極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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35 セーフかアウトか人身御供

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「僕が飲むよ!」
 
 キールが挙手して立候補する。昔あんなことがあったのに、確かめるためとはいえ勇敢すぎる。だがそんなことは隣の奴が許さなかった。
 
「この中じゃ一番体がデカいし、影響も少ないだろうからオレが飲む。万が一キールが倒れたらどうなるか分からない」
 
 あ、キールが倒れたらリアムによって俺がされるってことですね。
 
「じゃあリアムに頼もうかな」
「僕でも大丈夫なのに」
「可愛いキールをまた泣かせたら俺は生きていられないからな」
「え……! そ、そんな……冗談ばっかり……!」
 
 照れてるキールは可愛らしいが冗談じゃないんだ。あれ、さっきよりリアムの睨みが強くなった気がする。
 
「じゃあ、スコーン用に持って来てた蜂蜜があるから、それを水に溶かしてみる?」
「先に、フリードが水に蜂蜜を入れて、それをリアムに飲んでもらおう」
 
 給水器で汲んだ水に蜂蜜を垂らし、食堂で貰ったストローで掻き混ぜる。リアムが一口飲み込んだ。
 
「普通のハチミツ水だ」
「まぁそりゃそうだよな」
 
 リアムからグラスを受け取り、俺が蜂蜜を入れてストローで掻き混ぜる。水に手を加えただけでも一応調理とは言えるので、予想通りならとんでもなく不味いハチミツ水が出来上がっているはずだ。
 
「はい、どうぞ」
「ああ」
 
 リアムに再度グラスを手渡すと躊躇うこと無く飲んだ。そしてそのまま吐いた。マーライオンかな。赤ちゃんの吐き戻しかな。
 
「うわー!! リアム大丈夫!?」
「リアムくん、こっちの普通の水を飲んで!!」
 
 俺がのんびり考えている間に優しい二人がテキパキと動いている。リアムはフリードから水を貰い一気に飲み干した。机も床もリアムのパンツも濡れているが拭くものがない。一旦放置だ。
 
「半信半疑だったんだが……本当に今まで飲み食いした中で一番不味い、吐きそうだ」
 
 いや、吐いたじゃん。
 
「やっぱりそうかー。どこまでセーフか分からなかったんだけど、水に蜂蜜入れただけでダメなら料理の味付けの工程ではもうダメってことだな」
「おいエル、これ本当に蜂蜜だけだろうな?」
「目の前で見たでしょ? それに、俺は自分の作った料理飲み食いしても平気なんだよ、ホラ」
 
 そう言って、俺特製ハチミツ水(蜂蜜多め)を飲み干した。甘くて美味しい。お菓子でパサパサだった口内が潤って満足だ。
 
「なんで飲めるんだよ、こんなクソまずいの」
「俺には不味くないんだよ。この現象は呪いみたいなもので、実際は本当にただのハチミツ水なのに、他の人が飲んだら酷い味になるんだよ」
「そんなこと、有り得るのか……?」
「ハチミツ水以外のもの作って試してみる?」
「いや……もういい……」
 
 あまり表情を変えないリアムが心底嫌そうな顔をする。少し前の自分なら悲しかっただろうが、今は原因が分かっているから平気だ。他の人が不味いと吐き出そうとも、俺が美味しいと感じたなら本当は美味しい料理のはずなんだ。
 考えて込んでいたフリードが俺に話しかける。
 
「エル、このことに気付いたのはいつかな」
「えーと、二人が倒れてしばらくして……12歳くらいかな。俺の料理を食べた侍従が倒れて……」
「ならあの噂、本当じゃねぇか」
「黒魔法で殺してないよ!? 力作が出来たから誰かに食べてもらいたくて、皆がさりげなく拒否していた中、仲の良い侍従が一口食べてくれて、そのまま倒れたんだ。それで、あぁ……俺の料理のせいだ……って」
「味音痴って訳じゃないんだよね?」
 
 キールがハンカチでリアムのパンツを拭きながら聞いてきた。リアム役得だな。
 
「他の人と味覚は変わらないと思う。旨味苦味辛味酸味とか食べる限り同じっぽいし。まぁ呪いみたいなものなんだよ」
「エル、この性質は治せるのかい?」
「おそらく……。だが今は無理だな……。行きたい場所があるんだけど、聞いた話・・・・だと、今行くのは良くないらしい」
「なるほどね……」
 
 俺の話でフリードはレナセール国と関係あるのだと察してくれたらしい。
 
「エル、私で何か力になれることがあればいつでも言ってくれ」
「僕も!」
「……キールが望むなら手伝う」
「ありがとう……」
 
 わだかまりが無くなり、晴れやかな気持ちになった。全てを打ち明ける訳にはいかないが、過去の遺恨は消え去ったので、明日からは本当の意味で前を向いて進めそうだ。
 職員室でタオルをもらい、机を拭いて帰った。課題は何一つ進まなかった。
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