2 / 56
結婚初日の違和感
しおりを挟む
いつの間にかアトレーの邸にいて、私は夜着に着替え、一人になっていた。
今まで何をしていたのか覚えていなかったが、今から何をするのか思い出した。
逃げようと思いドアに向かったところで、アトレーと鉢合わせてしまった。
「待ちくたびれたかい。ソフィ。
遅くなってごめんね。悪友達がなかなか離してくれなくて。皆、君が綺麗だからやっかんでいるんだ。困った奴らだよ」
そう言いながら私を抱き上げ、ベッドに運んだ。
逃げようとしたが、軽く転がされ、のしかかられた。
アトレーは笑っていた。おととい見た姉との姿が頭に浮かび、叫びそうになったが、その口も塞がれてしまった。
体を這う手が気持ち悪く、泣いて抗おうとする私を弄ぶようにアトレーが勝手な事をする。
やっと終わったようでホッとしたら、また手を伸ばしてきたので、逃げようとしたら、強く引っ張られた。その内、眠ったか、気絶したらしい。気が付いたら朝になっていた。
◇~*◇*~◇
朝遅くなってから、ゲート伯爵家の侍女のベスは、身じまいを整える手伝いをしに、若夫婦の寝室に出掛けた。以前からソフィとは仲良くしており、のろけを聞かされたり、細々したことを相談されている仲だった。
ソフィはなぜか一言も喋らず、黙って出されたものをつついた。お茶だけをいっぱい飲んで、ずっとカップを見つめている。
「ソフィ様、お茶のお代わりをお持ちしましょうか?」
「ありがとう。お願いするわ」
「アトレー様は王宮からの呼び出しがあり、朝早くにお出かけになっています」
ソフィは無言だった。アトレー様の話になると、いつも嬉しそうに話をしたがるのに、何も言わないのはおかしい。いぶかしく思いながら続けた。
「今夜のディナーはお祝いです。早目に着替えていただきますので、夕方にお伺いしますね」
「ありがとう。お願いするわ」
侍女のベスは、淡々と言うソフィの様子に違和感を覚えたが、疲れているのだろうと思い、そっと部屋を後にした。
他の使用人達から、どんな様子だったと聞かれたので、疲れてるようで、ちょっとぼんやりしている感じだったわ、と答えた。
皆、キャー激しかったのね、と喜んでいた。ベスは少し違和感を覚えていたが、いつもは快活な方だけど、やはりこういう時は疲れがたまるものなのか、と思っただけだった。
少ししてお茶を持っていき、夕方にまたお伺いします、と言ったらまた同じ言葉が返って来た。
「ありがとう。お願いするわ」
ちょっと気になり、言葉を添えた。
「何かしてほしい事がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
すると、ベスが居るのに初めて気が付いたような顔をした。
「私、家に帰るわ」
「ソフィ様、どうかしたのですか。落ち着いてください。昨日から、ここがあなたの家です」
「ああ、そうだったわね。私、結婚したのだったわ」
「ええ、昨日が結婚式で、お二人共とても素敵で、幸せそうでしたわ」
ソフィが、目を見張ってベスの顔を見た。その目から、また光が消えた。
「ありがとう。お願いするわ」
なんだか怖い気がして、ベスは早々に部屋から退出した。
夕方になってベスが部屋を訪れると、ソフィはカップを持ったままぼうっとしていた。
「お支度を始めさせていただきますね」
声を掛けると、それなりに動いて反応するが、どうにもその反応が薄い。いつものソフィとは全く違う人間のようだった。結婚したばかりで疲れているとはいえ、これはおかしすぎた。
ベスは努めて明るい口調で話し掛けた。
「昨晩は、以前から用意していたナイトウエアのどちらを着たのですか?」
「ナイトウエア?」
「以前見せてくださったじゃありませんか。一日目にどっちを着るか、一緒に考えましたよね」
「さあ。何か着ていたと思うわ。ありがとう」
本当に、何かがおかしかった。べスは急いで支度を仕上げ、部屋を後にした。
今まで何をしていたのか覚えていなかったが、今から何をするのか思い出した。
逃げようと思いドアに向かったところで、アトレーと鉢合わせてしまった。
「待ちくたびれたかい。ソフィ。
遅くなってごめんね。悪友達がなかなか離してくれなくて。皆、君が綺麗だからやっかんでいるんだ。困った奴らだよ」
そう言いながら私を抱き上げ、ベッドに運んだ。
逃げようとしたが、軽く転がされ、のしかかられた。
アトレーは笑っていた。おととい見た姉との姿が頭に浮かび、叫びそうになったが、その口も塞がれてしまった。
