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第4章
確信、説得
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「それは、本当なのですか?」
一人の男性が、ジョナスにそう問いかける。その言葉を聞いたシャノンはハッとしてジョナスを見つめた。
彼は、ただ無言でうなずいた。
(……ということは、まさか――)
シャノンの中で、一つの仮説が生まれる。
もしかしたら――いや、間違いない。
ニール・スレイドはフェリクス・ジェフリーなのだ。
(そうよ。いくらそっくりとは言っても、あそこまでそっくりなわけがないのよ……!)
彼の顔だけじゃない。背丈も、声も。それこそ――すべてが。彼を構成するすべてがフェリクスだった。
ただ唯一、目の色が違うだけ。
(目の色が違うのは、きっと何かがあったのだわ。そう、信じるしかない)
そう思い、シャノンがぎゅっと手のひらを握る。
そんなシャノンをキースがそっと見つめる。……彼の表情は、何処となくやるせなさのようなものが宿っているようだった。
「というわけだ。フェリクス殿下が何処にいらっしゃるかは、現状不明だ。だが、我々にとっての希望になることは、間違いない」
ジョナスのその宣言に、革命軍の面々が頷いた。
フェリクスは、唯一まともな王族だった。つまり、彼が生きていればこの国はまだ建て直すことが出来るのだ。
完全な崩壊を前にして、建て直す。それが出来るのならば、ゼロから国を作り上げるよりも、労力は少ない。
「全力でフェリクス殿下の捜索に当たれ。……それが、我々にできる唯一のことだ」
ジョナスはそう言って言葉を打ち切った。
だからこそ、シャノンはニールのことを進言しようとする。……だけど。
(でも、お父様が、信じてくださるとは限らないわ)
ニールがフェリクスだなんて。目の色が違うのだから、違う人物だと思うのが当然なのだ。
それに、証拠がない。シャノンの記憶だけでは、頼りないのは間違いない。
(……ニール様、いいえ、フェリクス殿下っ……)
どうすれば、どうすれば彼を救えるのだろうか?
頭の中がぐるぐると回って、必死に考える。けれど、答えは何一つとして出てこない。
「シャノン……」
ぐっと唇をかみしめていれば、ふと隣でキースが名前を呼んだのがわかった。
そのため、キースの方に視線を向ける。彼は、その目に不安を宿していた。
「……マレット伯」
かと思えば、キースはジョナスを呼ぶ。その言葉を聞いたためか、ジョナスがキースに視線を向けた。
「シャノンが、何か言いたいことがあるようです」
「……キース」
ジョナスの視線がシャノンに注がれる。
なので、シャノンはキースを恨みがましく見つめた。まだ、覚悟が決まっていなかったというのに。
「シャノン。言わなくちゃ、何も始まらないよ。大丈夫だよ。……僕は、何があってもシャノンを信じるから」
彼の力強い眼差しが、シャノンを射貫く。その所為なのか、シャノンは無意識のうちにごくりと息を呑んだ。
キースの目が、語れと言っている。
(そうよ。私には、真実を知る権利があるはずだわ)
それは、間違いないはずなのだ。だって、シャノンはいわば被害者なのだから。
「お父様」
そう思うからこそ、真剣な声音でジョナスのことを呼ぶ。彼は、眉間にしわを寄せていた。が、その目はシャノンに続けろと語っていた。
「先ほど申し上げました、ニール・スレイドという男性のことなのですが」
「……あぁ」
「私の予測が正しければ、彼がフェリクス・ジェフリー殿下だと思われます」
ジョナスをまっすぐに見つめて、シャノンが言い切る。
すると、ジョナスが目を見開いた。ジョナスだけではない、キースも。それこそ、ここにいる全員が目を見開いているはずだ。
「証拠は」
やはり、求められると思った。しかし、証拠などない。
「証拠は、ありません」
はっきりと、しっかりと。そう言い切る。だからなのだろうか、ジョナスが額を押さえる。
「話にならん。証拠がないと――」
そりゃそうだ。それは、わかる。そもそも、ジョナスはシャノンの父である以上に革命軍のリーダーなのだ。娘の意見を優先することは許されない立場である。
「それは、重々承知の上です」
だけど、今は引いちゃダメだ。引いてしまったら――もう二度と、ニールに。フェリクスに、会えなくなってしまうだろうから。
「ですが、私はそう思います。……ニール様とフェリクス殿下の容姿は、目の色以外そっくりなのです」
「……では、その目の色についてはどう説明をする」
ジョナスの鋭い視線がシャノンを射貫く。
この世に目の色を変える術などない。それすなわち――目の色とは生まれ持ったままということ。
「それは……その。なにかがあったとしか、答えられません」
視線を下げて、シャノンはそう言う。その声は徐々にしぼんでいく。
周囲の視線が、シャノンに集中している。それを理解しつつも、シャノンはぐっと手のひらを握った。
「でも、ですが」
「……シャノン」
「私は、彼とかかわって確信しました。あのお方は、フェリクス殿下です。……私が、私が保証します!」
もう、そう言うことしか出来なかった。
これで信じてもらえなければ、どうやっても信じてもらえないだろう。
(信じてもらえないのならば、私だけでも、フェリクス殿下をお救いする)
きっと彼が王国軍に身を置いているのも、名前を偽っているのも。訳があるのだ。
そう、シャノンは信じている。
一人の男性が、ジョナスにそう問いかける。その言葉を聞いたシャノンはハッとしてジョナスを見つめた。
彼は、ただ無言でうなずいた。
(……ということは、まさか――)
シャノンの中で、一つの仮説が生まれる。
もしかしたら――いや、間違いない。
ニール・スレイドはフェリクス・ジェフリーなのだ。
(そうよ。いくらそっくりとは言っても、あそこまでそっくりなわけがないのよ……!)
