20 / 25
第3章
⑥
しおりを挟む
教えろなんて言われても、答える筋合いもない。
顔を背けた。その態度をイェロームは『肯定』だと受け取ったらしい。
俺を抱きしめる腕の力が強くなる。
(こいつもさすがは騎士だな。力が強い)
骨がミシミシ言っているような気もする。鈍い痛みが身体中を襲っている――はずだ。
なのに、どうしてだろうか。俺はこの状況をどこか他人事のように見ていた。先ほどまでの苦しみがきれいさっぱり消えている。
この感覚は観劇――と言えば伝わるだろうか。俺は自分自身を客観視していた。しすぎていた。
「……どうして、そんな態度」
腹立たしいと言いたげな声をイェロームがあげた。
「俺の苦しみは、あなたにとってどうでもよかったってことですか」
イェロームの手が肩をつかんだ。
この光景を他人事のように捉える俺と、冷静さを欠いた俺が共存している。
まったくおかしな状態だ。
「……別に、どうでもいいわけじゃない」
静かに声をあげる。イェロームの双眸を見つめる。
「俺は俺自身の罪を忘れたことはなかった。そして、お前のことも」
俺の肩をつかむイェロームの手に、自分の手を重ねた。
「悪いのは全部俺だ。お前は悪くない」
淡々と告げた言葉にイェロームはうろたえた様子を見せた。
一瞬だけ眉間にしわを寄せ、苦しそうな表情を浮かべる。
「……お前の気が済むなら、俺はお前に殺されてもいい」
それだけのことをした自覚はある。
殺されることが償いならば。俺はこいつの殺意を間違いなく受け入れた。
でも、それではこいつは人殺しになってしまう。
「――なぁ、イェローム」
俺はイェロームの剣に視線を向けた。
「命は惜しくない。お前に殺されるのは当然だ」
場違いな笑みがこぼれた。
ただ、俺はこいつを――イェロームを人殺しにはしたくないのだ。
「自分勝手だってわかってる。けど、俺はお前に飼い殺しになどされたくない。それはお前を余計に苦しめるだけだとわかっているからな」
殿下も同じだ。
俺をここに閉じ込め、側に置いておく。殿下はこの行為を正当化し、安心している――ように、見せかけているだけだ。
全部、気づいてしまったのだ。
「あのとき、逃げたのが全部の始まりだったんだな。俺がするべきは、立場を辞すことではなく許してもらえるまで謝ることだった」
手を伸ばして、イェロームの剣のグリップに触れた。イェロームは咄嗟に身を引いた。
「なにをするつもりですか!」
「……お前を人殺しにしないためだ」
イェロームの目を見つめる。苦しそうな表情に、俺の胸がチクチクと痛んだ。
(結局、俺は自分が楽なほうに逃げたんだ。周りから責められるのが怖かった)
今更気づいても――遅いけどさ。
殿下やイェロームの情緒をめちゃくちゃにした責任を取るべきだろう。
「悪かったな、イェローム。お前から責められるのが、俺は怖かったんだ。だから、逃げた。何度謝っても許されることじゃない」
「……だったら!」
「すまない、申し訳ない。許してくれ。どれだけの言葉で気持ちを表せばお前の気が済むかわからない。だったら――もう」
選択肢は二つに一つ。
(殿下は怒るだろうな。けど、俺に執着し続けるよりきっと穏やかな人生を送ることができる)
そしていつかは俺を忘れてくれる。
信じている。俺の知る殿下は――あぁ見えて強いのだ。
(やはり、ここに来たときに自害しておくべきだった)
笑いがこみあげてくる。イェロームの双眸が動揺を宿している。
「最後にきちんと顔を見て謝ることができた。俺はもう、なにも思い残すことはない」
「……どうして、あなたはそんな――」
イェロームが叫ぼうとしたとき。部屋の扉が乱暴に開いた。視線を向けると、肩を揺らして息をする――殿下がいた。
水滴を滴らせた髪を掻きあげ、殿下は冷たい瞳で俺を見ていた。
