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第4章
③
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対する先輩は、にこりと笑って片手を挙げる。人の好さそうな笑みだった。
「上月は有名人だからね。キミのことを知らない人間は、学内にいない」
「……そうですか」
納得したような声をあげるけど、亜玲は先輩をにらんでいる。
そして、亜玲の視線は先輩の腕に移動した。先輩の腕は、俺の腰に回ったままだ。
「祈に触るな」
地を這うような低い声で、亜玲が先輩に命じる。
俺ははっとして亜玲をなだめようとした。でも、ほかでもない先輩が俺を止めた。
「キミは祈のなにかな? 彼氏面、やめたほうがいいんじゃない?」
明らかな挑発だった。
亜玲が人の挑発に乗ることはめったにない。飄々と躱してしまう……はずだった。
「……なに? あんたが祈の次の恋人?」
顔をしかめ、亜玲が先輩をにらむ。先輩は余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「もし、正解だったらどうするの?」
「あんたを引きはがす」
「だけど、僕はなにがあっても祈を裏切らないよ。――歴代の恋人みたいに、ね」
先輩がすっと目を細めた。亜玲が息を呑んで、先輩から顔を逸らす。
その後、小さく舌打ち。いつもの亜玲らしくない態度に、俺の心臓が嫌な音を鳴らす。
亜玲は逃げるように先輩に背中を向ける。
「しっかり考えたほうがよかったよ。……キミがしていることは、なんの解決策にもなってないってね」
背中に強く告げた先輩は、俺の腰を抱き寄せる。なんだか、普段より先輩と俺の距離が近い。
「キミは賢いから、本当はわかっているはずだ。――こんなことをしても、自分が幸せになることはないってさ」
言葉を背中にかけられ、亜玲は逃げ出すように駆けていく。小さくなっていく背中は、どこかさみしそうで。
(――亜玲)
胸がきゅうっと締め付けられるみたいだ。
俺は、どうするべきなんだろう。何度も何度も、思考が同じところをループしている。答えが、見つからない。
亜玲がいなくなった場所を見つめていると、一人の男がこちらに近づいてきた。……あ、城川だ。
「……亜玲先輩、どこか行っちゃったんだけど」
上目遣いになりながら、城川は俺をにらむ。愛らしい顔立ちにこれでもかと敵意がこもっていた。
「亜玲先輩と一緒にお茶をする予定だったのに、どうしてくれるんだよ!」
俺にぐっと詰め寄って、城川が耳元で叫ぶ。そんなこと、俺に言われても……という感じだ。
(というか、これ俺のせいじゃないだろ――!)
駄々っ子のようなことを言い続ける城川に、俺はあきれていた。話を聞き流しつつ、場が収まるを待つ。
しかし、その態度が余計に城川をイラつかせたらしい。城川は思い切り手を振り上げて――俺の頬を叩いた。
パシンっ! ――という小気味よい音が、あたりに響く。頬をぶたれた俺は、呆然とたたかれた頬に触れる。
瞬きを繰り返す。城川を見ると、あいつ自身もなにをしたのかわかっていないみたいだった。
そして、見る見るうちに城川の目に涙がたまった。愛らしい双眸で俺をにらんだかと思うと、踵を返して駆けていく。
「し、ろかわ!」
名前を呼んで、追いかけようとした。
でも、肩をつかまれた。俺を止めたのは先輩だった。
「行かないほうがいい」
「ですけど、放っておくなんて」
「祈が行っても逆効果だ。だから、ここは僕に任せて」
先輩は俺の肩をぽんと軽くたたくと、城川を追いかける。
(俺、迷惑ばっかりかけてるな)
こうやって先輩にたくさんの迷惑をかけて。亜玲や城川を振り回している。
自分の気持ちがわからないだけで、こんなにたくさんの人を振り回している。
(俺、きちんと亜玲に向き合うって決めたはずなのに)
まだ、中途半端な気持ちでいたのだろう。今更、実感した。
「上月は有名人だからね。キミのことを知らない人間は、学内にいない」
「……そうですか」
納得したような声をあげるけど、亜玲は先輩をにらんでいる。
そして、亜玲の視線は先輩の腕に移動した。先輩の腕は、俺の腰に回ったままだ。
「祈に触るな」
地を這うような低い声で、亜玲が先輩に命じる。
俺ははっとして亜玲をなだめようとした。でも、ほかでもない先輩が俺を止めた。
「キミは祈のなにかな? 彼氏面、やめたほうがいいんじゃない?」
明らかな挑発だった。
亜玲が人の挑発に乗ることはめったにない。飄々と躱してしまう……はずだった。
「……なに? あんたが祈の次の恋人?」
顔をしかめ、亜玲が先輩をにらむ。先輩は余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「もし、正解だったらどうするの?」
「あんたを引きはがす」
「だけど、僕はなにがあっても祈を裏切らないよ。――歴代の恋人みたいに、ね」
先輩がすっと目を細めた。亜玲が息を呑んで、先輩から顔を逸らす。
その後、小さく舌打ち。いつもの亜玲らしくない態度に、俺の心臓が嫌な音を鳴らす。
亜玲は逃げるように先輩に背中を向ける。
「しっかり考えたほうがよかったよ。……キミがしていることは、なんの解決策にもなってないってね」
背中に強く告げた先輩は、俺の腰を抱き寄せる。なんだか、普段より先輩と俺の距離が近い。
「キミは賢いから、本当はわかっているはずだ。――こんなことをしても、自分が幸せになることはないってさ」
言葉を背中にかけられ、亜玲は逃げ出すように駆けていく。小さくなっていく背中は、どこかさみしそうで。
(――亜玲)
胸がきゅうっと締め付けられるみたいだ。
俺は、どうするべきなんだろう。何度も何度も、思考が同じところをループしている。答えが、見つからない。
亜玲がいなくなった場所を見つめていると、一人の男がこちらに近づいてきた。……あ、城川だ。
「……亜玲先輩、どこか行っちゃったんだけど」
上目遣いになりながら、城川は俺をにらむ。愛らしい顔立ちにこれでもかと敵意がこもっていた。
「亜玲先輩と一緒にお茶をする予定だったのに、どうしてくれるんだよ!」
俺にぐっと詰め寄って、城川が耳元で叫ぶ。そんなこと、俺に言われても……という感じだ。
(というか、これ俺のせいじゃないだろ――!)
駄々っ子のようなことを言い続ける城川に、俺はあきれていた。話を聞き流しつつ、場が収まるを待つ。
しかし、その態度が余計に城川をイラつかせたらしい。城川は思い切り手を振り上げて――俺の頬を叩いた。
パシンっ! ――という小気味よい音が、あたりに響く。頬をぶたれた俺は、呆然とたたかれた頬に触れる。
瞬きを繰り返す。城川を見ると、あいつ自身もなにをしたのかわかっていないみたいだった。
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「し、ろかわ!」
名前を呼んで、追いかけようとした。
でも、肩をつかまれた。俺を止めたのは先輩だった。
「行かないほうがいい」
「ですけど、放っておくなんて」
「祈が行っても逆効果だ。だから、ここは僕に任せて」
先輩は俺の肩をぽんと軽くたたくと、城川を追いかける。
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こうやって先輩にたくさんの迷惑をかけて。亜玲や城川を振り回している。
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(俺、きちんと亜玲に向き合うって決めたはずなのに)
まだ、中途半端な気持ちでいたのだろう。今更、実感した。
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