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第4章
第81話
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湿った風が頬を撫でる。
少年の短く刈り揃えられた黒髪に悪戯しながら草の匂いのつまった風がゆるかやに通り過ぎていった。
ここは67階、神々の迷宮にある見渡す限り果てしなく広がる大草原である。
しかもただの草原ではない。疎林や灌木がまばらに点在し、大きな湖も存在する。
瑞々しい草花達の大きさも不均一で、エルの膝下ぐらいのものもあれば、食人大鬼でさえ身を隠せるであろう巨大なものまで生い茂っている。
気温は高く湿度と相俟って肌にまとわりつく様な、汗を掻かずにはいられない嫌な暑さだ。
迷宮都市はもうすっかり冬で、そろそろ初雪でも降ろうかという季節なのに、ここでは時折魔道具の水管を取り出し水分補給をしなければならない程の暑さである。
迷宮での気候は階層によって様々である。迷宮都市(アドリウム)と同様に四季が移り行く階層もあれば、真逆の季節の階層、あるいは常夏の島や永久凍土の地も存在するのだ。
まさに神々の創り給うた人智を超越した摩訶不思議な迷宮が、この神々の迷宮なのである。
茹でる様な暑さに僅かに辟易しながらも、少年は黙々と迷宮の奥へ奥へと進んで行くのだった。
ここ数日は色々な出会いがあった。エルにとってはよろしくない出会いであったが……。
純潔同盟という人間至上主義者達の集団に、その集団を率いる団長のガヴィーとの出会い。そしてそこからの理解できない一方的な命令に、アリーシャ達亜人を見下す不愉快な態度。
それだけでも参ってしまいそうなのに、リリを襲った粗暴な冬幻迷宮の冒険者達との遭遇である。
今でも親友のリリに暴力を振るったのが許せない。衛兵に突き出して事なきを得たが、元々人付き合いをほとんどせず、自分の夢に向かって邁進しそれ以外が何もかもが非常に疎かだった少年にとっては衝撃的な経験であった。
この最悪の出会いから、つくづく今までの出会いが幸運だと思い知らされた。
豪快だけど仲間思いで優しい義兄ライネルや、そのパーティの兄貴分や姉貴分達。
エルと同年代で互いに夢の実現に向けて切磋琢磨しあっている、今ではすっかり友人のカイ達。
スキンシップ過剰でたまに逃げ出したくなるが、闘いに対する姿勢や戦士の矜持について見習う事の多い、快活でアリーシャ達赤虎の部族の戦士達。
そして、何かといたらない事が多い自分に親身に忠告してくれ、日常の温かさを、楽しさを思い出させてくれる親友のリリ。
どれもこれも大切な出会いであり、誰かが欠けた日常なんてもはや想像もできないくらいだ。
だが今回の出会いはどうだ。人間の愚かな面ばかりを見せ付けられ嫌でも覚えさせられた。
世の中には優しい人ばかりでなく、自分の意志を無理やり押し付けてくる人間や、平気で他人に暴力を振るえる人間がいることを!
彼等の事を考えるだけで不快なものがこみ上げてきそうになる。ドロドロの感情と怒りで吐き気を催しそうだ。自分の親友が幼気な少女が襲われる場面がフラッシュバックし、気付けば歯を食いしばり勝手に拳を握りしめていた。
初めて目の当たりにした人間の嫌な面。
初めて他人に覚えた度し難い程の怒り。
それらの思いが少年の中でない交ぜになっており、今エルは自分の感情を制御できず持て余していた。
あいつ等の顔を思い出すだけで殴り倒したくなってくる。
いけない、このままじゃだめだ。
エルは慌てて頭を振り、不の感情を払拭する事に努めた。
そして言い聞かせる。悪人であろうが、悪事を働いていないのにこちらから暴力を行使するのは犯罪だと。嫌な人間なのは確かだが、こちらが近付かなければいいだけだと。
自分の気に入らない者に拳を向けるのは、それはもはやただの犯罪者であり武人ではないと。
そうだ、僕はアルド師範や偉大な武神流の先達達の様に立派な武人になるんだ。
不快な出会いにいつまでも囚われているようじゃ話にならないじゃないか!
そんな暇があったら修行を積み、魔物と闘うべきなんだ。ぐずぐずしているとアリーシャさん達に置いてかれるぞ!
