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第4章
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――上月 奏輔。
亜玲の異母兄で、上月の正当な後継者である男。
奏輔の母は、奏輔を産んで半年後に亡くなったらしい。そして、新しく上月家に嫁いできたのが亜玲の母だった。
世間一般の異母兄弟はどんな関係なのか。俺は知らないけど、上月家に関しては昔は悪くなかったと思う。
小さなころは亜玲と俺と奏輔で遊んでいた。しかし、成長するにつれ、亜玲は奏輔を疎むようになった。
気づくと遊ぶのはいつだって俺と亜玲だけ。そして――俺と亜玲も、疎遠になった。
幼少のころ仲が良かった三人は、いつの間にかバラバラになっていた。
運転する奏輔の横顔を眺める。真剣な面持ちの奏輔は、見る人が見たらとてもかっこいいんだろう。モテるはずだ。
けど、俺にとって奏輔は――。
「祈、俺のことじっと見て、なに?」
「……あ」
信号が赤になったタイミングで、奏輔が俺に視線を向けてくる。
慌てて窓のほうに顔を向けた。
「別に、今話さなくてもいいよ。今日はたくさん時間があるわけだし」
余裕たっぷりの奏輔は、なにを考えているのだろうか。
今も昔も、俺には奏輔の考えがなに一つわからなかった。
(奏輔はすごく優しかった。理想のお兄ちゃんだった)
俺にとっても、奏輔は『お兄ちゃん』だった。優しくて、頼もしくて。それが変わったのは、いつからだろう。
『――俺は奏輔を兄だなんて思ったことは一度もない!』
頭の中でいつかの亜玲の叫び声がこだまする。
瞳に憎しみを込めて、奏輔をにらんでいる。俺は二人の光景をどこか遠くから眺めていた。
『お前にとって俺は、相手にもならないレベルなんだよな。……いつも余裕たっぷりで、俺のこと見下してる』
亜玲のこぶしが震えている。唇をわなわなと震わせた亜玲が、吐き捨てる。
『――お前なんて、大嫌いだ』
地を這うような低い声だった。
あれはいったい――いつだったっけ。
(あのときの俺は、頭のどこかで楽観的に考えていて。どうせすぐに仲直りするって思ってた)
でも、数日経っても数週間経っても、数カ月経っても。なんなら何年経っても。二人の仲はこじれたまま。
その間に大学まで卒業した奏輔は、事業を手伝うために海外を転々とする暮らしになったのだ。
雨が降ってきたみたいだ。ぽつぽつと落ちてくる雨粒は、窓ガラスに落ちて視界を歪ませていく。
その光景をぼうっと見つめていると、頬になにかが触れた。
「奏輔」
「なにか考え事?」
奏輔がにこりと笑う。
「なにかあるなら、お兄さんに話してごらん。解決するかもよ?」
「……奏輔にだけは、話さない」
突き放すように冷たく言い放つと、奏輔は「ちぇ」と声をあげて、また運転に戻った。
先ほどまで奏輔の指が触れていた頬に触れる。感触を消すように軽く揉むと、運転席から笑い声が聞こえた。
「そんなに俺に触られるのがいや?」
「嫌っていうわけじゃない」
「嘘言うなって。思い切り顔に『いやです』って書いてあるから」
眉間にしわを寄せた。いやだってわかっているなら、触れなくてもいいじゃないか――という意味だ。
「そんな風に拒絶されたら、寂しいな。俺と祈の仲なのに」
「……どういう仲だよ」
なんてつぶやくと、車が右折し、コンビニの駐車場に止まった。
「深い意味はないよ。俺たちは幼馴染、それだけだろ?」
意味ありげに笑った奏輔が、ブレーキをかけてエンジンを切った。
そして、俺のほうに乗り出してくる。
「本当、お前ってバカだよねぇ」
「いきなり罵倒かよ」
