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第4章
帰還
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翌日。太陽が昇る前から、シャノンはニールに連れられ移動した。
腰を抱かれ、周囲から隠れるように移動する。そして、人通りの比較的多い通りに来ると、彼はシャノンの腰から腕を離す。
「……ここまでだ」
どうやら、彼とはここでお別れらしい。
胸がずきずきと痛むような感覚に陥りつつも、シャノンは気丈にニールを見つめた。
(結局、嫌いにはなれなかったわ……)
彼はどう頑張ってもシャノンを乱暴には扱ってくれなかった。その所為で、シャノンはニールを嫌いになることが出来なかった。
そっと顔を上げれば、ニールが目深にかぶった帽子のつばを下げる。
「じゃあな、シャノン。……もう、二度と会うことがないことを、願っておくよ」
ニールはそれだけを言って、シャノンをこの場において踵を返す。彼のその様子を、シャノンはぼんやりと見送る。
(……ニール様)
彼の後ろ姿は、本当にフェリクスにそっくりだった。
だからなのか。いや、違う。
今のシャノンは――ニール・スレイドという男に、惹かれているのだ。
ぐっと下唇を噛んでいれば、不意に遠くから「シャノン……?」という声が聞こえてきた。
「……おとう、さま?」
そちらにゆっくりと視線を向けると、そこには一人の男性がいた。彼の側には、屈強な男たちが待機している。
「シャノン、無事、だったのか……」
彼――ジョナス・マレットはそう言いながらシャノンの方に大股で近づいてくる。その鋭い橙色の目の奥が、揺れている。
それに驚いていれば、シャノンの身体はジョナスによって抱きしめられていた。……かすかに香るのは、煙の臭い。
「……お父様、どうして、ここに?」
シャノンが今日解放されることは、革命軍の面々には伝わっていないはずだ。むしろ、捕虜として捕らえられている。もしくは、殺されていてもおかしくないと思っていただろうに。
そう思い目をぱちぱちと瞬かせていれば、近くにいた男の一人がシャノンに視線を向けてくる。
「あぁ、シャノン嬢。……実は、タレコミがありましてねぇ」
彼はそう言いながらシャノンに一枚の紙きれを見せてきた。
そこには、今日の日付。そして、ここに来ればシャノンを解放すると言う趣旨の文字が書かれていた。
「マレット伯には一応俺らが行くんで……と言ったんですけれど……」
彼がジョナスを見つめ、困ったように笑う。……どうやら、ジョナスはシャノンを直々に迎えに来たらしい。
「あぁ、シャノン。その顔をもっと見せてくれ。……よかった、本当に、よかった……」
ジョナスがシャノンの頬に手を当て、そう言ってくる。普段は厳格なジョナスではあるが、目元を緩めてシャノンを見つめるそれは、間違いなく親の顔だった。
「お前が攫われたと聞いたときは、生きた心地がしなかったんだ……」
「……ごめんなさい」
「いや、お前が謝ることじゃない」
シャノンの謝罪を一蹴し、ジョナスは遠くを見つめる。そこには、少し崩れかけた王城があった。
シャノンの肩を掴むジョナスの手に、力がこもる。きっと、怒っているのだ。
「……これは、私独自の感情だが、娘を危険にさらされて、ただで済ませるわけにはいかないんだよ」
ジョナスのその声は、露骨に震えていた。なので、シャノンはハッとしてジョナスの顔を見る。
彼の顔には、強い怒りが宿っているようだった。
「シャノン」
「……はい」
「とりあえず、帰ろう。そこで、一旦作戦を練る」
その言葉に、シャノンはこくんと首を縦に振る。
そうすれば、ジョナスはシャノンの身体を解放してくれた。
(でも、驚くほど人のぬくもりが恋しくないわ……)
きっと、それはニールがシャノンに優しく接してくれたからだろう。それは、すぐに想像が出来た。
「シャノン?」
シャノンが一人で考え込んでいたからなのか、ジョナスが少し怪訝そうな表情でシャノンの顔を見つめる。
そのため、シャノンはハッとしてゆるゆると首を横に振った。
「いえ、何でもないの。……ただ、少し思いをはせていただけ」
「……そうか」
彼はシャノンの言葉を一体どういう風に受け取ったのだろうか?
