極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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24 異変

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 アキュレへと続く帰り道。1日目(行きも合わせると4日目)は途中で行きとは別の街に立ち寄り宿に泊まった。当たり前のように一部屋だけ借りた。まぁ防犯的にも同じ部屋の方が良いのでそこは良いのだが、ツインも空いてたのにダブルにしてた。まぁ防犯的には……。
 
 次の日もまた問題なく馬車は運行していた。今日は馬車の中で寝泊まりし、明日午前中にはアキュレに戻れるだろう。レオンとたわいも無い話をしながらの帰り道は飽きることなく、風景を楽しみながら過ごすことが出来た。乗合馬車には仕事だったのだろうか、商人らしき父子おやこが二人と一緒だったが、挨拶をしたあとは特に話すことは無かった。
 
 
 その夜。
 
「エレン、エレン……起きれるか?」
 
 夜中急にレオンに起こされ目が覚める。緊迫した雰囲気から、良くないことが起こったのだと分かる。
 
「おそらく、近くに盗賊か何か……とにかく何者かがこの馬車を狙っているようだ」
「そんな……」
「オレは外へ出て片付けてくる。エレンは中にいて、絶対に外に出ないこと。分かったか?」
「うん……うん……レオン、気をつけて、怪我しないでね」
「エレンのためにも無傷で戻るよ」
 
 そう言っておまじないのように俺のおでこにキスをした。驚きはしたものの、レオンの無事を祈ることに専念した。一緒に馬車にいる親子も御者も怖がって隅で固まっている。
 
 レオン……レオンが無事に戻りますように。盗賊がどこかに行きますように。皆が怪我なくアキュレに帰れますように。遠くから怒号と剣と剣がぶつかり合う音が聞こえる。───どのくらい経っただろうか。音が止み、静寂が訪れた。レオンは大丈夫だろうか。こちらに向かって走ってくる音がする。
 
「エレン! 大丈夫か!!?」
「レオン! 良かった! 怪我はない?」
「大丈夫だ。御者、ここにいては危険だ。馬にも申し訳無いが、夜通し走ってここを抜けよう。まだ残党がいるはずだ」
「わ、分かりました!」
 
 御者は急いで馬の準備を始めた。俺はレオンが本当に傷をしていないか、体をぺたぺたと触って確かめる。
 
「いくら強くても一人で行くなんて……。無謀だよ……」
「エレンの前では見せたことないが、オレは中々に強いから大丈夫だよ。ただ、離れている間に馬車が襲われないか心配だった。馬車が目に入る場所で戦ってはいたが、どこに何人いるのか分からなかったから」
「レオン、怪我なく戻ってきてくれて、守ってくれてありがとう」
 
 安堵と感謝の気持ちを込めて、レオンを抱き締める。準備が出来たのか、御者が馬車を進め始めた。しばらくして、追っ手が来ない事に安心し、息を吐き出す。
 
「だが……何故こんな何も無い乗合馬車を襲ったのだろう。金目のものも無いだろうに」
「……あの……」
 
 レオンと話していると、商人らしき親子が話しかけてきた。
 
「もしかしたら私らを追ってきた可能性があって……」
「なに?」
「今回アルテナで商談があって、その帰りなんだが、妙にこちらに都合の良い取引だったんだ」
「取引したのはなんだ?」
「この『ヴィダ草』だ。命を意味するこの草は体の回復はもちろん、様々な病に効く薬の材料となる、市場価値が高い貴重な薬草だ。アキスト王国では生産出来ないため、国内ではほとんど出回らない。ある貴族から頼まれ、商談に来たのだが……」
「おかしな点が?」
「あぁ……ろくに交渉しないまま、一束10万リラ、全部で10束100万リラで購入出来たんだ」
「変だな……ヴィダ草なら質が良いものなら一束20万リラ、悪くても15万リラはする」
 
 俺は曲がりなりにも貿易商もしている貴族の息子でもあるので、ある程度の市場価格は頭に入っていた。
 
「不思議だったんだが、もしかしたら初めから帰りの馬車を襲ってヴィダ草を回収しようとしたのかもしれない」
「アルテナの商人が盗賊を雇い、襲ってきたというのか? アキュレの貴族と手を組んであなた方を陥れようとした可能性は?」
「私どもは何の力もない一商人です。それに、依頼してきた貴族の方の身内に体の弱い方がいて、今回のお金もその貴族の方から事前に頂いたものです。最高で一束20万リラと想定し、200万リラもの大金を渡して下さった。今も手元に100万リラが残っています。あの方には、私が困った時に助けてくれた御恩があります。どうしてもこの薬草を届けたいのです」
 
