あなたの隣

ひろの

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映画館に戻った私たちは、ポップコーンとジュースの受け皿を片手に歩いていた。

「何階?」
「ちょっと待って、チケット見てみるから、これ持ってて」
「うん」
さっき渡した2枚のチケットをポケットから取り出し、案内板と照らし合わせ、
「この館の4階だってさ」
と返事をすると、再び受け皿を私の手から受け取った。


エスカレーターには誰も人はおらず、館内の上映案内放送が聞こえる。

「由佳、キス・・・」
そう言って、顔を寄せた彼の唇が私の唇に重なった。

その瞬間、ポップコーンが数個、箱から零れ落ちたような気がするが多分気のせいだろう。

彼のキスはとても優しく、それでいて、とても残酷・・・。たった一瞬で私を虜にしてしまう。

お願い、零れるのは私へのキスだけにして。心の奥でそう願う。あと少し、ほかはまだ何も零れないで。


そして、エスカレーターを降りる頃には再び何事もなかったように私たちは歩き始めた。彼の腕に手を絡めた私は唇に残る微かな余韻に浸りながら、それを隠すようにポップコーンを一つ頬張った。



◆◆◆◆◆


「おい」
「痛っ」

頬を小突かれた痛みで目を覚ました。

うわあ、やっちゃった!館内のから立ち去る人たちを見て思ったのが、まずはそれだった。

やはり、私は映画の上映中ずっと眠っていたようである。
覚えているのは、最初の予告。あとは何も思い出せない。

「だから、他のにすればよかったんだよ」
「ごめーん、大丈夫だと思ったんだけど、ついね、つい」
「途中で何度か起こしたんだぞ」
「そうなの?言われてみればそんな気もするんだけど、本当にごめんー。次は気を付けるから」
「どうだかね、前科があるからな」
「・・・すみません。・・・怒ってる?」
「別に、それよりトイレは?」
「本当に本当に怒ってない?」
「怒ってないから」

彼がこれくらいのことで怒るとは思えないが、以前も映画館で寝てしまったということもあり、少々気が引ける思いである。


「ほら、トイレは?」
「あっ、行く。ごめんね。慧くんはトイレいいの?」
「俺も行く、もう謝るなよ。次謝ったら帰るからな」
「うん、ありがとう。女性トイレ混んでると思うから待たせちゃったらごめんね」
「おう」

そう言って慌ててトイレに行ってみると、予想通り長蛇の列ができていた。
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