ダンジョンマスターは魔王ではありません!?

静電気妖怪

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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

80話「崩壊の影3」

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「竜がいかなる存在かを君に見せてやろう」

 アレク は得意げな顔で語る。しかし、レイジも負けていない。

「⋯⋯悪いが、得物が二本から三本になっただけだろう、が!」

 様々な戦いと訓練のおかげで辿り着いたその脚力は一瞬のうちに距離を詰め、アレク の二本の剣と一本の槍が動く前に切り捨てようとしたが——

「っ!?」

 剣を振る直前に レイジ の視界は何らかの物体が高速で接近して来ることに気づいた。

「チッ」

 攻撃を断念し、レイジ は改めて距離を取った。
 距離を取ったことで飛来してきた物体の正体が分かった。それは、鞭である。

「クラリスッ!」

 アレク は攻撃の邪魔をした張本人、鞭を振るった女性——クラリス に声を荒げた。しかし、クラリスは両手を軽く上げ、肩をすかしたような態度をとる。

「副団長の命令ぞ?」
「む? 副団長の命令か。では仕方ないか!」

 数秒前まで反発的な態度であったのにも関わらず アレク は納得した。クラリスに向けた怒りの矛はすぐに レイジ に向けられた。

「すまないな。副団長の命令とあらば仕方なし、と言うものよ!」

 開いた距離を アレク は脚力と背中に生えて居る翼の推進力で迫った。
 右から、左から剣が飛び、技の隙間を縫って上から下から鋭い尾が飛来する。

「竜の名が泣くぞ!」

 レイジ は蛇腹の剣で弾き、体捌きで避け、空いている足で無理やり隙を作る。しかし——

「させないぞ?」
「止めるのです?です!」

 アレク にとっては最高、レイジ にとっては最悪の場面で鞭が飛び、足元が凍る。

「クソッ!」

 レイジ は咄嗟に跳躍し上空へ逃げる。だが——、

「待っていたぞ」

 レイジ のちょうど真後ろ——そこには、西洋剣を振り上げた副団長の姿があった。

「死ぬがよい!」

 強烈な一振り。
 その一振りで風が巻き起こり、小規模の竜巻を起こした。その一振りによりレイジは地面に叩きつけられた。

「⋯⋯フン、上手く防ぎおったか」
「え? 副団長、今のは直撃ではないのですか?」

 気に入らない、そんな感情を隠さずに出した副団長に アレク が尋ねた。
 副団長は「見てみろ」と言いながら顎でレイジの落下地点を示す。砂埃が立つ中薄っすらと見える一つの影——

「なんとっ!?」
「まったく⋯⋯よく防ぎおるわい」

 次第に砂埃が収まり、影の正体が現れる。
 そこにいたのは蛇腹の剣を全身に巻きつけた状態で立っている レイジ だった。

「あのタイミングは絶好の機会だからな」
「フン⋯⋯面倒よ。おい、アレク!」
「は、はい!」
「次は二人で行くぞ」
「了解です!」

 副団長と アレク が再び構える。レイジも蛇腹剣を戻し迎撃体制をとる。
 一向に減らない相手の数と、自分の技が知られることにレイジの焦りはさらに加速する。

「ねえ、お兄ちゃんやっぱり——」
「大丈夫だ、心配するな」
「⋯⋯うん」

 レイジの内心を察するゼーレ。しかし、その先の言葉を聞いてしまったらレイジの気持ちも崩れてしまう。ギリギリの瀬戸際を支えている『生』への執着が薄れてしまう。

「戦いの最中に余所見とは——笑止ッ!」

 レイジ と ゼーレ のやりとりが気に入らなかったのだろう副団長が先に仕掛けた。
 その速度は レイジ の限界の速度に匹敵していた。そして、繰り出されたのはその速度に乗った刺突——その一瞬後、金属がぶつかる特有の音が大きくなった。