彼の顔だけじゃない。背丈も、声も。それこそ――すべてが。彼を構成するすべてがフェリクスだった。
ただ唯一、目の色が違うだけ。
(目の色が違うのは、きっと何かがあったのだわ。そう、信じるしかない)
そう思い、シャノンがぎゅっと手のひらを握る。
そんなシャノンをキースがそっと見つめる。……彼の表情は、何処となくやるせなさのようなものが宿っているようだった。
「というわけだ。フェリクス殿下が何処にいらっしゃるかは、現状不明だ。だが、我々にとっての希望になることは、間違いない」
ジョナスのその宣言に、革命軍の面々が頷いた。
フェリクスは、唯一まともな王族だった。つまり、彼が生きていればこの国はまだ建て直すことが出来るのだ。
完全な崩壊を前にして、建て直す。それが出来るのならば、ゼロから国を作り上げるよりも、労力は少ない。
「全力でフェリクス殿下の捜索に当たれ。……それが、我々にできる唯一のことだ」
ジョナスはそう言って言葉を打ち切った。
だからこそ、シャノンはニールのことを進言しようとする。……だけど。
(でも、お父様が、信じてくださるとは限らないわ)
ニールがフェリクスだなんて。目の色が違うのだから、違う人物だと思うのが当然なのだ。
それに、証拠がない。シャノンの記憶だけでは、頼りないのは間違いない。
(……ニール様、いいえ、フェリクス殿下っ……)
どうすれば、どうすれば彼を救えるのだろうか?
頭の中がぐるぐると回って、必死に考える。けれど、答えは何一つとして出てこない。
「シャノン……」
ぐっと唇をかみしめていれば、ふと隣でキースが名前を呼んだのがわかった。
そのため、キースの方に視線を向ける。彼は、その目に不安を宿していた。
「……マレット伯」
かと思えば、キースはジョナスを呼ぶ。その言葉を聞いたためか、ジョナスがキースに視線を向けた。
「シャノンが、何か言いたいことがあるようです」
「……キース」
ジョナスの視線がシャノンに注がれる。
なので、シャノンはキースを恨みがましく見つめた。まだ、覚悟が決まっていなかったというのに。
「シャノン。言わなくちゃ、何も始まらないよ。大丈夫だよ。……僕は、何があってもシャノンを信じるから」
彼の力強い眼差しが、シャノンを射貫く。その所為なのか、シャノンは無意識のうちにごくりと息を呑んだ。
キースの目が、語れと言っている。
(そうよ。私には、真実を知る権利があるはずだわ)
それは、間違いないはずなのだ。だって、シャノンはいわば被害者なのだから。
「お父様」
そう思うからこそ、真剣な声音でジョナスのことを呼ぶ。彼は、眉間にしわを寄せていた。が、その目はシャノンに続けろと語っていた。
「先ほど申し上げました、ニール・スレイドという男性のことなのですが」
「……あぁ」
「私の予測が正しければ、彼がフェリクス・ジェフリー殿下だと思われます」
ジョナスをまっすぐに見つめて、シャノンが言い切る。
すると、ジョナスが目を見開いた。ジョナスだけではない、キースも。それこそ、ここにいる全員が目を見開いているはずだ。
「証拠は」
やはり、求められると思った。しかし、証拠などない。
「証拠は、ありません」
はっきりと、しっかりと。そう言い切る。だからなのだろうか、ジョナスが額を押さえる。
「話にならん。証拠がないと――」
そりゃそうだ。それは、わかる。そもそも、ジョナスはシャノンの父である以上に革命軍のリーダーなのだ。娘の意見を優先することは許されない立場である。
「それは、重々承知の上です」
だけど、今は引いちゃダメだ。引いてしまったら――もう二度と、ニールに。フェリクスに、会えなくなってしまうだろうから。
「ですが、私はそう思います。……ニール様とフェリクス殿下の容姿は、目の色以外そっくりなのです」
「……では、その目の色についてはどう説明をする」
ジョナスの鋭い視線がシャノンを射貫く。
この世に目の色を変える術などない。それすなわち――目の色とは生まれ持ったままということ。
「それは……その。なにかがあったとしか、答えられません」
視線を下げて、シャノンはそう言う。その声は徐々にしぼんでいく。
周囲の視線が、シャノンに集中している。それを理解しつつも、シャノンはぐっと手のひらを握った。
「でも、ですが」
「……シャノン」
「私は、彼とかかわって確信しました。あのお方は、フェリクス殿下です。……私が、私が保証します!」
もう、そう言うことしか出来なかった。
これで信じてもらえなければ、どうやっても信じてもらえないだろう。
(信じてもらえないのならば、私だけでも、フェリクス殿下をお救いする)
きっと彼が王国軍に身を置いているのも、名前を偽っているのも。訳があるのだ。
そう、シャノンは信じている。
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