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第4章
⑥
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「……覚えているもなにも、俺ら幼馴染だし」
「ははっ、それもそうだ」
男――奏輔は軽やかに笑って、携帯灰皿を胸元のポケットにしまう。
腕を組んで俺を見つめる奏輔は、ふっと口元を緩めた。
「最近、亜玲とはどうだ?」
「……奏輔には関係ない」
「関係ないもなにもないだろ。……だって、俺は亜玲の兄だし」
にこりと人の好きそうな笑みを浮かべた奏輔の言葉が不快だった。
俺の様子を気にすることなく、奏輔は車のボンネットをたたく。
「弟とその想い人の様子が気になるのは、兄として当然だろう?」
革靴とアスファルトがぶつかる音がする。奏輔は俺のほうに一歩近づいて、目を細める。
奏輔の手が伸びてきて、俺は慌ててその手を振り払った。
「なんのつもりだよ」
「えー、拒否されるなんて悲しいな。俺はこんなに祈のことを大切に思っているのに」
わざとらしく肩をすくめた奏輔に、イライラが募っていく。
(奏輔とまともに会ったのは、三年ぶりくらいか)
基本、奏輔は仕事で海外を飛び回っている。見分を含めるという意味も含まれているはずだ。
「日本に戻ってきたから、様子を見に来た健気な兄貴分を拒否しないでよ」
「……なにが健気だよ」
この男に健気という言葉は似合わない。
いつだって人を振り回し、楽しんでいる。人の嫌がる顔が大好きで、人を打ち負かすのが大好き。
質が悪いのは、奏輔にはたくさんの才能があること。なにをしても、あっという間に人並み以上の実力を身に着ける。
そんな奏輔のことが、俺は……。
「お前はただの腹黒男だろ。……健気なんて言葉からは程遠い」
「それもそうか」
あっさり認め、奏輔は一歩下がった。
「せっかくだし、このあと一緒に夕飯を食べようよ。……いい店、知ってるんだ」
「……は?」
突拍子もない誘いに、瞬きを繰り返す。奏輔は人の好きそうな笑みを浮かべ、助手席の扉を開けた。
「久々の再会だ。ちょっとくらい、語り合おう」
「俺にそのつもりはない」
「そんなこと言わないでよ。それとも――亜玲を呼ぶ?」
出てきた名前に、眉がピクリと動いた。
だって、亜玲は……。
(俺が奏輔を苦手な以上に、亜玲は奏輔を嫌っている)
どうしてか、この兄弟は仲が悪い。異母兄弟という点を除いても、かなり仲が悪い。
今、亜玲と奏輔を会わせてしまったらどうなるのだろうか。ただでさえ不安定な亜玲のメンタルバランスが崩れてしまう気がした。
「俺は別にどっちでもいいよ。三人での食事も楽しそうだしね」
本当に、本当に奏輔は人が悪い。人の嫌がる顔を見て楽しんでいる。
俺は小さく舌打ちをして、奏輔に近づく。助手席に乗り込むと、奏輔は嬉しそうに頬を緩めた。
奏輔が助手席の扉を閉めて、運転席に回る。エンジンをかけて、シートベルトを着けた。
「こうやって祈と出かけるのなんて、何年振りだろうね」
「……どうでもいい」
そっけない態度をとる。頬杖をついて、窓の外を見た。
「高速使って、一時間くらい走るからね。……疲れたら、いつでも言ってね」
「どうも」
まさか、ここから一時間もこいつと二人きり。しかも密室なのか。
自分の判断が軽率だったのではないかと思ったが、亜玲を呼ばれるよりずっといい。
(今の亜玲は不安定だ。だから、ちょっとでも守ってやりたい)
俺の心境に変化があったのは、いつからだろうか。
俺は亜玲を守りたい。強く見えるのに弱い亜玲を、守ってやりたい。
オメガがアルファを守るなど、思いあがっているのかもしれない。でも、俺は――亜玲を、守りたい。
