ダンジョンマスターは魔王ではありません!?

静電気妖怪

文字の大きさ
79 / 106
4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

79話「崩壊の影2」

しおりを挟む
 ー冒険者ギルドー

 ギルドの最上階から急いで降りてきた大男達は目の前に広がっている惨劇に驚愕した。

「こ、これは⋯⋯!」

 木製の床には所々に穴が空き、場所によっては真っ赤に染まっている。さらに、カウンターは大破し同様に椅子や机も壊れている。そして——

「おい!コイツらになにがあった?!」

 首を刎ねられ動くことのなくなった多くの死体。
 今は丁寧に布で包まれているが頭部の部分は赤く染まっている。そして、その死体のそばでは今も涙を流す冒険者は少なくはない。

「ダンジョンマスターです⋯⋯ダンジョンマスターと思しき人物によって殺された冒険者達です!」
「⋯⋯マジでいたのかよ」
「い、いえ⋯⋯それはまだ断定できていません。た、ただ、ロート様が言っていたので⋯⋯」
「ロート が言ったか。ならほぼ黒と見た方がいいだろう」

 そう言って大男は近くにいた別の職員に足を向けた。

「おい」
「は、はい!」
「ダンジョンマスターを追いかけて行った奴はいるよな?誰が行った!」
「た、確か ロートさん、ネビラさん、それにボールスさんです! ほ、他にもB級の方が数人追いかけていきました」
「あん?ボールス の奴が帰ってきてたのか?」
「は、はい!」

 職員の思わぬ報告に無意識に大男の口角は上がっていた。ただでさえ図体が大きいだけに、まるで獲物を見つけた大型獣のような迫力がある。その威圧感は耐えきれなかった職員をその場にへたり込ませるほどだ。

「不幸中の幸いとはこのことだ!」
「貴方もいきますか?」
「いや、俺は出ない。俺にはこの場所街中は戦いにくい。なによりボールスの邪魔になる」
「ボールスの⋯⋯ですか?」
「ああ。S級冒険者『神に挑む采配者ヘラオス・フォルダラー』⋯⋯奴がいるんだ問題ないだろ」

 ギルドをメチャクチャにした借りはしっかり返してもらう、そう意気込みながら大男は自身のあまりの幸運に興奮していた。

「⋯⋯そう言えばマスターには声をかけるなって言っていたような」

 職員の小さな声が耳には入らないほどに。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 一方的に攻められた上に、魔法の猛攻を無傷で凌ぎ切った レイジ。しかし、その内心は冷や汗が滝のように流れていた。

(危なかった!気づくのがあと少し遅かったらペシャンコだったぞ!)

 レイジの持つ技能スキル『暴食』はあくまで『食べる』ことを前提としていた。そのため、氷魔法に対しては有効だったが重力魔法に対しては逃げる必要があった。
 そして、激しい動きをすることに多少の心配があった。
 今もギュッと レイジ の服を掴み、小さく丸まっている ゼーレ がいる。少しでも レイジ の負担にならないように考えてくれているようだ。

(これで相手取る人数が減れば良いんだが⋯⋯)

 『暴食』の披露で微かな希望を抱きながら、ゼーレ を抱える手と剣を握る手、両方に力が込められた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 冒険者達が囲む光景を背中に立つ ボールス は一連の攻防を見て考え巡らせていた。

(上級魔法を二発⋯⋯多分、アレは直撃だろう。それを食らっても無傷ってのは、どう言う原理でそうなっているのかがわかんねえな⋯⋯)

 視界の中心にいるのは白髪の少年。
 そして、視界をずらせば自信のあった魔法を完全に捌かれたことで動揺を隠しきれずにいる ネビラ と騎士団の隊長の一人。

(ま、そうなるわな。自慢の魔法を無傷でいられりゃあ、多少なりとも乱れるわ)

 そして次に視界に入ったのはダンジョンマスターの能力を知っていた ロート。

(鬼妹の言う通りなら魔法は無意味⋯⋯いや、下手したらもっと何かあるかも知れんから悪手でしかねえな。となると——)

 そんな風に考え耽っている ボールスの横から小さな声が掛けられた。

「⋯⋯なあ ボールス」
「んー?どうした ネビラちゃんよ」

 声をかけてきたのはメガネと妖精の衣装がミスマッチな女冒険者ネビラだった。そして、ネビラは自信なさげに言う。

「アタシじゃあアイツを相手どれねえぞ」
「そうだな。鬼妹の言ってることは恐らく正しいだろうな」
「じゃあ——」
「でも下げねえぞ」
「⋯⋯は?」
「いやいや、コッチは手数で攻められることに優位性があるのに、それを捨てる意味もないだろ。それに魔法が効かないのはダンジョンマスターだけで俺たちには問題なく使えるはずだ」

 置かれている状況を冷静に分析するボールス。地の利、数の利を得ているのは間違いない。そして——、

「そう言うわけで補助には回れるはずだ。期待してるぞ」

 その一言、たったその一言だけで ネビラ の不安は氷解した。
 見れば先程までの心の揺らぎはどこにも感じられない。いつも通りの自信満々のデカイ態度の女がそこに居た。

「チッ、しゃあねえな。ま、下がんねえでやってやんよ」

 そう一言残すと ネビラ は ボールス の少し後ろへ待機した。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 ボールス 同様に副団長もまた状況の分析に頭を回していた。

(魔法が効かない、か。本当にそんなことができるのか? いや、現にできているのだ。問答をする意味もない。だが⋯⋯)

 そんな風に考えている副団長の元に杖を持った女性が近づいてきた。

「副団長、私はどうすれば良いですか? ですか?」
「うむ⋯⋯」

(ボールス⋯⋯奴も魔導士を下げないか。やはり後衛に立たせ足止め、補助と考えるが吉か)

 冒険者側の魔道士の動きを見て、副団長はボールスと同様の結論を導き出す。

「お前は後衛にまわり魔法を当てろ」
「え!? で、でも——」
「足止め、もしくは我等の補助の魔法を、だ」
「わ、わっかりました!」

 そう言って女性は副団長の後方へ走って行った。そして、入れ違いに西洋剣を二本構えた男が近寄ってきた。

「副団長、まずは私が」
「うむ、奴もやり手だ。気を抜くなよ?」
「ハッ」

 副団長の念押しに片膝を突き、騎士らしい作法で承る西洋剣の男。
 そして、そのままの体制から男は剣を構え腰を落とした。

「う、ぐうぅゥ——グウウルああアアアアアァァァッッ!!」

 獣の様な雄叫び。
 その声と共に男は駆け出した。決して人間の物ではない足跡を残して。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

(——来るっ!?)

 沈着していた戦い。次に攻撃を仕掛けたのは兵士側だった。
 両手に持つ二本の西洋剣を巧みに動かし レイジ の顔、首、肩、太腿を的確に斬りつけてきた。どれも当たれば軽くは済まない場所ばかりである。

(速い⋯⋯が!)

 その剣速は普段見ているミサキの『神速』には遠く及ばない。
 レイジ は男の二本の西洋剣の隙間を縫うように体を潜り込ませながら回避した。そして——

「貰ったッ!」

 技と技の切れ目、呼吸の瞬間を レイジ は上手く突いた。振り抜いた蛇腹の剣は男を囲む様に伸びる。

 360度、周囲を囲む刃から男は逃れる術は無かった。
 それは得物が二本なら、あるいはもう少しレイジの剣速が早ければ仕留め切れていただろう。しかし——

「甘いッ!」

 突如現れた第三の武器。それは鋭利な槍を象った何かが レイジ の肩を狙った。

「な!?」

 レイジ は咄嗟に手を引いた。しかし、その行動により男への攻撃は外れ、さらに——

「取り敢えず一撃、と言ったところか」

 咄嗟の判断により肩への負傷は避けられたが、腕に浅くはない傷ができていた。
 ポタリ⋯⋯ポタリと赤い血が レイジ の腕から零れ落ちる。

「お、お兄ちゃん!」
「黙ってろ」

 流石の ゼーレもレイジ の負傷に声をあげた。
 レイジ 自身剣はまだ振れるだが、傷を負った理由が分からないことに焦っていた。しかし、その攻撃をした張本人に目を向けると答えはすぐに理解できた。

「⋯⋯おいおい、まさにファンタジーってことか?」
「ふむ、私の姿を見て驚かないところを見るとは⋯⋯やはりダンジョンマスターは見慣れているものなのかな?」

 先ほどまでは間違いなく人の姿をしていた西洋剣の男。しかし、今はその姿が影もないほどに変貌していた。

 黒い瞳孔に金色の網膜。全身には所々に鱗の様な物が現れ、その腕や足には爪が鋭く伸びている。さらに、背後には大きな一対の翼と先端が赤く染まった鱗に覆われた尾がまるで別の生き物のように動いている。

「私は竜人族ドラグニュートにして騎士団一番隊隊長 アレク・シュポンド・ペンドラゴン。竜がいかなる存在かを君に見せてやろう!」

 西洋剣の男——アレク・シュポンド・ペンドラゴン はそう言って再度構えを取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...