Rainy Days & You

なかむ楽

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きらきら光る②

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「ええっ。着たまま?」

 旅館の料理に舌鼓を打って、お約束の流れだ。
 浴衣を脱ぐことなく、押し倒されてしまった。

「脱いだらいつもと同じだろ?」
「いつもと同じでいいよ」
「それは丁重に断る」

 浴衣をはだけさせられて、胸を開けられた。
 中途半端な格好は、羞恥を煽られてしまう。

「ブラしてんの?」
「当たり前でしょ。ほら、脱がなきゃブラ外せないし」
「じゃあ、ブラも外さないからいいよ」

 勢いよくブラを上げられて、乳房が零れ出た。
 こんなに抑えのきかない彼は初めて見た。着るものの魔力は恐ろしいと思う。

 浴衣のまま、執拗に胸を弄ばれて、焦れて脚を擦り合わせてしまった。こんなに焦らされたのも初めてだ。

「ね、もう……」

 彼が欲しかった。胸しか触られてないのに疼いて仕方ない。

「なに?」

 目に欲情の明かりが光っていた。今までの経験上、こんな目つきの彼は、私をぐずぐずにする。

「触って……ほしいの」

 擦り合わせている間が、自分でもわかるぐらいヌルついている。
 彼のはだけた浴衣の胸元を触った。張りのいい筋肉がピクリと反応する。

「どこを? なにで?」

 そんなの、言えるわけなかった。
 意地悪そうな目つきが私を追い込む。

「ぬ……濡れてる、とこ……」

 ニヤリと笑った彼は、私の唇を指でなぞった。

「ここ?」
「ちが……うの」
「じゃあ、教えてよ」

 言えなくて口をパクパクさせていると、彼の膝がぐちゃぐちゃに濡れているクロッチの向こうを刺激してくる。
 それだけで、腰がくねって声を上げてしまう。

「あ、あぁんっ。……きもち、いい」

 性感の突起を圧されてたが、欲しいのはもっと違う刺激だ。

「言ってよ。美晴の口から聞きたい。そうじゃないとこれで終わりにするよ」

 膝でグリグリと押してくるのが弱まった気がした。
 すっかり快感の虜になっていても、恥ずかしい気持ちも持ち合わせていた。

 彼と目が合わせられなくて、手で顔を覆った。それで隠れるわけないのだが、気持ちよさと羞恥で赤らめた顔を見られたくなかった。

「や……めないで」

 ぬち、と、愛蜜で濡れた裂け目を押されて、溜め息と声が洩れた。
 もっと欲しい。彼が欲しい。

「言えよ、美晴」

 興奮を抑えている彼の声が、私の本能を刺激して唇を動かせる。

「朔也に……触って欲しいの。……ここ……」

 恥ずかしさで震える手で、自分の恥丘を指さした。それが精一杯だった。

 今はどうかな? 駆け引きも覚えた狡賢いアラサーは、恥ずかしい素振りを見せつつ誘うように言うだろう。

「おね、がい……」

 消え入るような声があるとすれば、それだ。

「美晴のえっち」

 そんなことを言わせたのは彼なのに、また恥ずかしさを煽られてしまった。

 男らしい指が、愛蜜を掬うようにぐずぐずの周りを触って、浅めに侵入してくる。
 気持ちいいけれど、物足りない。

「あ……もっと……」
「もっと、なに?」

 わかっているくせに、恨めしく思う。

「おく、がいいの」

 欲しくて、満たされたくて、切なくなっている。
 浅いところを搔いていた指が、ぐちゅんと奥の方まで届き、私を乱れさせた。同時に、ひどく敏感になった快感の塊を舐められて、溺れるように喘いだ。
 堪えかねて、高みへ昇らせられたのに、もっと満たしせ欲しくて困ったように彼を見るのが精一杯だった。
 