「ほぉ、今のを防ぐか。自慢の突きなんだがな」
「ははっ⋯⋯そのまま誇りにしていいと思うぞッ!」

 刺さる直前、蛇腹剣の先だけを飛ばし突きの軌道をズラすことで レイジ は紙一重で避け切った。

「まだ次だぁっ!」
「クッ⋯⋯」

 至近距離で向きが変わる副団長の剣。
 レイジ は柄で西洋剣の腹を叩き上げ軌道をさらに変える。だが、そこに——

「アレクッ!」
「了解!」

 副団長の鋭い掛け声。そして、それに応えるアレクの返答。
 いつの間にか レイジ の背後に回っていた アレク の全身を使った刺突。その巨体が全体重をかけた突きを喰らえばタダでは済まないのは明白だった。

(これは⋯⋯!)

 この目を見張る連携にレイジ の思考が加速する。
 ゼーレを抱えた状態で副団長の攻撃を避け切るに多少の無理をした。重心を傾かせ、足が浮き、蛇腹剣の腹を見せる。最悪の状態が完成していた。

(ダメだ⋯⋯これは間にあ——)

 コマ送りのように見えるアレクの突撃。
 走馬灯を感じさせる危機的状況。しかし、絶望の中で希望はより明るく見えた。そう——

(——うっ!)

 ——最初の副団長の刺突。その時に伸ばした剣先がまだ舞っていたのだ。

「オオオオオオオォォッ!」

 レイジ は叫びと共に蛇腹剣を釣り竿のように引き戻し、先端を動かした。
 コマ送りの一瞬から抜け出すように、迫り来る死を祓い抜けるように、この一振りに全力を注いだ。

「なっ!?」

 驚愕。
 振り抜かれた剣先は、レイジの元を通り抜け、背後から迫るアレクに向かっていく。アレク にとっては突然目の前に凶器が現れそれが差し迫っている状態となったのだ。そして——

「そんな⋯⋯ばか、なっ⋯⋯!」

 突撃して来る アレク の頭部を貫いた。

「アレクッ!」

 副団長の声が響く。だが、当の本人は返事をしない。
 口から貫通した先端は アレク の後頭部を突き抜けその速度を完全に失っていた。風穴の出来たその場所からは先端以外に赤い液体や桃色の何かまでもが飛び出している。目は完全に開き切り、その表情は驚きで彩られていた。

「⋯⋯貴様ァ!」

 副団長が怒りの声を上げる。眉間には先程までなかったシワが深く、深く刻まれている。

「やっと⋯⋯一人」

 レイジ はアレクの頭部を貫通させた先端を戻した。それと同時に先端とその糸が支えとなって居た アレクはドサリと音を立て地に伏した。
 レイジ の中に希望が芽生えた。この調子でいけば勝てる、そんな淡い希望が。だが、それは——


「これで——」
「テメェの負けだ」


 大いなる油断を生み出して居た。


「⋯⋯は?」

 一瞬。
 なにかが聞こえた。その聞こえた一言の次の瞬間には レイジ は宙を待っていた。

(視界が⋯⋯揺れる⋯⋯?なにが起きた⋯⋯?)

 今の一瞬が レイジ には理解できなかった。
 ただ、揺れる視界の中で目にしたのは——武器を振り抜いている ボールス の姿だった。

(何だ? 何が起きた? 奴か? アイツが何かしたのか? いや、俺を打ち上げたのか?)

 ゆっくりと進む宙での移動に レイジ の頭の中は疑問で覆い尽くされる。そして——

「今だ! 撃てッ!」

 ボールス の掛け声が耳に届く。

(やば——ッ!)

 唐突な引力の増加。揺れる視界の中、突発的な魔法に レイジ の対応が遅れた。
 そして、落ちる レイジ の直下に待ち構えるのは——

「お姉ちゃんの痛みッ!」

 鬼化した ロート の渾身の一撃。重力の増加とそれに反発する逆方向の力。
 二つの凶悪な力の組み合せがレイジ の背部を捉えた。正確には腹部に直撃する筈だったのを レイジ が咄嗟に判断で強引に回転し場所を変えたのだ。
 そして、レイジ は遥か上空に打ち上げられる。

「今度こそです、です!」
「喰らいやがれッ!」

 序盤で使われた二つの魔法『白銀の世界アブソリュート・ゼロ』と『極力の世界グラビティ・ゼロ』が再度 レイジ を襲った。

「ぐっ⋯⋯!」

 レイジ もかつてない集中力を出し抵抗を続ける。
 迫り来る氷の柱をなんとか吸収する。しかし、重力の力までは吸収しきれなかった。

「チク⋯⋯ショオオオオォォオオ!!」

 レイジ は叫んだ。高所からの自然落下では頭が下になってしまう。
 高速で迫り来る大地に レイジ は ゼーレ の頭を両手で覆い自身が下敷きになる様な体制に無理に転換した。そして——

「グハッ⋯⋯ごぽっ⋯⋯!」

 グキリ、と嫌な音が響いた。
 衝突と共に血液の塊が レイジ の口から這い出てきた。

「お兄ちゃんっ!」

 ゼーレ が悲鳴にも似た叫の声を上げた。しかし、レイジはその悲痛な声に反応することができない。
 内臓をいくつかやられただろう。骨が折れたのだろう、体が軋む。

「お兄ちゃんってばっ!」

 ゼーレ の声が遠くに感じる。

「起きてっ! 目を開けてっ!」

 必死に ゼーレ を視界に入れようとするが瞼が上がらない。
 微かに見える光の先は赤く、紅く レイジ の見たいものを邪魔していた。

「ぜぇ⋯⋯れ⋯⋯」
「お兄ちゃんっ!」

 呼吸が上手く出来ない。重い何かが胸にのしかかっているようで、肺が上手く動かない。

「おーおー、アレ食らってまだ生きてるのかよ」

 死ぬ瀬戸際まできているレイジに対して、軽い調子で言い寄ってきたのは両刃斧を肩に抱えたボールス だった。

「う、ぐぅ⋯⋯」

 声が出ない。
 視界が赤い。
 腕に力が入らない。
 立ち上がれない。

(ここ、まで⋯⋯か⋯⋯?)

 絶体絶命のこの状態。レイジ の中で戦う意思が薄れて行く。

(もう——)

「ダメっ!」

(——ッ!)

「お嬢さんそこを退いてくれねえか?」
「ダメっ! お兄ちゃんには近づかせない!」
「お兄ちゃんって⋯⋯お前ダンジョンマスターの妹か?」
「こっち来ないで!」

 遠くなる聴覚で捉えた ゼーレ と両手斧の男の声。

「ゼーレ達は帰るの⋯⋯ダンジョンに帰るのっ!」

(そうだ⋯⋯帰らないと⋯⋯)

「お兄ちゃんと約束したのっ!」

(約束⋯⋯そうだ⋯⋯!)

「ガハッ⋯⋯!」
「おいおい⋯⋯マジかよ」

 レイジ は息を吹き返した。
 レイジ は目を開け前を見た。
 レイジ は体に力を入れ立った。

「俺の術式を喰らい、他の奴の攻撃を食らっても立つか⋯⋯化け物かよ」

 ボールス の戦慄した声が漏れる。

「⋯⋯まだ、だ」
「お兄ちゃんっ!」

 覚束ない足取りで、蛇腹剣を杖代わりにして前を見る レイジ。
 視界はブレ、足は震え、頭が回らない。それでも、レイジ は ボールス をジッと見た。

「⋯⋯敬服するよ。その気合いに」
「ガハッ⋯⋯ハァ⋯⋯」
「だがまあ、満身創痍には変わらねえな」

 そう言って ボールス は両刃斧を振り上げた。

「ま、その態度に敬意を示して楽に終わらせてやるよ——じゃあな」

 言葉の最後と共に ボールス の両刃斧が振り下ろされた。
 狙いは首。確実に死ぬだろう。だが、レイジ はその目を離さなかった。そして——


「いやぁ、盛り上がってるとこすまんな」


 そんな軽い言葉とともに レイジ の視界はに包まれた。
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