それはいまいちよく分からないが、多分シャノンの思っている通りには伝わっていないだろう。
(ニール様)
彼に触れられた箇所が熱くて、疼く。彼にもっと触れてほしくて、愛してほしかった。
嫌いになりたくてした行為なのに、逆にニールに対して恋しさを覚えてしまった。……苦笑しか、こみあげてこない。
(ダメよ。私は革命軍の人間。対するニール様は……王国軍の人間、それも将軍なのだから)
どう頑張っても、二人が結ばれる未来はない。きっと、どちらかが亡くなるまで――この戦いは、続いてしまうだろうから。
そんな風に思うし、それはシャノンとて痛いほどにわかっている。わかっているのに――やはり、簡単には割り切れない。
二人とも無事な未来を、模索してしまいそうになる。
(結ばれ、たいの……)
初恋は無残にも散った。そして今――二度目の恋も、無残にも散ってしまっている。でも、今ならばまだ散った花びらを集めることで修復できるような気がしてしまったのだ。
それがきっと、あきらめきれない原因。
腰を抱かれ、周囲から隠れるように移動する。そして、人通りの比較的多い通りに来ると、彼はシャノンの腰から腕を離す。
「……ここまでだ」
どうやら、彼とはここでお別れらしい。
胸がずきずきと痛むような感覚に陥りつつも、シャノンは気丈にニールを見つめた。
(結局、嫌いにはなれなかったわ……)
彼はどう頑張ってもシャノンを乱暴には扱ってくれなかった。その所為で、シャノンはニールを嫌いになることが出来なかった。
そっと顔を上げれば、ニールが目深にかぶった帽子のつばを下げる。
「じゃあな、シャノン。……もう、二度と会うことがないことを、願っておくよ」
ニールはそれだけを言って、シャノンをこの場において踵を返す。彼のその様子を、シャノンはぼんやりと見送る。
(……ニール様)
彼の後ろ姿は、本当にフェリクスにそっくりだった。
だからなのか。いや、違う。
今のシャノンは――ニール・スレイドという男に、惹かれているのだ。
ぐっと下唇を噛んでいれば、不意に遠くから「シャノン……?」という声が聞こえてきた。
「……おとう、さま?」
そちらにゆっくりと視線を向けると、そこには一人の男性がいた。彼の側には、屈強な男たちが待機している。
「シャノン、無事、だったのか……」
彼――ジョナス・マレットはそう言いながらシャノンの方に大股で近づいてくる。その鋭い橙色の目の奥が、揺れている。
それに驚いていれば、シャノンの身体はジョナスによって抱きしめられていた。……かすかに香るのは、煙の臭い。
「……お父様、どうして、ここに?」
シャノンが今日解放されることは、革命軍の面々には伝わっていないはずだ。むしろ、捕虜として捕らえられている。もしくは、殺されていてもおかしくないと思っていただろうに。
そう思い目をぱちぱちと瞬かせていれば、近くにいた男の一人がシャノンに視線を向けてくる。
「あぁ、シャノン嬢。……実は、タレコミがありましてねぇ」
彼はそう言いながらシャノンに一枚の紙きれを見せてきた。
そこには、今日の日付。そして、ここに来ればシャノンを解放すると言う趣旨の文字が書かれていた。
「マレット伯には一応俺らが行くんで……と言ったんですけれど……」
彼がジョナスを見つめ、困ったように笑う。……どうやら、ジョナスはシャノンを直々に迎えに来たらしい。
「あぁ、シャノン。その顔をもっと見せてくれ。……よかった、本当に、よかった……」
ジョナスがシャノンの頬に手を当て、そう言ってくる。普段は厳格なジョナスではあるが、目元を緩めてシャノンを見つめるそれは、間違いなく親の顔だった。
「お前が攫われたと聞いたときは、生きた心地がしなかったんだ……」
「……ごめんなさい」
「いや、お前が謝ることじゃない」
シャノンの謝罪を一蹴し、ジョナスは遠くを見つめる。そこには、少し崩れかけた王城があった。
シャノンの肩を掴むジョナスの手に、力がこもる。きっと、怒っているのだ。
「……これは、私独自の感情だが、娘を危険にさらされて、ただで済ませるわけにはいかないんだよ」
ジョナスのその声は、露骨に震えていた。なので、シャノンはハッとしてジョナスの顔を見る。
彼の顔には、強い怒りが宿っているようだった。
「シャノン」
「……はい」
「とりあえず、帰ろう。そこで、一旦作戦を練る」
その言葉に、シャノンはこくんと首を縦に振る。
そうすれば、ジョナスはシャノンの身体を解放してくれた。
(でも、驚くほど人のぬくもりが恋しくないわ……)
きっと、それはニールがシャノンに優しく接してくれたからだろう。それは、すぐに想像が出来た。
「シャノン?」
シャノンが一人で考え込んでいたからなのか、ジョナスが少し怪訝そうな表情でシャノンの顔を見つめる。
そのため、シャノンはハッとしてゆるゆると首を横に振った。
「いえ、何でもないの。……ただ、少し思いをはせていただけ」
「……そうか」
彼はシャノンの言葉を一体どういう風に受け取ったのだろうか?
それはいまいちよく分からないが、多分シャノンの思っている通りには伝わっていないだろう。
(ニール様)
彼に触れられた箇所が熱くて、疼く。彼にもっと触れてほしくて、愛してほしかった。
嫌いになりたくてした行為なのに、逆にニールに対して恋しさを覚えてしまった。……苦笑しか、こみあげてこない。
(ダメよ。私は革命軍の人間。対するニール様は……王国軍の人間、それも将軍なのだから)
どう頑張っても、二人が結ばれる未来はない。きっと、どちらかが亡くなるまで――この戦いは、続いてしまうだろうから。
そんな風に思うし、それはシャノンとて痛いほどにわかっている。わかっているのに――やはり、簡単には割り切れない。
二人とも無事な未来を、模索してしまいそうになる。
(結ばれ、たいの……)
初恋は無残にも散った。そして今――二度目の恋も、無残にも散ってしまっている。でも、今ならばまだ散った花びらを集めることで修復できるような気がしてしまったのだ。
それがきっと、あきらめきれない原因。
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