【完結】【R18】元騎士団長(32)、弟子として育てていた第三王子(20)をヤンデレにしてしまう

すめらぎかなめ

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第3章

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「ラードルフさん」

 聞いたこともないような低い声で俺を呼んだ殿下が、大股で近づいてくる。

 全身びしょ濡れなこともあり、部屋の絨毯が濡れ、色を変えていく。

「途中で引き返してきて、正解でした。……まさか、こんな野良犬が入っているなんて」

 殿下の青い双眸がイェロームを見据える。

 イェロームの視線がせわしなく動く。まさか、見つかるとは思わなかったのか。

「ここにきてしまった以上、生きて帰すことはできない」
「っ!」
「でも、全部覚悟の上でしょう」

 大きく息を吐いた殿下が、俺とイェロームの間に割り込んだ。無理やり引き離す。

「あなたの気持ちは、よくわかります。俺も一緒ですから」

 イェロームの胸をとんと押し、殿下が笑った。

「――けど、邪魔ですよね。危険人物は排除しなくちゃ」
「っ、随分なことを言ってくれますね、ヴィクトール殿下」
「えぇ、まぁ」

 にこりと笑った殿下に、イェロームがどんな感情を抱いたのかはわからない。

 やつは剣のグリップを握り、剣を引き抜いた。切っ先を殿下の喉元に突き付ける。

「イェローム!」
「殿下のほうが、目に余る行動をしていますよ。俺は彼を救いに来たんですから」

 刃が殿下の喉元の皮膚を軽く切った。

 赤い血が殿下の白い肌に流れていく。視線を奪われるほどに映える光景だった。

「くだらない。あなたと俺のやっていることは、まったく一緒でしょう」
「……な、にを」
「俺もあなたも、ラードルフさんの優しさにつけ込んでいるだけだ。同族だって言ってるんですよ」

 殿下の手が剣をつかんだ。手のひらが切れ、とめどなく血がにじみ出る。手首を伝い、血がぽたぽたと絨毯を汚した。

「自分のことを棚に上げて、まったくくだらない」
「……殿下、もう」
「言っておきますけど、俺は本気ですよ。お前みたいな中途半端な気持ちじゃない」

 青の双眸が細くなる。イェロームをじっと見る殿下の瞳には憎しみがこもっている。

 いや、憎しみだけじゃない。怒りに苦しみ――同情。様々な感情が混ざり合っている。

「俺は自分の行為が間違っていることくらい、理解していますよ。理解したうえで、やっているんです」

 とめどなく血が流れ、絨毯に落ちていく。

 殿下は表情一つ動かさない。あれは相当痛いだろうに。

「自分の欲望に忠実に行動して――破滅するんです。それが俺の望みだ」

 耳に届いた言葉を疑った。

「最後に彼と一緒にいたかっただけ。……それだけ」

 目の前の殿下の身体が震えている。

 その光景を見てしまうと、我慢できなかった。

 ――咄嗟に、殿下の背中を抱きしめていた。

(この人は、まだまだ幼い。小さな背中にたくさんの重圧を押し付けられて、辛かったよな)

 そりゃあ、あの頃の思い出を大切にするわけだ。

(人間とは醜い生き物だ。自分の昔の行動など忘れて、殿下にすり寄ったんだろう)

 殿下は真面目で、気づいたらがんじがらめになっていたんだと思う。

 ずっと一人ぼっちで、苦しかったんだろう。どうして俺は気づかなかったんだろうか。

「……殿下」

 俺の呼びかけに殿下はなにも言わなかった。

 しかし、続きを紡いだ。

「すみませんでした」
「……ラードルフさん」
「殿下はあの頃の俺を大切にしていた。……俺が大嫌いでたまらない、あの頃の俺を」

 イェロームの一件があってから、王都での生活は忘れたいことだった。思い出すのも嫌だった。

「もう、全部やめましょう。――おしまいです」

 顔をあげて、イェロームを見つめる。揺れる双眸に、笑いかけた。

「全部終わらせよう。こんな――戯れは」

 イェロームの手から力が抜けた。グリップを手放して、その場に崩れ落ちる。

 あの頃から俺たちは時を止めてしまっていた。

 だからこそ。

「――新しく、やり直せばいいんですよ」

 今から新しく、やり直せばいい。

 あの頃のことを、『過去』に昇華して。

 窓の外では鳥が鳴いている。先ほどまでの雷雨が嘘のように晴れ渡っていた。
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