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第一部 二人の囚人
第15話 夜明けはまだ遠く
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「くそ! どけや!」
マチミヤは何とかドウモトの下っ端を振り切り、ナナシを助けに行きたいのだが、それも中々叶わない。
ドウモトの手に握られた鉄パイプが、新たな犠牲の中にナナシを迎え入れようとしていた。
「死ねや! このカスが!」
ドウモトは、ナナシの殺害を確信した。
まさに絶体絶命。
ナナシもあまりの痛みに地面に這いつくばったまま、目を瞑って死の覚悟を決める。
が、その次の瞬間、思いがけない事が起こった。
どこからか突如として飛来した弓矢が、なんとドウモトの体を貫いたのである。
背から胸へと抜けた謎の矢をドウモトは無言のまま眺めていたが、やがて重力に従ってそのまま冷たい地面へと崩れ落ちた。
「ド、ドウモトさん!?」
突然の事に何が何だか状況が理解できないドウモトの手下達。
だが、その見せた一瞬の隙をマチミヤは見逃さなかった。
「よそ見すんな!」
いつの間にか拾っていた木製のバットで頭をかち割ると、相手は音を立てて崩れ落ちていった。
「一体何が……?」
痛みに耐えながらようやく立ち上がったナナシ。
矢の放たれた『南東門』の方向を見ると、ナナシは再び絶望した。
——あ、あれは……。
騒ぎを聞きつけ、至急、脱獄囚鎮圧の応援として駆けつけてきたのだろう。
そこにいたのは、暴徒鎮圧用の剣や弓矢を持った、大勢の刑務官であった。
そしてその軍団を率いているのは、勿論その中のトップ『鬼の刑務主任』、ノートンである。
ノートンは、運動場の惨状を目の当たりにし、わなわなと怒りで震えているように見えた。
「…………お前ら、『集団脱獄』か?」
ノートンはそう、怒りを噛みしめるようにゆっくりと呟く。
どうやらノートンには『王国の息』がかかっていないらしかった。
まぁ、それも納得である。
何故ならノートンは過去にマチミヤの買収にも応じなかった、いわゆる『正義の漢』。
王国にも当然、手を貸すはずなどなかった。
だからつまり、ノートンはこの運動場に暴れる囚人達が、全員仲間だと思ったのだろう。
だからこそ、まずは門の近くに立っていたドウモトが犠牲になったのだ。
つまりナナシはノートンに助けてもらったわけではない。
ノートンらにとっては、ナナシも『敵の一人』なのだ。
「全く。 もう騒ぎを聞きつけてきよったんか。
これは面倒なことになったで」
マチミヤは苦笑しながら、そう呟いた。
もう疲れ切っているのだろう。
その苦笑にも元気がこもっていない。
「……脱獄は死刑。
そうてめえらに、俺は言い聞かせてきたよな?」
ノートンの声がふるえた。
無論それは恐怖ではなく、過去脱獄0人の輝かしい業績を汚された事による、抑えがたい激情が、彼の声をふるわせていた。
こんなに怒るノートンを囚人達はもちろん、背後に控える刑務官達も、見た事がなかった。
囚人たちは皆ふるえあがり、その士気も先程とは比較するまでもなく、落ちている事がわかる。
——こりゃあかん!
マチミヤは危機感を感じた。
もうここを突破するには、あの刑務官達を打ち破り、その先にある扉を突破するしか方法は無いのだ。
しかし、もう解放した囚人達の数は戦いによって減り、今のままでは間違いなく負ける。
マチミヤは咄嗟に、背後にいる沢山の囚人に対して叫びを上げた。
「おい、お前らァ!
もうここまで来たら、囚人同士で争ってる暇は無いで! このままでは間違いなく、ノートン達になぶり殺しにされる。
もうワシらに残された道はあの『扉』を突破して、脱獄するしかないんや!
……分かったらさっさと立ち上がらんかいッ!
闘うんやッ!」
その声は夜気を切り裂き、運動場内に大きく轟く事となった。
そしてその言葉は、囚人達の心を大きくうつ事となった。
あちこちで声が湧き上がり、それは波紋をえがいて広がっていった。
しかしその事を勿論、ノートンは気に入らなかった。
殺気という殺気を体から吹き上がらせ、マチミヤを睨み付ける。
「……マチミヤァァァ!
てめえは俺に取引を持ちかけてきたりと、昔から気に入らなかったぜ。
死刑執行までは、穏やかな刑務所ライフを過ごさせてやろうと思ったのになぁ!」
「フフ、ノートンさん。
そんなに怒らんといてな。
顔が怖いで? ほら、スマイルを浮かべて……」
しかしマチミヤは、そんな人の悪い口調の台詞を最後まで言い終える事が出来なかった。
何故ならノートンの剣が彼に襲いかかってきたからである。
逃げたり、躱したりは得意だと言わんばかりに、その斬撃をマチミヤはヒラリと身を翻して避けると、近くにいたナナシにこう言った。
「門に近いワシらは一番のマトになる!
取り敢えず逃げるで!」
「言われなくとも!」
二人はそのまま全力疾走で、門とは真反対の方角へと走り出した。
「逃すな! 殺せ殺せ!
全員、皆殺しにしろ!」
ノートンの怒声が後方から響き渡る。
しかし、その声がやがて不意に途切れた。
ナナシとマチミヤの二人を追いかけようとしたノートン一味に、士気の高まった囚人達が一斉に襲い掛かったのである。
「ちくしょう!
俺たちはドウモトさんに金が貰えると言われて参加しただけなのに!
何でノートンと戦うハメに…………」
「オラァァァァ! どけ! 刑務官共!
その門を俺達に渡せぇぇぇぇ!」
自由を求める解放された囚人と、ドウモトグループの残党達が事情はどうあれ、声を上げながら力を合わせ始めたのだ。
いつの間にか戦いは、
『囚人VS囚人』から『囚人VS刑務官』へと大抗争へと移り変わった。
殴り合い、蹴飛ばし合い、斬られ、射られ……。
辺りには血が飛び交い、力尽きた者が次々と地面へ倒れていく。
まさにその状況は、先程とは比べ物にならない程の『カオス』といえた。
十分に門から離れる事の出来たマチミヤとナナシの両名は、そんな闘いをジッと遠くから眺めていた。
「……うん、イケる!
僅かながら囚人達が『勢い』で押してる!」
「今がチャンスやな」
二人は顔を見合わせてうなづくと、戦いの渦へと再び飛び込んでいった。
夜明けはまだ、遠い。
マチミヤは何とかドウモトの下っ端を振り切り、ナナシを助けに行きたいのだが、それも中々叶わない。
ドウモトの手に握られた鉄パイプが、新たな犠牲の中にナナシを迎え入れようとしていた。
「死ねや! このカスが!」
ドウモトは、ナナシの殺害を確信した。
まさに絶体絶命。
ナナシもあまりの痛みに地面に這いつくばったまま、目を瞑って死の覚悟を決める。
が、その次の瞬間、思いがけない事が起こった。
どこからか突如として飛来した弓矢が、なんとドウモトの体を貫いたのである。
背から胸へと抜けた謎の矢をドウモトは無言のまま眺めていたが、やがて重力に従ってそのまま冷たい地面へと崩れ落ちた。
「ド、ドウモトさん!?」
突然の事に何が何だか状況が理解できないドウモトの手下達。
だが、その見せた一瞬の隙をマチミヤは見逃さなかった。
「よそ見すんな!」
いつの間にか拾っていた木製のバットで頭をかち割ると、相手は音を立てて崩れ落ちていった。
「一体何が……?」
痛みに耐えながらようやく立ち上がったナナシ。
矢の放たれた『南東門』の方向を見ると、ナナシは再び絶望した。
——あ、あれは……。
騒ぎを聞きつけ、至急、脱獄囚鎮圧の応援として駆けつけてきたのだろう。
そこにいたのは、暴徒鎮圧用の剣や弓矢を持った、大勢の刑務官であった。
そしてその軍団を率いているのは、勿論その中のトップ『鬼の刑務主任』、ノートンである。
ノートンは、運動場の惨状を目の当たりにし、わなわなと怒りで震えているように見えた。
「…………お前ら、『集団脱獄』か?」
ノートンはそう、怒りを噛みしめるようにゆっくりと呟く。
どうやらノートンには『王国の息』がかかっていないらしかった。
まぁ、それも納得である。
何故ならノートンは過去にマチミヤの買収にも応じなかった、いわゆる『正義の漢』。
王国にも当然、手を貸すはずなどなかった。
だからつまり、ノートンはこの運動場に暴れる囚人達が、全員仲間だと思ったのだろう。
だからこそ、まずは門の近くに立っていたドウモトが犠牲になったのだ。
つまりナナシはノートンに助けてもらったわけではない。
ノートンらにとっては、ナナシも『敵の一人』なのだ。
「全く。 もう騒ぎを聞きつけてきよったんか。
これは面倒なことになったで」
マチミヤは苦笑しながら、そう呟いた。
もう疲れ切っているのだろう。
その苦笑にも元気がこもっていない。
「……脱獄は死刑。
そうてめえらに、俺は言い聞かせてきたよな?」
ノートンの声がふるえた。
無論それは恐怖ではなく、過去脱獄0人の輝かしい業績を汚された事による、抑えがたい激情が、彼の声をふるわせていた。
こんなに怒るノートンを囚人達はもちろん、背後に控える刑務官達も、見た事がなかった。
囚人たちは皆ふるえあがり、その士気も先程とは比較するまでもなく、落ちている事がわかる。
——こりゃあかん!
