【R18】悪魔な幼馴染から逃げ切る方法。

すめらぎかなめ

文字の大きさ
47 / 50
第4章

しおりを挟む
 顔をゆがめた俺の視界に映る奏輔は、唇の端をあげた。

「お前は馬鹿だよ。……だから、質の悪い男につけ込まれるんだ」

 こちらに身を乗り出してくる奏輔から逃れるように、後ずさった。

 ここでドアを開けて、飛び出すべきなのかもしれない。でも、できなかった。

 頭の片隅で、過去の俺がささやく。

 ――奏輔は、頼もしい兄貴分だと。

「そ、うすけ」

 奏輔の指先が俺の顎をすくいあげる。

 黒い瞳に射抜かれると、身体から力が抜けた。

「これはあくまでも提案だ。断ってくれてもいいよ」

 前置きをした奏輔が、俺の唇を親指でなぞった。そして、顔を近づけてくる。

 あと少し動いたら、唇が触れ合う。キスをしてしまう。

 緊張からごくりと生唾を呑み込んだ。

「祈、俺と恋人になろうよ。もちろん、結婚前提でね」

 耳に届いた言葉が信じられなかった。

 奏輔はゆっくり目を細めて、愛おしそうに俺の頬を撫でる。

「俺と結婚しようよ。俺、昔から祈のこといいなぁって思ってたんだ」

 背筋がぞわぞわとする。撫でられた個所が熱いのは、気のせいだろうか。

「冗談、きついって」

 目を逸らす。このまま奏輔を見ていると、頭がおかしくなりそうだ。

 それくらい、今の俺は冷静ではなかった。

「この場面で冗談なんて言うわけがない。……俺は本気だよ、祈」

 助手席のシートがぎしりと音を立てた。背中にドアが当たる。同時に、頭が窓ガラスとぶつかった。

「俺、これでも将来有望なんだ。俺と結婚したら、祈は一生苦労せずに過ごせると思うよ?」

 頭の中に流れ込んでくる奏輔の言葉は、まるで呪文だ。

 ――こちらに堕ちてこいと言っているみたいだった。

「ほしいものはなんでも用意する。だから、俺と結婚しよう」

 耳をふさごうとした。なのに、その手を奏輔に掴まれた。恋人のように指を絡め、窓ガラスに押し付けてくる。

「亜玲といるよりも、ずっと幸せにしてあげる。お前だって、あんな男は嫌だろう?」

 胸の奥がずきんと鈍く痛んだ。

 あれ、なんで俺、こんなに傷ついているんだろう。しかも、亜玲のことで……。

「それに、俺と結婚したら一種の復讐になる。亜玲に対する一番の復讐は、お前が亜玲の側から離れてしまうこと。そして、ほかの人間と結ばれることだ」

 知っている。それくらい――嫌というほど、知っている。

「祈は亜玲が嫌いなんだよね? だったら、いい条件だと思わない?」

 あくまでもこれは提案だと、奏輔は繰り返した。

 俺はうつむいて、黙り込む。頭の中がめちゃくちゃだ。

「――と、ちょっと突然すぎたかな。とにかく、食事に行こうよ。きっと、祈も気に入ってくれるから」

 奏輔は再度エンジンをつけて、車を走らせる。

 高速道路に乗り、あっという間に市外へと。しばらくして、隣の県に入ったとナビがアナウンスした。

「サービスエリア、寄りたかったら教えてね」
「……あぁ」

 とてもそっけない言葉になってしまった。

 しかし、仕方がないじゃないか。奏輔が変なことを言うから。変なことを――提案してくるから。

(奏輔はずるい。俺に強制してこない。あくまでも、俺が自主的に選んだことにしたいんだ)

 亜玲を拒み、奏輔と結婚する。きっと、今までの俺なら前向きに考えただろう。

 だけど――今の俺は、どうにも前向きに考えることができなかった。

(俺、亜玲を支えたい。助けたい。守りたいって思ってるんだよ……)

 どこか儚い亜玲を、俺は守りたい。おこがましいことだってわかっているのに。

(俺は馬鹿だし、お人好しだ。――どうがんばっても、亜玲のことを放っておくことができない)

 再度胸の中に芽生えた情は、膨らんでいく一方。消えてくれない。しぼんでくれない。

 自分の気持ちがわからない。それが、こんなに気持ち悪く感じたのは、生まれて初めてだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...