 嘘を話しているようには思えない。所持している現金も高額なのに全てつまびらかに話しているということは、一度自分たちを救ったレオンを信頼しているということだろう。
 
「分かった。その言葉を信じよう。俺が相対した盗賊は数人しか居なかった。雇ったのであれば、何箇所か分かれて待ち構えている可能性がある」
 
 レオンがそう言い放った瞬間。
 
「ぐあぁぁぁー!」
 
 御者の悲鳴と馬の嘶きが聞こえ、馬車は急停止した。
 
「オレが見てくる!」
 
 馬は利口だったようで、暴れることなく、馬車はただ停車している。商人の親子は身を寄せあっている。
 
 パシュ! パシュ! という音が聞こえる。これは……弓矢か!? 馬車の中で警戒していると、腕から血を流した御者が入ってきた。右肩に矢が刺さっている。
 
「早く、こちらに!」
 
 商人の男が手際良く手当を始めた。腕を縛り、痛むことを事前に告げてから矢を思い切り抜いた。御者痛みで声を上げたが無視して、手持ちの薬と布、包帯で応急処置を行った。
 
「消毒が出来ていません。止血剤と傷口を塗っただけです。アキュレに着いたらちゃんと手当をしてください」
 
 判断が早く、やるべきことを行動に移せる商人の男のその姿を見て、こんな状況だが俺は尊敬の念を抱いた。
 
「ヴィダ草を渡せ! そうすれば命だけは取らないでやろう」
「巫山戯るな! これ以上だれも傷付けさせはしない!」
 
 すぐ側でレオンと盗賊のリーダーの会話が聞こえ、再び剣戟音けんげきおんが流れる。ろくに戦えも出来ない俺は祈ることしか出来ない。目を瞑り、レオンの無事を祈る。
 
「こら! いくな! アマービレ!」
 
 声に驚き顔を上げると、商人の男と一緒にいた小さな男の子が鞄を持って馬車から降りるところだった。……っ危ない……!!
 急いで馬車から顔を出すと、男の子は盗賊に鞄を差し出しているところだった。
 
「これを渡すから、だれも傷つけないで!」
 
 泣きながら彼は彼なりに必死で俺たちを守ろうとしている。だが、相手は盗賊だ。
 
「ありがとよ坊主。だがだれも・・・傷付けないのは難しい話だ」
「え……?」
「命を取らないとは言ったが、全員の・・・命とは言ってないし、殺さなくても両手両足を切り捨てて放置しとけばわざわざ手を下さなくとも勝手に死ぬからな」
「そ……そんな……」
「それに、一人として帰す訳にはいかないんだよ。こちらもそういう依頼なんでね」
 
 やはり、アルテナの商人から雇われたようだ。あの子が危ない……! 俺は体が勝手に動くまま、その子へ走りよった。
 
「エレン! 止めろ! 出るな!!」
 
 少し離れたところでレオンの声がする。他の盗賊と対峙しているようだ。俺がこの子を守らないと……! 盗賊のリーダーらしき男が持っていた剣を振り下ろす前に、俺が男の子に覆い被さる。男の黄色い目が大きく開き、何故か顔をしたが、下ろした腕は止まらない。痛いかもしれないが、小さな子どもとは違い、俺なら一撃では死なない……と思う。そう淡い期待を持ってその瞬間を待った。その間も、レオンの声が聞こえた。
 
 
 強い風が吹き抜けたような、強い光が一瞬のうちに通り過ぎたような感覚がした。もしくは、空気が圧縮され、強い圧力でその空気の塊を押し出されたような感覚が。
 
 ドン!!!
 
 顔を上げると、目の前で剣を振り下ろしていた盗賊のリーダーが、かなり遠くまで移動している。意識が無いのかピクリとも動かない。
 
 
 もしかしてこれが……サーリャさんが話していた保護魔法なのか……?
 俺は男の子を抱いたまま、盗賊の最後の一人であるリーダーの男をレオンが切り倒すさまを混乱の中見つめていた。
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