この気持ちに嘘なんてない。俺の気持ちは、本心だ。
「ははっ、それもそうだ」
男――奏輔は軽やかに笑って、携帯灰皿を胸元のポケットにしまう。
腕を組んで俺を見つめる奏輔は、ふっと口元を緩めた。
「最近、亜玲とはどうだ?」
「……奏輔には関係ない」
「関係ないもなにもないだろ。……だって、俺は亜玲の兄だし」
にこりと人の好きそうな笑みを浮かべた奏輔の言葉が不快だった。
俺の様子を気にすることなく、奏輔は車のボンネットをたたく。
「弟とその想い人の様子が気になるのは、兄として当然だろう?」
革靴とアスファルトがぶつかる音がする。奏輔は俺のほうに一歩近づいて、目を細める。
奏輔の手が伸びてきて、俺は慌ててその手を振り払った。
「なんのつもりだよ」
「えー、拒否されるなんて悲しいな。俺はこんなに祈のことを大切に思っているのに」
わざとらしく肩をすくめた奏輔に、イライラが募っていく。
(奏輔とまともに会ったのは、三年ぶりくらいか)
基本、奏輔は仕事で海外を飛び回っている。見分を含めるという意味も含まれているはずだ。
「日本に戻ってきたから、様子を見に来た健気な兄貴分を拒否しないでよ」
「……なにが健気だよ」
この男に健気という言葉は似合わない。
いつだって人を振り回し、楽しんでいる。人の嫌がる顔が大好きで、人を打ち負かすのが大好き。
質が悪いのは、奏輔にはたくさんの才能があること。なにをしても、あっという間に人並み以上の実力を身に着ける。
そんな奏輔のことが、俺は……。
「お前はただの腹黒男だろ。……健気なんて言葉からは程遠い」
「それもそうか」
あっさり認め、奏輔は一歩下がった。
「せっかくだし、このあと一緒に夕飯を食べようよ。……いい店、知ってるんだ」
「……は?」
突拍子もない誘いに、瞬きを繰り返す。奏輔は人の好きそうな笑みを浮かべ、助手席の扉を開けた。
「久々の再会だ。ちょっとくらい、語り合おう」
「俺にそのつもりはない」
「そんなこと言わないでよ。それとも――亜玲を呼ぶ?」
出てきた名前に、眉がピクリと動いた。
だって、亜玲は……。
(俺が奏輔を苦手な以上に、亜玲は奏輔を嫌っている)
どうしてか、この兄弟は仲が悪い。異母兄弟という点を除いても、かなり仲が悪い。
今、亜玲と奏輔を会わせてしまったらどうなるのだろうか。ただでさえ不安定な亜玲のメンタルバランスが崩れてしまう気がした。
「俺は別にどっちでもいいよ。三人での食事も楽しそうだしね」
本当に、本当に奏輔は人が悪い。人の嫌がる顔を見て楽しんでいる。
俺は小さく舌打ちをして、奏輔に近づく。助手席に乗り込むと、奏輔は嬉しそうに頬を緩めた。
奏輔が助手席の扉を閉めて、運転席に回る。エンジンをかけて、シートベルトを着けた。
「こうやって祈と出かけるのなんて、何年振りだろうね」
「……どうでもいい」
そっけない態度をとる。頬杖をついて、窓の外を見た。
「高速使って、一時間くらい走るからね。……疲れたら、いつでも言ってね」
「どうも」
まさか、ここから一時間もこいつと二人きり。しかも密室なのか。
自分の判断が軽率だったのではないかと思ったが、亜玲を呼ばれるよりずっといい。
(今の亜玲は不安定だ。だから、ちょっとでも守ってやりたい)
俺の心境に変化があったのは、いつからだろうか。
俺は亜玲を守りたい。強く見えるのに弱い亜玲を、守ってやりたい。
オメガがアルファを守るなど、思いあがっているのかもしれない。でも、俺は――亜玲を、守りたい。
この気持ちに嘘なんてない。俺の気持ちは、本心だ。
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