 身も心も愛されてなお、彼が欲しかった。

「朔也ぁ、おねがい……」
「今日は積極的だね」

 コンドームを装着した彼が、私の膝を担いで固いモノをぬちゃぬちゃと擦りつけてきた。

「は、あぁ……っ」

 それをされるのが私は好きだったが、今日は違った。

 『雨は天の恵み』──私のことを考えてくれて、言葉をくれた彼がたまらなく好きで、もっと好きになった。

「すき。朔也が……好き」

 擦られてビクビクする熱が逃げて行かずに、私をおかしくする。

「……俺も、美晴が好きだよ」

 急に入ってきた熱の塊が、喘ぐ声すら止めるようにみっちりと私の中を刺激しながら埋め尽くす。

 これまで、彼とは何度も身体を重ねてきた。それなのに感じ方が違った。
 いつもよりもやたら感じた。
 勝手に動いてしまう身体と、快感で染めあげられた顔と声で、彼に知られてしまった。
 着崩れた浴衣の彼が、私を揺すりながら満足げに息を吐く。

「美晴……感じすぎ」
「だって……ああ」

 彼の切なげな眉間の皺も、吐息も、律動も私を追い上げる。果てしないと思えるほどの快感の向こうへ。

「イっちゃう……さくや、さく……やあぁ」

 奥を穿たれて、電気が走ったような気持ちよさが乳首にまで突き抜ける。息をするのも困難なぐらいに甘く痺れて、その痺れが身体を強張らせた。
 彼とのセックスで、毎回のようにイく事を知ったが、こんなに強くイくのは初めてだった。

 ひうひうと、泣くような荒い呼吸をしていると、彼が身体を起こした。繋がっている部分が深くなって、ぐちゅんと音を立てた。

「ま……って」

 彼はまだ果てていない。
 それは知っているが、呼吸が整うまで待ってほしかった。

「待てない」

 彼の胸に凭れたまま、上下に揺すられる。深くなった分だけ、奥に響く熱塊が私をおかしくさせる。
 壊れたように喘ぎ声を出さなければ、呼吸困難になっていただろう。
 軋むぐらいに抱きしめられ、私は背を反らして強すぎる快感を受け入れた。

 昇ったままの意識が、白くなっていくような気がして怖かった。ジェットコースターに乗っているような感覚がずっとある感じなのに、身体は快楽を受け入れている。

「あっ、ああ……っ! ぁあ──!!」

 お腹の奥から、溜まりに溜まった快楽の臨界点が来て、ジェットコースターから放り投げられた感覚があって、甲高い声を上げた。身体中がガクガクと震えている。すぐ後、彼がくぐもった声を出して、私の中の熱塊が打ち震えた。

 しばらく放心していると、静かに横にさせてくれた。
 ずるりと熱が出て行ったのがわかったが、身体が言う事を聞かなかったので、寝たまま彼を呆と見ていた。
 
 まどろみそうになっていると、肌掛けをかけてくれて、頬と目蓋にキスが降ってきた。

「大丈夫?」

 大丈夫のような、そうではないような。私が何も返さないでいると、横になった彼が私を抱きしめた。

「雨が降ってきてるの、わかる?」

 静かで落ち着いた声に誘われて耳をそばだてた。
 可愛らしい如雨露で水をかけているような音が、薄暗闇に響く。
 
 夜の雨は、心を凪にさせる。
 潮騒よりも私は雨の音の方が身近だし、落ち着く。
 それに、大好きな彼の体温も近くにある。

「雨ってさ……。美晴をすっげー好きなんだろうな」

 雨が、私を好き?
 ずいぶんとメルヘンチックな言い方に微笑ましくなった。

「一方的に好かれてる、と思えば、雨女も悪くないんじゃないか? 嫌われるよりも建設的だと思うよ?」

 自然現象の雨にそんな風に思えるポジティブさが羨ましいと思った。
 『雨に一方的に好かれている』のでは、イベントごとに雨も降るはずだ。
 少しでも前向きに考えれる要素があれば、そう考えるのもいいかもしれない。


 優しい雨の音と、大好きで温かい彼に抱きしめられて幸せだった。



 ずっと、こんな幸せが自然と雨のように振るものだと思っていた。この頃までは。
 


 そう。止まない雨はないのだ。
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