極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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49 話し合い、愛し合い

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「おかえりなさいませ」
「おかえり、ティア」
「ただいま帰りました」
 
 執事長とレオが出迎えてくれた。レオがひたいに口付けをする。
 
「今日は公爵家に寄ってたんだって?」
「そうなんだ。あ、後で相談したいことがあるんだけど、夕食後に俺の部屋で話しても大丈夫?」
「もちろん」
 
 今日の夕食はお父様はお仕事で不在だった。広い食事テーブルに俺とレオが横並びに座り、対面にお母様が座った。お母様からは俺たちの出会いや、アルテナでの過ごし方、旅中での思い出話などを聞かれた。レオがリティーダ共和国と交流があったナルカデア王国の元王子ということで、身元に関しては心配していなかったようだが、会話から人となりを知りたかったのだろうと分かった。レオが話す度にお母様の顔が輝き目がキラキラしていたので、おそらく完全にお眼鏡にかなったのだろう。レオがお母様の前でも俺のことを可愛いとか守りたいとか言うので、食事に集中出来なかった。
 
 
「それで、メンブルク公爵家で何があったんだ」
「えと、二つあって……」
 
 俺の部屋に移動し、まずはシェリーベルくんに『体が良くなりますように』と祈ったら体内の魔力が移動したようだったことをレオに話した。どうなったのかは分からないが、今のところはシェリーベルくんの体調に変化はなかったことを伝えた。
 
「なるほど、何かしら魔法が発動したことは確かだが、魔法の内容が分からない、と」
「そう。とりあえず悪くはなってないようだから様子見で。ゆくゆくは魔法をコントロールしたいから、出来る魔法を繰り返し発動させて、出力操作を体で覚えられるかやってみようかな、と」
「あまり無理をするなよ。もし魔力枯渇したらどうなるか分からない。もし何かあればみんなの前で濃厚なキスをするからな」
「ひぇ……気を付ける」
「で、もう一つの相談って?」
「その、俺には4つ上の兄がいるんだけど……」
「オレと同い年か」
「そう。で、お兄様は俺に凄い愛情を抱いてくれてるというか過干渉ぎみというか……。それを今日の今日まで忘れてて」
「ティアみたいな初心で可愛い弟が、ぽっと出の自分と同い年の男にそそのかされて奪われたら怒り狂うだろうな」
「いや……そんな」
「ティアのお兄様に会えたらちゃんと話し合いをして認めてもらうから、安心して大丈夫だよ」
 
 何か問題が起きそうな予感しかしないが、この話は一旦終わりにして、俺からは学校のことや課題のこと、レオからは今日のクエスト内容などを話して楽しく過ごした。
 
「そしたらティアは明日も学校だし、そろそろ隣の部屋に戻ろうかな」
「うん、また明日ね」
 
 レオの顔が近づいているのに気付いて目を瞑る。軽く唇に触れた柔らかい感触に満足して思わず口元が緩んだ。
 
 ソファーから立ち上がりレオが部屋を出ようとした瞬間、目の前にいる俺を越えた部屋の奥にレオの視線が注がれた。ん? なんかあったっけ……。レオの視線を辿っていくとベッドの傍のサイドテーブルがある。正確にはそこに置いてある、フリードからもらった例の『参考書』が。
 
 
「ぬぁぁぁぁー!!!!」
 
 俺はすぐさま振り返りダッシュして本を隠そうとするが、ろくに体も鍛えていない俺はA級冒険者であり、体格差もあるレオに直ぐに追いつかれ、かと思うと後ろから抱き上げられた。
 
「わぁー!!」
「なぁーにをそんなに分かりやすく隠そうとしてるんだ」
 
 抱き上げられた状態から俺を前向き抱っこに変えると、少し俺を移動させ米俵を担ぐような格好になった。ちょ、なにこれなにこれ早業すぎる。
 
「レオ! ちょっと!!」
「えーと、どれどれ……『本当に相手が喜ぶ営み講座 初級編』?? 何コレ?」
 
 俵のように抱き上げられているため、レオの顔は見えないが、声が穏やかじゃない。嫌な予感しかしない。
 
「えーと……それは……今日フリードに借りてきたというか、読めと言われて渡された本です……」
 
 抱き上げ……いや担がれたまま、落ちないように暴れずに答えた。
 
「なんでまたこんな本を借りる流れに?」
「その……付き合い始めた人が男性で、その……具体的な交際方法とか知りたいって言ったらコレを見て勉強しろって……」
「自主的に学習しろって?」
「そう……」
「ふーん」
 
 担いだままの状態で、レオが本をめくる音が聞こえた。あぁ……俺はまだ1ページも読んでないのに……一体どんなことが書かれてるんだ……。初級編だし、既にレオとやった諸々よりは軽い内容のはず! きっと!
 
「なるほどね……。初級編読み終わったら中級編に進むの?」
「それは……分かんない」
 
 レオが本を置き、俺を前向き抱っこの状態にしたあとベッドに静かに下ろした。レオがしゃがんで俺と目線を合わせる。
 
「ティアは賢いから、ほんとを読んだらすぐに内容を理解すると思う。だけど『学ぶ』とは『まねる』が由来の言葉で、やはり実践し、繰り返すことによって身に付く、習得したと言える」
「……つ、つまり?」
「一人で勉強せずに、一緒に学んでいこう。毎晩」
 
 真剣な表情をしているが、一緒にイチャイチャしたいということだろうか……。
 
「こういう恋人同士の営みは相手がいてこそ出来るもの。オレたちは愛し合い、より具体的な実践形式で学べるじゃないか」
 
 至極真っ当なことを話してますよ? というていを崩さないレオ。いや、俺もレオとイチャイチャするのは寧ろ歓迎ではあるけど……。
 
「俺、今まで恋愛に関する知識も経験も無かったから……」
「オレの為に勉強しようと思ってくれたのは嬉しいよ。でも今後は人に聞いたり一人で勉強したりするのはやめて欲しい」
「え……なんで?」
「ただの嫉妬だよ。オレはティアの初めてなら何でも欲しい。オレのやることにドギマギしてる純真な初々しいティアから、慣れてくるところまで全部見たい。オレ以外の所から知識を得るのは面白くない」
 
 面白くないときた。なんだか子どものような言い分にくすりと笑うも、途中笑えないことを言われた気がする。
 
「とにかく、焦らなくて良いよってことが本題。ティアが卒業するまで一年以上あるんだから、それまではゆっくりイチャイチャしたい」
「イチャイチャ……」
 
 やっぱりイチャイチャしたかったのか。
 
「ティアが学校卒業したら……すぐに結婚したい……。正直オレはティアを守りたくて、愛おしくて、好きという気持ちよりも庇護欲が先にあった。良い子だなって。でも、一生懸命で頑固で、見た目と小さい頃からの学校環境のせいで自分に自信が無さそうなそぶりもあるのに、前向きに生きている強さに惹かれた。気を許すとよく笑うし、体に触れても平気だし無防備だし、可愛な……って。オレ以外のヤツに見せたくないなって。独占欲だよ。今回ティアに内緒で婚約まで強引に持っていったのだって、ティアを縛り付けたかったからだ。こんな、自己中心的で傲慢なオレでも良い? オレと結婚してくれる?」
 
 急にいつもの力強さを無くして、懇願するように語った告白に、俺は言葉を無くした。レオは俺と結婚を申し込んでくれる程好きでいてくれたんだと思った嬉しかったけど、具体的に話してくれたのは初めてだった。
 俺はレオの言う通り、本当に愛してくれるのかな……? って疑心暗鬼なところがあったし、それはレオのことを心から信じきれてないことと同義だ。そんな俺のことを分かっているから、同じようにレオも不安なのかもしれない。
 
「レオ、不安にさせてごめん。本当に好きだよ。俺のこと、好きになってくれてありがとう。俺もレオのことが大好き。レオが俺の初恋だし、死ぬまでレオだけを愛すよ。この指輪に、自分自身に誓うよ。俺と結婚してください」
 
 今やっと、俺自身が『黒い悪魔』というものに心を縛られていたんだと気付いた。その抑制された心を解き放ってくれたレオに、身も心も縛られるのは自然な流れのように思えた。
 俺が素直な気持ちを口にすると、レオの男前の顔がパァーっと輝いて抱きついてきた。なんだなんだ、凄い可愛いな。
 
「ありがとうティア。大事にする」
 
 いつもカッコ良いレオがなんだか幼くも、でもやっぱり頼りがいのある年上の男性に見えて、これが愛おしいって感情なのかな? と頭に過ぎりながらレオをぎゅっと抱きしめた。
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