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終章.嘘つきたちの本音。

12.癒しを求めて

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 ☽・:*



 冬期休暇に入って初のバイトの休日。
 クリスマスは昨日付けで終わったので、2メートル近いクリスマスツリーを1日かけて片付けた。出した張本人がいないのだから、しょうがない。回らないお寿司屋さんの中トロお腹いっぱいコースで許してやろう。
 ついでに、お掃除ロボ・ヤハノくんたちと仲良くお掃除をして、食事は適当に。冷蔵庫の中は、すっかり寂しくなっていた。

 積読を抱えて、隣町にあるスーパー銭湯・ホンワカ村の湯へ足を運ぶ。お兄ちゃんと明日香さんの結婚式まで、できるだけスーパー銭湯の美容コースに通うのだ。
 明日香さんの美白と美肌の秘訣はスーパー銭湯の美容コースだったのだ。てっきり生来のものか、エステで得たものだと思っていた。ずいぶん庶民的な美女だ。

 チェーン店であるスーパー銭湯・ホンワカ村の湯の回数券と、美容コースの紹介チケット初回無料を、明日香さんがくれた。初回無料とおつとめ品、割引シールに弱いのは、長年の癖である。

 昨日の昼間、実家で──というのはなんだか変だが──プレゼントをもらい贈り、ケーキを食べるだけのささやかなクリスマス会をした。明日香さんイチオシの洋菓子店のシャレたケーキは、とてもおいしかった。
 お兄ちゃんからのプレゼントはリョフト限定品の文具セット。明日香さんからは、お高そうな箱に入ったキラキラとしたサンキャッチャー。わたしはお兄ちゃんと明日香さんにペアタンブラーを贈った。

 お兄ちゃんはよく笑っていた。幸せそうに。こんな笑顔をするのだと、長年お兄ちゃんを見てきて初めて知った。
 そして、こういうことが、恋を失うことなのだと理解した。愛別離苦を乗り越え悟りを開いたブッダ……と、まではいかないもの、それに近い心情であった。わたしの狂った長い恋は、無事に入滅したのだった。



 ほどなくスーパー銭湯・ホンワカ村の湯に着いたわたしは、開放感ある7つの海ならぬ、7つの湯に浸かり、ジップ付き袋に入れたスマホでしっかり電子書籍を読みながら岩盤浴を味わった。
 生まれて初めて体験した全身美容コースは、エロマンガにあるようなオッサンによるエロマッサージではなく、お姉さんによる優しいマッサージであった。
 本物かどうか真偽がさだかではないが、死海の泥のパックコースを選んだ。死海は我らオタク、オカルトマニアにとって親しみがある場所である。……どこにあるかはグーグノレマップに聞いてみよう。
 極楽にいる姫殿下にでもなった気分の心地よさをうとうとしながら味わった。ヘッドスパすら年イチの貧乏大学生にはすぎたりし心地。連日のバイトで疲れた身体が芯から癒されて、脊椎動物なのに軟体動物になるところであった。

 お風呂には3回以上も入って出てを繰り返した。仕上げに女性専用リラックスルームのリクライニングチェアに寝転び、スマホで都市伝説サイトを巡回してソロ活動をそれなりに満喫している。
 ──セキが帰ってくるまで、あと2日。どこかに行ってなにかしていても、長く感じそうな予感がするのが憂鬱だった。



 ☽・:*


「ただいま」

 28日。無事に帰ってきたセキの顔を玄関で見た途端、漠然としていた彷徨さまよい人の気持ちはどこかへ消えてしまった。

「おかえり」

 それからリビングで、ホテルの小さめのホールケーキを食べながら、お互いの身体に触れていた。
 指先、手の甲、腕。顔。髪。足をからめながら。お互いの目を見つめたまま、触れ合う。まるで恋人みたいに。セキが望むから、今日だけは叶えてあげている。
 仕事で疲れているだろうからであって、それだけ。……だが、そのうちに、ド淫乱のわたしには物足りなくなっていた。

「セキ、しないの?」

 口移しでイチゴを食べさせてあげると、セキはお返しにクリームをたっぷりのせた指をわたしに向ける。

「かわいい物欲しそうな顔。ケーキ食べてからね」

 わたしはぺちゃぺちゃとセキの指を丁寧に舐めながら、お腹の奥から熱がじわじわ出ているのを自覚していた。

「食べながらじゃなくて?」
「行儀が悪いよ」

 わたしの手のひらのケーキをセキがペロリと食べて、残ったクリームをぺろぺろ舐める。手首まで舐めたセキに軽く歯を立てられて思わず肩が跳ねた。

「えっちな顔してる、きゆ」

 誰がさせたと思ってんだ。
 セキが口移しでラズベリーをくれようとするから、わたしは唇を少し開けて待っていた。前歯で潰された果汁も啜るように、わたしはラズベリーを夢中で貪る。

「きゆはオナニーしてなかったの?」

 お口の中はラズベリーとクリームでいっぱい。甘いケーキじゃなくて、セキがほしい。

「うん。これまでと同じだよ」

 セキとのセックスを脳裏に浮かべたが、自慰するにいたらなかった。いくら自分で触って気持ちよくても、セキとするほどの快感を得られないのを学習済みだからである。過去に学ぶ、歴史の命題だ。

「……普通さ、3週間ぶりなんだから、ひたすらセックスする流れになるんじゃないの?」
「きゆが普通を口にするとはどう言う風の吹き回しかな? 俺は今、癒されたい気分なの」
「わたしはがっつりセックスがしたい」
「即物的だね、いつもながら」

 喋りながらケーキの食べさせ合いは続いている。お互いの手と口の周りはケーキと唾液でベタベタ。わたしはセキの首にクリームを塗り、ぺろぺろ舐める。そして噛んでやった。

「発情した猫みたいだね」
「発情してんの」

 ワイシャツのボタンを取って、クリームを塗ってやろうとしたら、先に膝にクリームを塗られてしまった。ソファから下りたセキは、あんっと大きな口を開けて、タイツごと膝を舐める。くすぐったくて、わたしは逃げるそぶりで声をキャーキャーあげる。
 そのままスカートをたくし上げられ、ショーツの部分まであらわになった。
 とくん、と。心臓が期待をして脈打つ。

「タイツ、破っていい?」
「いやだよ。高かったんだもん」
「モニクロでしょ」
「よくご存知で……って、やめ……、ぎゃあ!」

 セキはタイツを爪で引っ張って、歯で穴を開けて勢いよくタイツを引き裂く。
 さっき、癒されたいって言ってたのは誰だ?
 タイツから出た、むきむちの脂肪をセキは撫でくりまわす。柔らかさを確かめるように。弾力を楽しむように。
 撫でくりまわされて、わたしの熱はどんどん上がっていく。もうお腹の奥と股間がムズムズ疼いてしかたがない。

「……焚きつけた責任を取れ」



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