魔術師ロゼッタの事件簿─色仕掛けなんて無理です!─

なかむ楽

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6.ロゼッタとふりかえり

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 ロゼッタはマシューのきれいな文字の文章を眺め、濃厚な三日間を振り返る。そして、これからを考えようと顔を上げた。

「これからどうするんですか?」

「そうだな。……俺はこの目で火事現場を見たいと思っている。来月……三週間後には噂のお茶会とやらだ」

「それまでわたしはハニートラップできるようにします!」

「無謀だろ」

「ですから、本を読んだり……とか。あまり、マシューさんに頼りっきりというのも気が引けますから……」

(マシューさんを利用したくないんですって、どうして言えなくなるのか……わからないです)

 マシューが手を伸ばして、テーブルの上を片付け始めた。今夜はもう解散だ。

「お喋りしてると時間を忘れてしまいますね」

「そうだな。俺も嬢ちゃんと喋ってると時間を忘れる」

「その、嬢ちゃんって……できれば、やめて、もらえませんか?」

(ロゼッタと呼ばれたいって思うのはおかしくないですよね。わたしの名前ですもの)

「……まだまだお嬢ちゃんだよ」

「そんなことないです」

 喉が乾いたロゼッタは、テーブルに置いてある水差しから紅茶色の水をグラスに注いで飲み干すと、ベッドへ向かった。

 ☆⋆*.。

 騒がしい音が聞こえて、ロゼッタは目を覚ました。どうやらいつの間にか寝入ってしまったらしい。

「ロゼッタお嬢さま……。クレアは、クレアは……」

「おはようございます……クレアさん。どうしましたか?」

 どうやらクレアが狼狽しているが、メガネがないので輪郭がほんやり見える程度だ。それに今日は朝からズキンと頭痛がする。

(メガネ……メガネ……)

 枕元に置いたであろう丸メガネを手探りで探そうとして、隣に奇妙な弾力の固い異物に触れた。
 シーツを引っ張ると、なんだかとっても肌っぽい色面積が多いそれ。

「ロゼッタお嬢さま、メガネをどうぞ」

「ありがとうございます、クレアさん」

 どうやらメガネは珍しくベッドの隣のテーブルに置いていたらしい。受け取ったメガネをつけたロゼッタが見たものは。

「…………ふえ!?」

 長い琥珀色の髪を散らばせて眠る、裸の、マシューがいる。
 どうしてこうなっているのか検討がつかないが、しっかり見てしまう。実に男性的に隆起した筋肉は、学校にある彫刻のように引き締まっている。大きくてぶ厚い大胸筋は、マシューの寝息に合わせて上下している。その微かな動きで、細身の銀チェーンのネックレスが朝日を受けているのに目が行く。
 シーツで隠れている下半身はどうなっているのかと、思ったとき、クレアの声で現実に呼び戻された。

「恋人同士でございますものね……。クレアは心配していたのですよ。今度はロゼッタお嬢さまが髪の長い遊び人を連れてきたと。まさか、お部屋に連れ込まれるとは……」

 クレアは今にも泣きそうだ。
 誤解を解くのとマシューの名誉を守るため、泡を食ってるロゼッタは、ズキズキしているこめかみを押さえて本当のことを話す。

「違うんです違うんです、クレアさん。これは、昨晩わたしがここに来たんです」

「あらまー! ロゼッタお嬢さまから! あらー! クレアは嬉しゅうございます」

 涙がうれし涙だとロゼッタが予測できたであろうか。

「違うんですクレアさん。マシューさんはなにもしてなくて」

「ちゃらちゃら長い髪のちゃらんぽらんな遊び人に見えるのに、そうでございますかそうでございますか」

「なにがそうでございますなんですか」

「おほほほほ。クレアにも身に覚えがありますとも。ささ、お支度のお手伝いができるように、黒いおぐしを整えて差し上げてくださいまし。ええ、睦言は別れまでですよ」

「睦言っていつの時代の言葉ですか……」

 クレアがテーブルに熱湯が入ったポットと洗面器、ブラシなどを置いてそそくさと出て行った。

「どうして……」

 ロゼッタは今さら自分が夜着を思いっきりはだけさせていることに気がついた。胸のリボンが取れて、乳房どころから腹までしっかり見えている。これでは誤解されてもしょうがない。慌てて夜着を直しても、もう遅い。
 ロゼッタらしくない溜め息をついて、洗面器と新しいタオル、それからブラシを見つめた。
 三つ編みしかできない自分がマシューの髪を丁寧に梳けるのか?

「……ん? クレアさんは、黒髪って言ってましたけど、誰が?」

 ロゼッタはふわふわの人参色の髪見てから、シーツに広がる琥珀の髪が寝返りで動くの見て、首を傾げた。



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