魔術師ロゼッタの事件簿─色仕掛けなんて無理です!─

なかむ楽

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5.ロゼッタと口封じの糸

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 リビングに戻ったふたりは、クレアから話を聞くことにした。
 彼女はロゼッタたちが赤ちゃんの頃からずっと一緒だ。母親のような、親戚のような気心知れた相手だ。
 ロゼッタもイメリアがどうだったか、あらましは聞いているが、クレアは詳しく話してくれなかった。

 長い足を組んで座るマシューは、顔色が冴えないクレアを見つめた。

「イメリアさんに恋人がいたのを知ってたんですよね?」

「ええ。ですが、口外するなと固く言いつけられておりましたし……、その……話せないんです」

「おや? クレアさん。喉に蜘蛛の糸が」

「ええ、その、これは」

「えっ?」と驚いたロゼッタは、魔力を目に集めてクレアの喉を注視した。マシューが蜘蛛の糸だと言ったのはイメリアの微量な魔力を感じる。

「魔導具の口封じの糸じゃないですか。術者と魔術師以外が見えること……あっ、そうでしたね。秘密け……っ、では、よく使われてるんですね?」

「使ってないし、使われてない」

「姉さんはここまでして口封じを……どうして?」

「おーい、話を聞けぇ」

 ロゼッタは解呪魔術を唱えながら、魔術スティックでクレアの首の口封じの糸を切る。クレアは、ほうっと長い息を吐いて安心すると、ハリーにも同様に糸が巻かれていると吐露した。
 座るようにすすめて、お茶を飲んで、もうひとつ長い息を吐いたクレアは少し老いた感じがした。

「お付き合いが始まった当初はどうもなかったんですよ。それが、日を置かずに質屋に通うようになり、お屋敷に古物商が出入りするようになりましてね。美しかった御髪を売ってしまったあとで、お諫めしたところ、首に魔術をかけられのでございます。もっと早くにお諫めしていたら……」

 日記には欲しいものがあったので髪を切って売ったと書いてあった。
 だが、イメリアの魔力を通した日記には、『売り物がとうとう髪だけになった。あの方が喜んでくださるためには、髪を売るしかない。髪はまたのびるのだから。』と書き換わって、追い詰められていく彼女の悲劇が残されている。

「それで父さんと母さんの部屋がガランとしてたんですね。でも、姉さんのドレスや靴、鞄は見覚えあるものばかりでしたよ」

「イメリアさまが手放そうとしたのを私どもがお止めしたのです。他の部屋や屋根裏はガクラクばかりになりました。受け継がれてきた銀食器やガーデンパーティ用の食器類も今はもうございません」

 もともと他の空き部屋に売れる物など存在してない。フリューズ家でもっとも価値があるのは、受け継がれてきた銀食器ではなく、受け継がれてきた魔術師の書架と地下室。それから、庭に生えている薬になる植物だ。

「そんなにもお金が必要だったのでしょうか。わたしは男女のお付き合いにどれくらいお金がかかるか検討もつかないのですが」

 ここに来る前にドレスを何着か作った。女ならばきれいでいたいのは本心だ。
 恋をしてもらうなら、ドレスや服を何着か作り、装飾品を買い、身の回りに気を配るだろうことは、ロゼッタにも予想がつく。それなのに、イメリアの部屋には古い服ばかりで、装飾品も少なかった。

「頻繁にパーティなり、派手な場所に出かけてたんなら、貸衣装屋だろうな。あそこなら新品の半値で流行のドレスや宝飾品が借りられる。恋する女は金がかかるが、そんなもんで食い潰したんじゃなく、やつの気を引こうとプレゼントをしていた可能性大だ。嬢ちゃんがいう結婚詐欺なら、うまいこと金の無心してたんだろ
 恋は盲目だ。欲しいものをねだられて喜ばれたらコロッとしちまうだろ。免疫がなけりゃ、余計にな」

「姉さんはそんな、単純な人じゃありません!」

「寂しかったんだろ」

「…………それは」

 反論できない悔しさがきゅっと口を結ばせた。マシューはそうじゃない、と手を振る。

「異性を求める肌寂しさは家族じゃ埋められないものだ」

「肌寂しさ?」

「わからないならそれでいい。学校にもいるだろ、恋人がいないと寂しいって連中」

「……そうですね。でも姉さんは」

「婚期を気にしてたのか、俺にはわからん。一般的になら、婚期を気にする年齢だ。結婚をちらつかされてたら、焦るだろうな」

「そんなものなのでしょうか?」

 ボールドウィンは遙か前に結婚しているし、助手たちも魔術にあけくれていて結婚願望がなさそうだ。俗世から隔離されたロゼッタはもちろん、結婚願望皆無だ。
 半年前にイメリアからジョージ・ライアードと交際を始めたと聞き、二か月前に結婚を申し込まれたと手紙をもらい、イメリアが嫁入り前だと気がついたくらいだ。

「ライアードは詐欺ができるくらいだ。口八丁手八丁お手の物じゃないか?」

「わたしは、ライアードの人となりをほとんど知らないんです。エレクシルを返して欲しいとお屋敷に乗りこんだ時、会ったのは弁護士さんなんです」

「本人は華やかな首都セラドンにいたんだろ」




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