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狼の章
あなたが欲しい
しおりを挟む下着をずらすと中は愛液塗れだった。下着越しに二回もクリいきさせられたのだから無理もない。舌で陰核を潰すように捏ねて、舐めて、吸う。直接の刺激が効いて、三度目の絶頂を迎えた壱重から僅かに嬌声が漏れた。
「んっ……!」
声を出すまいとする様子に煽られて、明日紀はにやりと口角を上げた。明日紀はあまり獲物の容姿に拘りがない。どこを見ても自分以下の顔ばかり。余程の美形でなければ大した違いがあるように思えない。不細工でなければなんでもいい。しかしたまにはこうして美しい小鳥を囀らせたくなる。
時刻は午後一時。分厚い遮光カーテンが引かれた部屋は真っ暗だ。二人は居間のソファーで愛し合っている。内鍵をかけているので邪魔は入らない。ずれた下着はそのままに、今度はキャミソールの上から胸を可愛がる。全体をやわやわと揉んで感触を楽しんだ。たまに不意打ちで乳首を引っ掻くと呼吸が乱れて、恥ずかしそうに目を逸らす様が明日紀を愉快な気持ちにさせた。親子間に限れば同族同士での肉体関係は珍しくない。最も簡単でわかり易いマウンティングだ。
暫くそうしていると、明日紀の腕や胸元を物言いたげに壱重の指が這った。見れば壱重は無防備に脚を開いて瞳を潤ませている。今日はまだ一度も触れられていない奥が切ないのだろう。言葉にはしないけれど、全身で欲しいと訴えているのがわかる。
壱重は自分から行為を強請ることはない。吸血鬼としての矜持が許さないのもそうだが、生来の性より暴力を重んじる気質のせいだ。明日紀が今日敢えて中に触らないのは少し変化をつけようとしただけで他意はなかった。結果としておねだりさせてしまったわけだが、こんなに可愛い壱重が見られるならたまに意地悪をしてみよう。そんなことを考えながら明日紀は濡れた下着を脱がした。
柔らかい襞をなぞっただけで新たに蜜が溢れ出した。ぬるりと指を滑り込ませて中を擦る。快感に比例して上がる壱重の息。絶頂が近いのを感じた明日紀は、指の代わりに自身を押し込んだ。
「ああっ!!」
挿入だけで軽く達してしまった壱重は我慢できずに声を上げた。明日紀は壱重の乱れた髪を耳にかけて、その苦しげな表情を目に焼き付ける。落ち着くのを待って、馴染ませるようにゆっくりと腰を動かし始めた。
初めて壱重を抱いたのはあの夜、あの空き家で。他人に肉体を支配される屈辱と破瓜の痛みが北条百合の最後の思い出となった。それ以降は数年に一度、明日紀の気が向いたときに肌を合わせている。
「ん……ぁふ……」
密室の停滞した空気に、口付けの合間の息遣いと卑猥な水音が混ざる。
「んんっ」
びくびくと壱重が震えた。優しく身体をさすって抽挿を再開する。そうして幾度も快楽の山を越えていく。壱重が音を上げて明日紀が許してくれると二人の行為は終わる。すんなりとはいかない。この日も明日紀は口付けで言葉を封じた。壱重の手は明日紀を押しやろうとしているのに、中はまだ彼を放すものかと締め上げる。眦に涙を滲ませてからやっと明日紀の気が収まった。わざとゆっくり、まだ快感に震える中から己を引き抜く。
「愛してるよ、俺の娘」
口付けを交わして瞳を覗くと、壱重はもう普段の表情に戻ってしまった。そしてさっと立ち上がって一人でシャワーを浴びに行く。いつものことだ。明日紀のことは愛している。それでもやはり支配される状態に抵抗がある。身体は悦んでいるのに、心がついて行かない。その葛藤が明日紀には堪らなかった。
初めて体を暴かれたときの怯えた眼差しを思い出す。今では見られない弱者の顔。猫が死んだ獲物から興味を失うように、明日紀は無抵抗の者に魅力を感じない。征服はしてしまえば終わり。重要なのは過程だ。だから壱重には興味が尽きない。何度体を重ねても乙女のように恥じらう。いつまでも自分を守ろうとして抵抗を諦めない。
まだ知らない壱重を見たい。もっと泣かせたい。もっと悩ませたい。一遍に味わい尽くすのは勿体ないから、欲しくても見ない振りをする。少しずつ暴いて、新しい秘密を作るのが楽しい。雨水が岩を削り出すように、時間をかけて裸にする。全てが差し出されるその日まで、明日紀は壱重を侵食していく。
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