両手で思いっきり頬を叩き、顔を上げ遥か先まで広がる平原を見渡した。
大きく息を吐き大量の美味しい空気を吸い込み深呼吸を繰り返し、眼前に広がる迷宮を見渡した。
果てしなく広がる大草原。
彼方では草食動物の群れがのどかに草を食んでる。空には多くの鳥達が舞い、楽しそうに囀っている。
何だか暗い感情に囚われている自分がちっぽけで、あれこれと悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。
そうだ、やるべき事は山ほどあるんだ。こんな所で立ち止まっている暇なんてないんだ。
気分を一新させた少年は闘いの相手を求めて、颯爽と走り出した。
程なくして複数の羽音が聞こえてくる。
狩人蜻蛉竜が3頭程固まっているようだ。
亜竜に分類される魔物ではあるが、大きさは長身の人間程度であり、竜鱗ではなく甲虫の如き緑色の甲殻に覆われ、背中に隠されていた翅を高速で動かし空中に浮遊しているようだ。顔は竜そのもので、口内にあける鋭い牙が時折顔を覗かせているが、顔事態が人間よりやや大きい程度であるので牙もそこまで大きくない。ただし、2つの特徴的な長い前肢は錐の様な鋭い突起物の形状をしており、鎧でも簡単に貫けそうだ。牙や前肢の鋭利な突起物、それに加えて口から吐く火炎、そして竜にしては小さな体躯を虫の様な翅で飛翔し高速移動できるのだ。
しかも複数で獲物を同時攻撃する事もある厄介さも持ち合わせている。
狩人蜻蛉竜は67階層の魔物に相応しい難敵であるのだ。
エルが発見したとほぼ同時刻に亜竜達も気付いたようで、甲高い鳴き声を上げると3頭が一斉に翅を羽ばたかせ、高速で突っ込んできた。
そのまま牙か前肢で攻撃し掛けてくると思われたが、全竜が飛翔しながら口を開き火球を発射してくる。
狙いはエルの上半身。当たれば火炎と爆風をまき散らすであろう事請け合いである。
まあ、当たればの話であるが。
少年は身構えもせず、何千何万と繰り返した足捌きでよってするすると火球の群れを簡単に躱してみせたのである。
ただし、亜竜達の攻撃はそれで終わりではない。
空を飛ぶ勢いに任せて長く鋭利な前肢がエルを貫かんと高速で迫ってきたのである!
前回闘った鎧魔生物とは比較にならない程の速さである。
しかも複数同時でだ。
エルは大きく目を見開くと、慎重に敵の攻撃を対処していった。
顔面に迫った前肢を籠手で捌き迫った牙を弾く。間髪入れずに別の敵からの攻撃を回歩、相手の横に回り込む足捌きで避け、更なる追撃を滑歩、気の移動術を用いて辛くも避け切った。
次はこちらの攻撃だと息巻いたがさにあらず。
通り過ぎた後に直ちに旋回すると再び3頭が突っ込んできたのである。高速戦闘を得手としているエルが、追撃する隙を見つけられない程の速さでである。
ああ、たまらない。
少年は口角をつり上げ、楽しそうに笑った。
アーマードゴーレムの剛力もそうだが、ハンターフライドレイクの速さというようにこの階層付近の魔物はどうやら一芸に秀でた、特定の分野で極めてすぐれた能力を有しているようだ。
それなら敵にあわせよう。
あえて敵の優れた部分で勝負するのだ。
そして凌駕し勝利を手にする。
そうする事で更なる強さを得る。
考えただけでわくわくが止まらない。
興奮と歓喜で体から勝手に気が漏れ出し、黒と白の入り混じった闘気が全身を包んだ。
さあ、どっちが速いか、勝負だ!!
亜竜達がまた性懲りもなく火球を放ってくるが、今のエルにとってはもはや些末な事である。
風迅
武神流の上位冒険者に許された気の高速移動術を発動すると、亜竜に対して真一文字に直進し火球がその身にぶつかり炎をまき散らしても一顧だにしない。
少年の身を覆う混沌の気が強固の壁となり、更には深紅の赤竜の武道着、火に対する強力過ぎる程の耐性を有する装備が火炎を退けたのである。
爆炎を一気に突っ切ると狩人蜻蛉竜は目前である。竜達もまさか一切減速せずに突っ切って来るとは思ってもみなかったのか、驚愕こそ顔には表れてはいなかったが動きは一瞬であるが鈍ったようである。
エルは些かも速度を緩めずに、ちょうど真ん中の亜竜目掛けて疾駆した。
そして、気の武器化によって右手を一本の槍と化させたのである。
穿貫槍
エルの手刀を硬質化させた気が覆い武器となり、亜竜の錐の如き前肢と衝突した!
