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第1章
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驚いて伸びてきた手のほうに視線を向けると、一人の男が立っていた。
――美しい男だった。
さらりとした短い金髪。人のよさそうな青色の目。
「ヴィクトール殿下?」
無意識のうちに懐かしい名前を口にした。男は俺の声を聞いて、笑った。
「ラードルフさん。お久しぶりです」
男――ヴィクトール殿下が俺のほうに一歩を踏み出し、俺の前に立つ。
あの頃は俺のほうが背丈が高かったのに、今では見上げる形になっている。不思議なものだ。
「またお会いできて光栄です。すっごく嬉しい」
もしも俺が女だったら頬を染めただろう。
容易に想像がつくほどに美しい王子スマイル。胸に手を当てて言葉をつむぐ姿はまさに少女の憧れの王子だ。
「殿下は……そうですね。結構変わりましたね」
輝かしい笑みをまっすぐに見ることが出来ず、俺は視線を彷徨わせる。
イェロームに助けを求めようとしたが、アイツはいつの間にかいなくなっていた。裏切者め。
「そうでしょうか? 成長したのは認めますが」
「成長なんてものじゃないですよ」
俺の記憶の中にあるヴィクトール殿下はか弱い少年のままだ。
目の前の男があのいたいけな少年だとは思えない。おどおどとしていた自信なさげな少年は、長い年月をかけ立派な王子に成長した。指導役としては喜ばしいことだ。
「昔はおどおどとしていて、自信なさげでしたのに」
口に馴染まない敬語を使って、ヴィクトール殿下と会話をする。ヴィクトール殿下は昔から俺が敬語が苦手だと知っているので、特になにかを言うことはなかった。素直に助かる。
「あの頃は、そうですね。俺もまだまだ未熟でしたから」
立ち振る舞いも、口調も。完全に王子だった。
もうあの頃のヴィクトール殿下はいないんだと実感すると、嬉しいような悲しいような。
国民としては喜ぶべきことなんだが、側にいた一人の師匠としては微妙だ。ちょっと、寂しい。
「けど、あの頃の俺も俺なんです。兄たちに劣等感を抱いて不貞腐れていた俺は、確かに必要だった」
「ヴィクトール殿下」
「だって、素敵な出会いをもたらしてくれましたから」
ヴィクトール殿下の目はきらきらと輝いている。まるで、恋する乙女みたいだ。
あぁ、そうか。――ヴィクトール殿下は恋をしているのだ。
「殿下には、お好きな人でもいるのですか?」
小さな悪戯のつもりだった。昔一緒に過ごした兄貴分と弟分のたわむれのようなものだ。
「え、えっと」
「ヴィクトール殿下のお目はきらきらと輝いている。恋をしている乙女のようだ」
さすがに言い方が悪かったか――?
なにも言わないヴィクトール殿下に向かって困ったような笑みを浮かべてしまう。彼は視線を彷徨わせた後、頷く。
「はい。俺にとっては大切な恋なのです」
「そうですか」
「初恋は叶わないと言いますが、俺は叶えてみせます。迷信は所詮迷信ですから」
俺的には、こんなにも美しく健気な王子が「好きだ」なんて言えばどんな人も落ちると思う。勝手な想像だが。
「そうですか。俺が言うのもなんですが、頑張ってくださいね。お祝いはお贈りしますよ」
「……ありがとうございます」
返事に間があったような気がする。でも、深く気にすることはしなかった。いきなりの言葉に驚いただけだろうから。
「もうじきパーティーも始まりますね。俺は着替えてきます」
先ほど話は通していて、着替えのために控室を借りることとなっていた。
俺が控室のほうに足を向けようとすると、手首をつかまれた。驚いて視線を向けると、ヴィクトール殿下が俺の手首をつかんでいる。
「殿下――?」
「――いえ、なんでもありません。どうぞ、ごゆっくり」
ヴィクトール殿下の目から一瞬光が消えたような気がする。
(いや、気のせいだな。今はとにかく着替えないと)
このときもっとヴィクトール殿下のことを見ていたら。
俺はあんなことをされずにすんだのだろうか――となどと思ったところで、後の祭りだ。
――美しい男だった。
さらりとした短い金髪。人のよさそうな青色の目。
「ヴィクトール殿下?」
無意識のうちに懐かしい名前を口にした。男は俺の声を聞いて、笑った。
「ラードルフさん。お久しぶりです」
男――ヴィクトール殿下が俺のほうに一歩を踏み出し、俺の前に立つ。
あの頃は俺のほうが背丈が高かったのに、今では見上げる形になっている。不思議なものだ。
「またお会いできて光栄です。すっごく嬉しい」
もしも俺が女だったら頬を染めただろう。
容易に想像がつくほどに美しい王子スマイル。胸に手を当てて言葉をつむぐ姿はまさに少女の憧れの王子だ。
「殿下は……そうですね。結構変わりましたね」
輝かしい笑みをまっすぐに見ることが出来ず、俺は視線を彷徨わせる。
イェロームに助けを求めようとしたが、アイツはいつの間にかいなくなっていた。裏切者め。
「そうでしょうか? 成長したのは認めますが」
「成長なんてものじゃないですよ」
俺の記憶の中にあるヴィクトール殿下はか弱い少年のままだ。
目の前の男があのいたいけな少年だとは思えない。おどおどとしていた自信なさげな少年は、長い年月をかけ立派な王子に成長した。指導役としては喜ばしいことだ。
「昔はおどおどとしていて、自信なさげでしたのに」
口に馴染まない敬語を使って、ヴィクトール殿下と会話をする。ヴィクトール殿下は昔から俺が敬語が苦手だと知っているので、特になにかを言うことはなかった。素直に助かる。
「あの頃は、そうですね。俺もまだまだ未熟でしたから」
立ち振る舞いも、口調も。完全に王子だった。
もうあの頃のヴィクトール殿下はいないんだと実感すると、嬉しいような悲しいような。
国民としては喜ぶべきことなんだが、側にいた一人の師匠としては微妙だ。ちょっと、寂しい。
「けど、あの頃の俺も俺なんです。兄たちに劣等感を抱いて不貞腐れていた俺は、確かに必要だった」
「ヴィクトール殿下」
「だって、素敵な出会いをもたらしてくれましたから」
ヴィクトール殿下の目はきらきらと輝いている。まるで、恋する乙女みたいだ。
あぁ、そうか。――ヴィクトール殿下は恋をしているのだ。
「殿下には、お好きな人でもいるのですか?」
小さな悪戯のつもりだった。昔一緒に過ごした兄貴分と弟分のたわむれのようなものだ。
「え、えっと」
「ヴィクトール殿下のお目はきらきらと輝いている。恋をしている乙女のようだ」
さすがに言い方が悪かったか――?
なにも言わないヴィクトール殿下に向かって困ったような笑みを浮かべてしまう。彼は視線を彷徨わせた後、頷く。
「はい。俺にとっては大切な恋なのです」
「そうですか」
「初恋は叶わないと言いますが、俺は叶えてみせます。迷信は所詮迷信ですから」
俺的には、こんなにも美しく健気な王子が「好きだ」なんて言えばどんな人も落ちると思う。勝手な想像だが。
「そうですか。俺が言うのもなんですが、頑張ってくださいね。お祝いはお贈りしますよ」
「……ありがとうございます」
返事に間があったような気がする。でも、深く気にすることはしなかった。いきなりの言葉に驚いただけだろうから。
「もうじきパーティーも始まりますね。俺は着替えてきます」
先ほど話は通していて、着替えのために控室を借りることとなっていた。
俺が控室のほうに足を向けようとすると、手首をつかまれた。驚いて視線を向けると、ヴィクトール殿下が俺の手首をつかんでいる。
「殿下――?」
「――いえ、なんでもありません。どうぞ、ごゆっくり」
ヴィクトール殿下の目から一瞬光が消えたような気がする。
(いや、気のせいだな。今はとにかく着替えないと)
このときもっとヴィクトール殿下のことを見ていたら。
俺はあんなことをされずにすんだのだろうか――となどと思ったところで、後の祭りだ。
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