氷の貴婦人

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第二章 キースの寄宿学校生活

友人宅へのお呼ばれ

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 週末に帰宅すると、祖父母は数年ぶりの再会かのように、大騒ぎで出迎えてくれた。

 まずは好物攻めに合い、お腹いっぱいになるまでご馳走を勧められた。話をするのはその後だ。

 お腹が膨れてもう食べられなくなると、やっと学園生活について聞かれた。

 楽しいよ、と答え、初日の出来事を話して聞かせた。二人共びっくりしながら頷いていた。

「実はね、久しぶりに高位貴族の家から、お茶会の誘いや、夜会の誘いが舞い込み始めたの。どうしてなのかと、戸惑っていたけど、それね。
 あなたが醜聞を笑い飛ばしてくれたおかげよ。風向きが変わったんだわ」

 祖母は興奮して、さあ、華やかに打って出なくては、と闘志を漲らせた。
 祖父母だって、まだ50歳前後で若いのだ、とあらためて思い出すほど、生き生きしている。

 祖父は笑いながら僕の両肩に手を置いた。

「こんな事になろうとはなあ。キース、お前はすごい子だよ」

 ものすごく褒められて、くすぐったいような気分になった。

 そしてやっと、本題、王子様からのご提案について話すことが出来た。

「何だって! ご本人がそう言って来たのか?」

「うん、迷惑だ」

「お前、不敬になるような言葉は慎めよ」

「言ってないよ。思っているだけ」

 二人は落ち着かなげな様子でそわそわしている。これは賛成なのか反対なのか、どっちだろう。

 ジーっと見ていたら、んんッと声の調子を整えてから、祖父が僕の方を向いた。

「王子との交友は、貴族家としてはこの上ない栄誉で、出世の道筋でもある。だが、そうやって高い所に登れば、落ちるときの落差は激しい。
 お前の父のアトレーが見本だ。目立たぬ貴族の家庭内の揉め事なら、誰も気にしないんだ」

 それはわかっている。僕自身が、その被害者なのだと、この数日で知ったばかりだ。
 だから、そんな危険物からは距離を置きたい。

「では、断ってもいいでしょうか」

「そこがなあ」

 先程と同じように、はっきりしない表情になる。

「そんなにはっきり言われたら、逃げようがない。答えは、ありがたき幸せです。
 しか無い」

「え、断れないの?」

 びっくりした。一択ですか!

「基本、断れない。何か理由を付けて、と言っても、王太子夫妻が認めているなら、その他の理由が無い」

 嫌な予感はしていたんだ。

 やっぱり王族というのは、関わるとロクな事が無い。
 今回は向こうが勝手に纏わりついてきたのだが、早めに悪縁は絶たなければ。

「お祖父様、なるべく早くフェードアウトするよう頑張ります」

 王子の友人達の端っこで静かに過ごして、授業もなるべく別のを取って、週末もこっちに帰宅して、と思いつく限りを挙げて見せた。

 祖父母は僕の事をじっと見ている。

「お前が目立たずに居るのは無理だ。
 どうしろとアドバイスは出来ないが、困った事があれば、すぐに帰っておいで」

 2人して僕を包み込むように、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 休み明けの朝、同室の三人で朝食をとっていると、出た。王子様だ。
 すぐにこちらに気付き、嬉しそうな顔になった。

 小声で、何でいちいち気付くんだよ、と愚痴ったら、モートンがこう返してきた。
 そりゃあ目立つもの。まずは、その黄金の髪、目立たない訳がない。

 薄い茶色とかに、染めようかな。

「おはよう。ゲート伯爵達に許可をもらえたかな」

 何だか恥じらう乙女のような風情で聞いてくるが、言っていることは、王族特権を振りかざしている。
 ゲート伯爵家が、まっぴらごめんですと言えないって、知っているでしょ。

「ありがたき幸せです。
 よろしくお願いします」

 定型パターンで言ってみた。

「わあ、良かった。これで友達だね。一緒に遊べる。じゃあ次の週末、家に遊びにおいでよ。また後で話そう」

 そう言って、同室の子達のところに戻っていった。

 軽く嫌味を込めた言葉は完全スルーされ、王宮に招待されてしまった。

 これ、女の子にやったら、やばい王子確定だからね。

 王宮かあ。行きたくない。

 モートンとノーチェに聞いてみた。

「お前達さあ、王宮に、遊びに行きたい?」

「行きたいよ。団体見学ツアーみたいな感じ?ジョン王子が案内してくれるんだろ。秘密エリアも見せてもらえるかも」

 まあ、いいか。無口、控え目路線で、隅っこを確保しよう。


 当日、僕は王子の私室に通された。
 一人だった。団体見学ツアーではなかったようだ。
 だけど、一人きりって? 同室の、ご友人筆頭みたいなやつらは?


「やあ、いらっしゃい。
 庭にお茶の支度をしてもらう予定なんだ。それまでゲームでもしない?」

 バックギャモンをした。勝ったら不敬かな、などと悩んでいたら普通に負けた。

 ポーカーをやってもあっさりと負けた。

 チェスも同じく。

 自然に不敬でない状態になるのは助かるが、腹が立つ。

「ゲームお強いですね」

「うん、大人達とばかりやっているから、自然と強くなったんだ」

 じゃあ、もう一手チェスを、といつの間にか夢中で遊んでいた。
 ふと気付く。
 こいつ、悪い奴じゃあないな。単にやばい奴なんだ。地位と育ちが。学園で一緒に遊ぶ程度なら、ややこしくはないかもしれないと、少し安心した。


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