一瞬の交錯。
硬い、金属同士をぶつけた音を大きな音を周囲に響かせながらエルと竜達は通り過ぎたのである。
その後、真ん中の1頭が力を失ったかのように地に落ちた。
エルの気の槍ではこの亜竜の前肢を貫けなったが、とっさに左肘を断斧、気で武器化させ駆け抜け様に胴体を薙いで斬り裂いたのである。
もっともエルも無傷というわけではなかった。
狩人蜻蛉竜の鋭い前肢が僅かであるがエルの強固な守りを突破したのである。頬を真横に切られたようで、血が流れ出ている。
敵に振り返り様、エルは頬を手で拭い血を舐めた。
鉄に似た独特の味が口に広がる。外気修練法を発動すると頬の傷はもう癒えたが胸が昂って仕方がない。自分に傷を与えられる敵の強さが、エルの穿貫槍をもってしても破れない強固さが嬉しくてたまらないのだ。
上等だ!!
必ずこの手で打ち砕いてみせると決意し、右手の気の槍にどんどん気を注ぎ込み強化していく。
そして神の御業剛体醒覚で身体強化を行うと、地を砕きながら猛烈な勢いで敵に突っ込んでいった。
亜竜側としたたまったものではないだろう。
火球を放っても時間稼ぎにもならない。
頼みの高速移動も相手の方が速く、しかも時を追う毎に敵の攻撃は凶悪になっていったのだ。
狩人蜻蛉竜が前肢を頼みに突っ込んでも弾き返され、ふっ飛ばされる。
翅を羽ばたかせ態勢を立て直した頃には、当初は獲物と定めていた人間が目の前に迫っている。
そして、抵抗も虚しくあっけなくまた吹き飛ばされるのだ。
何度かそんな亜竜にとっての悪夢が繰り返され、前肢の付け根が耐え切れずもがれ高速で飛来する何かを見た時には今生の終わりであった。
エルが左手を断魔剣となし頭から縦に一刀両断してのけたのである。
最後の一体にいたっては、もはや特筆すべき所は無いだろう。
エルが今後こそはと息巻き、あり得ないほど強化した穿貫槍によって前肢を破壊され、そのまま胴体から腹まで斜めに一気に穿たれ迷宮に還ったのである。
少年は目的を達成できた喜びと闘いの興奮が冷めらず、その心のままに天高らかに凱歌を上げるのだった。
少年の短く刈り揃えられた黒髪に悪戯しながら草の匂いのつまった風がゆるかやに通り過ぎていった。
ここは67階、神々の迷宮にある見渡す限り果てしなく広がる大草原である。
しかもただの草原ではない。疎林や灌木がまばらに点在し、大きな湖も存在する。
瑞々しい草花達の大きさも不均一で、エルの膝下ぐらいのものもあれば、食人大鬼でさえ身を隠せるであろう巨大なものまで生い茂っている。
気温は高く湿度と相俟って肌にまとわりつく様な、汗を掻かずにはいられない嫌な暑さだ。
迷宮都市はもうすっかり冬で、そろそろ初雪でも降ろうかという季節なのに、ここでは時折魔道具の水管を取り出し水分補給をしなければならない程の暑さである。
迷宮での気候は階層によって様々である。迷宮都市(アドリウム)と同様に四季が移り行く階層もあれば、真逆の季節の階層、あるいは常夏の島や永久凍土の地も存在するのだ。
まさに神々の創り給うた人智を超越した摩訶不思議な迷宮が、この神々の迷宮なのである。
茹でる様な暑さに僅かに辟易しながらも、少年は黙々と迷宮の奥へ奥へと進んで行くのだった。
ここ数日は色々な出会いがあった。エルにとってはよろしくない出会いであったが……。
純潔同盟という人間至上主義者達の集団に、その集団を率いる団長のガヴィーとの出会い。そしてそこからの理解できない一方的な命令に、アリーシャ達亜人を見下す不愉快な態度。
それだけでも参ってしまいそうなのに、リリを襲った粗暴な冬幻迷宮の冒険者達との遭遇である。
今でも親友のリリに暴力を振るったのが許せない。衛兵に突き出して事なきを得たが、元々人付き合いをほとんどせず、自分の夢に向かって邁進しそれ以外が何もかもが非常に疎かだった少年にとっては衝撃的な経験であった。
この最悪の出会いから、つくづく今までの出会いが幸運だと思い知らされた。
豪快だけど仲間思いで優しい義兄ライネルや、そのパーティの兄貴分や姉貴分達。
エルと同年代で互いに夢の実現に向けて切磋琢磨しあっている、今ではすっかり友人のカイ達。
スキンシップ過剰でたまに逃げ出したくなるが、闘いに対する姿勢や戦士の矜持について見習う事の多い、快活でアリーシャ達赤虎の部族の戦士達。
そして、何かといたらない事が多い自分に親身に忠告してくれ、日常の温かさを、楽しさを思い出させてくれる親友のリリ。
どれもこれも大切な出会いであり、誰かが欠けた日常なんてもはや想像もできないくらいだ。
だが今回の出会いはどうだ。人間の愚かな面ばかりを見せ付けられ嫌でも覚えさせられた。
世の中には優しい人ばかりでなく、自分の意志を無理やり押し付けてくる人間や、平気で他人に暴力を振るえる人間がいることを!
