16 / 119
吸血鬼の章
すべらない話1
しおりを挟む碧以たちが最初に不殺の一派を襲撃してから一ヶ月後、了炫をはじめとする茨矜の子が緑川家に全員集合した。連絡がつかない同胞が十人に上ったことでようやく異変を察知したためだ。連絡が途絶えたタイミングから、ここを出た夜に行方を晦ませているようだった。まさか同族から狙われているとは思わず、ヴァンパイアハンターの仕業だろうと考えた。
了炫は緑川家の放棄を提案した。敵の餌場と化している緑川家に居座り続けるのは論外。一つ所に留まらず分散して攻撃の目を散らす策だ。もし襲われても遭遇した一人がやられるだけで、他の皆は助かる。籠城という案も出たが普通の一軒家で防衛戦は難しい。火を放たれたら終わりだ。不殺主義者たちは緑川家を手放す決意をした。数時間後、久し振りに人間だけとなった緑川家を再び訪れた吸血鬼がいた。
「やはり戻ったな、厲姚」
「了炫。お見通しか。敵わないな」
およそ三十年前、この家にとある女性が嫁いできた。それからほどなくして彼女の連れ子である莉帆という少女への性的虐待が始まる。逆らうと継父は莉帆を殴った。十二歳のとき継父の兄とその息子が新たな家族として加わった。彼らも継父と同じように莉帆を犯した。継父はおしっこを飲ませるのが好きで、継父の兄は屈辱的台詞を言わせるのが好き、その息子は玩具でいかせまくるのが好きだった。娘から相談を受けた母は彼女を汚物として疎むようになった。
十三歳頃から売春をさせられるようになった。このときの客の一人が茨矜だ。嫌悪の対象でしかない男の中で、茨矜だけは特別だった。思わず見惚れてしまうくらい格好良くて、優しくて、天にも昇るくらい気持ち良くしてくれる。莉帆は彼に恋をして、彼になら喜んで肉体を差し出した。優しいのは言葉だけで、一番ひどく扱うのは茨矜なのに。
十七歳で家出をして茨矜と暮らすようになった。他にも似たような境遇の少年少女がいると知って、自分だけが特別ではないのだと少しがっかりした。茨矜への愛で負けるつもりはない。茨矜の指示で売春は続けていた。茨矜のためなら誰とでも寝た。どんな苦痛でも我慢できた。そして彼への愛を認められ、同じ時を生きる存在へと変えられた。貰った名前は厲姚だった。
厲姚は部屋の隅にぼんやりと佇む緑川一家を見た。妻と二人の子供を養う男が厲姚の血のつながらない従兄だ。母は行方知れず、継父は事故死、その兄は病死している。厲姚は最低限の食事ができるようにするだけで、楽しみのために痛めつけることはしてこなかった。だが今回のことで気が変わったらしい。
「決心がついたようだな。見届けさせてもらおう」
「復讐、になるのかな。正気に戻ったら、少し話をしてみたい。謝ってほしい」
「謝らせるだけか。厲姚は優しいな」
「そんなことないよ」
茨矜は言っていた。分かち合うのが家族だと。だから妻子の前ですべてぶちまける。善人面した夫がどんなに酷いセックスを強要したか。今でも子供部屋にされているあの部屋で何が行われてきたか。自分をいじめた家で笑って暮らすのは許されない。この家に住む者は全員苦しまなければならない。
了炫は自分だけは認識されないように精神干渉を上書きして、緑川一家の意識を正常な状態に回復してやった。
目が覚めた従兄は二十数年振りに会った厲姚を躊躇なく殴りつけた。深く傷ついたままの心を抱えていた厲姚は一瞬で無力な莉帆に戻されて、恐怖から身動きが取れなくなってしまった。
男なら誰とでも寝る淫乱。この売女にどれだけ家族が迷惑を被ったか。また家族を壊しに来たのか。怯える莉帆に従兄はそう怒鳴りつけた。
妻が慌てて子供たちを二階に行かせる。そして今度は二人がかりで莉帆を罵った。まだ少年だった従兄が、莉帆からの性的悪戯でどんなに傷付いたことか。家族として優しく接した気持ちを裏切った恩知らず。汚い。気持ち悪い。汚らわしい。嘘つき。恥知らず。
「出ていけ!!」
従兄の怒声にびくりと肩を揺らした。妻も「出ていって」と金切り声を上げる。いつの間にか戻って来ていた子供たちも、噛みつきそうな勢いで出て行けと叫んだ。
言い返すこともできずに震えていた莉帆はやっとの思いで家を飛び出した。とにかく家から離れたくて当てもなく足を動かす。涙が止まらない。何も考えられない。消えてしまいたい。やがて莉帆は朝日に包まれた。了炫が確認できたのはそこまでだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる