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第4章
キースがもたらしたもの
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「……キース」
シャノンの唇が、キースの名前を呼ぶ。そうすれば、彼はまるでシャノンの無事を確かめるようにぎゅっと抱きしめてきた。
「シャノン。よかった、本当によかったよ……!」
キースはシャノンにとって、大切な幼馴染だ。彼は大切な妹を王家に殺され、それ故に革命軍に入った。
彼は両親とは死別しており、妹だけが唯一の肉親だったのだ。
「シャノンまでいなくなったら、僕はどうなるかわからなかったよ……」
「……そんな、大げさよ」
眉を下げてそう言うと、キースはシャノンの顔を見つめてきた。彼のその金色の目が醸し出す視線がシャノンを射貫く。
その視線が何処となく懐かしい。シャノンがそう思っていれば、不意にキースはふっと口元を緩めた。
その表情はとても優しそうで、かつ――とても、苦しそうだった。
「いいや、僕はシャノンのことを支えたいと思っていたんだ。それに、守りたいとも」
「……キース」
「でも、僕にはそれが出来なかった。……出来たのは、別の男だ」
何処となく呆れたような。でも、吹っ切れたような。そんな表情をキースが浮かべていた。
彼のこういう表情は、あまり見ないものだ。
「肝心なところで、僕はキミを守れなかった。取り戻しにも、行けなかった」
「いいえ、いいのよ」
「ううん、僕はずっと今後これを後悔して生きていくんだろうなって思ったよ。……ねぇ、シャノン」
キースがシャノンの頬に手を当てる。そして、彼の顔がどんどんシャノンに近づいてきた。
……どくん。
シャノンの心臓が、音を立てる。
(……口づけ、されそう)
そう思って、シャノンはキースとの顔の間に自身の手を挟んだ。その後、ゆるゆると首を横に振る。
「ごめんなさい。……私、は」
唇への口づけは、ニールにだけ許したい。今は、確かにそう思っている。
そんな意味を込めてシャノンがゆるゆると首を横に振っていれば、キースはシャノンから顔を離した。その後、笑う。
「ははっ、そうだろうね。……まぁ、大体検討はついていたよ」
キースはあっけらかんと笑うと、シャノンを解放する。かと思えば、シャノンの頬にちゅっと口づけてきた。
「頬へのキスくらいは、許してね」
苦笑を浮かべながら、彼がそう言う。確かに、幼馴染のじゃれ合いとして頬への口づけは何度も何度もしたものだ。だから、それくらいは許せるような気がした。
(ただ、唇へは、嫌なの……)
ニールがしてくれた口づけを、上書きしたくなかった。彼と結ばれるまで、いいや、彼と結ばれてからも。
シャノンが唇を許すのは、今後彼だけだと誓える。
「……ところで、キース。あなた、何処にいっていたの?」
そういえば。そう思い、シャノンはキースの目を見つめてそう問いかける。そうすれば、彼は思い出したようにハッとした。
「マレット伯は、キミのお父上はいるかい?」
「え、えぇ、奥にいるけれど……」
どうして彼はこんなにも焦っているのだろうか。
心の中でそう思いつつシャノンがきょとんとしていれば、奥からジョナスが顔を見せた。彼はキースの顔を見つめ、大きく頷く。
「あの情報は、確かだったか?」
ジョナスの問いかけの意味は、シャノンにはわからなかった。けれど、キースにはわかったらしい。彼はこくんと首を縦に振る。
「えぇ、確かなものでした」
キースが力強くそう答える。その言葉を聞いたためか、ジョナスは近くにある椅子に腰かけた。
「……そうか。あの情報は、確かだったのか」
そう呟いたかと思えば、ジョナスは水を口に運ぶ。そして、ちらりとシャノンを見つめてきた。だからこそ、シャノンはきょとんとしてしまう。
「……シャノン。朗報がある」
「……え」
この状況での朗報など、あるのだろうか?
そう思ってしまったシャノンを他所に、ジョナスはもう一度立ち上がると手をパンッとたたいた。
そうすれば、拠点にいた革命軍の面々が一斉にジョナスに視線を向けた。
「みんな。ちょっとした、知らせがある」
「……知らせ、ですか?」
「あぁ、これは我が革命軍にとって朗報ともいえることだ。……覚悟して、聞くように」
ジョナスのその言葉に、周囲にぴりりとした緊張が走った。シャノンも例にもれず一度だけ息を呑む。
「現国王ヘクター・ジェフリーの異母弟に当たるフェリクス・ジェフリー殿下のことは、覚えているな?」
「……っ」
思いもよらない名前に、シャノンが目を見開く。しかし、ジョナスはそんなことお構いなしとばかりに言葉を発した。
「そのフェリクス・ジェフリー殿下についてだが、とある筋からの情報で彼が生きているということを耳にした」
「……え」
それは一体、どういうことなのだ。
「そして、つい数日前からキースにいろいろと調べてもらっていた。その結果、フェリクス・ジェフリー殿下は実際に生きている。今もなお、この国に存在しているようだ」
高らかな声が紡いだ、シャノンにとって予想外の言葉。
(フェリクス殿下が、生きていらっしゃる……?)