マチミヤは危機感を感じた。
もうここを突破するには、あの刑務官達を打ち破り、その先にある扉を突破するしか方法は無いのだ。
しかし、もう解放した囚人達の数は戦いによって減り、今のままでは間違いなく負ける。
マチミヤは咄嗟に、背後にいる沢山の囚人に対して叫びを上げた。
「おい、お前らァ!
もうここまで来たら、囚人同士で争ってる暇は無いで! このままでは間違いなく、ノートン達になぶり殺しにされる。
もうワシらに残された道はあの『扉』を突破して、脱獄するしかないんや!
……分かったらさっさと立ち上がらんかいッ!
闘うんやッ!」
その声は夜気を切り裂き、運動場内に大きく轟く事となった。
そしてその言葉は、囚人達の心を大きくうつ事となった。
あちこちで声が湧き上がり、それは波紋をえがいて広がっていった。
しかしその事を勿論、ノートンは気に入らなかった。
殺気という殺気を体から吹き上がらせ、マチミヤを睨み付ける。
「……マチミヤァァァ!
てめえは俺に取引を持ちかけてきたりと、昔から気に入らなかったぜ。
死刑執行までは、穏やかな刑務所ライフを過ごさせてやろうと思ったのになぁ!」
「フフ、ノートンさん。
そんなに怒らんといてな。
顔が怖いで? ほら、スマイルを浮かべて……」
しかしマチミヤは、そんな人の悪い口調の台詞を最後まで言い終える事が出来なかった。
何故ならノートンの剣が彼に襲いかかってきたからである。
逃げたり、躱したりは得意だと言わんばかりに、その斬撃をマチミヤはヒラリと身を翻して避けると、近くにいたナナシにこう言った。
「門に近いワシらは一番のマトになる!
取り敢えず逃げるで!」
「言われなくとも!」
二人はそのまま全力疾走で、門とは真反対の方角へと走り出した。
「逃すな! 殺せ殺せ!
全員、皆殺しにしろ!」
ノートンの怒声が後方から響き渡る。
しかし、その声がやがて不意に途切れた。
ナナシとマチミヤの二人を追いかけようとしたノートン一味に、士気の高まった囚人達が一斉に襲い掛かったのである。
「ちくしょう!
俺たちはドウモトさんに金が貰えると言われて参加しただけなのに!
何でノートンと戦うハメに…………」
「オラァァァァ! どけ! 刑務官共!
その門を俺達に渡せぇぇぇぇ!」
自由を求める解放された囚人と、ドウモトグループの残党達が事情はどうあれ、声を上げながら力を合わせ始めたのだ。
いつの間にか戦いは、
『囚人VS囚人』から『囚人VS刑務官』へと大抗争へと移り変わった。
殴り合い、蹴飛ばし合い、斬られ、射られ……。
辺りには血が飛び交い、力尽きた者が次々と地面へ倒れていく。
まさにその状況は、先程とは比べ物にならない程の『カオス』といえた。
十分に門から離れる事の出来たマチミヤとナナシの両名は、そんな闘いをジッと遠くから眺めていた。
「……うん、イケる!
僅かながら囚人達が『勢い』で押してる!」
「今がチャンスやな」
二人は顔を見合わせてうなづくと、戦いの渦へと再び飛び込んでいった。
夜明けはまだ、遠い。
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