顔を背けた。その態度をイェロームは『肯定』だと受け取ったらしい。
俺を抱きしめる腕の力が強くなる。
(こいつもさすがは騎士だな。力が強い)
骨がミシミシ言っているような気もする。鈍い痛みが身体中を襲っている――はずだ。
なのに、どうしてだろうか。俺はこの状況をどこか他人事のように見ていた。先ほどまでの苦しみがきれいさっぱり消えている。
この感覚は観劇――と言えば伝わるだろうか。俺は自分自身を客観視していた。しすぎていた。
「……どうして、そんな態度」
腹立たしいと言いたげな声をイェロームがあげた。
「俺の苦しみは、あなたにとってどうでもよかったってことですか」
イェロームの手が肩をつかんだ。
この光景を他人事のように捉える俺と、冷静さを欠いた俺が共存している。
まったくおかしな状態だ。
「……別に、どうでもいいわけじゃない」
静かに声をあげる。イェロームの双眸を見つめる。
「俺は俺自身の罪を忘れたことはなかった。そして、お前のことも」
俺の肩をつかむイェロームの手に、自分の手を重ねた。
「悪いのは全部俺だ。お前は悪くない」
淡々と告げた言葉にイェロームはうろたえた様子を見せた。
一瞬だけ眉間にしわを寄せ、苦しそうな表情を浮かべる。
「……お前の気が済むなら、俺はお前に殺されてもいい」
それだけのことをした自覚はある。
殺されることが償いならば。俺はこいつの殺意を間違いなく受け入れた。
でも、それではこいつは人殺しになってしまう。
「――なぁ、イェローム」
俺はイェロームの剣に視線を向けた。
「命は惜しくない。お前に殺されるのは当然だ」
場違いな笑みがこぼれた。
ただ、俺はこいつを――イェロームを人殺しにはしたくないのだ。
「自分勝手だってわかってる。けど、俺はお前に飼い殺しになどされたくない。それはお前を余計に苦しめるだけだとわかっているからな」
殿下も同じだ。
俺をここに閉じ込め、側に置いておく。殿下はこの行為を正当化し、安心している――ように、見せかけているだけだ。
全部、気づいてしまったのだ。
「あのとき、逃げたのが全部の始まりだったんだな。俺がするべきは、立場を辞すことではなく許してもらえるまで謝ることだった」
手を伸ばして、イェロームの剣のグリップに触れた。イェロームは咄嗟に身を引いた。
「なにをするつもりですか!」
「……お前を人殺しにしないためだ」
イェロームの目を見つめる。苦しそうな表情に、俺の胸がチクチクと痛んだ。
(結局、俺は自分が楽なほうに逃げたんだ。周りから責められるのが怖かった)
今更気づいても――遅いけどさ。
殿下やイェロームの情緒をめちゃくちゃにした責任を取るべきだろう。
「悪かったな、イェローム。お前から責められるのが、俺は怖かったんだ。だから、逃げた。何度謝っても許されることじゃない」
「……だったら!」
「すまない、申し訳ない。許してくれ。どれだけの言葉で気持ちを表せばお前の気が済むかわからない。だったら――もう」
選択肢は二つに一つ。
(殿下は怒るだろうな。けど、俺に執着し続けるよりきっと穏やかな人生を送ることができる)
そしていつかは俺を忘れてくれる。
信じている。俺の知る殿下は――あぁ見えて強いのだ。
(やはり、ここに来たときに自害しておくべきだった)
笑いがこみあげてくる。イェロームの双眸が動揺を宿している。
「最後にきちんと顔を見て謝ることができた。俺はもう、なにも思い残すことはない」
「……どうして、あなたはそんな――」
イェロームが叫ぼうとしたとき。部屋の扉が乱暴に開いた。視線を向けると、肩を揺らして息をする――殿下がいた。
水滴を滴らせた髪を掻きあげ、殿下は冷たい瞳で俺を見ていた。
64
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる