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 毎日が穏やかに過ぎ、僕は15歳になった。
 僕は学校ではギュンターとライルと過ごすことが多く、委員会などにも誘われたが、クロードとの時間を減らしたくなかったので断った。そのせいかは分からないがギュンターが忙しそうだ。断らないギュンターが悪いと思うんだ。恨めしそうな目で見ないで欲しい。
 
 クロードは12歳となり、共に学校に通っている。一緒に通学出来て嬉しい。毎日「行ってきます」「おかえりなさい」と抱きしめ合うのも良かったが、一緒に過ごせるのが一番嬉しい。
 
 クロードは入学早々から男女共に人気らしく、可能なら僕がクラスに行って見極め、蹴散らせたいが、何分校舎が違うので難しい。本気で悩んでいるのにライルもギュンターも真剣に聞いてくれない。何故だ。
 
 クロードはニコラス殿下とギュンターの弟カイルといることが多いようだ。初めてのお茶会以降、月2回程集まって話しているようだが、内容は知らない。流石にご学友同士で遊んでいる中にお邪魔することはしない。一度ギュンターに彼らがどんな話をしているのか知っているか聞いたら、
 
「うちの弟が不憫で可哀想だ。知らない方が幸せなこともある。本当にオレもカイルも可哀想なんだ。」
 
 と意味の分からないことを言われた。結局知っているのかどうかも分からなかったが、ライルに「ギュンターの頑張りを応援してあげよう。」と言われ話は強制終了した。
 ギュンターがライルに泣きついているのを見つつ、僕はクロードと帰宅する為に移動した。
 
 
 
 校舎を移動し、クロードがいる教室に向かう。
 途中にあるベンチに真っ赤な色が見えて足を止める。
「殿下? もしやクラウス第一王子殿下ではありませんか。」
 
 エダーランド国の象徴である赤を身にまとったその人は、どう見てもクラウス・エダーランドその人であった。
 
「お久しぶりでございます。殿下、何故こちらの校舎に?」
 
 殿下は僕より年上で校舎は大分離れているはずだ。
 
「フィールディング侯爵家のレイフォードか。確かそなたも今年から弟が入学したのだったな……。」
「はい……。もしかしてニコラス殿下にお会いになりたいのですか?」
「王宮では、それぞれの派閥からも王妃からも見張られ、ニコラスとあまり一緒にいられない。学校内であれば報告はされるであろうが大きく咎められはしない。共に学校で過ごす間だけでもと思ったのだが、緊張してここから動けなくなってしまったのだ。」
 
 昔聞いた時はニコラス殿下からクラウス殿下への想いが強いのかと思ったが、なんだ両想いではないか! これは臣下としてご協力せねば!
 
「そういうことでしたら私にお任せください! 今から私は弟に会いに行きます故、ニコラス殿下も共に帰ろうと連れ出し、ここを通ります。是非その際にここや、別室などでご兄弟水入らずでお過ごしください!」
「本当か! 久しぶりに会うのにクラスに行って、万が一騒ぎになると申し訳なく思っていたのだ。ここで待っておる。よろしく頼む。」
 
 クラウス殿下が嬉しそうに笑った。
 年上だが素直そうなお方で、恐らくこのまま王太子になるだろうにこのような純粋さで大丈夫だろうか、と心配になる。いや、そんな殿下を守るために我らが支えるのだ。と気持ちを新たにしてクロードのいる教室へと向かった。
 
 
「クロードはいますか?」
 クラスの入口付近にいた男子生徒に笑みを浮かべながら話しかける。生徒は何故か一瞬固まったが、無言で中へと走っていった。
 
「お兄様。わざわざお越しくださったのですね!」
 クロードがカイルとニコラス殿下を伴いやってきた。ちょうど良い。
 
「ちょっとみんなにも用事があって、このまま一緒に帰りながら話さない?」
「今から帰宅するところでしたので、是非ご一緒させてください。」
「オレも大丈夫です。」
 
 
 4人で並んで歩く。ふと隣りのクロードを見るが、もうあまり身長が変わらない。僕も165cmくらいでまだ伸びそうだが、クロードも160cmあると言っていた。お父様似だし身長がされるのも時間の問題か。
 
 産まれたその日に守らなくては……! と誓った弟がこんなに大きくなったんだという嬉しさと少しの寂しさを感じながらクロードを見ていると、目が合い微笑まれた。ドキッとする。
 
「なぁにお兄様?」
 足を止め左右の手を握られる。
 
「大きくなったなぁと思って……。」
 特に隠すことなく思ったままを伝えると、クロードは目を見張り本当に嬉しそうにはにかんだ。
「お兄様から成長したことを認められるのが、誰よりも嬉しい。」
「クロードは本当に優秀でカッコよくて可愛くて……自慢の弟だよ。」
「お兄様もどんどん……綺麗になるね。」
 そう言って掴んでいた右手を離し、頬に手を添えられる。中指で左耳をくすぐられ、親指で頬を優しくこすられる。
 
 僕を見るクロードの目が……知らない人のようで……。くすぐったいからやめてって言わなきゃいけないのに目が離せなかった。







「はーい! オレもいます! オレたちもいます! 続きは場所を移してからということでいかがでしょう!!」
 
 カイルが自身の存在を主張し、空気が戻った。
 はっ! 僕は一体何を……! 金縛りにあったかのように動けなかったが、カイルの言葉で動けるようになった。良かった。
 
 ニコラス殿下は放置したことを怒るでもなく、笑っているし、クロードも微笑んでいる。カイルは何故か涙目だがどうしてだろう。少しの間存在を忘れていたからだろうか。
 ギュンターといいカイルといい、ノーベル家の兄弟はよく泣くんだな。
 
 その考えが検討違いであることに本人は気づかず、クラウス殿下の待つベンチへと近付く。
 
「ニコラス!!」
 
「兄上!?」
 
 突然の第一王子殿下登場に、ニコラス殿下は声を上げ、僕は笑い、クロードは表情が変わらず状況を確認するように観察し、カイルは遠い目をしていた。何故。
 
「ニコラス、入学おめでとう。学校なら周りの目を気にせず話せると思って待ってたんだ。その……迷惑だったかな……。」
 
「全然迷惑じゃないです! 兄上、お会いしたかったです。わざわざ遠くまで来てくださって嬉しいです。放課後に使用出来る空き教室があります。そちらに行きましょう! 2人で!」
 
 ニコラス殿下、余程嬉しいのか見たことないくらいテンションが高い。そんなニコラス殿下を見てクラウス殿下は頬を染めた。
 
「じゃあ私たちは先に帰りますね。殿下、どうぞゆっくりとお二人の時間をお過ごしください。」
 
「ありがとう。ではまた。」
 
 王子2人が去り、じゃあ残った3人で帰ろうとすると、
 
「しまった! 委員会に入ったから今日の放課後会議に参加しなきゃいけないんだった! ごめんクロード、また明日な。レイフォード様、また今度是非ご一緒させてください。」
 
 そう言ってカイルは足早に校内へ戻って行った。
 ノーベル家の兄弟は忙しそうで大変だなぁと、思いながらクロードと2人で喋りながら帰宅の途についた。
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