体を這う手が気持ち悪く、泣いて抗おうとする私を弄ぶようにアトレーが勝手な事をする。
やっと終わったようでホッとしたら、また手を伸ばしてきたので、逃げようとしたら、強く引っ張られた。その内、眠ったか、気絶したらしい。気が付いたら朝になっていた。
◇~*◇*~◇
朝遅くなってから、ゲート伯爵家の侍女のベスは、身じまいを整える手伝いをしに、若夫婦の寝室に出掛けた。以前からソフィとは仲良くしており、のろけを聞かされたり、細々したことを相談されている仲だった。
ソフィはなぜか一言も喋らず、黙って出されたものをつついた。お茶だけをいっぱい飲んで、ずっとカップを見つめている。
「ソフィ様、お茶のお代わりをお持ちしましょうか?」
「ありがとう。お願いするわ」
「アトレー様は王宮からの呼び出しがあり、朝早くにお出かけになっています」
ソフィは無言だった。アトレー様の話になると、いつも嬉しそうに話をしたがるのに、何も言わないのはおかしい。いぶかしく思いながら続けた。
「今夜のディナーはお祝いです。早目に着替えていただきますので、夕方にお伺いしますね」
「ありがとう。お願いするわ」
侍女のベスは、淡々と言うソフィの様子に違和感を覚えたが、疲れているのだろうと思い、そっと部屋を後にした。
他の使用人達から、どんな様子だったと聞かれたので、疲れてるようで、ちょっとぼんやりしている感じだったわ、と答えた。
皆、キャー激しかったのね、と喜んでいた。ベスは少し違和感を覚えていたが、いつもは快活な方だけど、やはりこういう時は疲れがたまるものなのか、と思っただけだった。
少ししてお茶を持っていき、夕方にまたお伺いします、と言ったらまた同じ言葉が返って来た。
「ありがとう。お願いするわ」
ちょっと気になり、言葉を添えた。
「何かしてほしい事がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
すると、ベスが居るのに初めて気が付いたような顔をした。
「私、家に帰るわ」
「ソフィ様、どうかしたのですか。落ち着いてください。昨日から、ここがあなたの家です」
「ああ、そうだったわね。私、結婚したのだったわ」
「ええ、昨日が結婚式で、お二人共とても素敵で、幸せそうでしたわ」
ソフィが、目を見張ってベスの顔を見た。その目から、また光が消えた。
「ありがとう。お願いするわ」
なんだか怖い気がして、ベスは早々に部屋から退出した。
夕方になってベスが部屋を訪れると、ソフィはカップを持ったままぼうっとしていた。
「お支度を始めさせていただきますね」
声を掛けると、それなりに動いて反応するが、どうにもその反応が薄い。いつものソフィとは全く違う人間のようだった。結婚したばかりで疲れているとはいえ、これはおかしすぎた。
ベスは努めて明るい口調で話し掛けた。
「昨晩は、以前から用意していたナイトウエアのどちらを着たのですか?」
「ナイトウエア?」
「以前見せてくださったじゃありませんか。一日目にどっちを着るか、一緒に考えましたよね」
「さあ。何か着ていたと思うわ。ありがとう」
本当に、何かがおかしかった。べスは急いで支度を仕上げ、部屋を後にした。
1,508
あなたにおすすめの小説
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
【本編完結】アルウェンの結婚
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
シャトレ侯爵家の嫡女として生まれ育ったアルウェンは、婚約者で初恋の相手でもある二歳年上のユランと、半年後に結婚を控え幸せの絶頂にいた。
しかし皇帝が突然の病に倒れ、生母の違う二人の皇子の対立を危惧した重臣たちは、帝国内で最も権勢を誇るシャトレ侯爵家から皇太子妃を迎えることで、内乱を未然に防ごうとした。
本来であれば、婚約者のいないアルウェンの妹が嫁ぐのに相応しい。
しかし、人々から恐れられる皇太子サリオンに嫁ぐことを拒否した妹シンシアは、アルウェンからユランを奪ってしまう。
失意の中、結婚式は執り行われ、皇太子との愛のない結婚生活が始まった。
孤独な日々を送るアルウェンだったが、サリオンの意外な過去を知り、ふたりは少しずつ距離を縮めて行く……。
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる