白雪姫、美容スパルタな継母から逃げたら全員のキャラが壊れました【コメディ】

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白雪姫、美容スパルタな継母から逃げたら全員のキャラが壊れました【コメディ】

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 王宮の奥、美容ルーム。
 最新鋭の加湿器が静かに吐息を漏らし、ピンクの照明が肌のトーンを美しく見せてくれる。
 その中央には、ゴージャスな金枠のしゃべる鏡が鎮座していた。

 継母はスリッパ姿で、うっとりと問いかける。
「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのは?」

 鏡がふわっと光り、柔らかなオネエ声で答える。
「今日も麗しいわ、マダム……でも最近、白雪姫ちゃんのお肌、ちょっと荒れてきてるのよねぇ」

 継母の動きが止まった。
「えっ!? なにそれ!? 雪ちゃんが!? 肌荒れ!?」

「たぶん寝不足ね。夜ふかししてスマホ見てるわ」

「すわっ大変! 炭酸パック! 美容鍼! ピエール、探してきて!!」

「カァアー!(了解)」

 鏡はぽつりとつぶやいた。
「……愛ねぇ。ちょっと重いけど、愛よねぇ」




 今、白雪姫は逃げている。
 王宮を。いや、もっと正確に言うと、継母の美容スパルタ指導から。

「ちょっと雪ちゃん! まだ炭酸パック途中なんだから! 逃げないで!」

「いやもう無理! 顔ピリピリするし! 目も開かないし!」

 そう叫びながら森へ逃げ込んだ白雪姫。
 動きにくいドレスの裾を引きちぎり、ノーメイクで全力疾走。まさに“姫、疾走中”。

 そしてたどり着いたのは──

「……なにこれ、ちっさ……」
 おとぎ話仕様の、こじんまりとした山小屋だった。




 ノックすると、バタンと勢いよく扉が開いた。
 中から現れたのは、謎のサングラス小人。

「誰でぃ」

「えっ、あ、えっと……道に迷って、その……少しだけ休ませてもらえたら……」

 白雪姫がおずおずと中を覗き込んだ、その時だった。
 彼女の視線が、部屋の隅にある「ホコリの溜まった棚」と「飲みかけの茶碗」に止まる。

 ──ピクリ。
 王宮で叩き込まれた美意識が、無意識に反応してしまった。

「……ちょっと」
「ああん?」

「そこ、汚れてるし、部屋の湿度が低すぎる。あと、その茶碗の放置は雑菌の温床よ。すぐに片付けて」

 自然と放たれた、絶対零度の命令口調。
 サングラス小人がビクリと震えた。

「ま、まさか……あねさんッ!!」
「いや誰!?」

 家の中から、さらにゾロゾロと小人たちが登場。どいつもこいつもガラの悪いサングラス着用。だが、なぜか無駄に礼儀正しい。

「姐さん、お初にお目にかかります、帳面の定吉と申します」

「ツッコミのノリ介です。ツッコませてください!」

「影丸っす。暗殺お掃除ならお任せを……」

「マジボケの源! 姐さん、俺、姐さんのために生まれてきました!」

「うるせぇよ!!!」

 突如始まる謎の忠誠儀式。
 白雪姫、無言で靴を脱ぎ、なぜかちゃっかり上座のソファに座る。もう疲れた。

「……いやいや、落ち着いて? 私、ただの白雪姫なんですけど」

「その“ただの”が一番怖ェんだよ、姐さん……!」

「えっ?」

「今のダメ出しの鋭さ……あんなドスの利いた声、カタギじゃ出せねぇ」

「えええっ?」

「お肌の白さ、目の切れ長、ナチュラルメイクでこの仕上がり……オーラが違う。アンタ、女王にも王子にもなれた人だ」

「いや、言ってること意味不明……」

「姐さん、オレらのとこでのし上がりましょうや……!」

「だから、どこへ!!」

 こうして白雪姫は、小人──いや、“子分たち”と奇妙な共同生活を始めることになった。




 数日後──

「姐さん、白湯さゆっす。今日はレモンの皮ちょびっと浮かべてます」

「なにそれ気が利きすぎ。……てか、なにこの生活」

 気がつけば、白雪姫は完全に“姐さん”ポジションに定着していた。
 帳面の定吉は、姐さんの肌水分値と食事バランスを記録。
 ノリ介は姐さんのボヤキに秒速でツッコミを入れる。
 源は一日三回、「姐さんって神だよな」と手を合わせている。

(……なんで私、“あねさん”なの?)




 その日も、姐さん白雪姫は朝からご機嫌だった。
 小人たちが湧き水で沸かした白湯を持って来てくれるし、ノリ介のツッコミが朝の目覚まし代わりになる。

「姐さん、肌の調子、今日も絶好調っすね!」

「当然でしょ。姐さんなめんなよ」

 そんな森のスローライフを楽しんでいた、まさにそのとき。

 ──ギィ……。
 木のきしむ音とともに、小屋の戸がゆっくり開いた。
 そこに立っていたのは──

「……雪ちゃん……? 生きてる……? 肌荒れてない……?」

 ガチの魔女ルック。
 肩にでかいカラス (名前はピエール)を乗せた、白雪姫の継母ママだった。
 だがしかし、開口一番が「肌荒れチェック」。

「……なんで来たの……」

「あなたのお肌のターンオーバーが心配で夜も眠れなかったの!」

 継母の手に握られていたのは、ぴかぴかに光る真っ赤なリンゴ。
 パッケージには、キラキラの文字でこう書かれていた。

 『美眠・美肌・無限ぷるるん』
 『睡眠導入系リンゴ【夜用】』

「これ、新作なの! 睡眠美容に特化したやつ! ピエちゃんもテイスティング済みよ♡」

「カァッ (うなずく)」

「なにその監修スタイル!?」

 白雪姫は一歩下がる。
 継母とカラスが並んでじりじりプレッシャーをかけてくるという、謎すぎる

「あなた最近、寝れてなかったでしょ? お肌もだけど、心配なのよ……ママ的に」

「ママ的に!?」

「とにかく! 半分だけでもいいから食べて! ピエちゃん、はい応援!」

「カァアア!」 (やたら気合いの入った鳴き声)

「圧がすごい!!」

 でもまあ、せっかく来てくれたし。
 それに、ちょっと寝不足だったのも事実。
 姫はふと、手にしたリンゴを見つめた。

「……ひとくちだけ、ね」

 カプッ。
 ──そして数秒後。

「……スヤァ♡」

 姐さん、崩れ落ちるように就寝。
 周囲の子分たち、全員パニック。

「姐さんが……姐さんがぁぁぁあ!!」

「おいおいおいおい、寝てるぞ!? これ絶対ヤベェやつじゃね!?」

「いや待て、姐さんの顔……めっちゃ潤ってないか?」

「まじで!? えっ、これ効いてんの!? 睡眠エステってやつか!?」

 誰よりも冷静だったのは“帳面の定吉”。
 肌の水分量をスッ……とメモしていた。
「数値的には史上最高です」

「やべぇ、姐さん、史上最高になっちまった……!」




 森をかき分け、一人の男が現れた。
 金のマントをひるがえし、無駄に風を味方につけたその姿は、まるで舞台挨拶に来た俳優のようだった。

 顔面偏差値は、およそ75。そこそこイケてるのに、どこか信用ならない。そんな絶妙なライン。
 王子は懐から手鏡を取り出し、前髪をセットしながら呟いた。

「……この眠れる姫を、僕のキスで目覚めさせる。それが、イケメンに課せられた使命だ……!」

 やたら荘厳な口調でつぶやき、唇を尖らせて手を伸ばす王子。
 その瞬間だった。

「ストォォォップ!!!!」

 七人の子分が一斉に飛び出した。
 サングラスが光る。影丸が静かにナイフを構える。

「は!? ちょ、ちょっと待ってください!? 王子です! 僕、王子なんです!」

「証拠は? てか王子って名乗り得じゃね?」

「出たよ、“王子”って言っときゃ何でもアリだと思ってるやつ!」
 ノリ介がズバッと切り込む。

「だいたい、寝てる女の子にいきなりキスとか、事件だよ事件!!」

「ち、ちがっ……物語ではそうなってるんです! キスで目覚めるのがトレンドなんです!」

 そのときだった。

 ──ばさっ。

 布団がめくれ、白雪姫がむくりと起き上がった。
 目つきはどこまでも冷静で、寝癖だけが妙に荒々しい。

「……寝てる女にキス? なめてんのか」

 その場の空気が凍った。
 王子は引きつった笑顔で固まる。

「え、あ、いや、おはようございます……?」

「ちょ、姐さん起き……」
 言いかけた源を、姐さんは手ひとつで制す。

 姐さんはゆっくりと立ち上がる。
 パジャマ姿のまま、寝ぐせと共に凄まじい威圧感を背負っていた。
 彼女は王子をジロリと見下ろし、吐き捨てるように言った。

「美容成分が浸透してる最中なんだよ。邪魔すんな」

「そっち!?」

「さすが姐さん、ブレねぇ……!」

「い、いや……その、物語の流れで……」

「“流れ”でキスすんな。流されていいのは涙と川だけだ」

 子分たちが「うおおお……」とどよめく。
 ノリ介は感動して鼻をすすっていた。

 姐さんは毛布をまとめて抱えながら、さらに王子を追い詰める。

「“物語だから”って勝手にキスしてくるやつ、全員まとめて通報な」

「こっちはただ寝てただけなんだよ。勝手にドラマ始めんなっての」

 ピエールが「カァッ!」とだけ鳴いた。
 多分、「はい論破」の意。

「つーかさ……寝かしといてくんない? まだパック、半分しか効いてないの」

 そのまま、すたすたと寝床に戻り、すやりと横になる。
 子分たちは自然と敬礼の姿勢を取っていた。

「姐さん……カッケェ……」
「寝顔にまで風格あるって、どういうこと……?」

 王子は膝をつき、小さくなる。
 自分のシナリオが完全に崩壊したことを悟ったのだ。

「……僕、本気で迎えに来たつもりだったのに……何も知らなかったんだな……」

 しん、と静まる小屋。
 王子がしょんぼりと帰ろうとした、その背中に、姐さんの声が飛んだ。

「……アンタが何を知ってるかなんてどうでもいい。でも、知らなかったって気づいたなら──そこからが本当の出番だよ」

 王子、目を見開いて振り返る。

「まず白湯沸かせ。話はそれからだ」

「……はい!」

「返事が小さい! 腹から声出せ!」

「ハイッッ!!」

 しゃがれた火打ち石の音と、小さな湯気。
 その真ん中に、金のマントを畳んでエプロン姿になった“新入り”がひとり加わった。

 こうして今日も、“姐さんと子分たち (+新入りのパシリ)”は、ちょっとずつ人数を増やしながら、森の奥で、静かに騒がしく生きている。
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