死んだと思った初恋相手が、生きている。
予想だにしていなかったその言葉に、シャノンはただ呆然とすることしか出来なかった。
シャノンの唇が、キースの名前を呼ぶ。そうすれば、彼はまるでシャノンの無事を確かめるようにぎゅっと抱きしめてきた。
「シャノン。よかった、本当によかったよ……!」
キースはシャノンにとって、大切な幼馴染だ。彼は大切な妹を王家に殺され、それ故に革命軍に入った。
彼は両親とは死別しており、妹だけが唯一の肉親だったのだ。
「シャノンまでいなくなったら、僕はどうなるかわからなかったよ……」
「……そんな、大げさよ」
眉を下げてそう言うと、キースはシャノンの顔を見つめてきた。彼のその金色の目が醸し出す視線がシャノンを射貫く。
その視線が何処となく懐かしい。シャノンがそう思っていれば、不意にキースはふっと口元を緩めた。
その表情はとても優しそうで、かつ――とても、苦しそうだった。
「いいや、僕はシャノンのことを支えたいと思っていたんだ。それに、守りたいとも」
「……キース」
「でも、僕にはそれが出来なかった。……出来たのは、別の男だ」
何処となく呆れたような。でも、吹っ切れたような。そんな表情をキースが浮かべていた。
彼のこういう表情は、あまり見ないものだ。
「肝心なところで、僕はキミを守れなかった。取り戻しにも、行けなかった」
「いいえ、いいのよ」
「ううん、僕はずっと今後これを後悔して生きていくんだろうなって思ったよ。……ねぇ、シャノン」
キースがシャノンの頬に手を当てる。そして、彼の顔がどんどんシャノンに近づいてきた。
……どくん。
シャノンの心臓が、音を立てる。
(……口づけ、されそう)
そう思って、シャノンはキースとの顔の間に自身の手を挟んだ。その後、ゆるゆると首を横に振る。
「ごめんなさい。……私、は」
唇への口づけは、ニールにだけ許したい。今は、確かにそう思っている。
そんな意味を込めてシャノンがゆるゆると首を横に振っていれば、キースはシャノンから顔を離した。その後、笑う。
「ははっ、そうだろうね。……まぁ、大体検討はついていたよ」
キースはあっけらかんと笑うと、シャノンを解放する。かと思えば、シャノンの頬にちゅっと口づけてきた。
「頬へのキスくらいは、許してね」
苦笑を浮かべながら、彼がそう言う。確かに、幼馴染のじゃれ合いとして頬への口づけは何度も何度もしたものだ。だから、それくらいは許せるような気がした。
(ただ、唇へは、嫌なの……)
ニールがしてくれた口づけを、上書きしたくなかった。彼と結ばれるまで、いいや、彼と結ばれてからも。
シャノンが唇を許すのは、今後彼だけだと誓える。
「……ところで、キース。あなた、何処にいっていたの?」
そういえば。そう思い、シャノンはキースの目を見つめてそう問いかける。そうすれば、彼は思い出したようにハッとした。
「マレット伯は、キミのお父上はいるかい?」
「え、えぇ、奥にいるけれど……」
どうして彼はこんなにも焦っているのだろうか。
心の中でそう思いつつシャノンがきょとんとしていれば、奥からジョナスが顔を見せた。彼はキースの顔を見つめ、大きく頷く。
「あの情報は、確かだったか?」
ジョナスの問いかけの意味は、シャノンにはわからなかった。けれど、キースにはわかったらしい。彼はこくんと首を縦に振る。
「えぇ、確かなものでした」
キースが力強くそう答える。その言葉を聞いたためか、ジョナスは近くにある椅子に腰かけた。
「……そうか。あの情報は、確かだったのか」
そう呟いたかと思えば、ジョナスは水を口に運ぶ。そして、ちらりとシャノンを見つめてきた。だからこそ、シャノンはきょとんとしてしまう。
「……シャノン。朗報がある」
「……え」
この状況での朗報など、あるのだろうか?
そう思ってしまったシャノンを他所に、ジョナスはもう一度立ち上がると手をパンッとたたいた。
そうすれば、拠点にいた革命軍の面々が一斉にジョナスに視線を向けた。
「みんな。ちょっとした、知らせがある」
「……知らせ、ですか?」
「あぁ、これは我が革命軍にとって朗報ともいえることだ。……覚悟して、聞くように」
ジョナスのその言葉に、周囲にぴりりとした緊張が走った。シャノンも例にもれず一度だけ息を呑む。
「現国王ヘクター・ジェフリーの異母弟に当たるフェリクス・ジェフリー殿下のことは、覚えているな?」
「……っ」
思いもよらない名前に、シャノンが目を見開く。しかし、ジョナスはそんなことお構いなしとばかりに言葉を発した。
「そのフェリクス・ジェフリー殿下についてだが、とある筋からの情報で彼が生きているということを耳にした」
「……え」
それは一体、どういうことなのだ。
「そして、つい数日前からキースにいろいろと調べてもらっていた。その結果、フェリクス・ジェフリー殿下は実際に生きている。今もなお、この国に存在しているようだ」
高らかな声が紡いだ、シャノンにとって予想外の言葉。
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