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6 ベアトリクス視点

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 物心ついた頃から、シェリーとずっと一緒だった。銀糸の髪はいつもキラキラ輝いて、漆黒の瞳はいつだって私だけを見つめていた。
 
 手を繋げば嬉しそうに笑い、一生懸命に話す姿は健気で愛おしかった。当時、それが恋愛感情だとは分からなかったが、幼いながらもシェリーは私だけのシェリーだと独占欲だけは強かったように思う。
 
 人見知りで、私以外の人間が現れると私の手を握り、不安そうな顔で見上げてきた。それが庇護欲を掻き立てると同時に独占欲が年々強まるのを感じた。
 
 シェリーは美しく愛らしい。性格も良く、温和で気遣いが出来、遠慮しがちで、人と接するのが苦手なようだった。だが、シェリーには私がいるのだから全く問題ないと思った。
 
 光り輝くシェリーにまとわりつく蛾のような奴らを追い払い、そういったやからの存在がシェリーに悪影響をもたらさないように囲いこんだ。二人だけの世界は居心地が良かった。
 このままずっと二人で過ごすのだと確信していた。
 自分が愚かな行動を起こす前までは。
 
 
 
「もう終わりだ……。私は死ぬ……。後のことは頼んだ」
「無責任に死ぬな。カタをつけて勝手に死ね」
「ミカ……優しくしてあげて……ベアトリクスがバカで愚かで考え無しの無責任男だと言うことは正しいけど」
 
 ミカと生徒会会長であるトリスタンは私を慰めるどころか傷口に塩を塗ってきた。だが言っていることは正しい。私は愚かでバカなんだ。
 
 
「だいたいさー、自他ともに両想いなのが分かりきってる学校公認カップルなのに、なんでそんなシェリーちゃんを試すようなことしたの? 普通に可哀想だよ最低ー。シェリーちゃん良識人ぽいし性格良さそうだから、もう完全に身を引いたね。自業自得だよ」
「本当に……そうだと思う……でも好きなんだ……シェリー以外ダメなんだ……。あとシェリーちゃんって呼ぶな」
「だからさー、なんで先にそれシェリーちゃんに伝えなかったの? なんで『押してダメなら~』じゃなくて最初から引いて引いて更に引いてみたんだよ。そりゃ身を引くでしょ。本当に相手が好きなら自分の想いを優先するより、好きな人に幸せになって欲しいもん。シェリーちゃん辛そうな顔してたな……直接謝りたい……」
「お互い両想いだと分かっていたからこそ、シェリーに好きだと言われたかったんだ……。私が間違っていた……。あとシェリーちゃんって言うな」
「臆病者、人間のクズ、卑怯者、シェリーちゃんに謝れ」
「うう……」
 
 
 死人に鞭を打たれ、私は机に顔を伏せることしか出来ない。ヤバい、本当に辛い。もってあと数日の命だ。
 
 いつだってシェリーはキラキラと愛情の籠った目で私を見つめていた。その瞳が大好きで、何度その瞳にキスしそうになったか分からない。だがハッキリとした名前のない、あるとすれば『幼なじみ』という今の関係性が幸せで、このまま変わらず続けば良いと思い、中々言葉にしてシェリーに好きだと伝えられなかった。
 
 クラスが離れたタイミングで、天啓のように浮かんできたのだ。私がシェリーから離れたらシェリーから寄ってきて、あわよくば好きだと言ってくれるかもしれない。そしたら幼なじみから恋人としてお付き合いスタート出来るんじゃないか。
 
 淡い期待を抱き行動に起こすもシェリーは寂しそうに微笑んだだけで、全てを了承した。自分ほどシェリーは私のことを好いていないのではないか? そんな不安がぎった。そして起こしたのがあの愚行だ。
 
「あの食堂の件のせいでラシュカは泣いちゃったんだよ? もう可哀想過ぎて可愛かった。一晩中メロメロに愛して慰めた」
 
 ついでのように聞かされるミカの惚気も今の私にはダメージ量がデカかった。そうか……恋人になれば一晩中イチャイチャ出来るのか……良いな……。
 
「更にはベアトリクス様とシェスリード様の二人を引き裂いた悪者とか言われて風評被害酷いんですけど!? まぁ言った奴らはみんな締めていったから問題はないけど」
「ミカ、締めるのは良いけど毛色の変わったお前のファンクラブの人数把握しとけよ」
「会長大丈夫だよ、暫く増えてなくて今は330人くらい」
「……それ校内だけの人数だよな?」
「躾けた生徒の数だねぇー」
 
 
 存在が希薄になりつつある私を心配した会計や書記がアドバイスしてくれ、会長とミカも悪態をつきながらも相談に乗ってくれた。明日シェリーに会いに行って謝ろう。そして告白してパートナーになって欲しいと伝えよう。
 
 


 
 
 結論、その作戦は失敗に終わった。祭典の時のように一緒に過ごせないと言われると思ったのだろう。私は想像してなかった展開に言葉が出なくなってしまった。そして何より寂しそうに微笑むシェリーに自分の罪の愚かさを痛感した。ここ最近はシェリーにそんな顔ばかりさせている。
 
 何とか本当のことを言おうとしたが、その前に一年の男にシェリーとの時間を奪われてしまった。パーティーのパートナーに誘ったばかりか、それが断られることを見越してデートの約束を取り付けた。それも日時や場所が私にも分かるようにその場で。コイツ……私を挑発しているのか……? ギリギリと睨みつけるも侯爵子息だという男は気にとめずニコニコとシェリーを見ている。シェリーは優しいから困ったように微笑んでいた。
 嫌だ。シェリーが私以外の誰かと共にいるなんて嫌だ。
 だが、シェリーと私が付き合っていないと周りが気付いてしまった今は、誰しもチャンスがあることになる。私が、チャンスを与えてしまった。
 
 フラフラと食堂を後にし、どうやってデートをぶっ壊そうかと策を練り始めた。
 
 


 
 デートぶっ壊し作戦は会長たちの手によって止められてしまい、仕方なくデートを監視をするに留めた。シェリーが危ない目に合わないよう伯爵邸を出るところからずっと見ていた。

 侯爵子息は気に入らないが、手を出すことも無くシェリーを家まで送り届けた。シェリーは最初戸惑っていたものの、一日楽しそうに過ごしていた。私は、その男がシェリーを笑顔にしたのだということに、ずっと泣きそうだった。

 生涯、シェリーを笑顔に出来るのは私だけだと思っていた。とんだ驕りだったのだ。
 
 シェリーが家に入り、暫くしてから伯爵邸のドアを叩いた。家令にシェリーと話があることを伝え、ここ数ヶ月のことから察したのか、「頑張ってください。素直になってください。応援しております」と励まされた。
 
 私はシェリーの部屋の扉をノックした。
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