばしいことだ。俺の存在価値もあったというものだろう。
「ラードルフさん」
イェロームが俺を見て頬を緩める。よく見るとこいつは美形なんだよなぁと感心して、気が付く。
「お前、結婚とかしてるのか?」
こいつは次男坊だから、必ず結婚しないといけないわけではない。ただ、世間体っていうのがある。
「いえ、独身です。気ままな独身貴族ライフを謳歌しています」
「そうか。俺と同じだな」
「……そうですね」
俺と一緒にされてしまったら、そりゃあ不満か。まだコイツは二十代なわけだし。
「お前は俺みたいになるなよ。手遅れになる前に、結婚したほうがいい」
最後に肩を一度だけたたく。イェロームが目を伏せたのがわかった。
「お、れは」
「――イェローム?」
ただならぬ雰囲気に、俺は気圧された。頬を引きつらせつつイェロームの名前を呼ぶと、やつの手が俺のほうに伸びてきて――。
「俺は、ラードルフさんのことが――」
ごくりとつばを飲んだ。イェロームの指先が、俺の頬に近づいて、爪先が肌をかすめようとしたところで――誰かがイェロームの手首をつかんだ。
俺が住んでいた頃よりも活気にあふれた街を観察しつつ、ここ数日のことを思い出す。
(ヴィクトール殿下もついに二十歳か)
かつて弟子として剣術を教えていた王子殿下の顔を思い出し、頬を緩めた。
天使と言っても信じてしまいそうなほど、愛らしい少年だった。
初めはずっとおどおどとしていて、自分に自信がなさそうだった。それでも根気強く関わるにつれ、ヴィクトール殿下は俺に笑みを向けてくださるように。気が付けば信頼も寄せてもらえるようになり、指導役にとってこれ以上の名誉はないと思ったほどだ。
指導役を勤めていたのは二年にも満たない短い時期だったが、俺はヴィクトール殿下には人よりも思い入れがあると思っている。
そんな殿下が二十歳を迎え、誕生日パーティーを開く。しかも一指導係に過ぎない俺に招待状を送ってくださるなど、感激のあまり泣いてしまいそうだ。年を取ると、涙もろくてかなわないな。
(そういえば、ヴィクトール殿下もそろそろご結婚を考える時期だったか)
花嫁を選ぶパーティーの開催はいつ頃なのか。万が一ご結婚が決まっているのならば、ささやかだがご祝儀をお贈りしたい。
俺はのんきに考えつつ、馬の手綱を引きながら王都の街を歩くのだった。
◇◇◇
王城にたどり着くと、俺を出迎えたのはかつての部下の騎士だった。
「ラードルフさんもお変わりないようでなによりです」
イェロームという名の騎士は、俺を見て笑う。かつて任務の途中で大けがを負ったイェロームだが、どうやら無事復帰することが叶ったらしい。現在では副団長という地位についていると、笑いながら俺に話す。
「お前はいろいろと変わったようだがな」
「まぁ、そうですね」
昔のイェロームは他者とのコミュニケーションを避けるような男だった。
しかし、今はどうだろうか。明るく表情には笑みも浮かんでいる。部下からも慕われているようであり、人とはここまで変わることが出来るのかと感心するほどだ。
「全部、ラードルフさんのおかげです。今の俺があるのは、あなたのおかげだ」
「なにを言っているんだ。お前が努力したからだろう」
微笑みかけてくるイェロームの肩をたたきつつ、俺は豪快に笑う。
(こいつは俺にいい印象を持っていないはずなんだがな)
恨まれても仕方がない。好かれるわけがない。ただ、こいつが表面上だけでもコミュニケーションを円滑に取ることが出来るようになったなら、喜ばしいことだ。俺の存在価値もあったというものだろう。
「ラードルフさん」
イェロームが俺を見て頬を緩める。よく見るとこいつは美形なんだよなぁと感心して、気が付く。
「お前、結婚とかしてるのか?」
こいつは次男坊だから、必ず結婚しないといけないわけではない。ただ、世間体っていうのがある。
「いえ、独身です。気ままな独身貴族ライフを謳歌しています」
「そうか。俺と同じだな」
「……そうですね」
俺と一緒にされてしまったら、そりゃあ不満か。まだコイツは二十代なわけだし。
「お前は俺みたいになるなよ。手遅れになる前に、結婚したほうがいい」
最後に肩を一度だけたたく。イェロームが目を伏せたのがわかった。
「お、れは」
「――イェローム?」
ただならぬ雰囲気に、俺は気圧された。頬を引きつらせつつイェロームの名前を呼ぶと、やつの手が俺のほうに伸びてきて――。
「俺は、ラードルフさんのことが――」
ごくりとつばを飲んだ。イェロームの指先が、俺の頬に近づいて、爪先が肌をかすめようとしたところで――誰かがイェロームの手首をつかんだ。
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