「ごめんね。……けど、本当にバカだなって思って」
頭のどこかでこの状況が危険だと警告音が鳴っている。
それだけうるさく鳴らさなくてもわかっている。わかっているが……逃げる方法はわからない。
「俺がなにかするって思わなかったの?」
可愛らしく小首をかしげられた。しかし、全然可愛くない。むしろ、悪寒がするほど不気味だ。
亜玲の異母兄で、上月の正当な後継者である男。
奏輔の母は、奏輔を産んで半年後に亡くなったらしい。そして、新しく上月家に嫁いできたのが亜玲の母だった。
世間一般の異母兄弟はどんな関係なのか。俺は知らないけど、上月家に関しては昔は悪くなかったと思う。
小さなころは亜玲と俺と奏輔で遊んでいた。しかし、成長するにつれ、亜玲は奏輔を疎むようになった。
気づくと遊ぶのはいつだって俺と亜玲だけ。そして――俺と亜玲も、疎遠になった。
幼少のころ仲が良かった三人は、いつの間にかバラバラになっていた。
運転する奏輔の横顔を眺める。真剣な面持ちの奏輔は、見る人が見たらとてもかっこいいんだろう。モテるはずだ。
けど、俺にとって奏輔は――。
「祈、俺のことじっと見て、なに?」
「……あ」
信号が赤になったタイミングで、奏輔が俺に視線を向けてくる。
慌てて窓のほうに顔を向けた。
「別に、今話さなくてもいいよ。今日はたくさん時間があるわけだし」
余裕たっぷりの奏輔は、なにを考えているのだろうか。
今も昔も、俺には奏輔の考えがなに一つわからなかった。
(奏輔はすごく優しかった。理想のお兄ちゃんだった)
俺にとっても、奏輔は『お兄ちゃん』だった。優しくて、頼もしくて。それが変わったのは、いつからだろう。
『――俺は奏輔を兄だなんて思ったことは一度もない!』
頭の中でいつかの亜玲の叫び声がこだまする。
瞳に憎しみを込めて、奏輔をにらんでいる。俺は二人の光景をどこか遠くから眺めていた。
『お前にとって俺は、相手にもならないレベルなんだよな。……いつも余裕たっぷりで、俺のこと見下してる』
亜玲のこぶしが震えている。唇をわなわなと震わせた亜玲が、吐き捨てる。
『――お前なんて、大嫌いだ』
地を這うような低い声だった。
あれはいったい――いつだったっけ。
(あのときの俺は、頭のどこかで楽観的に考えていて。どうせすぐに仲直りするって思ってた)
でも、数日経っても数週間経っても、数カ月経っても。なんなら何年経っても。二人の仲はこじれたまま。
その間に大学まで卒業した奏輔は、事業を手伝うために海外を転々とする暮らしになったのだ。
雨が降ってきたみたいだ。ぽつぽつと落ちてくる雨粒は、窓ガラスに落ちて視界を歪ませていく。
その光景をぼうっと見つめていると、頬になにかが触れた。
「奏輔」
「なにか考え事?」
奏輔がにこりと笑う。
「なにかあるなら、お兄さんに話してごらん。解決するかもよ?」
「……奏輔にだけは、話さない」
突き放すように冷たく言い放つと、奏輔は「ちぇ」と声をあげて、また運転に戻った。
先ほどまで奏輔の指が触れていた頬に触れる。感触を消すように軽く揉むと、運転席から笑い声が聞こえた。
「そんなに俺に触られるのがいや?」
「嫌っていうわけじゃない」
「嘘言うなって。思い切り顔に『いやです』って書いてあるから」
眉間にしわを寄せた。いやだってわかっているなら、触れなくてもいいじゃないか――という意味だ。
「そんな風に拒絶されたら、寂しいな。俺と祈の仲なのに」
「……どういう仲だよ」
なんてつぶやくと、車が右折し、コンビニの駐車場に止まった。
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