彼等の事を考えるだけで不快なものがこみ上げてきそうになる。ドロドロの感情と怒りで吐き気を催しそうだ。自分の親友が幼気な少女が襲われる場面がフラッシュバックし、気付けば歯を食いしばり勝手に拳を握りしめていた。
初めて目の当たりにした人間の嫌な面。
初めて他人に覚えた度し難い程の怒り。
それらの思いが少年の中でない交ぜになっており、今エルは自分の感情を制御できず持て余していた。
あいつ等の顔を思い出すだけで殴り倒したくなってくる。
いけない、このままじゃだめだ。
エルは慌てて頭を振り、不の感情を払拭する事に努めた。
そして言い聞かせる。悪人であろうが、悪事を働いていないのにこちらから暴力を行使するのは犯罪だと。嫌な人間なのは確かだが、こちらが近付かなければいいだけだと。
自分の気に入らない者に拳を向けるのは、それはもはやただの犯罪者であり武人ではないと。
そうだ、僕はアルド師範や偉大な武神流の先達達の様に立派な武人になるんだ。
不快な出会いにいつまでも囚われているようじゃ話にならないじゃないか!
そんな暇があったら修行を積み、魔物と闘うべきなんだ。ぐずぐずしているとアリーシャさん達に置いてかれるぞ!
両手で思いっきり頬を叩き、顔を上げ遥か先まで広がる平原を見渡した。
大きく息を吐き大量の美味しい空気を吸い込み深呼吸を繰り返し、眼前に広がる迷宮を見渡した。
果てしなく広がる大草原。
彼方では草食動物の群れがのどかに草を食んでる。空には多くの鳥達が舞い、楽しそうに囀っている。
何だか暗い感情に囚われている自分がちっぽけで、あれこれと悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。
そうだ、やるべき事は山ほどあるんだ。こんな所で立ち止まっている暇なんてないんだ。
気分を一新させた少年は闘いの相手を求めて、颯爽と走り出した。
程なくして複数の羽音が聞こえてくる。
狩人蜻蛉竜が3頭程固まっているようだ。
亜竜に分類される魔物ではあるが、大きさは長身の人間程度であり、竜鱗ではなく甲虫の如き緑色の甲殻に覆われ、背中に隠されていた翅を高速で動かし空中に浮遊しているようだ。顔は竜そのもので、口内にあける鋭い牙が時折顔を覗かせているが、顔事態が人間よりやや大きい程度であるので牙もそこまで大きくない。ただし、2つの特徴的な長い前肢は錐の様な鋭い突起物の形状をしており、鎧でも簡単に貫けそうだ。牙や前肢の鋭利な突起物、それに加えて口から吐く火炎、そして竜にしては小さな体躯を虫の様な翅で飛翔し高速移動できるのだ。
しかも複数で獲物を同時攻撃する事もある厄介さも持ち合わせている。
狩人蜻蛉竜は67階層の魔物に相応しい難敵であるのだ。
エルが発見したとほぼ同時刻に亜竜達も気付いたようで、甲高い鳴き声を上げると3頭が一斉に翅を羽ばたかせ、高速で突っ込んできた。
そのまま牙か前肢で攻撃し掛けてくると思われたが、全竜が飛翔しながら口を開き火球を発射してくる。
狙いはエルの上半身。当たれば火炎と爆風をまき散らすであろう事請け合いである。
まあ、当たればの話であるが。
少年は身構えもせず、何千何万と繰り返した足捌きでよってするすると火球の群れを簡単に躱してみせたのである。
ただし、亜竜達の攻撃はそれで終わりではない。
空を飛ぶ勢いに任せて長く鋭利な前肢がエルを貫かんと高速で迫ってきたのである!
前回闘った鎧魔生物とは比較にならない程の速さである。
しかも複数同時でだ。
エルは大きく目を見開くと、慎重に敵の攻撃を対処していった。
顔面に迫った前肢を籠手で捌き迫った牙を弾く。間髪入れずに別の敵からの攻撃を回歩、相手の横に回り込む足捌きで避け、更なる追撃を滑歩、気の移動術を用いて辛くも避け切った。
次はこちらの攻撃だと息巻いたがさにあらず。
通り過ぎた後に直ちに旋回すると再び3頭が突っ込んできたのである。高速戦闘を得手としているエルが、追撃する隙を見つけられない程の速さでである。
ああ、たまらない。
少年は口角をつり上げ、楽しそうに笑った。
アーマードゴーレムの剛力もそうだが、ハンターフライドレイクの速さというようにこの階層付近の魔物はどうやら一芸に秀でた、特定の分野で極めてすぐれた能力を有しているようだ。
それなら敵にあわせよう。
あえて敵の優れた部分で勝負するのだ。
そして凌駕し勝利を手にする。
そうする事で更なる強さを得る。
考えただけでわくわくが止まらない。
興奮と歓喜で体から勝手に気が漏れ出し、黒と白の入り混じった闘気が全身を包んだ。
さあ、どっちが速いか、勝負だ!!
亜竜達がまた性懲りもなく火球を放ってくるが、今のエルにとってはもはや些末な事である。
風迅
武神流の上位冒険者に許された気の高速移動術を発動すると、亜竜に対して真一文字に直進し火球がその身にぶつかり炎をまき散らしても一顧だにしない。
少年の身を覆う混沌の気が強固の壁となり、更には深紅の赤竜の武道着、火に対する強力過ぎる程の耐性を有する装備が火炎を退けたのである。
爆炎を一気に突っ切ると狩人蜻蛉竜は目前である。竜達もまさか一切減速せずに突っ切って来るとは思ってもみなかったのか、驚愕こそ顔には表れてはいなかったが動きは一瞬であるが鈍ったようである。
エルは些かも速度を緩めずに、ちょうど真ん中の亜竜目掛けて疾駆した。
そして、気の武器化によって右手を一本の槍と化させたのである。
穿貫槍
エルの手刀を硬質化させた気が覆い武器となり、亜竜の錐の如き前肢と衝突した!
一瞬の交錯。
硬い、金属同士をぶつけた音を大きな音を周囲に響かせながらエルと竜達は通り過ぎたのである。
その後、真ん中の1頭が力を失ったかのように地に落ちた。
エルの気の槍ではこの亜竜の前肢を貫けなったが、とっさに左肘を断斧、気で武器化させ駆け抜け様に胴体を薙いで斬り裂いたのである。
もっともエルも無傷というわけではなかった。
狩人蜻蛉竜の鋭い前肢が僅かであるがエルの強固な守りを突破したのである。頬を真横に切られたようで、血が流れ出ている。
敵に振り返り様、エルは頬を手で拭い血を舐めた。
鉄に似た独特の味が口に広がる。外気修練法を発動すると頬の傷はもう癒えたが胸が昂って仕方がない。自分に傷を与えられる敵の強さが、エルの穿貫槍をもってしても破れない強固さが嬉しくてたまらないのだ。
上等だ!!
必ずこの手で打ち砕いてみせると決意し、右手の気の槍にどんどん気を注ぎ込み強化していく。
そして神の御業剛体醒覚で身体強化を行うと、地を砕きながら猛烈な勢いで敵に突っ込んでいった。
亜竜側としたたまったものではないだろう。
火球を放っても時間稼ぎにもならない。
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そして、抵抗も虚しくあっけなくまた吹き飛ばされるのだ。
何度かそんな亜竜にとっての悪夢が繰り返され、前肢の付け根が耐え切れずもがれ高速で飛来する何かを見た時には今生の終わりであった。
エルが左手を断魔剣となし頭から縦に一刀両断してのけたのである。
最後の一体にいたっては、もはや特筆すべき所は無いだろう。
エルが今後こそはと息巻き、あり得ないほど強化した穿貫槍によって前肢を破壊され、そのまま胴体から腹まで斜めに一気に穿たれ迷宮に還ったのである。
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